2022年10月30日日曜日

2022年11月の京急線ダイヤ改正について(1)

 おことわり


 本件は、2022年11月に予定されている京急線のダイヤ改正について、10月30日現在の当方での予測状況を簡潔にまとめるためのものである。

 プレスリリースの記述自体との整合作業は未了であるが、現時点でおおまかにまとまったので画像として掲載する。

 

図1:10月30日時点での妄想結果。

図2:図1の解像度を上げただけのもの。まじまじと眺めたい人向け。

2022年10月16日日曜日

JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)で遊んでみた(3)

  今回の記事の趣旨は、JR East Train Simulator で運転できる路線のうち、京浜東北線の大宮~南浦和の区間について、最も省エネルギーとなる運転方法について追求することである。本稿では前提として、「等増分消費エネルギー則による運転時分配分を行う」「速度によらず、機器効率は92.5%、ギア効率は97.0%とする」「加速中の架線電圧は列車の位置や速度によらず1350Vとする」「補機(冷房等)による消費電力量は考慮せず、純粋に走行のみに起因するものを対象とする」「回生ブレーキによる負の消費電力量は評価しない(※ブレーキの効きとしては評価する)」「個々の運転曲線は、最大加速→惰性走行→最大減速(1段制動、残り10m程度から多段緩め)を原則とする」を置く。

 では早速、大宮~南浦和の5つの駅間について、消費電力量を縦軸、運転時分を横軸に取って図示する。

図1 縦軸に消費電力量、横軸に運転時分を取った、両者の関係図(いわゆるW-T曲線)

図2 図1を作成する際に用いた運転曲線の一例(さいたま新都心→与野)


 縦軸に消費電力量、横軸に運転時分を取り、運転曲線を複数通り作成した上でプロットすると、傾きが負で下に凸の曲線が得られる。回生電力量を考慮しない場合の消費電力量は、概ね最高速度の二乗に比例する上、最高速度を上げれば上げるほど惰性走行の時間が短くなるので、グラフの左側では傾きが急になる現象がみられる。

 ここでは、大宮~南浦和の運転時分の合計を一定値としたとき、各駅間に何秒ずつ割り付けるのが最も省エネルギーであるかを論じる。この仮定は、「採時駅である大宮駅の発時刻と南浦和駅の着時刻を固定した状態で、各駅に何秒早着(もしくは延着)するのが最も省エネルギーであるか」を論じているのと同等である。「省エネルギーな列車ダイヤ作成のための簡易数理モデル」によれば、図1で言う曲線の接線の傾きがすべて同じとなる状態が、最も省エネルギーな運転時分配分とされる。図1においては、所与の運転時分に対するグラフの傾きを図示したが、大宮~さいたま新都心~与野は傾きが緩やか(運転時分が余る)で、与野~北浦和~浦和~南浦和は傾きが急(運転時分が足りない)という傾向がみられる。これらの傾向を基に、「接線の傾きがすべて同じとなる状態」を再現すると下記のようになる。

表1 運転時分の割り付け変更に伴う省エネ効果。元々の運転時分(※10月3日のアップデート以降)の配分は比較的理にかなっており、割り付けを変更した際の省エネルギー効果は思ったほど大きくはなかった。

図3 接線の傾きが全て同じになるよう運転時分を調整した状態。

 前掲の表1及び図3の通り、運転時分の割り付けを若干見直すことにより、大宮~南浦和の消費電力量は、213.8kWhから210.3kWhへと若干(約1.6%)減少することとなった。あくまで偶然ではあるが、さいたま新都心駅及び与野駅に対する若干の早着・早発が発生することになるので、これを認めてよいかどうかの議論が必要と考えられる。

 次回は、高速域で回生ブレーキ力が不足することに起因する、ブレーキパターンの見直しによる効果について考察する予定である。

2022年10月4日火曜日

JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)で遊んでみた(2)

  今回筆を起こした背景は、前回記事のリリース後、本シミュレーターの2022年10月3日のアップデートの影響を受け、浦和~南浦和の運転時分が20秒も短縮になったので、ランカーブを慌てて書き直したことにある。

図1: 区間運転時分の変更(2'10"→1'50")に伴う運転曲線の変更

 ノッチオフ速度を43km/hから63km/hに変更した程度で運転時分が20秒も変わるのか、と聞かれると、この図の通り「変わる」というのが答えである。ノッチオフ速度と言うよりは、その先の下り勾配による運動エネルギーの加算により、巡航速度が55km/h程度から70km/h程度にアップする、という言い方が正確かもしれない。

 この区間の運転時分を20秒詰める代わりに、最高速度が1.5倍近くになっている。運動エネルギーを速度二乗で近似すると、2倍近くの消費電力量になると推測できる。もっとも、この区間に関してはアップデート前が遅すぎた説が有力なので、運転シミュレーションとしてみれば妥当な変更だろう。

 この区間の運転時分変更に伴う、大宮~南浦和の各区間への所要時間の割り付け方に関する方向性の考え方については、今後の課題とする。


 閑話休題 このシミュレーターは、バグなのか不明だが逆走が可能である。逆走は駅を平然と通過できるので、例えば浦和→大宮の中距離電車を逆向きに眺めた結果を近似的に再現できる。この際の運転曲線の、実測値と当方で考える理論値を図示したのが以下のグラフである。

あとがき ところで、このゲームのリリース以来、掲示板では様々な議論が交わされているものの、浦和~南浦和で運転時分が余る、という報告は上がっていないと認識している。同区間の運転時分は、いったい何をきっかけに見直すことになったのだろうか……?

図2: 浦和→大宮を逆走して得られた結果。走行抵抗に若干の過小(70km/h付近)・過大(100km/h付近)の見積もりが見られると思われる。今後、これらの整合を取るための走行試験が必要と思われる。



2022年9月25日日曜日

JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)で遊んでみた(1)

 令和4年9月20日のこと、「JR東日本トレインシミュレーター」がリリースされた。 記事執筆時点でプレイ可能な路線は、京浜東北線の大宮→南浦和の区間と、八高線(+高崎線)の高崎→群馬藤岡の区間である。この記事をご覧になる前に遊びたいという方は、さっそく下記のリンクからアクセスいただきたいものである。

https://store.steampowered.com/app/2111630/JR_EAST_Train_Simulator/

 「トレインシミュレーター」シリーズは、向谷実氏が社長を務める「株式会社音楽館」が開発を担当している。過去に発売された作品は、実在の路線を撮影した動画を基に作成されており、電車でGO!!シリーズのように路線自体をCGで再現するものとは根本的に作り方が異なっている。アーリーアクセス版ということで、ゲームの作り込み度合いとしては、改善可能な箇所が多数残されている状態ではあるが、筆者はこの作品が発売にこぎつけたことを高く評価したい。

図1:与野~北浦和で車両性能をひたすら測定しようとする筆者。この区間で73km/hも出すと大幅に早着する。

 さて、筆者がこの手のゲームを入手してすぐに行うことは、まず何度も走らせたうえで車両性能を測定し、理論値との答え合わせを行うことである。今回は京浜東北線のE233系1000番台を対象としたが、思った以上に整合性があることが判明したので、まずはお伝えしたい。

図2:加速する様子を録画してコマ送り再生した上で、横軸に速度、縦軸に加速度×速度二乗を取ったグラフ。理論上は、特性領域で横一直線になる

 列車の加速運動は、発車してからある程度の速度までは等加速度運動で近似できる(①)が、力(N:ニュートン)×速度(m/s)で求められる出力(W:ワット)の制約から、ある一定の速度以上では、出力が一定(つまり、力-加速度は速度に反比例する)になるよう制御される(②)。さらに、ある程度速度が出て来ると、電動機は一切制御されない状態となり、力-加速度は速度の二乗に反比例する(③)ようになる。詳細は運転理論の教科書に譲るが、概ね以下図3及び表1のような関係になる。 

図3:いわゆる速度-引張力曲線の模式図

表1:各速度領域の特徴

略称低速域(①)中速域(②)高速域(③)
通称・トルク一定領域
・VVVF制御(電圧、周波数の双方を制御)
・パワー一定領域
・定電力領域
・すべり加減制御
・特性領域
旧型電車での呼称・抵抗制御
・直並列制御
・弱め界磁制御・特性領域
列車運動の特徴・概ね、等加速度運動で近似できる・加速度が、概ね速度に反比例する・加速度が、概ね速度の二乗に反比例する
※旧型電車の場合、磁気飽和曲線の制約から、この比例関係は割と不正確である。
エネルギー消費の特徴・電気抵抗を回路に挟み込んで制御するため、エネルギーの一部は熱として捨てられる(抵抗制御)
・直流から任意の正弦波を取り出して制御するため、車両側でのロスは小さい(VVVF制御)
・主回路電流が相対的に大きいので、回路の内部抵抗によるロスが相対的に大きい
・逆起電力の増大に伴い、回路のロスは速度が上がるとむしろ下がる
電流・一定になるよう制御する・主回路の界磁電流もしくは界磁の長さを減ずる(弱め界磁制御)
・一定になるよう制御する(すべり加減制御)
・理論上は、速度に反比例して下がる
電圧・回路に挿入する電気抵抗を少しずつ小さくすることで、端子電圧が少しずつ大きくなるよう制御する(抵抗制御)
・電圧V/周波数Fが一定になるよう制御する(VVVF制御)
・結果として端子電圧は概ね速度に比例する
・一定になるよう制御する(架線電圧がそのまま印加される)
・一定になるよう制御する(架線電圧がそのまま印加される)
制約の物理的要因・鉄輪の摩擦限界による上限・電動機の冷却性能(いわゆる連続定格、1時間定格)による上限
・電動機の特性による上限

 今回、「JR東日本トレインシミュレーター」で用いられている車両の性能を細かく調べたところ、業務用シミュレーターだからかどうかは分からないが、思った以上に表3や図1の関係性が再現されていることが分かった。筆者はこれまで、省エネルギーな列車運転の方法論について過去に記事(例えば、計画停電を防ぐ「節電ダイヤ」の方向性について(1))を起こしているが、シミュレーターが実際の物理現象を(ある程度、という但し書きは付くが)再現しているとすれば、シミュレーター上で省エネ運転を検討する際にも非常に有用である。

 上記の記事では、「運転時分を最速から5秒程度増やすと2割程度の省エネが実現できる」という書き方をしているが、本シミュレーター(のうち、少なくとも京浜東北線の大宮→南浦和)で設定された運転時分は、最速から15秒近く余裕を持って設定されており、突き詰めて運転すると運転時分が異常なほど余る。そこで筆者は、設定された運転時分を使い切れるようなランカーブを設定するため、大宮~南浦和の全5区間に対し、以下のような図を用意した。

図4:大宮→さいたま新都心間の運転曲線。速度制限が解除されても、大して加速する必要は無さそうだ。

図5:さいたま新都心→与野の運転曲線。与野駅手前の上り勾配で結構速度が落ちるので、速度選択は慎重に行いたい。

図6:与野→北浦和の運転曲線。この区間は勾配が少ないので、車両性能を測定するのに適している、と筆者個人的には思う。

図7:北浦和→浦和の運転曲線。この区間の余裕時分は(他の区間に比べると)少ないが、浦和駅手前の上り勾配で速度を失いやすい上、その割に惰性走行の区間が長いので、速度選択は慎重に行いたい。

図8:浦和→南浦和の運転曲線。採時駅(南浦和)の手前だからか、余裕時分が長めに取られている。出発してすぐに下り勾配があることもあり、速度選択は慎重に行いたい。

 このE233系1000番台は全体的にブレーキが強い。特に常用最大ブレーキ(B8)は、40km/h以下では非常ブレーキのカタログスペック(5.0km/h/s)よりも明らかに強いブレーキがかかる。ほぼすべての区間では90km/hまで加速しても停車できるほど強力なブレーキを備えている模様だが、裏を返せば余裕時分が異常なほど長い、ということでもある。運動エネルギーが単純に速度の二乗に比例するとして、上記のランカーブで消費するエネルギーは、全区間で90km/hを出した場合と比べて、半分程度に抑えられるものと思われる。
 余談ではあるが、京浜東北線に209系を投入する際に「この電車は、従来の電車の約半分の電力で走行しています」などと省エネをうたい文句にしていた。隣を走る山手線は一周を60分にするために、E231系500番台を投入した際に運転時分を相当に詰めているのとは対照的である。これに加えて、シミュレーターはホームドア設置前の動画を基に作成されている。これらの事情を考慮すると、京浜東北線の運転時分には余裕時分が多めに含まれていても不思議ではない。京浜東北線にホームドアを設置する際、運転時分をどのように措置したのかは気になるところではあるが。

 今回、せっかく物理現象を比較的正確に再現できるシミュレーターが、だれでも入手できる形で公になった。この機会を最大限に生かすためにも、以下の課題にも積極的に取り組んでいきたいと考える。ただし、主に運転曲線の錬成と実際の運転練習に多大な時間がかかることが予想されるので、機会を改めることにしたい。

課題1:大宮→南浦和の運転時分合計値を最適に配分する方法について
 今回のケースでは浦和→南浦和の運転時分が特に余りがちなので、手前の区間でわざと遅れを出すことで、トータルでの消費エネルギー削減を図ることになる。詳細は「等増分消費エネルギー則」を参考にされたい。

課題2:回生ブレーキの空制補足について
 一般的な傾向として、同じ運転時分ならなるべく強いブレーキを用いた方が省エネルギーになることが知られている。強いブレーキを用いた方が早く停まれるので、そのぶん最高速度を下げられるためである。
 一方で、回生ブレーキはモーターを発電機として用いるものであるから、速度が上がると有効な加速度(ブレーキなのでマイナス)の大きさ(要するに、ブレーキの効き)は小さくなってしまう。この不足分は摩擦ブレーキで補うことになる。これを本稿では「空制補足」と呼ぶことにする(※「遅れ込め制御」と呼ばれている場合もある)。
 本シミュレーションの場合、基準となる運転時分があまりにも長いため、空制補足をあえて使わないように運転する方法が考えられる。具体的には、図9の通り、多少最高速度を上げても、空制補足分を減らした方が有利なケースは十分に考えられる。
図9:北浦和→与野の運転曲線(図6)と同じケースに対し、縦軸にパワー/質量を、横軸に時間を取って図示した。グラフ上の面積は(単位質量当たりの)消費エネルギーを意味する。



2022年5月7日土曜日

西九州新幹線のダイヤについて(1)

  西九州新幹線(武雄温泉~長崎)の開業が令和4年9月23日に予定されている。これを受けて本記事では、具体的にどのような列車運転計画が作成されるか、予測を試みることにする。まず最初に、ダイヤを予想する上で最も決め手となりやすい「博多駅における新幹線の着発時刻」に着目した上で、以下の図を作成する。


図1:博多駅付近パターンダイヤ図

 図中で小さく表記された数字は「毎時N分」を表し、駅に近い側が到着時刻、遠い側が発時刻である。博多~鳥栖の普通列車や快速列車が毎時3本を基調に組まれていることから、特急列車は20分ずつの等間隔に3本配置するのが理想と想定すると、図1のような特急列車設定用の「枠」が上下3つずつ設定できる(※所要時間は最も速いかもめ号を想定した)。これらのうちどれを佐世保線系統に割り振るかで、上り3通り×下り3通りで計9通りの組み合わせが考えられるが、本稿ではまず、新幹線との接続関係が上下線で対称であると仮定する。すると、上図の枠A・枠B・枠Cのいずれか1個に対し、佐世保線方面の特急列車を割り当てることで、ダイヤの概略形を定めることが出来る。本稿では、上記の枠B(緑色)に対して佐世保線特急を割り振ることを想定し、具体的なダイヤ図に落とし込んでいく。理由は以下のとおりである。

・リレーかもめ号の武雄温泉駅折り返し停車時間が最小(12分)になる。佐世保線特急は武雄温泉駅付近での行き違いが想定されるため、その際に武雄温泉駅で必要となるホームの数が少なくできる。

・新幹線の最速達列車を枠A、各駅停車を枠Cに割り振ると、接続関係のバランスが比較的良い。

図2:佐世保線特急を枠Bに割り振ることを想定したダイヤ図

 ご覧の通り、枠Aに最速達列車を割り振ったことで、山陽新幹線からの接続を最も所要時間の短い形で受けることになる。博多~長崎の所要時間は枠Aで約89分、枠Cで約96分であり、そのうち在来線特急が59分、乗り換え時間が3分である。一方で、長崎県のホームページには博多~長崎が最速1時間20分と表記があるし、武雄市のホームページには博多~武雄温泉が最速1時間6分と表記があるし、自治体によってずいぶん書いてあることが違う模様である。本稿では、前者は諫早駅の通過を想定していること、後者はリレーかもめの使用車両として783系を想定していることを原因として推測する。
 さて、ここで多少話題がそれるが、今から20年ほど前のダイヤ改正時点の情報を用い、図1同様に九州全体を図示すると図3のようになる。
図3:九州全体パターンダイヤ図(2001年)
 2001年は、九州の在来線特急用車両が概ね出揃った時期である。まだ新幹線が博多までしか開業していないが、現在から見ても非常に精緻なパターンダイヤが組まれている印象を受ける。かもめ号が毎時2本走っていた時期に、うち1本に対して885系が新しく投入されてから間もない頃のダイヤだが、博多~諫早を僅か90分で結んでおり、令和4年5月現在と比べても10分弱早く到着する。一方で、図2をよく見ると、枠Cにおける博多~諫早の所要時間は約85分である。
 現在、かもめ号は1時間に1本しか運転されていないが、この理屈から行くと輸送力は枠C(武雄温泉~長崎で各駅停車)だけで足りてしまう公算となる。ところが、博多~諫早の所要時間で885系登場時(90分)と枠C(新幹線区間で各駅停車、85分)とを比べると僅か5分しか差がつかず、西九州新幹線の正当性を大きく揺るがす懸念がある。さらに、枠Cに783系を割り当てると博多~諫早の所要時間が90分を超えてしまい、「従前の特急より遅い」という批判すら来かねない。このため本稿では、開業後数年間は仮に乗車率が低迷し「空気輸送」と揶揄されようと、枠Aのスジを削減せず、毎時2本(枠A、枠Cいずれも)運行するものと想定せざるを得ない。また、枠Cのリレーかもめの車種として885系を想定したのも、博多~諫早で20年前のかもめ号に抜かされないことを念頭に置いたためである。
 
 ところで、令和4年4月28日付けでJR九州から発出されたプレスリリースによると、現時点での時刻表案が各駅に掲示されている模様である。インターネット上に出回っている画像(特に、肥前山口駅の下り線と、肥前鹿島駅の上り線のもの)を参照する限り、昼間は下り線が枠B、上り線が枠Cを使用している一方で、夕方は下り線が枠A、上り線が枠Bを使用している模様である。「新幹線との接続関係が上下線で対称」という上記の仮定を崩せば、例えば「下り線の枠C、上り線の枠Aが佐世保線特急である」のような仮定を置くことで、時刻表案と整合の取れるダイヤ図を作成できると考えられる。「新幹線との接続関係が上下線で対称」という仮定を崩した場合のダイヤ図は機会を改めて別途作成することとする。

2022年3月26日土曜日

函館線(函館・小樽間)について(5)

  本日、小樽~余市のバス転換に道、小樽市及び余市氏が同意したとの報道があった。この区間の存続をめぐっては、余市町長が存続を再三主張してきただけに、その出方に注目が集まっていたところであった。

 余市町は、「輸送手段の確保を条件に」協議を進めてきたものの、「迅速さや大量輸送と言った利便性の確保と交通拠点の整備について、道の確約が得られた」として合意した模様である。

 当方では、この区間の存続に向けて可能な方法を探ってきたが、どれも厳しいことが浮き彫りになった中での廃線であり、非常に残念であるというのが率直な感想である。

 現時点では、以下の点が課題として残っているように見受けられるので、今後はこれらの点を中心に筆を進めていきたい。

・朝ラッシュ時における輸送力不足及び渋滞対策について

・倶知安町における廃線前倒し案について

・長万部以南の存廃議論に向けた新たな事業スキームについて

・↑に付随して、785系引退後のすずらん号のあり方について

 廃線の方向性がほぼ決まった関係で、筆の進みが遅くなることは否めないが、今後ともお付き合いいただければ幸いである。


2022年3月23日水曜日

電力需給逼迫警報について(1)

 2022年(令和4年)3月22日を中心に、制定以来初となる「電力需要逼迫警報」が発動された。主たる原因として「(3月16日に発生した)地震による多数の火力発電所への被害」「低温に伴う電力需要の増加」「悪天候に伴う太陽光発電の実績低迷」はほぼ間違いないと考えられるが、これ以外の原因については、報道各社ごとに異なるものを挙げている状況である。

 そこで本稿では2022年(令和4年)3月23日の新聞(朝刊)を対象に、要因として挙げられている事項について、報道各社での相違について考察したいと思う。まるで中学生の国語の宿題のような筆の進め方であるが、筆者が中学校で国語の教師から出された課題がこの構想の発端であるため、その辺りは割り切って目を通していただければ幸いである。

 なお、下記のA新聞~F新聞は、在京の売店において容易に購入可能である「朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、読売新聞」のいずれかを指すものとする。どれがどれに該当するか、類推しながら読み進めていただくのも一興と考え、あえてこのような形を取ることにする。

表1:3/23朝刊における各項目への言及有無(△:触れた程度、×:反対意見)
項目A新聞B新聞C新聞D新聞E新聞F新聞
地震による火力発電所の停止
悪天候による太陽光発電の出力低迷
気温の低下による暖房需要の増加
警報発令の遅れ、見通しの甘さ
電力会社間の相互融通能力不足
原子力発電所の稼働不足×
大需要家の対応遅延
揚水発電容量の枯渇
老朽火力の廃止


 表1で挙げた個々の要因の中で、新聞社間で大きく差がついているのが「原発」の部分であり、その特徴故に、どれがどの新聞なのか、半ば浮き彫りになっている。これらの特徴を基に、各新聞記事に対する良し悪しを筆者の独断と偏見によって評定したのが表2である。

新聞社評価点課題点総評
A新聞・故障火力発電所の一覧有
・家庭での節電策が充実
・節電する市民の苦境を掲載
・原因分析が無いに等しい・市民としての節電協力に対し、共感を得たい読者に適する
・問題意識を持って読むには適さない
B新聞・電力自由化に伴う老朽火力の退出を記載
・故障火力発電所の一覧有
・京急線の一部運休(ウィング号)に触れている
・課題提起が総じて中途半端
・原発再稼働に対するスタンスも中途半端
・50Hz-60Hz間送電能力不足の記載無
・多方面に課題提起しているのは良いが、方向性が見えない
・純粋な情報収集向けだが、紙面の広さでE新聞に劣る
C新聞・大需要家の協力が遅かった(午前中の節電効果が低かった)ことに言及
・揚水発電の原理を図示
・今回の事象がkW(パワー)でなくkWh(エネルギー)不足であることを理解して書かれた痕跡がある
・反原発の記述に定量的な根拠が無い
・列車の間引き運転を提案。いきなり列車削減を論じるのは大変大きな誤りである
・揚水発電を「だぶついた」電力と表記しているなど、総じて記事内イデオロギーの整合性が低い
・揚水発電容量や大需要家の協力遅延等、独自の着眼点は優れている
・しかし結論ありきの編集によって上記の長所が台無しになっている
D新聞・原発の再稼働に触れつつ、50Hz管内での再稼働がほぼ出来ない前提で書かれており、比較的実現可能性のある提案になっている
・揚水発電の残量に関する記述がある
・1面に記事を載せない
・警報発令が遅延したことに全く触れていない
・50Hz管内の再稼働が無い前提は、コア読者の共感をむしろ得やすいのでは?
・警報発令遅延に触れなかった理由が謎
E新聞・この事案に対して大きな紙面スペースを確保しており、原因として挙げている事象の数も多い
・家庭での節電策を記載するスペースを割ける
・揚水発電の残量に関する記述がある
・原発の周辺住民(特に柏崎刈羽)の感情を逆撫でする懸念が大きい
・揚水発電が蓄電池であることを十分理解せずに書かれており、原発との相性の良さに触れていない点は非常に残念
・紙面が広い、その一点だけでも大いに価値を見出せる
・原発再稼働の主張のあまり、冷静さを欠く記述が散見される
F新聞・企業の自家発電への切り替え、売電に関する記載が充実、具体的な数字もある(68件に自家発電の出力増強を打診して15件から了解を得て23.5MW相当)
・午後3時以降の節電効果が高かったこと(≒午前中の節電効果不足)を認めている
・原発再稼働を課題に挙げながら、電力会社間の相互融通に一切触れていない
・企業の取り組みを数値化し掲載したことは大きい
・原発再稼働が「主張しただけ」になっているのは課題
総合・一長一短であるため、単純に情報源は多いほうが良い・供給力100%のうち何%が揚水発電なのか、東電が提示しているにも関わらず6社とも記載が無い
(D新聞以外)全社が挙げている警報発令遅延については、今後の掲載が待たれる

 正直に言って一長一短であるため数値での採点は避けるが、どの社も記載していない「供給力100%のうち何%が揚水発電なのか」については、機会を改めて考察することにする。


追伸
「新聞は複数誌を読み比べるもの」と、お金のない中学生の私に切々と説いた国語の先生は今もお元気だろうか。

2022年1月14日金曜日

函館線(函館・小樽間)について(4)

  昨日、第11回後志ブロック会議の議事録が公開された。今回は、この議事録の内容とその背景を考察することを目指して筆を進めてゆく。なにぶん、議事録の分量が非常に多いため、記事が長文化することをご容赦願いたい。

 まず冒頭で国交省から説明のあった、「地域公共交通確保維持改善事業」について具体的に記してゆく。

図1:地域公共交通確保維持改善事業の概要。運行経費に対する補助は、バスは対象に出来ても鉄道は出来ないことを端的に示している。

 国交省から説明のあったとおり、この枠組みの中で、鉄道に対する補助は「施設に対するもの」に限られ、運行経費に対する補助は対象をバスに限定されている。すなわち、「運行経費だけで見て赤字である鉄道は、鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる見込みが無い限り、監督官庁から存在意義を否定されている」ことに他ならない。年間の赤字額が運行経費だけで4~5億円に上ることが想定される余市~小樽の存続に向けては大変極めて厳しい内容であることは間違いなかろう。運行経費に対する新たな補助スキームを、新幹線の札幌延伸に間に合うよう確立する必要があると言えるだろう。
 また、ニセコ町が3/14ページで質問している「国として支援をするという内容が該当するのかというのと、それが 10/10 の支援なのか、どの程度の支援というイメージなのか教えていただければありがたい」に対し、国交省は上記の制度の中身そのままに「1/2~1/3」と回答しているが、残り(いわゆる「裏負担」)は自治体が負担しなければならない。道庁が鉄道の廃線ありきで取りまとめを主導しているという噂が絶えない状況下で、道庁が一銭も負担しないことを想定すると、余市~小樽の初期投資として想定されている45億円~50億円のうち少なくとも半分を、余市町と小樽市で負担しなければならない。年間予算が(一般会計ベースで)80億円程度の余市町にとって、裏負担のうち相応の割合(初期投資の1/4程度、運行経費赤字分の1/2程度?)を負担することは、地方税、地方債いずれの形でも明らかに困難であると言えよう。

 さて、上記の立場において余市町が取り得る選択肢はいくつかあると考えられ、その一つは「貨物調整金の適用」であるが、2/14ページに記載があるように、新潟県が旧信越線での適用を実現させたこの事例は、適用を明確に否定されている。筆者は函館線(函館・小樽間)について(1)において、平成12年に実際に迂回運転を行った際の輸送力について記述したが、特に貨物列車は従前の10%程度の輸送力しか発揮できず、船とトラックが実質的に代替していたことを記載した。輸送力の明らかな不足と言う実態は、理屈を曲げてまで適用することの正当性を事実上否定している、というのが筆者の考えである。

 次に、主に4/14ページにおいて「並行在来線の経営分離の中身の見直し」について記載があるが、これについても国交省、JR北海道ともに否定的であり、実現は事実上困難であるように見える。現状の電化区間が小樽以東で、小樽以西は既設トンネル径の都合上電化が困難である、という理由から、筆者は経営分離の区間設定に(ある程度の、は付くが)合理性があると考えており、深入りは避ける。

 最後に、経営安定基金の活用について、5/14ページにおいて余市町長が繰り返し質問し、国交省が「三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と繰り返すやり取りがある。しかし、特に5ページにおいて、余市町長の質問も国交省の回答も実質的に全て同じ文言である上、それが議事録に残っていること自体極めて不自然である。この理由についてはのちほど考察する。

 次にJR北海道の発言に移る。具体的には「経営分離の見直し」「(赤字補填を前提とした)運行受託」「第三セクター鉄道への支援」の3点であるが、1点目は先述の通り経営分離見直しを否定したものであるから再掲を避け、2点目の運行受託について重点的に記述する。以前から筆者は、余市~小樽間の存続に向けた議論において、札幌方面への列車直通が項目として見当たらないことが不自然であると考えてきた。JR北海道が(赤字補填という条件付きではあるが)運行受託の可能性を否定しなかったことは、小樽駅を挟んだ直通運転を行う上で大きな第一歩であると言えるだろう。ただし、赤字補填が前提である以上、「鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる」手段には決してなりえない。JR北海道から運行受託に関する回答は得たものの、筆者にとって、直通運転の可能性が高まったこと以外のメリットはあまり見出せないというのが実情である。

※2022/01/16追記 JR北海道への経費補填の手段として、3セク鉄道がJR北海道に対して不当に安い金額で運行を委託し、それによって生じた分の赤字が「経営安定基金」を通じて補填されるケースを想定したとき、絶対にあり得ない、とまでは言えないと考えている。ただし、このような方法を認めてしまうと、JR北海道(とJR四国)では、ローカル線の廃止が「赤字」とは全く関係なくなる、という点で現実味を欠いていることに留意が必要である。

 さて、7/14ページにおいて、余市町からの「2030年度までJR北海道さんで小樽・長万部間は運行されるという理解でよろしいでしょうか」という質問があったのに対し、JR北海道は「皆様の様々なご議論を見ながら、私どもとしては、整備・着工の考え方、全国的な動きから申しますと、新幹線開業するまで、私どもとして、今のまま進めていくことを基本的には考えております。」と回答している。このやりとりはここで締めくくられているが、筆者は「理由になっていない」と考える。なぜこのような考えに至ったかについてはのちほど考察する。

 8/14ページでは、前半でJR貨物側からの「山線でのDF200形式機関車の運行困難」、後半で「余市・小樽間のバスの輸送力の検討」について記されている。DF200形式機関車の入線調査依頼について、有珠山が最後に噴火した平成12年(3月30日)にJR貨物がJR北海道に対して文書で依頼し、JR北海道は同4月13日に山線にマヤ34形を運行し調査した結果、曲線部分のレールを止める犬釘の増し打ちによって補強すれば通行可能との結論に達した(「有珠山噴火 鉄道輸送の挑戦」P43より。ただし、DF200形式機関車では事実上運行されることはなかった。)、という実績がある。一方で議事録曰く、現在のJR北海道の回答が「JR北海道からは、「DF200形式機関車では走行できない区間が複数箇所ある」というものであり、20年前との違いに目を覆わざるを得ないが、同時にその可能性を見出すことが現実的でないことを示唆している。
 後半の「バス輸送力の検討」については筆者なりに不満のある部分はあるが、議事録にてどの自治体からも質問すら出ていない。このため、バス輸送力に関する考察は次回とし、日を改めてじっくりと考察することにする。

 ところで話は脱線するが、令和3年7月28日に、余市・小樽間個別会議(有識者説明会)が開催されており、議事概要はリンク先の通りである。一方で、有識者」の所属する会社のホームページには図2のような記載がある。個人の発言が所属社の意見を正確に代弁しているかどうかまでは議論を避けるが、両者が全くと言っていいほど異なる主張をしていることは興味深い。
 
図2 「鉄道に関するコンサルティング事業を行っている有識者」所属社のホームページ上の記載。

 さて、所属社の意見の一つとして書かれているのが「並行在来線の早期(北海道新幹線札幌延伸より前)の経営分離」だが、ブロック会議の議事録を見る限り、この案は明確には否定されていない。唯一、JR北海道が「北海道新幹線札幌延伸までの」運行継続を表明しているが、毎年20億円程度の赤字は経営安定基金で補填されるとしても、その理由は単なる「他事例との横並び」である。違和感を感じないだろうか。実際にJR北海道が自社の都合で廃線を前倒ししようとした時のことを想定していただきたいのだが、必ずと言っていいほど対立すると想定される対象が労働組合である。どんなに本数が少ない路線だろうと、列車運行を生活の糧とする社員は必ず存在するのである。これは筆者の推測であるが、「会社都合での廃線前倒しは、労働組合の同意を得るのが困難である」「ただし、地方自治体等の提案が廃線の理由であり、従前の従事者が正当な補償を得られるのであれば、その限りではない」が実態ではなかろうか。もっとも、余市町長が7/14ページで指摘しているように、余市~小樽の輸送密度を下回る路線は全道に数多く存在し、その廃線議論が進まない理由が上記のものだとすると悲しい限りであるが……。
 一方で、所属社の意見としてもう一つ挙げられている「実行財源は赤字回避分」であるが、これについては議事録5/14ページにて、三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と、繰り返し、明確に否定されている。ただし、長万部~小樽の(事実上、長万部側の)一部を新幹線札幌延伸を待たずにバス転換し、残りを新幹線延伸までJR北海道が運行している状態で、JR北海道が自社の都合(例:鉄道施設の老朽化が著しく、新幹線札幌延伸を待たずして補修工事が必要、等。)で残りの(事実上、小樽側の)鉄道施設に投資し、それによって生じた赤字の増分が経営安定基金を通じて補填されるケースまでは否定していない。このようなケースは、沿線自治体に裏負担を発生させないのではなかろうか。

 前置きが非常に長くなってしまったが、余市町が経営安定基金の具体的な中身について多くの質問をしたのに対し、国交省が頑なに「三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と、一見当たり前の回答を議事録内で繰り返した理由として、筆者は一つの仮説を提示したい。少なくとも北海道新幹線札幌延伸までの間、三セク鉄道の経営に「有識者」が関与することだけは、国交省として絶対に認めないというものである。あるべき有識者は、規模が小さく住民の意見を予算執行の形で具体化することが困難な自治体に対し、自らの利益は全て度外視した上で、真に自治体とその住民の利便性を向上し人口流出を防ぐための知恵を惜しむことなく授けるのが当然ではなかろうか。
 
 正直に言って無理のある解釈であることは承知であるが、皆様のご意見をいただければ幸いである。

2022年1月3日月曜日

函館線(函館・小樽間)について(3)

  今回は、「第10回後志ブロック会議資料2-1「余市・小樽間における多駅化・多頻度化の検討について」」に絞って記載していく。

 まずは、多駅化、多頻度化の検討についてイメージを具体的にするため、1990年代後半に富良野線で実施されていたパターンダイヤを例示する。

図1:1998年(平成10年)頃の富良野線の列車運行図表。旭川~美瑛では1時間に1本(ほぼ)等間隔に列車が来る上、旭川駅で札幌方面の特急列車と接続する。札幌~美瑛の所要時間はほぼ2時間であり、利便性が非常に高い。
 富良野線がパターンダイヤ化された時期であるが、札幌~旭川の特急列車のパターンダイヤが概ね確立し(1990年(平成2年))、富良野線への新型車両(キハ150形)投入(~1995年(平成7年))、緑が丘駅の新設(1996年(平成8年))といった状況から機運が高まり、前掲のようなパターンダイヤが確立したものと思われる。パターンダイヤが初めて施行された期日は当方の資料では正確に特定できなかったが、遅くとも1995年(平成7年)には概ねこの形になっていたと考えられる。
 ところで、現状のダイヤを下に図示するが、過去にパターンダイヤであった頃の痕跡を辛うじて見出すことは出来るものの、行き違い可能な駅が少ない関係で、特に美瑛→札幌方向の接続利便性が大幅に低下しているのが悲しいところである。
図2:2021年11月現在の富良野線の列車運行図表。旭川~西神楽に行き違い可能な駅が無いため、札幌方面特急との接続は、どちらか一方向であきらめざるを得ない。美瑛から札幌に向かうには2時間半~3時間を要している。

 図1と図2とを見比べると、あたかも緑が丘駅の設置が裏目に出たように見えてしまう。余市~小樽の多頻度化、多駅化の検討に当たっては、このような事態を防ぐためにも、具体的な案を事前に詰めておく必要があると考えられる。

 余市~小樽の多頻度化、多駅化において念頭におくべきは、まず快速エアポート号(新千歳空港行き)との接続ではなかろうか。JR北海道側の都合で接続先が大きく変動してしまうのが困り者だが、ここでは過年度使われたそれぞれのダイヤについて、接続を取った場合のパターンダイヤを検証することによって、JR北海道側の都合で接続が取れる・取れないの差が生じるかどうかについて考察してゆく。なお、下図は小樽以西で用いる車両としてキハ150形を想定しているため、H100形では所要時間が多少長くなる(現地調査した限りでは、1駅あたり1分程度)可能性が高いことを申し添える。

 
図3:2000~2001(平成12~13)年度ダイヤとの接続可能性検証図

 図3は、マリンライナーを廃止しエアポートが毎時2本小樽直通になってから、2002年3月にダイヤパターンが大きく変わるまでの時期を想定したものである。小樽以西の便が毎時2本いても比較的接続は取りやすい部類に入る。ただし、小樽駅で階段無しで接続しようとするとプラットホームの数が足りなくなってしまうという課題はある。また、余市側に新駅を設置すると行き違いが出来ず、毎時1本は停車、毎時1本は通過にせざるを得ないように見受けられる。

図4:2002~2015(平成14~27)年度ダイヤとの接続可能性検証図

 図4は、2002年(平成14年)3月改正にて、旭川行きのエアポート号の車両が変更になって以降、エアポート号とスーパーカムイ号との直通運転を打ち切る(2016年(平成28年)3月)までの期間における接続可能性を検討したものである。理論上は最速である(余市から札幌まで約55分、新千歳空港まで約95分)が、塩谷駅で行き違いを行う案は、接続が非常にタイトであるため現実味が薄い。図5は、行き違いを行う駅を蘭島駅に変更した上で、新駅を設置し毎時2本列車を設定することを想定して作成したものである。
図5:2002~2015(平成14~27)年度ダイヤとの接続可能性検証図その2

 この場合も、塩谷~余市で行き違いが行えないことを想定すると、余市側の新駅には1時間に1本しか停車できず、2本目は新駅を通過せざるを得ないと考えられる。

 2016~2019(平成28~31)年度については図5とほとんど状況が変わらないため省略し、2020(令和2)年度から現在に至るまで使われている、エアポート号が毎時5本に増発されて以降のパターンとの接続を図6にて検証する。

図6:2020(令和2)年度以降ダイヤとの接続可能性検証図。


 この図では、あえて無理を承知で毎時3本設定している。実際は、余市以西の既存ダイヤの都合にも左右されることから、可能な限り多くの「枠」を設定しておくことを念頭に置いている。
 これまで実施されてきたダイヤ各々との接続関係を考慮していずれも同じ結果となっている以上、JR北海道側の都合でダイヤが今後変わるかどうかに関わらず、余市、小樽いずれの新駅でも、全ての列車を停車させることは困難であり、新駅(少なくとも、どちらか一方)には毎時1本程度しか停車できない可能性が高い、と言えるだろう。新駅に全ての列車を停車させない事例は、(執筆している令和4年1月時点で未開業だが)札沼線の「ロイズタウン駅」が記憶に新しい。同駅は単線区間内に設置された棒線駅(上下線の列車交換が出来ない駅)であるため、輸送力増強の観点でネックになりがちであり、毎時4本以上列車を設定しようとすると一部の列車を通過させざるを得ないと考えられる。いわゆる資料2-1では、余市、小樽いずれの新駅も建設費が6000万円程度と、ロイズタウン駅の約10億円と比べてもかなり安く見積もられており、棒線駅を想定していると見てほぼ間違いないだろう。
 
 
図7:「多駅化の検討」から抜粋。これだけ見ると、駅の増設費用は、北海道新幹線の札幌延伸開業を待つまでもなく、1~2年であっさり回収できてしまうように見える。駅の新設でスジが寝る分の費用が含まれていないが、「多頻度化の検討」で増える人件費(1.28億円)の5分の1程度のオーダーと思われる(余市~小樽が片道30分→36分に増えると見積もれば、本数を1.2倍したのとほぼ同じである)。

 ロイズタウン駅が豪華なつくりをしているのか、余市・小樽新駅の建設費が安く見積もられ過ぎなのかは何とも言えないが、駅の新設費用は1~2年であっさり回収できてしまうように見える。余市町が鉄道存続を本気で考えているなら、少なくとも(小樽市内でなく、余市町内に設置できる)余市新駅の設置をJR北海道に要請する選択肢があっても良いのではないだろうか。また、これをJR北海道が断るには相応の理由が必要なのではないだろうか。

 さて「多頻度化の検討」についても同様の資料があるが、駅の新設と比べるとかなり厳しい結果となっている。
図8:「多頻度化の検討」からの抜粋。

 図8の資料は、現状で一日あたり16.5往復あるこの区間において、(概ね毎時2本となる)一日39往復に列車を増やした場合の収支を想定したものである。大雑把に言って、増発して需要が増えても収支は悪化するため、あたかも増便する意味がないかのような結果となっている。しかしよくよく考えてみると、本数を倍に増やしても、乗客が倍にでもならない限り収支は改善しないのだから、この取りまとめ方には無理がある。
 筆者は、経費は多少かかるが一日2往復程度の増便で済む「余市~小樽の日中のパターンダイヤ化(毎時1本)」が最もコストパフォーマンスが良いと考えている。余市~小樽で昼間に1日2往復増便するだけなら車両の増備には該当せず、費用の増額は「多頻度化の検討」で増える人件費(1.28億円)の10分の1程度のオーダーで済むと思われる(車両の検査周期が縮むが、人件費と比べて非常に小さいと想定している)。現況との経費の差額が1000万円程度と想定でき、それが余市~小樽を第三セクターで維持するための費用(年間4~5億円の赤字)よりもはるかに小さいことから、(経費の差額負担とJR北海道の協力という前提はあるが)余市町が鉄路存続を本気で考えているなら、パターンダイヤ化を要請するくらいのことは出来るのではないだろうか。行政が費用負担して鉄道の利便性を向上(朝夕に7本増発)した事例は富山市に前例がある(H31年度の予算で約4300万円)以上、不可能とは一概には言い切れないのではないだろうか。
 「わが列車わが鉄路 城端線&氷見線 未来をひらく交通まちづくり(北國新聞社、令和3年11月)」の第3章曰く、パターンダイヤ化には需要の創出効果がある(表現を正確にするなら、氷見線・城端線の例で年約6億円の経済効果がある(増便に係る費用をはるかに上回る))ようである。一方で、本稿の冒頭の図1において富良野線のパターンダイヤを紹介したが、図9で示した輸送密度の推移とダイヤ改正の推移を見比べると、パターンダイヤ化には需要の創出効果が無いようである。JR北海道は後者の事象を自社の路線で把握しており、及び腰になるのは致し方ない部分こそあるが、実際に適用してみないと分からない以上、余市町側で差額を費用負担し、需要創出にどの程度寄与するのかを試す価値はあるのではないだろうか。

図9: 富良野線の輸送密度の推移。平成初期のパターンダイヤ化も、(遅く見積もって)平成28年度の特急接続打ち切りも、輸送密度の推移に何ら影響を与えていないように見える。これを見てしまうと、「パターンダイヤ化したところで需要は増えない」と当のJR北海道が認識していても不思議ではない。

 この資料において、「多駅化」は数年で設置費用が回収できる公算であるし、「多頻度化」は資料の取りまとめ方の都合で一見効果が薄いように見えるものの、毎時1本のパターンダイヤ化するだけであれば費用は少なく抑えられる。また、毎時1本程度までであれば、多頻度化は多駅化の支障にならない(両立可能である)公算が大きい。翻って言えば、三セク転換で想定される赤字額の数十分の一に過ぎない費用を余市町が負担する選択肢を示せない時点で、この区間の鉄路存続に対する町の本気度に対して強い疑問を呈さざるを得ない。上記の選択肢に対してJR北海道が難色を示す可能性は無論あるが、それはあくまで結果であり、「出来ることをしたかどうか」と言う意味では大きな差が生じる。

 ここまで、第10回後志ブロック会議資料2-1「余市・小樽間における多駅化・多頻度化の検討について」に対し、より踏み込んだ考察を行うことを趣旨に筆を進めてきた。余市町が鉄路存続を本気で考えているのならば、この資料を基に提案できる選択肢はいくつか浮かび上がって来る、というのが筆者の考えである。

 なお、次回は第11回後志ブロック会議の資料のうち「余市・小樽間におけるバスの輸送力の検討について」について詳述する。筆者個人としては、高速バスを頭数に入れていたり、無理のあるバスダイヤを想定していたりと、上記資料のまとめ方には強い不満を持っているが、これについては機会を改めて記載することにする。