2022年1月14日金曜日

函館線(函館・小樽間)について(4)

  昨日、第11回後志ブロック会議の議事録が公開された。今回は、この議事録の内容とその背景を考察することを目指して筆を進めてゆく。なにぶん、議事録の分量が非常に多いため、記事が長文化することをご容赦願いたい。

 まず冒頭で国交省から説明のあった、「地域公共交通確保維持改善事業」について具体的に記してゆく。

図1:地域公共交通確保維持改善事業の概要。運行経費に対する補助は、バスは対象に出来ても鉄道は出来ないことを端的に示している。

 国交省から説明のあったとおり、この枠組みの中で、鉄道に対する補助は「施設に対するもの」に限られ、運行経費に対する補助は対象をバスに限定されている。すなわち、「運行経費だけで見て赤字である鉄道は、鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる見込みが無い限り、監督官庁から存在意義を否定されている」ことに他ならない。年間の赤字額が運行経費だけで4~5億円に上ることが想定される余市~小樽の存続に向けては大変極めて厳しい内容であることは間違いなかろう。運行経費に対する新たな補助スキームを、新幹線の札幌延伸に間に合うよう確立する必要があると言えるだろう。
 また、ニセコ町が3/14ページで質問している「国として支援をするという内容が該当するのかというのと、それが 10/10 の支援なのか、どの程度の支援というイメージなのか教えていただければありがたい」に対し、国交省は上記の制度の中身そのままに「1/2~1/3」と回答しているが、残り(いわゆる「裏負担」)は自治体が負担しなければならない。道庁が鉄道の廃線ありきで取りまとめを主導しているという噂が絶えない状況下で、道庁が一銭も負担しないことを想定すると、余市~小樽の初期投資として想定されている45億円~50億円のうち少なくとも半分を、余市町と小樽市で負担しなければならない。年間予算が(一般会計ベースで)80億円程度の余市町にとって、裏負担のうち相応の割合(初期投資の1/4程度、運行経費赤字分の1/2程度?)を負担することは、地方税、地方債いずれの形でも明らかに困難であると言えよう。

 さて、上記の立場において余市町が取り得る選択肢はいくつかあると考えられ、その一つは「貨物調整金の適用」であるが、2/14ページに記載があるように、新潟県が旧信越線での適用を実現させたこの事例は、適用を明確に否定されている。筆者は函館線(函館・小樽間)について(1)において、平成12年に実際に迂回運転を行った際の輸送力について記述したが、特に貨物列車は従前の10%程度の輸送力しか発揮できず、船とトラックが実質的に代替していたことを記載した。輸送力の明らかな不足と言う実態は、理屈を曲げてまで適用することの正当性を事実上否定している、というのが筆者の考えである。

 次に、主に4/14ページにおいて「並行在来線の経営分離の中身の見直し」について記載があるが、これについても国交省、JR北海道ともに否定的であり、実現は事実上困難であるように見える。現状の電化区間が小樽以東で、小樽以西は既設トンネル径の都合上電化が困難である、という理由から、筆者は経営分離の区間設定に(ある程度の、は付くが)合理性があると考えており、深入りは避ける。

 最後に、経営安定基金の活用について、5/14ページにおいて余市町長が繰り返し質問し、国交省が「三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と繰り返すやり取りがある。しかし、特に5ページにおいて、余市町長の質問も国交省の回答も実質的に全て同じ文言である上、それが議事録に残っていること自体極めて不自然である。この理由についてはのちほど考察する。

 次にJR北海道の発言に移る。具体的には「経営分離の見直し」「(赤字補填を前提とした)運行受託」「第三セクター鉄道への支援」の3点であるが、1点目は先述の通り経営分離見直しを否定したものであるから再掲を避け、2点目の運行受託について重点的に記述する。以前から筆者は、余市~小樽間の存続に向けた議論において、札幌方面への列車直通が項目として見当たらないことが不自然であると考えてきた。JR北海道が(赤字補填という条件付きではあるが)運行受託の可能性を否定しなかったことは、小樽駅を挟んだ直通運転を行う上で大きな第一歩であると言えるだろう。ただし、赤字補填が前提である以上、「鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる」手段には決してなりえない。JR北海道から運行受託に関する回答は得たものの、筆者にとって、直通運転の可能性が高まったこと以外のメリットはあまり見出せないというのが実情である。

※2022/01/16追記 JR北海道への経費補填の手段として、3セク鉄道がJR北海道に対して不当に安い金額で運行を委託し、それによって生じた分の赤字が「経営安定基金」を通じて補填されるケースを想定したとき、絶対にあり得ない、とまでは言えないと考えている。ただし、このような方法を認めてしまうと、JR北海道(とJR四国)では、ローカル線の廃止が「赤字」とは全く関係なくなる、という点で現実味を欠いていることに留意が必要である。

 さて、7/14ページにおいて、余市町からの「2030年度までJR北海道さんで小樽・長万部間は運行されるという理解でよろしいでしょうか」という質問があったのに対し、JR北海道は「皆様の様々なご議論を見ながら、私どもとしては、整備・着工の考え方、全国的な動きから申しますと、新幹線開業するまで、私どもとして、今のまま進めていくことを基本的には考えております。」と回答している。このやりとりはここで締めくくられているが、筆者は「理由になっていない」と考える。なぜこのような考えに至ったかについてはのちほど考察する。

 8/14ページでは、前半でJR貨物側からの「山線でのDF200形式機関車の運行困難」、後半で「余市・小樽間のバスの輸送力の検討」について記されている。DF200形式機関車の入線調査依頼について、有珠山が最後に噴火した平成12年(3月30日)にJR貨物がJR北海道に対して文書で依頼し、JR北海道は同4月13日に山線にマヤ34形を運行し調査した結果、曲線部分のレールを止める犬釘の増し打ちによって補強すれば通行可能との結論に達した(「有珠山噴火 鉄道輸送の挑戦」P43より。ただし、DF200形式機関車では事実上運行されることはなかった。)、という実績がある。一方で議事録曰く、現在のJR北海道の回答が「JR北海道からは、「DF200形式機関車では走行できない区間が複数箇所ある」というものであり、20年前との違いに目を覆わざるを得ないが、同時にその可能性を見出すことが現実的でないことを示唆している。
 後半の「バス輸送力の検討」については筆者なりに不満のある部分はあるが、議事録にてどの自治体からも質問すら出ていない。このため、バス輸送力に関する考察は次回とし、日を改めてじっくりと考察することにする。

 ところで話は脱線するが、令和3年7月28日に、余市・小樽間個別会議(有識者説明会)が開催されており、議事概要はリンク先の通りである。一方で、有識者」の所属する会社のホームページには図2のような記載がある。個人の発言が所属社の意見を正確に代弁しているかどうかまでは議論を避けるが、両者が全くと言っていいほど異なる主張をしていることは興味深い。
 
図2 「鉄道に関するコンサルティング事業を行っている有識者」所属社のホームページ上の記載。

 さて、所属社の意見の一つとして書かれているのが「並行在来線の早期(北海道新幹線札幌延伸より前)の経営分離」だが、ブロック会議の議事録を見る限り、この案は明確には否定されていない。唯一、JR北海道が「北海道新幹線札幌延伸までの」運行継続を表明しているが、毎年20億円程度の赤字は経営安定基金で補填されるとしても、その理由は単なる「他事例との横並び」である。違和感を感じないだろうか。実際にJR北海道が自社の都合で廃線を前倒ししようとした時のことを想定していただきたいのだが、必ずと言っていいほど対立すると想定される対象が労働組合である。どんなに本数が少ない路線だろうと、列車運行を生活の糧とする社員は必ず存在するのである。これは筆者の推測であるが、「会社都合での廃線前倒しは、労働組合の同意を得るのが困難である」「ただし、地方自治体等の提案が廃線の理由であり、従前の従事者が正当な補償を得られるのであれば、その限りではない」が実態ではなかろうか。もっとも、余市町長が7/14ページで指摘しているように、余市~小樽の輸送密度を下回る路線は全道に数多く存在し、その廃線議論が進まない理由が上記のものだとすると悲しい限りであるが……。
 一方で、所属社の意見としてもう一つ挙げられている「実行財源は赤字回避分」であるが、これについては議事録5/14ページにて、三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と、繰り返し、明確に否定されている。ただし、長万部~小樽の(事実上、長万部側の)一部を新幹線札幌延伸を待たずにバス転換し、残りを新幹線延伸までJR北海道が運行している状態で、JR北海道が自社の都合(例:鉄道施設の老朽化が著しく、新幹線札幌延伸を待たずして補修工事が必要、等。)で残りの(事実上、小樽側の)鉄道施設に投資し、それによって生じた赤字の増分が経営安定基金を通じて補填されるケースまでは否定していない。このようなケースは、沿線自治体に裏負担を発生させないのではなかろうか。

 前置きが非常に長くなってしまったが、余市町が経営安定基金の具体的な中身について多くの質問をしたのに対し、国交省が頑なに「三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と、一見当たり前の回答を議事録内で繰り返した理由として、筆者は一つの仮説を提示したい。少なくとも北海道新幹線札幌延伸までの間、三セク鉄道の経営に「有識者」が関与することだけは、国交省として絶対に認めないというものである。あるべき有識者は、規模が小さく住民の意見を予算執行の形で具体化することが困難な自治体に対し、自らの利益は全て度外視した上で、真に自治体とその住民の利便性を向上し人口流出を防ぐための知恵を惜しむことなく授けるのが当然ではなかろうか。
 
 正直に言って無理のある解釈であることは承知であるが、皆様のご意見をいただければ幸いである。

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