まず始めに、今回話題に挙げるJR西日本による社長会見について、一見タイトルの「定期乗車券の割引率」には何ら関係ないように見えるものの、 前回話題に挙げた「JR東日本が実施を予定しているオフピーク定期券の「オフピーク」が、朝ラッシュ前の時間帯を指すかどうか」に割と深くかかわることから、あえてこのタイトルの続編と言う形を取ることを、あらかじめお断りする。
図1:2020年12月16日付記者会見【時間を変える「時差通勤のススメ」】で使用された画像(一部編集) |
筆者が前回「オフピーク定期券の「オフピーク」が早朝時間帯を含むかどうか」について話題提起し、「筆者個人としては非常に不満であるが、(中略)早朝時間帯をオフピークに含めないことを仮定せざるを得ない」と記したばかりであるが、こういう予感に限ってあっさり実現してしまうもので、ICOCAポイントが付与されるのは「大阪都心部の駅でピーク後の時間帯に出場した場合」と明言されている。具体的に何時から何時までを指すのか、まで明確ではないが、概ね大阪駅9時着以降と考えて支障ないものと思われる。そこで早速ではあるが、JR神戸線を例に、ピーク時間帯及びその前後のダイヤ図を図示し、ラッシュ時間帯の前と後、それぞれに乗客を振り分けようとしたときのメリット・デメリットを洗い出すことを試みる。
図2:京都線・神戸線ダイヤ図(抜粋) |
まずピーク後の時間帯(大阪9時着以降)であるが、新快速15分間隔、快速15分間隔と、(多少の誤差はあるが)昼間同様のパターンダイヤとなっている。この時間帯の混雑率には(ピーク時に比べると)比較的余裕があるように見受けられるが、仮に混雑がこの時間帯に集中したとして、ラッシュピーク直後の輸送力増強の余地は案外無い。というのも、ピーク後の(神戸線で言う)下り列車が折り返せる駅が案外無く、京都方面からラッシュピーク時に来る列車を折り返したところで、大阪到着を9時半頃に持って来るのは難しく、むしろ10時半を過ぎてしまうためである。「ラッシュピーク後に需要が分散して欲しいものの、あまり分散(≒ピーク直後に集中)されると困る」という仮説が成り立つだろう。
図3:「時間帯別ご利用者数」(出典元は図1と同じ) |
一方ピーク前について論じる際、まず注意しなければならないのは、図3における縦軸が「ご利用者数」であって「乗車率」ではないことである。7時台が8時台の3分の2近い利用者数であるにもかかわらず、列車本数も3分の2程度しかない(図4)ことから、7時台の混雑率は8時台と大して変わらない、と言う仮説が成り立つ(東京圏のように、国交省がピーク前後時間帯の混雑率を公表していないので、このような乱暴な方法を取らざるを得ないのが実情である→よく探したら公開されていたので図5にて表示)。このような事情から、「ラッシュピーク前に混雑を散らそうにも、すでに混雑していて、相当前の時間帯(大阪着7時より前)に散らさないと、かえって混雑が激化する」という仮説が得られる。
図4:大阪着7時台が26本(赤枠)、8時台が35本(青枠)。なお9時台は28本なので、ピーク時間帯よりは混雑率に余裕が出るものと考えられる。 |
図5 京都線・神戸線の混雑率(国交省報道発表資料 より抜粋) ※よく調べたら見つかったので後から追加しました、すみません |
また、それよりさらに前の6時台は新快速の本数が極端に少ない。長い距離を走る半ば専用の車両を遠方に留置することで、早朝深夜の無駄な回送を減らすことが出来るものの、その分新快速(等)を早朝時間帯に設定できなくなるという課題がある。同様の課題は東京近郊の中距離電車にもみられるが、JR西日本の場合はグリーン車を連結していないため、わざわざ専用の車両を途中駅で折り返してまで、早朝時間帯に増発しようというモチベーションは働きにくいだろう。早朝時間帯に出勤時間帯を繰り上げてもデメリットが(比較的)少ない乗客は、比較的(大阪)都心の近くに居住する利用者に限られるだろう。この観点からは、「オフピークを早朝時間帯だけに限定しては、遠距離通勤者と近距離通勤者との間で平等性を著しく欠く」と言えるだろう。
とはいえ、平等性の観点だけでは「オフピーク時間帯から早朝を外さなければならない理由」としては不十分だろう。現時点で「これ」という確たる仮説は持っていないが、1回で付与するポイントが20ポイントと、らくラクはりまやAシートの料金(後者で500円)と比べて著しく安いことから、多分に実験的な意味合いが強いものと思われる。
個人的には、「オフピーク時間帯のポイント付与」と「時間帯で価格変動する定期券」は全くと言っていいほど別の施策と考えている。なぜなら、前者は労働者への還元であり、後者は(実質的に通勤手当を負担している)使用者への還元だからである。このため、「オフピーク定期券」の実現に向けた布石として考えるには効果に疑問符が付く。鉄道事業者の施策をもって、企業の使用者側に「働き方改革」を迫るには、もう少し時間がかかるものと考えられる。
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