前回の記事において、小田急線小田原線の複々線化(向ヶ丘遊園~新百合ヶ丘)について一定の記載を試みたものの、交通政策審議会答申第198号の目標年である2030年が迫る中、一定の動きが無く、実現可能性は極めて不明瞭ではないか、という疑念は否めない。ここでは、実現性や事業性の観点はいったん脇に置いて、いざ工事に着手した際、それがどれくらいの価格を要するか、に焦点を当てた記載とする。前回の記事同様、「急行線のみを地下化する」方針で記載していく。
地下トンネルのうち、今回のケースへの適用が考えられる工法として、「シールドトンネル」と「NATM」の二つが考えられる。今回は工法どうしの比較ではなく、供用開始機に絞った議論をしたいので、前者に特化した記載とする。シールドトンネルの断面は一般的に円形であることが多いが、その内径として必要な寸法はどれくらいだろうか。例えば横浜高速鉄道(みなとみらい線)においては、外径の実績として単線7150mm、複線が10000mmであった。ここから想定すると、単線と複線では、径としては1:1.4、断面積としてはほぼ1:2と言えそうである。そうなると、トンネルの体積が単線:複線=1:2なら、単線2本と複線1本の工事費はさして変わらないのではないか?という仮説を得ることになる。そこで、単線2本と複線1本を比較することを議論の俎上に載せるため、単線2本の場合の断面図を描画してみる。
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| 図1 新百合ヶ丘~向ヶ丘遊園駅 想定縦断面図 |
この断面図は、以下を念頭に置いて記載している。
・単線シールドトンネル(外径約7m)を2本別々に築造する
・トンネル同士は1D(外径=約7m)離す
・向ヶ丘遊園駅付近には、(用地買収しない限り)2本同時にアプローチする場所が無いので、片方はホームのある場所で勾配を下る(駅に停車しない)
単線でトンネルを2本築造するデメリットの一つとして、幅を取ってしまうので周囲の土地に対する地上権設定(平たく言えば、地下を含む土地の特定の高さに構造物を設置する権利の取得)を行う必要があることが挙げられる。このデメリットを可能な限り低減するため、あえてトンネルを縦に二段並べ、土被り40mを超過して以降(平成12年法律第87号(大深度地下の公共的使用に関する特別措置法)の適用範囲として考えられるもの)は1段とすることにより、武蔵野南線をくぐる際の高低差を少しでも低減することを意図している。
なお、この付近の地盤が固く、支持地盤が非常に浅い位置にあるので、支持層の10mしたという条件は満たすと認識して問題ないと思われる。
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| 図2 生田駅付近の土質柱状図 |
ではトンネル1kmの単価はおおよそいかほどだろうか。シールドトンネルの価格で主たるものは材料であるセグメントの単価であり、今回はコンクリートセグメント(二次覆工なし)を想定するが、1百万円/m(単線)、1.5百万円/m(複線)程度は要するものと思われる。また、土砂の運搬・処分費も相応にかかり、1m3あたり5千円ほどと仮定すると、単線で200千円、複線で400千円ほどかかると考えられる。また外径が大きくなると日進量も落ちるので、ここでは単線で約9m、複線で約6mであることを想定して記載する(もっとも、日進量はセグメントの生産スピードにも左右される。現場作業の多くをセグメント工場で分担できることに強みを見出せる工法でもあるのだ。)その場合の現場労務費は、これも単純計算は難しいが単線で30人、複線で45人(2班施工の2半分を想定)とする。トンネル作業員の神奈川県の単価は32千円であるから、1m当たりに換算すると単線で107千円、複線で240千円程度となる。むろん他にもシールドマシン製作費や機械経費等がかかるのだが、これら3つだけの足し算で、単線で1300千円/m、複線で2140千円/m程度となる。
実際の工事費は、上記の直接工事費の他に共通仮設費、現場管理費、一般管理費等を足して出し、直接工事費の1.6~1.7倍くらいになることが多いのだが、今回の試算には直接工事費の一部が足されていないので、多めに見積もって上記の額の2倍とする。こうすると単線で2.6百万円/m、複線で4.3百万円/mとなる。今回のトンネルは約5.5kmにわたるので、単線で130億円、複線で220億円程度となる。
むろんこの額には、新百合ヶ丘駅付近で発進立坑用地を築造する費用を含んでいないので、実際はもうすこしかかるのであるが、前回記事にて紹介した、交通政策審議会答申第198号において想定した事業費(1500億円)と比べるとずいぶん安い金額である。半分くらいというならまだ解るが、複線トンネルで比べても想定の5分の1にしかならない、というのは、いくらなんでも不自然な気がするのである。
ところで、先ほど「単線2本と複線1本の工事費はさして変わらないのではないか?」という仮説を置いたものの、結果としてセグメントの価格差が2倍までは広がらなかったので、複線1本の方が安い結果となる。しかし、あえてそれでも単線2本案を残した理由は、先に単線1本を事業化する選択肢を産むためである。なぜここまでしたのかは、想定ダイヤを書かないと説明がつかないため、次回以降に改めて記載することとしたい。

