2020年12月19日土曜日

定期乗車券の割引率について(4)

 今回は、2020年12月18日に発表のあった、JR東日本のダイヤ改正概要のうち、朝ラッシュ時間帯の輸送力に関するもの、及び11月10日に発表されていた「多様化する通勤スタイルに合わせたJRE POINTの新サービスについて」について記したいと思う。


 今回のダイヤ改正に関する内容のうち、終電繰り上げに関連した早朝時間帯の減便を除くと、朝ラッシュ時間帯に関するものは意外と少なく、山手線及び宇都宮線の朝通勤時間帯本数見直しくらいのように見受けられる。前者は、車両の置き換え及びホームドア設置駅の増加に伴うものと見受けられるため、本稿での深入りは避ける。一方で後者の原因として思い当たるものは今のところないが、「下り列車を減便する旨の記載が、昼間の本数見直しと区別しにくい」ため、どれだろうとは言いづらい状況である。以前から書いているように、上野止まりのグリーン車に比較的空席が見られるのと、折り返しの下り列車が減便対象外なのとから思うに、上野折り返しがそのまま旅客列車に充当されない、朝遅い時間帯の上野止まり530M~534M(上野8:38~9:11着)あたりと思われるが、減便する代わりにどこかを増発するわけでもなさそうなので、浮いた車両の行方が気になるところである。


 一方、JREポイントの付与については、11月10日の時点で概ね概要が発表されており、筆者が意図的に見逃していたことになる。しかし12月16日のJR西日本による社長会見、及びそれを受けて起こした前回記事と比較検討する必要が改めて生じたことから、今回筆を起こすに至った次第である。


 

図1: JR東日本特設ページから抜粋・一部編集

 

 JR西日本の取り組みと比較すると、主として以下の2点が異なっている。


・JR東日本は、早朝時間帯も対象にしているが、JR西日本はしていない。ただしピーク前とピーク後で還元されるポイントの量が異なる。

・JR西日本は、改札を出場する時間帯で区切っているが、JR東日本は入場する時間帯で区切っている。


 筆者は以前から、オフピーク時間帯より前の時間帯にどのように手を入れるか興味があったので、オフピーク前時間帯も対象としたことは評価できると考えている。一方で、ピーク後時間帯の方がポイント還元率が高いので、「本音は、オフピーク後に流れて欲しい」という事情も伺える。

 ところで、入場・出場どちらの時間帯で区切るべきかの議論であるが、朝ラッシュ時に絞って考えると、一般的には出場時間帯で区切った方が効果が分かりやすいと考えられる。なぜなら、混雑ピークの発生原因の多くは(家の近くの目的地を「学校を選ぶ」という方法で選択できる学生を除き)出社時刻の選択自由度の低さにあるからである。一方で、JR東日本単独では出札時刻を正確に検知出来ない路線がいくつか存在し、その原因が相互直通運転(中央・総武緩行線、常磐緩行線)にあることから、入場時間帯で区切らざるを得ない事情も理解できる。

 入場時間帯で区切ることにより、良く言えば、ポイント還元時間帯を各路線の混雑状況に合わせて設定しやすくなるが、悪く言えば、そのルールが非常に分かりづらくなってしまう。筆者個人の都合で言えば、「改札に入る時点で、特定の列車が駅を通過する前、または後」でも構わないのだが、あまりにルールが複雑だとそもそも仕組みとして浸透しない。公式HPには「2021年春から1年間の期間限定での実施を予定しています。」と記載があることから、好意的に解釈すれば「失敗しても取り下げられる」のだが、そこまでしてまで複雑なルールを設定する根拠も乏しいので、「ある程度路線図を色分けして、ピーク前・ピーク後の時間帯を、30分単位で設定する」という仮説を立てたいと思う。本稿では、以前から話題提起している上野東京ラインについて、どの区間でどの時間帯をオフピークにするだろうか?という観点から、仮説を立てることを試みる。


図2:上野東京ライン オフピーク時間帯(2021年度)仮説


 国交省が出しているピーク時間帯の混雑率データにおいて「ピーク」とされている1時間の概ね最初か最後になる列車を、京浜東北線も含めて図示したのが赤い太線、グリーン車が毎日のように満席になっている中距離電車が茶色い太線、追加料金が発生する列車が青い細線である。当方で赤い枠で囲ったのが「ピーク前」を推測したもの、青い枠で囲ったのが「ピーク後」を推測したものである。具体的には、


 東海道線戸塚以南:6時台の混雑が群を抜いて激しいのでピーク前は6時まで、オフピークは東京駅9時以降着から逆算し、安全を見て8時半以降


 京浜東北線区間:極力分かりやすくするため7時から9時を除いて対象とする

 ※大船駅は東海道線に流入する懸念が大きいので含まない。根岸線の区間をどうするかは要検討(6時までにすると効果が小さいし、7時までにするとピーク時間帯に客が流入する。かといって6時半にするとルールが分かりづらくなる)。大宮駅を含むかどうかだが、大船~品川と比べると、大宮~上野間で緩行線との所要時間差が小さいので、大宮駅で着席できる効用の方が大きいため、大船駅と違って無理に除外しなくても良いように思う。


 大宮以北:大宮6時台後半と8時台前半に誘導したいが、大宮以北の距離・乗車時間が全体的に大きいので、ピーク前は6時半、ピーク後は8時とした。大宮着6時台前半は輸送力が小さいので、これも極力誘導したくないのが実態。



 今回は議論を極力単純にするため、このような強引な仮定を置いたが、実現まであと3ヶ月程度しかないことから、このような議論は、すでにJR東日本内部では概ね完了しているものと思われる。どのような形で実現するのか、興味津々で見守る所存である。

2020年12月16日水曜日

定期乗車券の割引率について(3)

  まず始めに、今回話題に挙げるJR西日本による社長会見について、一見タイトルの「定期乗車券の割引率」には何ら関係ないように見えるものの、 前回話題に挙げた「JR東日本が実施を予定しているオフピーク定期券の「オフピーク」が、朝ラッシュ前の時間帯を指すかどうか」に割と深くかかわることから、あえてこのタイトルの続編と言う形を取ることを、あらかじめお断りする。

図1:2020年12月16日付記者会見【時間を変える「時差通勤のススメ」】で使用された画像(一部編集)

  筆者が前回「オフピーク定期券の「オフピーク」が早朝時間帯を含むかどうか」について話題提起し、「筆者個人としては非常に不満であるが、(中略)早朝時間帯をオフピークに含めないことを仮定せざるを得ない」と記したばかりであるが、こういう予感に限ってあっさり実現してしまうもので、ICOCAポイントが付与されるのは「大阪都心部の駅でピーク後の時間帯に出場した場合」と明言されている。具体的に何時から何時までを指すのか、まで明確ではないが、概ね大阪駅9時着以降と考えて支障ないものと思われる。そこで早速ではあるが、JR神戸線を例に、ピーク時間帯及びその前後のダイヤ図を図示し、ラッシュ時間帯の前と後、それぞれに乗客を振り分けようとしたときのメリット・デメリットを洗い出すことを試みる。

 

図2:京都線・神戸線ダイヤ図(抜粋)

  まずピーク後の時間帯(大阪9時着以降)であるが、新快速15分間隔、快速15分間隔と、(多少の誤差はあるが)昼間同様のパターンダイヤとなっている。この時間帯の混雑率には(ピーク時に比べると)比較的余裕があるように見受けられるが、仮に混雑がこの時間帯に集中したとして、ラッシュピーク直後の輸送力増強の余地は案外無い。というのも、ピーク後の(神戸線で言う)下り列車が折り返せる駅が案外無く、京都方面からラッシュピーク時に来る列車を折り返したところで、大阪到着を9時半頃に持って来るのは難しく、むしろ10時半を過ぎてしまうためである。「ラッシュピーク後に需要が分散して欲しいものの、あまり分散(≒ピーク直後に集中)されると困る」という仮説が成り立つだろう。

 

図3:「時間帯別ご利用者数」(出典元は図1と同じ)

  一方ピーク前について論じる際、まず注意しなければならないのは、図3における縦軸が「ご利用者数」であって「乗車率」ではないことである。7時台が8時台の3分の2近い利用者数であるにもかかわらず、列車本数も3分の2程度しかない(図4)ことから、7時台の混雑率は8時台と大して変わらない、と言う仮説が成り立つ(東京圏のように、国交省がピーク前後時間帯の混雑率を公表していないので、このような乱暴な方法を取らざるを得ないのが実情である→よく探したら公開されていたので図5にて表示)。このような事情から、「ラッシュピーク前に混雑を散らそうにも、すでに混雑していて、相当前の時間帯(大阪着7時より前)に散らさないと、かえって混雑が激化する」という仮説が得られる。

図4:大阪着7時台が26本(赤枠)、8時台が35本(青枠)。なお9時台は28本なので、ピーク時間帯よりは混雑率に余裕が出るものと考えられる。

 

図5 京都線・神戸線の混雑率(国交省報道発表資料 より抜粋)
※よく調べたら見つかったので後から追加しました、すみません

 また、それよりさらに前の6時台は新快速の本数が極端に少ない。長い距離を走る半ば専用の車両を遠方に留置することで、早朝深夜の無駄な回送を減らすことが出来るものの、その分新快速(等)を早朝時間帯に設定できなくなるという課題がある。同様の課題は東京近郊の中距離電車にもみられるが、JR西日本の場合はグリーン車を連結していないため、わざわざ専用の車両を途中駅で折り返してまで、早朝時間帯に増発しようというモチベーションは働きにくいだろう。早朝時間帯に出勤時間帯を繰り上げてもデメリットが(比較的)少ない乗客は、比較的(大阪)都心の近くに居住する利用者に限られるだろう。この観点からは、「オフピークを早朝時間帯だけに限定しては、遠距離通勤者と近距離通勤者との間で平等性を著しく欠く」と言えるだろう。

 とはいえ、平等性の観点だけでは「オフピーク時間帯から早朝を外さなければならない理由」としては不十分だろう。現時点で「これ」という確たる仮説は持っていないが、1回で付与するポイントが20ポイントと、らくラクはりまやAシートの料金(後者で500円)と比べて著しく安いことから、多分に実験的な意味合いが強いものと思われる。

 個人的には、「オフピーク時間帯のポイント付与」と「時間帯で価格変動する定期券」は全くと言っていいほど別の施策と考えている。なぜなら、前者は労働者への還元であり、後者は(実質的に通勤手当を負担している)使用者への還元だからである。このため、「オフピーク定期券」の実現に向けた布石として考えるには効果に疑問符が付く。鉄道事業者の施策をもって、企業の使用者側に「働き方改革」を迫るには、もう少し時間がかかるものと考えられる。