2026年7月4日土曜日

小田急線小田原線の複々線化(登戸~新百合ヶ丘)について考えてみる(2)

  前回の記事において、小田急線小田原線の複々線化(向ヶ丘遊園~新百合ヶ丘)について一定の記載を試みたものの、交通政策審議会答申第198号の目標年である2030年が迫る中、一定の動きが無く、実現可能性は極めて不明瞭ではないか、という疑念は否めない。ここでは、実現性や事業性の観点はいったん脇に置いて、いざ工事に着手した際、それがどれくらいの価格を要するか、に焦点を当てた記載とする。前回の記事同様、「急行線のみを地下化する」方針で記載していく。

 地下トンネルのうち、今回のケースへの適用が考えられる工法として、「シールドトンネル」と「NATM」の二つが考えられる。今回は工法どうしの比較ではなく、供用開始機に絞った議論をしたいので、前者に特化した記載とする。シールドトンネルの断面は一般的に円形であることが多いが、その内径として必要な寸法はどれくらいだろうか。例えば横浜高速鉄道(みなとみらい線)においては、外径の実績として単線7150mm、複線が10000mmであった。ここから想定すると、単線と複線では、径としては1:1.4、断面積としてはほぼ1:2と言えそうである。そうなると、トンネルの体積が単線:複線=1:2なら、単線2本と複線1本の工事費はさして変わらないのではないか?という仮説を得ることになる。そこで、単線2本と複線1本を比較することを議論の俎上に載せるため、単線2本の場合の断面図を描画してみる。

図1 新百合ヶ丘~向ヶ丘遊園駅 想定縦断面図

 この断面図は、以下を念頭に置いて記載している。
 ・単線シールドトンネル(外径約7m)を2本別々に築造する
 ・トンネル同士は1D(外径=約7m)離す
 ・向ヶ丘遊園駅付近には、(用地買収しない限り)2本同時にアプローチする場所が無いので、片方はホームのある場所で勾配を下る(駅に停車しない)

 単線でトンネルを2本築造するデメリットの一つとして、幅を取ってしまうので周囲の土地に対する地上権設定(平たく言えば、地下を含む土地の特定の高さに構造物を設置する権利の取得)を行う必要があることが挙げられる。このデメリットを可能な限り低減するため、あえてトンネルを縦に二段並べ、土被り40mを超過して以降(平成12年法律第87号(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の適用範囲として考えられるもの)は1段とすることにより、武蔵野南線をくぐる際の高低差を少しでも低減することを意図している。 
 なお、この付近の地盤が固く、支持地盤が非常に浅い位置にあるので、支持層の10mしたという条件は満たすと認識して問題ないと思われる。

図2 生田駅付近の土質柱状図

 ではトンネル1kmの単価はおおよそいかほどだろうか。シールドトンネルの価格で主たるものは材料であるセグメントの単価であり、今回はコンクリートセグメント(二次覆工なし)を想定するが、1百万円/m(単線)、1.5百万円/m(複線)程度は要するものと思われる。また、土砂の運搬・処分費も相応にかかり、1m3あたり5千円ほどと仮定すると、単線で200千円、複線で400千円ほどかかると考えられる。また外径が大きくなると日進量も落ちるので、ここでは単線で約9m、複線で約6mであることを想定して記載する(もっとも、日進量はセグメントの生産スピードにも左右される。現場作業の多くをセグメント工場で分担できることに強みを見出せる工法でもあるのだ。)その場合の現場労務費は、これも単純計算は難しいが単線で30人、複線で45人(2班施工の2半分を想定)とする。トンネル作業員の神奈川県の単価は32千円であるから、1m当たりに換算すると単線で107千円、複線で240千円程度となる。むろん他にもシールドマシン製作費や機械経費等がかかるのだが、これら3つだけの足し算で、単線で1300千円/m、複線で2140千円/m程度となる。
 実際の工事費は、上記の直接工事費の他に共通仮設費、現場管理費、一般管理費等を足して出し、直接工事費の1.6~1.7倍くらいになることが多いのだが、今回の試算には直接工事費の一部が足されていないので、多めに見積もって上記の額の2倍とする。こうすると単線で2.6百万円/m、複線で4.3百万円/mとなる。今回のトンネルは約5.5kmにわたるので、単線で130億円、複線で220億円程度となる。
 むろんこの額には、新百合ヶ丘駅付近で発進立坑用地を築造する費用を含んでいないので、実際はもうすこしかかるのであるが、前回記事にて紹介した、交通政策審議会答申第198号において想定した事業費(1500億円)と比べるとずいぶん安い金額である。半分くらいというならまだ解るが、複線トンネルで比べても想定の5分の1にしかならない、というのは、いくらなんでも不自然な気がするのである。
 ところで、先ほど「単線2本と複線1本の工事費はさして変わらないのではないか?」という仮説を置いたものの、結果としてセグメントの価格差が2倍までは広がらなかったので、複線1本の方が安い結果となる。しかし、あえてそれでも単線2本案を残した理由は、先に単線1本を事業化する選択肢を産むためである。なぜここまでしたのかは、想定ダイヤを書かないと説明がつかないため、次回以降に改めて記載することとしたい。

2026年6月20日土曜日

小田急線小田原線の複々線化(登戸~新百合ヶ丘)について考えてみる(1)

  今回は趣向を変えて、小田急小田原線の登戸~新百合ヶ丘の複々線化について考えてみることにする。その内容の都合上、おそらく何回かに記事を分割することとなろうけれど、ご辛抱いただければ幸いである。

 手始めに、新百合ヶ丘駅の配線に関して具体化してみる。当方では大きく分けて、以下の3つの方向性のいずれかを想定している。

図1 新百合ヶ丘駅想定配線図

 簡単に言えば、外側線を急行線にするか、内側線を急行線にするか、そのどちらでもないか、の三案となる。いずれの案も、「急行線は地下とする」「急行線を内側線にする場合、小田原方面の優等列車と多摩線との平面交差を防止するための線路を柿生駅側に追加」の点で共通させている。では、「急行線は地下」を確定事項と見做して分類した理由であるが、その他の案が困難である、と判断したことによる。

 その内容を具体化するためにも、まずは前提を議論しよう。手始めに、東京圏の今後の都市鉄道のあり方について(交通政策審議会答申第198号)においての位置づけだ。

図2 交通政策審議会答申第198号における本案件の位置づけ
 
 事業費約1500億円に対してB/C(費用便益比)が2.9程度と、少なくとも同列の他のプロジェクトと比べるとかなり期待度が高い。一方で、課題の欄に「関係地方公共団体・鉄道事業者等において、事業スキームを含めた事業計画について十分な検討が行われることを期待。」と記載がある。これを具体的に突き詰めるとどうなるのだろうか。図3は、川崎市における都市計画施設を掲載した地図のうち、読売ランド前駅付近を切り取ったものである。

図3都市計画施設のうち、読売ランド前駅付近を抜粋した地図

 この図によると、小田急小田原線や、隣接する県道3号世田谷町田線(通称「津久井道」)は都市計画施設として図示されている。一方で、小田急線の線路をもう2本増設する余地は付近に見当たらない上、県道の計画幅員(約20m)は、小田急線の無い側に向かって拡幅することになっているので、両者は一見すると無関係な事業、ということになる。とはいえ、小田急が既存の駅の直下に地下駅を築造しようとすると莫大な時間と費用を要する。この区間では踏切による渋滞が発生しているが、かといって駅を含む緩行線を立体化するには、県道の拡幅用地を何かしら活用せざるを得ない状況である。なぜなら、小田急線の真上には道路橋が何か所も存在するので、鉄道を立体化する意義は、少なくとも踏切解消という文脈上、意義が薄いのである。複々線化の文脈においては、県からの要望があることも事実だが、それに対する小田急電鉄の回答は下記のとおりである。
 「向ヶ丘遊園~新百合ヶ丘間の複々線化につきましては、輸送サービスの向上、周辺地域の生活利便性の向上に資する効果的な施策であると認識しておりますが、本事業には莫大な事業費が必要であり、当社単独による整備は事業採算上極めて厳しいと判断しております。」
 一方で、要望書の登戸~向ヶ丘遊園にある「川崎市施行の登戸土地区画整理事業(昭和63年9月都市計画事業認可)による用地の確保が前提となります。」といった、用地確保を前提とした記載が見当たらないことから、用地の確保を必須としない方法を何かしら検討しておく必要があるはずだ。
 これらの理由から、「急行線のみを地下化する」案に特化した記載を進めていくことにする。具体的な建設費や期間については、次回以降に改めて記載することにする。

 ところで、その「急行線のみ地下化」の費用負担と便益の帰着先は、それぞれどこになるのだろうか?踏切の除却が出来ない以上、「莫大な事業費」は鉄道事業者が一見負担するように見えるが、多くの割合を占めるはずの建設費は、加算運賃という方法で「受益者」から徴収することで、ある程度解決を図ることも出来るはずだ。また、朝の一部の時間帯のためだけに車両やその留置場所を増備するのは一見不可解な判断にも見えるであろうが、小田急が保有する車両のうち千代田線直通対応車の割合が低かったり、伊勢原市内に車両基地を移設する計画があったりと、中長期を見据えた判断は考えられないだろうか?さらに、この事業の主たる受益者は、その多くが川崎市内に属するように見えるが、答申第198号の図が多摩線延伸と同じであり、図を両者で使い分けることも出来たはずなのに、使い回されている状況から、鉄道事業者が懸念しているのは、延伸計画とセットで語らざるを得ないことなのではないか??
 いずれにせよ、興味の尽きない議題である。次回以降は、まずは事業費として見込まれている1500億円の妥当性から検証していくことを試みる。
 

2026年6月6日土曜日

東北新幹線の増発に向けた事前考察(1)

  東北新幹線の輸送力向上に向けた制約として、福島駅付近における単線区間の存在がしばしばその一因として挙げられる。これの解消に向け、山形新幹線福島駅上りアプローチ線新設工事(例えば:JR東日本ホームページ)が進行中であり、現時点では2026年度末の供用開始が見込まれている模様である。

 そこで本稿では、福島駅上りアプローチ線供用開始後の列車運転計画(以下、単に「ダイヤ」と呼ぶ)としてどのようなものが見込まれているか、事前に考察することを試みることにする。

 早速ではあるが、当方で想定している形を図で示したいと思う。

図1 東北新幹線 福島駅工事完了後想定ダイヤ

 コンセプトとしては、下記のとおりである。

 ①東京駅の発着ホームを統一、この図の場合は20・21番線が東北新幹線、22番線が上越 新幹線、23番線が北陸新幹線
 ②1時間を16等分(現在は15等分)し、東京駅の発着間隔を3分45秒(現在は4分)とする
 ③つばさ号を毎時2本、こまち号を毎時2本、等間隔で設定する
 ④つばさ号の宇都宮停車列車、郡山停車列車を分離
 ⑤仙台以北各駅停車の列車は、仙台以南の需要を可能な範囲で吸収できるよう、こまち号の直前を走るよう設定する

 ①は、東北新幹線が5方面に分岐しており、誤乗防止の観点、何より分かりやすさを重視する観点から設定したものである。このような設定を可能にするには、東京駅の発着ホームの数が4面であることから、運転本数を1時間につき4の倍数にする必要がある。このことから、②とセットで実施しないことには効果が薄くなるおそれがある。
 ②に関して言えば、2026年3月改正時点で、朝8時台、朝10時台はすでに3分45秒間隔となっており、物理的に設定可能な状態は整っていると考えられる。一方で、②の最大の制約条件は、折り返す際の車内清掃にかかる時間であり、その短さ故に「7分間の奇跡」などと称されるが、これをさらに45秒縮める必要があるのだ。実現可能性は総じて人手の問題に集約されるものと思われるが、すでに実現している時間帯もあることから、本稿では実現可能であることを想定して筆を進める。
 ③になってようやく、福島駅の上り線アプローチ線が完成することの意義が見出せるようになる。現状つばさ号は毎時1本が標準的で、2本目を上下どちらかに設定するともう1本が設定できなくなる関係性にある。単線であることを理由に、設定枠をこれ以上増やすのが厳しいのである。東京駅では、つばさ号はつばさ号として、こまち号はこまち号として折り返す必要があるので、上下線の対称性を崩さずに設定する観点から、つばさ号を東京駅毎時0分・30分発、こまち号を同15分・45分発として設定し、現在のダイヤパターンからの変更を極力少なくするように設定した。
 ④は、現状下りのつばさ号(毎時0分発)が、こまち号(毎時20分発)より20分早く発車し、福島駅でこまち号に追い抜かれていることを念頭に置いた記載である。③によりこれを15分に縮めようとすると、途中停車駅の宇都宮、郡山のいずれか一方を通過する必要が出る。郡山駅でこまち号に追い抜かれる選択肢もあるが、つばさ号のスピードダウンになるので、毎時2本に増やすことを前提に、どちらか1本を宇都宮駅、もう1本を郡山駅に停車させることを想定した。
 ⑤は補足に近いが、現状東京近郊と仙台駅との間の需要が大きく、その需要が速達便である、はやぶさ号・こまち号に需要が集中してしまうので、これを極力防ぐために、仙台以北各駅停車の列車が、こまち号のなるべく直前になるよう設定した。

 現時点で以下の点を考察しきれていないが、これらは冗長になるので筆を改め、次回以降にしたいと思う。

 ・北陸新幹線が15分間隔となることを受けた想定ダイヤ
 ・小山駅の停車時間が余ることとその対策
 ・つばさ号をE8系に統一することによる速達性向上をどこに織り込むべきか

2026年1月7日水曜日

のぞみ号の増発・毎時13本運転に向けた事前考察(1)

  過去、のぞみ号の増発・毎時12本運転に向けた事前考察 及び のぞみ号の増発・毎時12本運転に関する事後考察 と題して、何度か記事を書いてきたが、2026年3月改正にて毎時13本に増えるというプレスリリース(2025年12月12日付 2026年3月ダイヤ改正について)が具体化したことから、形を具体化することを試みる。

 では早速、現時点で当方で想定している形で図示したいと思う。

図1:のぞみ13本想定ダイヤ(2026年3月時点)
図1:のぞみ13本想定ダイヤ(2026年3月時点)

 現行ダイヤとの間の変更点を大雑把に書き出すと、「小田原or豊橋に停車するひかり号の停車時間、通過待ちパターンの変更」である。ここまでは、すでに既知の情報である(例えば、枝久保達也氏もはや執念すら感じる…「のぞみ」最大1時間13本、“超過密ダイヤ”が実現できたワケ)ため説明を割愛する。ここからは、賢明な読者の皆様のご質問として代表的なものであろう、「なぜ2020年3月にのぞみ号を毎時12本にした時点で実現できなかったのか?」に可能な範囲で応えるべく、筆を進めていく。

 のぞみ号を毎時12本にした時点で、「東京駅の折り返し能力向上」「こだま号をN700系に統一」という大きな変更点があった。しかし今回の場合、目立った変更点が特に見当たらないのに、なぜ毎時1本分のスペースを確保できたのだろうか?プレスリリースをよく見ると、次の記載がある。具体的には、「1時間あたりの「のぞみ」の最大運転本数を12本から13本に増やします。また、東京~新大阪間2時間30分運転の「のぞみ」の一部列車で所要時分を短縮し、2時間27分運転の「のぞみ」を増やします。」だ。スピードアップと本数増を両立するとなると、一番足が遅い列車において、所要時間を短縮したのでは?という仮説が勝手に浮かび上がるものである。そこで試しに、図1と同じ条件で、現行ダイヤを図示してみたのが図2である。

 

図2:現行ダイヤ(2025年3月改正)の想定形を、図1と同一の条件で描画したもの

 図2の中で、こだま号やひかり号の停車時間が、図1と比べて不自然に余っている箇所が、何か所か見当たるであろう。具体的には、こだま号の新富士駅、浜松駅、三河安城駅及び米原駅だ。つまり、のぞみ13本ダイヤが可能になったのは、こだま号の所要時間を短縮したため、が原因で相違ないはずだ。

 では具体的に、何がどうなったのだろうか?のぞみ号を毎時1本増やすには、こだま号が1時間走る間に3分短縮しなければならないはずだ。原因として当方で想定している事象は以下の3つである。

 ㋐:こだま号の運転時分短縮、言い換えれば加減速に要する時間の削減。のぞみ号と比べた場合、1駅停車あたり(停車時間を除き)従前4分00秒増であったものを、3分30秒増に短縮。

 ㋑:のぞみ号同士の列車間隔の短縮。従前2分30秒であったものを、2分00秒に短縮。

 ㋒:掛川駅における追い込み時隔の短縮。

 のぞみ号を1本増やすには、㋐㋑のいずれか一方で成立する。あるいは、㋐㋑半分ずつというのもあり得る。当方の過去記事にて、2020年3月時点で、㋐㋑両方使いきったのではないか、という記載をしたが、その記載は誤りであった可能性が高いことをここで認めたい。どうも、㋐㋑のうち一方か、㋐㋑半分ずつを、いまだに使っていなかったのではないか?と考えられるのだ。当方で2020年3月改正以降、のぞみ号を2本連続で通過待ちするのを観測した際、大半ののぞみ号同士の間隔が2分30秒以上取られていて、遅れたときだけ2分を下回っていたのを考慮し、㋑のみを理由として毎時13本に増発したことを想定し、現行ダイヤの図を書き直したのが図3である。

 

図3:現行ダイヤの想定形

 差が非常に分かりにくいが、若干スジが寝ていることがお分かりいただけるだろうか?

 ところで、㋒は追い込み時隔が元々1分30秒程度しかないことを考えると、どう頑張って短縮してものぞみ1本分に満たないと考えられるが、あえて要素として挙げている理由は、2026年改正ダイヤにおいて、通常はのぞみ号に2本連続して抜かされるところ、掛川駅だけ1本に統一されているように見えるためだ。若干無理のある仮定ではあるが、掛川駅での短時間での待避を「魅せる」ダイヤをあえて選択したように見えるのである。

 いろいろと無理のある仮定を置いたが、これ以上の考察は、新ダイヤに関する情報がもう少し具体的に出回るのを待ちたい。

図4:図3→図2→図1の順でループ再生したGIFアニメ