2018年1月29日月曜日

札幌駅の配線について考えてみる(8)

  これまで,北海道新幹線札幌駅のホーム建設位置に関する問題について,案の一つである「現駅案」を採用した場合,在来線列車に支障がどの程度出るか考察してきた次第である。前回記事では夕方ラッシュ時を対象に議論したが,今回は朝ラッシュ時(主として7:45~8:45)を中心に議論したいと思う。前回同様,市販の時刻表などを用いて以下のような図を作成し,必要に応じて目視などで補ってみる。不明だらけなのは筆者の取材不足である
図1:現況ダイヤ(7:00~8:30)

図2:現況ダイヤ(8:30~10:00)
 朝ラッシュ時は夕ラッシュ時に比べ,札幌駅に到着する特急列車の数が少なく,一見ホームの数への影響は少ないように思われる。一方,札幌駅に到着する普通列車がことごとく6両編成である上,輸送力調整の必要から札幌駅で3両編成2本に分割される列車が多く,この分割作業の影響で停車時間がどうしても長くなってしまう。特に,8時30分頃と9時20分頃はほぼすべての線路が埋まっており,この状態では北海道新幹線へのホーム転用だけでなく,建設工事そのものすら困難なのでは?調整の余地はないのでは?と受け取られても仕方なかろう。
 朝ラッシュ時の議論を複雑にしている要因として,安易にパターンダイヤ化出来ないことが挙げられる。一定の間隔で優等列車を走らせることが出来るのは千歳線の苫小牧方面のみに限られ,他の区間は(特急列車を除き)ほぼすべて各駅停車のみが走っている。前回記事で夕ラッシュ時を対象にした際に浮かんだ「札幌~手稲の待避設備不足」対策を,朝ラッシュ時にそのまま当てはめてもあまり効果がない。
 しかし,上記の事実を紹介するだけではこのブログの存在価値がなくなってしまう。そこでひとまず,「(ほぼ)各駅停車しか走っていない」特性をなるべく生かす方向で,各方面からやってくる列車の「1時間当たりの本数」というおおざっぱな指標を用いて,現況の列車本数を「図示」することを試みる。
図3:朝時間帯(7:45~8:45)における営業列車本数(太字:普通6両編成,細字:特急もしくは普通3両編成)
 ここで興味深いのは,札幌駅から苗穂方向に出る列車の長さである。江別方面に向かう列車はすべて6両編成なのに対し,千歳線の多くは3両編成である。あくまで想像でしかないが,江別方面へ向かう列車が混雑していて,安易に短編成化できないものと思われる。本稿では,札幌駅で切り離し作業を行う列車の多くは千歳線に向かうものと想定し,それぞれの線路を以下のように割り振ってみる。

図4:各プラットホームへの本数割り当て(想定)
※両渡り線に違う色を割り当てられない表計算ソフトの都合で,一部の渡り線を省略しています。
 ここで千歳線の各停(3両編成)を8番線に割り当てた理由について説明が必要と思われる。現況のダイヤでは,手稲方面から千歳方面に向かう各駅停車のうち,札幌駅で切り離しを行う列車は4番線ないし7番線に割り当てられている。理由は単純で,切り離された列車が手稲(ないし苗穂)に向かう際に都合が良いからである。しかしながら,図4の赤太線部分がボトルネックとなりがちな札幌駅において,これを通らずに済む3~7番線を,長時間の停車を必要とする切り離し作業に割り当てると,不都合が大きいのもまた事実である。
 一方学園都市線では,上下線の本数の差分(5本-3本=2本)が手稲方面に回送している。しかし,配線の都合上8番線~10番線から直接手稲方向に出られないので,手稲方面に回送する列車は,「わざわざ4番線に入れる」「苗穂側の引き上げ線で折り返す」いずれかを強いられており,比較的使い勝手の良い4~7番ホームを長時間占有する一因となっている。
 というわけで本稿では,可能な限り4~7番線を使用せずに済むよう,札沼線から手稲に向かうはずの6両編成を札幌駅で3両+3両に分割し,千歳線の普通列車(3両編成)として充当することを想定する。分割作業を行う場所は,このケースで一番平面交差が少なくて済む8番線とした。このような分割形態を試みる理由はもう一つあり,手稲方面への回送を1本の列車で2編成(6両) まとめて行うことで,札幌→手稲の線路容量を必要以上に喰わないためである。
 具体例を出すと以下のようになる。

図5:札沼線から来た1536Mが分割可能なら,1740M・1742Mに割り振れる。こうすると140Mと1742Mは6両編成のまま回送できる。
8番線に8:29に到着する1536M列車は,札沼線方向に折り返さず,いったん苗穂側の引き上げ線に入った上で手稲方向に回送する。この列車が分割可能なら,1740M,1742Mに割り当てることが可能になり,両列車は分割が不要になるため6両編成のまま手稲に向かえる。分割の回数も1回減っているのは内緒である。なお,143M(のうち,江別方向に回送する列車)に割り当てることも可能だが,143Mが手稲方向に折り返すホームが現状空いていないため,対象から外している。
 1536Mは「普通列車編成両数表」によると6両固定編成になっているが,札沼線の列車は全て,いちいち手稲から石狩当別に回送しているので,札沼線の編成同士の入れ替えは割といくらでも融通が利くはずである。 とはいえ,ここまで話が単純だとすでに実装されているに違いないから,実際の1740M(144M),1742M両列車の回送先は手稲ではない気がしてならない。
 このような,「分割作業を可能な限り8~10番線に割り当て,手稲への回送を6両まとめて行うことで,分割の回数と交差支障の個数を減らす」方針を定め,現況のダイヤに無理矢理当てはめることを試みてみた。


図6:現況ダイヤに無理矢理当てはめた図(7:00~8:30)

図7:現況ダイヤに無理矢理当てはめた図(8:30~10:00)
 
 この図を作成する際は,「列車同士は最低3分離す」ことを心がけた。要は,各駅停車どうしの最小運転間隔を3分,ある列車がホームを出てから次の列車が着くまでを3分,最低限確保することにした。また,現況ダイヤで停車時間が3分に満たない列車を除き,停車時間も可能な限り最低3分,折り返しを伴う場合は(現況ダイヤが7分に満たない場合を除き)最低7分取ることにした。しかし,何か所か停車時間3分の確保に難儀したため,「ある列車がホームを出てから次の列車が着くまでを3分」という条件がもう少し緩和できないものか,と感じた。そういう意味で,札幌駅の場内閉塞を分割することはこの条件の緩和に大きく役立つものと思われる。
 この図を作成する際に難儀したのは以下の点である。しかし換言すれば,札幌駅1・2番線を新幹線に転用するために,どうしても時刻をずらす必要のある列車は,以下に列記したものに限られる,ということになる。
 ○1536Mの札幌到着を8:35(前回挙げた配線改良がある場合は8:32)に繰り下げ(8:30に在線する列車の数を減らすため)
 ○8D,2009Mの札幌到着時刻繰り下げ(9:20に在線する列車の数を減らすため)(8Dが手稲所属車に置き換われば自然に解消する?)

 ここで,1月28日付で北海道新聞に掲載された記事を紹介する。

 
 同記事には,「現駅案の課題は、新幹線の乗り入れで使えるホームが減り、在来線の運行に支障が出ることだった。現在、機構を中心に新たな設備工事を軸に検討を進めており、一時23本とされた乗り入れ困難な本数は「解消できるめどが立ちつつある」(関係者)という。」と記載がある。これまで筆者が分析を試みた限りでは,現駅案でも大きな問題は出ないことから,鉄道・運輸機構でもこの記事と(「ある程度」は付くが)同様の分析が行われていても不思議ではない。
 さてエアポート号を毎時5本に増発することを想定した際,果たして問題なく運転できるのだろうか。 これまでの記事で指摘したように,夕ラッシュ時に関してはエアポート号が毎時4本でも5本でもパターンは作成できる。一方朝ラッシュ時に関して,既出の図6・7を作成した感想を述べるならば,現況ダイヤを可能な限り保持すること自体が最大の制約条件になっている。エアポート号を12分間隔にして白紙に近いダイヤ変更を行うならば,ダイヤ設定はむしろ楽に出来るはずであるし,図4で7番線にエアポート号をもう1本入れたくらいでは,駅の容量が危機的状況になるとは思えない。

 最後に,財界さっぽろ(2018年1月号)から,「中央有力者」の発言のうち以下を引用したい。同記事は,地下案撤回を(全国紙より若干,だが早く)報じたものである。
 「どうして情報を隠して,自分たちでこそこそやっているのか。そういうところが問題だ。(中略)工事のやり方や,ダイヤについて検討・検証をやってもらって,透明性のある議論で決着しないと,どんな形に決まっても,あちこちから,おかしいという話が噴出するのではないか。」
 筆者はこの場で,ダイヤに関する検証・検討を可能な限り具体化することを試みてきた。透明性のある議論をするために,一助となれば幸いである。鉄道愛好者の怠慢が原因で,決定が繰り越したり,決定結果に対する不満が噴出したりしてからでは遅いのである。
 

2018年1月21日日曜日

札幌駅の配線について考えてみる(7)

 これまで「札幌駅新幹線ホーム建設位置問題」について検討するため,現1・2番線ホームを新幹線に転用した場合を想定し,ダイヤパターンを作成可能かどうかを検証することで,課題を抽出してきた。今回は趣旨を変えて,現況のダイヤ(2018年1月現在)において札幌駅で多くの線路が必要となる時間帯を抽出し,その原因を考察したいと思う。
 そこで,まずは市販の時刻表を参考に以下のような図を作成し,記載のない部分については筆者が目測なり推測なりによって補完することにした。


今回筆者が着目した時間帯は「6時~10時」「16時~20時」である。順序から言えば前者から先に述べる方が自然であるが,今回の記事は後者を対象とし,前者に関しては別途記事を起こすことにする。というのも,今まで作成して来た記事で作成してきたダイヤパターンは,後者を念頭に置いて作成したものだからである。
 作成した図の中から,1番線から10番線まで全て埋まっている・埋まりそうな時間帯を抽出すると,以下のようになる。これらの要因について分析してみることにする。

16:00前後
 旭川行きの特急(5番線)・旭川発の特急(2番線)が同時に在線するとともに,室蘭から来た特急(8番線)がホーム上で折り返している。7番線では夕方ラッシュの需要増に備え(おそらく)手稲の車庫から来た普通列車が札沼線に入っていく。
 これに加え,9番線と10番線には,旭川行きの特急(5番線)の発車を待っている普通列車が2本止まっている。これは,16時より前に発車しても,先述の特急に追いつかれてしまうためである。これを回避するため,どちらか一方が札幌駅に到着するのを遅くしようにも,新千歳空港行きの快速(16:02札幌着,6番線)に追いつかれてしまうためこれも不可能である。

18:00前後
 旭川行きの特急(7番線)・旭川発の特急(1番線)が同時に在線するとともに,函館から来た特急(5番線)がホーム上で折り返している。
 これに加え,8番線と10番線には,旭川行きの特急(5番線)の発車を待っている普通列車が2本止まっている。これは,18時より前に発車しても,先述の特急に追いつかれてしまうためである。これを回避するため,どちらか一方が札幌駅に到着するのを遅くしようにも,新千歳空港行きの快速(18:02札幌着,6番線)に追いつかれてしまうためこれも不可能である。

18:25前後
 旭川行きの特急(7番線)・旭川発の特急(4番線)が同時に在線しているとともに,室蘭から来た特急(5番線)は苗穂側の引き上げ線に向かう際,帯広発の特急(6番線)の到着を待ってから発車している。
 これに加え,千歳方面の普通列車(7番線)と江別方面の普通列車(9番線)が同時に在線している。前者は新千歳空港行きの快速(18:20札幌発,6番線)の発車を待つためこれ以上早く発車出来ず,後者は旭川行きの特急(18:30発,8番線)の待避を厚別駅で受けるため他の時刻での発車は出来ない。さらに,両者は手稲方面からの普通・快速列車であり,これ以上到着を遅くすることが出来ない(235Mが3968Mに追いつかれるため)。
 今回はこれだけではなく,江別方面からの普通列車(2番線)と千歳方面からの普通列車(1番線)が同時に在線する。前者はライラック34号・36号の間で岩見沢~札幌を無待避で走り抜ける。これだけ見ると3~4分ほど後ろにずらして問題ないように見えるのだが,千歳方面からの各駅停車が1番線に入線し,平面交差になるため不可能である。後者は新千歳空港発の快速(18:22札幌着,3番線)に追いつかれてしまうためこれ以上遅くできない。

 どれも似たような形の文章になってしまうのだが,上記の3つの時間帯について共通して挙げられるものがいくつかある。その一つが「旭川方面の特急が同時に2線使用している」ことである。これは,パターンダイヤの副作用とでも言えるだろう。筆者が札幌駅の同時在線数を議論する際,カムイ号が上り(毎時25・55分着)下り(毎時0・30分発)ほとんど同時になるパターンダイヤを仮定するのは,あえて(現駅案側が)不利になることを承知の上でのことである。こうした事情から,カムイ号に専用ホームを割り当てることが難しいのもまた事実である。
 16:00と18:00付近で特急列車がホーム上で折り返していることも,札幌駅の混雑の一因となっている。一方で,先で挙げた図で,特急列車が「同時に」3本以上ホームに存在する時間帯が無いことから,千歳線特急用のホームは2線が必要充分な数と考えられる。苗穂側引き上げ線への折り返しのしやすさを考えると4・5番線(新幹線に1・2番線を転用するならば5・6番線)が該当するだろう。
  また,札幌駅に同方向の普通列車が2本同時に止まっている時間帯が多く,18:25頃に関しては特に顕著である。しかし,この原因を突き詰めて考えると,札幌から手稲の間に待避設備が一つも無く,ダイヤ設定の自由度が極めて低いことに行き当たる。一般的には,引き上げ線がもう1本あれば待避設備の代替が効く(快速のスジを寝かせずに済む)が,この時間帯は帰宅ラッシュ時間帯のため,折り返し(減便)するわけにもいかないだろう。

 ところで,冒頭で挙げた図で一番右の列には,過去のダイヤ(2016年8月)に存在した列車を示している。わざわざ欄を作った一つ目の理由は,2017年3月のダイヤ改正で稚内・網走方面の特急列車のうち札幌~旭川を減便したことで,札幌駅の負担が明らかに減っていることを示したかったことである。また,二つ目の理由であるが,2016年当時存在し,札幌駅に26分間停車していた普通列車(1786M,手稲16:00→16:16札幌16:42→17:30千歳)が,札幌駅で二つの列車に分割され,わざわざ引き上げ線(※筆者は目視による確認に失敗したが,おそらく苗穂側)に収容している点を示したかったことである。要は,札幌駅の同時在線数を減らすためのダイヤ調整は,すでに実施されているのである。
※大雪号の運転開始,サロベツ号の運用方法変更に関しては,車両の走行距離節約という意味合いが強いと思われるが,その副次的な効果として,札幌駅の負担軽減につながっているのは間違いないため,ここに挙げることにした。
 
 最後に,前回記事で作成したダイヤパターン図の適用可能性について考察する。
このダイヤ図は,(快速列車を含まない)普通列車の数にして「ほしみ~手稲3本」「手稲~札幌8本」「札幌~千歳5本」「札幌~江別5本」を想定し,作成している。札幌~江別は現況に対して若干不足気味だが,快速運転が無ければもう少し本数を増やせるし,現況の夕ラッシュ時の札幌→江別下り線で快速運転が行われていないことから,このダイヤ図を仮定することに特段の問題はないと思われる。また「千歳線の特急ホームは(苗穂側への回送を含め)2線が必要充分である」 と判明したため,千歳線の特急に5・6番線を割り当てている上図の仮定も大きくは崩さずに済むと考えられる。もっとも,12分間隔で2本連続で苗穂側に回送となると厳しいように思われるが,向かって後ろのスジを寝かせるなり,向かって前のスジを手稲に回送するなり,何かしらの方法は考え得る。
 一方この図は朝ラッシュ時を想定して作成したものではない。札幌駅新幹線ホームが向かって南側に位置する影響で,手稲行き各駅停車や特急への影響が大きい夕刻を念頭に議論を進めるあまり,朝ラッシュ時に関する議論を後回しにしていたのが実態である。朝ラッシュ時に関する議論は機会を改め,次の記事に委ねたい。とはいえ,札幌駅の需要集中という点では,今回対象とした夕方より深刻な状態にあることから,早急に筆を起こすべきなのは間違いない。