2018年9月11日火曜日

計画停電を防ぐ「節電ダイヤ」の方向性について(1)


 2018年9月6日3時7分に発生した北海道胆振東部地震の影響により、北海道全範囲での停電(いわゆるブラックアウト)が発生した。その後も、苫東厚真火力発電所の復旧に時間を要していることから、全道にわたる停電が再び発生する懸念が生じ、計画停電の実施の是非や、計画停電を回避する手段に関して、現在進行形で議論が行われている。
 鉄道に関して言えば、施設自体への被害は幸いにして大きくなく、9月9日時点で多くの路線が運転を再開できたが、全道的な電力不足と、それに伴う鉄道運行への懸念は今も続いている。鉄道も「節電への協力」対象と見做されたのか、札幌市営地下鉄や路面電車では昼間の本数削減、JR北海道では特急「電車」の一部運休が実施されている。
 関東地方に暮らす筆者は、2011年夏に発動された「電力使用制限令」に伴う列車の減便により、大きな不便益を被った。このような不便益の発生を繰り返さない、という意志のもと、列車の減便以外に何か良い方法は無いか、筆者なりに考察してみようと思う。
 
 まず、9月10日現在、どのような「間引き運転」が実施されているか、札幌市営地下鉄東豊線を対象に調べてみた。

図1:東豊線ダイヤ図(震災以前)。周回60分÷7.5分間隔=(最小)8編成で運転できる。

図2:東豊線ダイヤ図(2018.09.10現在)。運転間隔は不規則だが、最小7編成で運転できる。
 図1(震災以前)と図2(2018.09.10現在)を比較すると、運用するために必要な列車編成数は、図1で(最小)8編成、図2で(最小)7編成となる。どのくらい節電になるのか単純に計算すると、1-7/8=12.5%の節電が可能と考えられる。
 一方図2のダイヤを利用することで被る乗客の不便益は、主として「通常時に比べて列車が混む」「通常時に比べて列車を待つ時間が長くなる」の二つが考えられる。対象とする時間帯が昼間の閑散期であることから、前者の影響は小さいと判断し、後者に着目することにする。すると、図1の平均待ち時間は225秒(3600÷8÷2=225)なのに対し、図2の平均待ち時間は最小で約257秒(3600÷7÷2)となり、32秒の差がつく。平均値にはなるが、すべての乗客に対して32秒多くの「負担」を強いることになる。
 混雑による不便益が無視できる場合、乗客にかかる負担を可能な限り減らそうとすると最も有効な方法は減車である。例えば10両編成の列車を8両編成にすれば、(多少の誤差は出るだろうがおおむね)2割の節電が可能になる。しかし東豊線の場合、もともとTc-M-M'-Tcの4両編成で運転されているため、これ以上の減車が容易でない。
 減車が困難な路線において、次に考えうる手段が減速である。図3は一般的な鉄道車両における、運転時分と消費エネルギーとの間の関係性を表すものである。
図3:一般的な鉄道路線における消費エネルギー(kWh)と運転時分(秒)の関係[1]
  図に例示された3つの区間について述べれば、「最速での運転時分を5秒単位で切り上げた値(区間1(赤)で65秒、区間2(緑)・区間3(青)で75秒)を標準運転時分として使っている路線においては、運転時分を5秒増やすだけでも2割程度の省エネを実現できる」ということになる。東豊線の乗車1回あたりの平均利用区間数を3区間と仮定する(札幌の中心市街地を横切る形の線形のため、通しでの利用は少ないと仮定した)と、各乗客の負担は3区間で15秒程度となり、間引き運転の場合よりも負担を小さくすることができると考えられる。

 このように突拍子のない提案をすると、「そんなはずは無い」「具体例は無いのか」という反論が来そうなものだが、2011年夏、起点から終点までの運転時分を1分30秒延ばすことで、列車を減便することなく15%の省エネを実現した鉄道事業者が存在する。それは新京成電鉄であり、内容については抜粋し図として掲載したが、詳細は同社の公式ホームページhttps://www.shinkeisei.co.jp/topics/2011/2521/および文献[2]を参考されたい。
 ※この事例では、運転時分1分30秒の増を、終着駅の折り返し停車時間を削減することで吸収している。また、図6の省エネ効果については、運転時分の増加の他、軽量な省エネ車両を集中的に起用した効果も含まれているので注意されたい。
図4:ノッチオフを早めて最高速度を下げた例(文献[2])

図5:65km/hと85km/hでそれぞれ試運転し、消費エネルギーを測定した結果(文献[2])

図6:2011年夏季における省エネルギー効果。省エネ車両の積極的起用もあり、15%を大きく上回る効果を達成した。(文献[2])

 
 さて、ここまで大風呂敷を広げたところで、読者の皆様がお持ちであろう、以下の疑問に対応しようと思う。

Q1:ゴムタイヤで走行する札幌市営地下鉄は、一般の鉄道と比べて走行抵抗が大きいため、運転時分を延ばしても省エネ効果は小さいのでは?

A1:速度に関係なく消費されるエネルギーが大きいと、速度を下げることによる省エネルギー効果が小さくなることは事実である。ゴムタイヤ・地下鉄といった特殊な条件下で図3のような関係性を導くには、机上の計算(運転曲線の作成)を行った上で、実測によって確かめるのが現実的と思われる。

Q2:この文章の前半では「節電」、後半では「省エネルギー」となっているのは何故か?
A2:鉄道の電力消費量は加減速の関係で時々刻々と変化するため、その「瞬間最大値の大小」と、「ある程度長い時間の平均値の大小」は必ずしも一致しない。例えば、電車の出力が向上すると、前者が大きくなり後者が小さくなるが、加速が良くなるとその分最高速度が低くて済むためである。
 このような事情から、前者の削減と後者の削減を明確に区別しておく必要がある、と筆者は考える。「間引き運転」や「減車」は(MT比を変えない場合)前者と後者を同時に小さくできるため「節電」と呼称し、「減速」は後者のみを小さくするため「省エネルギー」と呼称することで区別を試みている。
 なお、変電所の容量不足など緊急の場合に、前者を下げるために行うのが「ノッチ制限」である。例えば抵抗制御車の場合、マスコンを2に入れっぱなしにするとパワーを意図的に抑えたまま加速できる(※直列段のまま特性領域に移行するため)が、その分ロスも多いため、結果的に後者が増えてしまう懸念はある。あくまで急場しのぎの方法と言えるだろう。

 ここまで大急ぎで筆を進めてきたが、計画停電を防ぐ列車ダイヤの方向性について、少しでも多くの皆様に知っていただければ幸いである。


[1]曽根悟:「長期的節電要請に対する電気鉄道のモデルチェンジの提案」, JREA, Vol.54, No.9, pp.39-46(2011)
[2]濱崎康宏:「新京成電鉄における省電力への取り組み」, 鉄道車両と技術, No.196, pp.15-21(2012)


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