2017年5月28日日曜日

快適通勤ムーブメント「時差Biz」実施に関する事前考察(1)

  2017年4月28日のこと,「第一回快適通勤プロモーション協議会」が開催され,「快適通勤ムーブメント"時差Biz"を,同年7月11日(火)~7月25日(火)の期間に実施する」ことが明らかになった。出勤時間をずらすことで混雑緩和につなげることを趣旨としている。詳細は,以下のリンクに公式ページがあるため,それに譲ることにする。


 筆者はこのブログを開設した当初から,「時差出勤による混雑緩和のためには,政府による鉄道会社への(増発)要請が肝要である」と考えていたため,今回のような取り組みは非常に大きな進歩である,ととらえている。内容に対する細かな指摘はあるものの,大枠としては評価できると考えている。

 さて,公式ページの記述を追ってみると,鉄道利用者への要請として「フレックス勤務,テレワーク,時差出勤 等」,鉄道事業者への要請として「混雑の見える化,オフピーク通勤者へのポイントの付与 等」が掲載されている。さすがに二階建て電車を要請するわけにもいかなかったのだろうが,各々の要請について,他にやりようがなかったのか,という考えにはしばしば至るので,以下にまとめてみたいと思う。

○フレックスタイム・時差出勤について,出勤時間を前後どちらにずらすのかという議論
 筆者は過去に「都知事公約「満員電車ゼロ」の実現に向けた時差出勤に関する考察」にて,出勤時間の前倒し・後ろ倒しの各々について考えたことがある。鉄道事業者の立場からすると,「電車区が地価の安い郊外に置かれるならば,遠距離客を前倒しし,近距離客を後ろ倒しするのが自然」といった趣旨であった。しかし別の考え方をすると,超勤手当を受け取る側としては前倒ししたいし,超勤手当を払う側,そもそももらえない側としては後ろ倒ししたい,と考えることが出来る。また,あくまで伝え聞いた話であるが「7時より前に開いている保育園が少ない」という現状もある。
 「鉄道利用者への要請」の「利用者」とは労働者・使用者のいずれを指すか,にもよるだろうが,筆者は「この「利用者」は使用者を指す」と考えている。超勤手当の支払いを助長し,果てには残業ゼロの公約と相反する出勤前倒しに対し,「利用者」は協力しにくいのでは,という気がしている。
 
○テレワークに関して
 実のところ,筆者はテレワークに本気で取り組むとは考えていなかった。鉄道事業者にとって,テレワークがあまりにも進行してしまっては減収につながるため,協力を得にくいのでは?と考えていたためである。しかしよく考えてみると,鉄道事業者の収入をなす定期券による収入は6ヶ月単位の買い物であり,6ヶ月間に数日テレワークになったところで大した影響はない。東京五輪の開会式を予定している7月24日をテレワークデーと定め,その前後数日~数週間のみに集中して実施する,という趣旨であるからこそ,鉄道事業者の協力を得て「時差Biz」の一環として取り組めるのでは,と考える。

○混雑を「見える化」する方法に関する議論
この項目では「要はこんなの作れないの」という議論を試みます
オフピーク通勤を奨励する方法の一つに,混雑の「見える化」がある。各列車の混雑度合いを調べる方法として,直接駅で観測する方法もあるが,列車には「応荷重制御」という,「旅客の重さに応じて性能を調整する機構」が付いているので,少なくとも鉄道会社にとっては,旅客の重さ(≒人数)を調べることは,さほど難しくないはずである。
 一方で,いざデータを提供する段になると,駅にポスターを掲示し,「この列車が特に混雑しています,避けてください」程度の情報提供にとどまっている鉄道事業者が大半である。なかには,各社アプリに混雑情報を掲載する事業者もあるが,首都圏全線に広まっている取り組みではなく,一部の事業者独自の取り組みにとどまっている。

東急線アプリで混雑を示した一例(公式ページより抜粋)

JR東日本アプリで山手線の混雑率は車両ごとに表示される(公式ページより抜粋)
また,混雑率データを公表しようという試みは,鉄道事業者に限った話ではない。一例として,NAVITIME社の「電車混雑予測」では,朝の通勤列車を中心に各列車の混雑率を独自に調査していて,その結果を自社アプリ上で検索することが出来る。鉄道事業者を問わずデータを取得できることに強みがある。
NAVITIME社の自社アプリ上では,さまざまな路線の混雑データを取得できる。
  現段階で筆者が懸念している事項は,「データの二次利用が困難であること」である。各社のアプリに掲載されているデータを取得し,それを利用して別のアプリを作ったり,別の方法で情報提供したり,といった取り組みは不十分であるように感じる。一時期,例えば東京メトロの「オープンデータ活用」の取り組み(※リンク先PDF3.8MB)のような企画が盛り上がりを見せたことがあるが,この動きが他社に影響を与えているかは(現時点では)疑問である。
 
 例えばの話なのだが,以下のような一枚の図で情報提供が出来れば,混んでいる列車はどれか,だけではなく,どの列車が速いか,どの時間に出勤するのが快適か,など様々な情報が提供できるように思う。データの形式不統一が課題であるなら,鉄道オタクが全部.oud形式で作るべきである。筆者が作れよという意見も聞かれるだろうが,このページにアップロードできないので,作ったところで「生まれの過ち」である。

OuDiaで手打ちするとこんな感じ。濃い青のスジは着席可能らしい。
何らかの理由で座って通勤したい,と考えた場合,①濃い青のスジに乗る,②途中で始発列車(濃い青のスジである必要はない)の列に並ぶ,の二通りの方法があると考えられる。この一枚絵ひとつで記事を一本書けそうなものだが,「元データさえ手元にあれば,情報提供の方法は千差万別である」ことが言えるだろう。
 長くなってしまったが,オフピーク通勤のための情報提供の仕方については,今後一層の議論が必要があると考えている。


○オフピーク通勤者への「ポイント付与」に関する見解
 オフピーク通勤に協力した「利用者」に何らかのメリットを与えよう,という動きが最近活発化している。具体的には,朝のある時刻より前に改札を通った「利用者」に対し,朝食などのサービスに対する割引を提供する,といったサービスである。一方で, 例えば高速道路のようにピーク時に料金を割引・割増することは出来ないのか,という意見も出よう。このうち割増については,着席を保証する代わりに料金を取る列車(いわゆる通勤ライナー)を鉄道各社が運行することで,間接的に実現されているように思われる。
  ところで,この「割引」「割増」は「利用者」に対するものと書いたが,この「利用者」は「労働者」を指し「使用者」を指さない。「利用者」に対する「割引」(クーポン券)」「割増(着席保証サービス)」のいずれも,通勤手当の過大・過小支給には該当せず,あくまで労働者側の自己判断によってなされているものであるように見受けられる。一方,利用した時間によって運賃そのものに対する割引,割増を行うと通勤手当の過大・過小支給につながってしまう。運賃そのものに介入しようとするなら,運賃が高くなる方向に介入しようとすると,実質的に運賃を負担している「使用者」からの反対意見が,運賃が安くなる方向に介入しようとすると鉄道事業者からの反対意見が出て,時差Bizの枠組みそのものに影響が出るであろう。
 ポイント付与以外に何か出来る方法は無いだろうか,と考えてはみたものの,運賃そのものへの介入が困難であることから,今のところ筆者にはいいアイデアが浮かばずにいるのが現状である。


○他に鉄道事業者に要請すべき事項は無かったのか
 上で「いいアイデアが浮かばない」と書いたが本当はそんなことはない。オフピーク通勤に協力した利用者(労働者を指し,使用者を指さない)に何らかのメリットを与えたい,でも「現金と交換可能だと通勤手当の過大・過小支給にあたる」のであれば,オフピーク時間帯の列車を速く走らせたり,オフピーク時間帯に始発列車を増やしたりすることで,速達化による効用や着席による効用に還元できないだろうか?これに絡んで筆者は,朝6時台に都心に到着する中距離電車の本数が少なすぎることこそ,真っ先に解決されるべき問題であると考えている。詳細は過去の筆者の記事「ゆう活と時差通勤と増発と」「都知事公約「満員電車ゼロ」の実現に向けた時差出勤に関する考察」に譲るが,(線路や電車の数など,ハードの制約面では)不可能ではないと考えている。列車の運転士・車掌にかかる負担が増える,という反対意見も出るだろうが,例えばその分,運転士・車掌が夜間寝泊りする環境を改善する方法もあるだろう。ここまで細かい用途に限定された補助金が払えるかどうかは別として…

 
 ここまで,利用者(使用者ならびに労働者)および鉄道事業者の立場から,時差Bizに対してどのような協力が出来るか,予定されているものもそうでないものも検討した次第である。都議選を控え,政治上の動向は不透明なままだが,どんな形であれ,朝の通勤ラッシュが少しでも解消する方向に動くことを強く願いつつ,いったん筆を置くことにする。

2017年5月21日日曜日

小田急線の増発について考えてみた(2)

 以前も小田急線の複々線化に伴う増発について記事にしようとしたのだが,いかんせん話が長くなりすぎたので,前回の論点を簡潔に整理しつつ,記事の内容充実に努めようと思う。

 まず前回の記事に書いた通り,増発については主に下記の四つの要素から行われるように思われるので,改めて一つ一つ考えてみたいと思う。

1.小田急が保有する車両の数を増やす。直通先の千代田線や常磐線(各駅停車)から車両を借りてくる。
2.列車を速く走らせ,同じ本数を走らせるために必要な車両の数を減らす。その分を増発に充てる。
3.千代田線方面への直通運転の本数を増やし,折り返しのために新宿・代々木上原で止まっている車両を減らす。これで浮いた分だけ増発に充てる。
4.下り列車を途中駅(特に成城学園前・向ヶ丘遊園)で折り返し,新たな上り列車として走らせる。

  1.を行うには,相当な投資が必要であったり,直通先の千代田線・常磐線の減便を伴うため,現実的ではないように思うので,ひとまず2.に着目してみたいと思う。とある新聞報道(正確には,2016年4月28日の日経電子版の記事)によると,急行列車の町田→新宿が,現行の48分から38分に短縮される,と記載がある。 この記事を参考に,ひとまず現行の優等列車のスジを10分ほど立てることを想定し,以下の図を書いてみる。なお,今回の記事でベースとするダイヤ図・時刻表データは,すべて2014年春改正時点でのダイヤとする。(←最新版の運用を調べるのがめんどくさいからです。すみません。)

太線のうち実線が増発,点線が減便である。赤く着色した個所を例にとると,現行の町田→新宿が47分なのに対し,計画では37分と10分短縮したことになる。10分早く着くことにより,現行で言うところの2本前の急行に追いつくことになる。これによって「同じ輸送力を確保するため必要な電車の編成数が2編成減る」ことになるので,同じ電車の編成数なら2本増発できることになる。

 3.に関して同記事に言及があるかというと,「千代田線への直通列車を5本から12本に増やす」と言及がある。ここで,千代田線への直通列車を1本増やすごとに,「千代田線が代々木上原で折り返すための所要時間(約8分程度)」が浮くことになる(新宿折り返し分の約6分と,新宿~代々木上原の往復所要時間は,この区間が減便されるわけではないのでここでは計上しない)。一方で,都心(例えば新宿駅)と郊外(一番近い折り返し拠点である向ヶ丘遊園)の間を急行列車として往復するだけでも50分近くかかるので,千代田線直通を7本増やして代々木上原折り返しを7本減らして8×7=56分浮かせても,せいぜい1編成しか浮かないことになってしまう。

 しかし,2.と3.を頑張って組み合わせても,せっかく複々線化したのに列車が2+1=3本しか増えないというのはいささか寂しすぎる気がしてこないだろうか。上記の新聞記事によれば,ピーク時は1時間に27本から36本に増発することになっているはずである。

 そこで着目されるべきは4.で挙げた「向ヶ丘遊園駅・成城学園前駅始発の列車」である。そもそも複々線化はほぼ東京都内の区間に限られており,複線の川崎市側で毎時36本も運転するのは厳しい。すなわち, 増発されるべき9本分は向ヶ丘遊園ないし成城学園前のいずれかの駅の始発列車になると考えられる。(経堂でもできなくはないが,交差支障があるので折り返しが難しいと思われる。)

 2014年時点の時刻表によると,向ヶ丘遊園駅始発の列車は,6時28分発の後8時26分まで無い。理由は単純で,始発を作ったところで結局下北沢で詰まってしまうためである。この影響で,向ヶ丘遊園や成城学園前で折り返していればラッシュの戦力になれるはずの列車が,そのまま下り方面に走って行ってしまい,場合によってはそのまま車庫に入っていわゆる昼寝をしてしまう。これではあまりにも勿体ないので,2014年時点のダイヤ図をもとに,何本くらい向ヶ丘遊園・成城学園前始発を設定できるか,下記の図のように考えてみた。




 実線を増発する代わりに点線を減便するわけだが,下り列車を減便することにより,5本程度であれば向ヶ丘遊園始発の列車が設定できる。2.や3.で増便する列車が向ヶ丘遊園始発になると考えれば,5本と言わずもっと多く設定されても不思議ではない。また,新聞記事の通り9本(27→36本)増発するのであれば,「速達化で2本+直通列車の増で1本+向ヶ丘遊園での折り返しで5本」増えることで,割とつじつまが合うと考えられる(※遠方向けの有料特急も増えると思われるが,本稿では深入りしない)。物価も家賃も都内に比べて安いので,実際「向ヶ丘遊園近辺でアパート借りて住むのも悪くないんじゃないか?」と思い始めたところである。
 上記の図だと成城学園前始発が1本しか増えていないことになるが,個人的な感覚としては,成城学園前始発はもっと増えても良いように思う。そう思い始めたきっかけは,「代々木八幡駅のホーム10両化(2018年秋予定)が,下北沢付近の複々線化(2018年春予定)に間に合わないこと」である。
 代々木八幡駅のホームに10両編成が停車できるようになると,各駅停車も10両編成にすることが(理論上は)可能になる。各駅停車を10両化するならば,現在一番混んでいる時間帯の各駅停車を10両化するのが一番のサービス向上と言うべきであろう。下記のダイヤ図は,2014年現在8両編成で運転されている列車のみを図示したものなのだが,ここでは着色した11個の運用が激しく混雑し,ここを優先的に10両化するものと仮定して話を進めていく。



 今持っている8両編成の一部を10両編成に改造する必要が出るわけだが,そんなにいっぺんに改造できるわけではないので,おそらく改造の進捗に合わせて少しずつ10両化していくものと思われる。そのため,本稿では「10両編成化された後も,当分は各駅停車のみとして運用される」と仮定して筆を進める。また,昼間の各駅停車に10両編成を使うのは動力費の観点から好ましくない(乗車率が低い上,そもそも各駅停車は急行に比べて電気を喰う)ため,「10両化する」運用は可能な限り昼寝させる方向で考えるべきだろう。
 ところが,実際は各駅停車の多くが同じ駅(本厚木駅)で折り返しているため,最混雑時間帯の各停を集中的に10両化すると,その後の各停が「特定の時間帯だけ」10両編成だらけになってしまう。上図の例では,新百合ヶ丘10時台上りの各駅停車が10両編成だらけになってしまっている。これを防ぐためには,折り返しを駆使して少しでも10両編成の塊を散らすしか無い。一方で向ヶ丘遊園は始発優等列車の増発という役割を兼ねている上,各駅停車が折り返す際は交差支障を生じる(下りは大して変わらない説があるが,それは置いておいて)ため,支障の少ない成城学園前駅に白羽の矢が立つのではないか,と考えている。もっとも,成城学園前止まりのまま入庫してしまう可能性もあるにはあるのだが…


 というわけで今回は,小田急線の複々線化に伴う増発について,新聞記事と照らし合わせながら考えてみた。新聞記事は,町田以遠の遠距離通勤客にとって利便性が向上する,という趣旨であったが,あくまでも筆者の私見によれば,通勤が快適になるのは,むしろ始発列車の恩恵を受けられる近距離客(特に向ヶ丘遊園・成城学園前)ではないか,と思われる。


 個人的に,快適通勤ムーブメントなり時差Bizなりに関して書きたいところでもあるのだが,この記事と共通する部分もあればそうでない部分もあるので,近いうちに別途記事を起こすことにしたい。