2016年6月28日火曜日

ゆう活と時差出勤と増発と

 6月24日のこと。新聞・インターネット各誌(?)に,「ゆう活」の文字が今年も躍った。簡単に言うと夏の夕方を有効活用しようということで,国家公務員の終業時間を4時から5時15分あたりに繰り上げようというものである。午前じゃないよ
 最初に断っておくとこれは「全員を」対象としているらしいが,「毎日を」対象としているわけではない。全員が毎日参加してしまうと,共働きの場合は保育園に子供を預けられなくなってしまう。それはともかくとして,これを機に(夏の時間帯は)時差出勤やフレックスタイム制が定着するきっかけになるのなら,それなりに意味のある取り組みのように感じる。

 のだが,ここで筆者が問題視したいのは,早朝(特に6時台)の列車が少なすぎることである。この時刻表をご覧いただきたい。東海道線上りの新橋駅のものだが,
図1 東海道線(上り)新橋駅時刻表(えきから時刻表より抜粋)
7時より前に到着する列車は3本しかない。8時台に到着する列車の本数(19本)とはえらい差である。仮に時差出勤に本気で取り組む企業が増えたとして,早朝の少ない本数で支えきれるだろうか。上記の「ゆう活」から逆算すると早い人は7時半までに霞ケ関に登庁(?)しないといけないらしいのだが,早朝の電車の本数で間に合うのかどうか気になるところである。時差出勤したらいつもより電車が混んでいた…では,せっかくの取り組み効果も薄れてしまう。
  色々と問題が浮き彫りになりそうな話題なのだが,筆者は制度そのものの問題には立ち入らず,現状で早朝の電車をどの程度増発できるか,に絞って筆を進めたいと思う。本稿では,東海道本線東京口,高崎線を対象にしたいと思う。東海道線は,単純に筆者が使っているからという理由であり,高崎線は,2面3線の駅が沢山あるという理由である。2面3線にこだわる理由は…筆を進める間にいずれ説明する。

 まず,この路線が抱える根本的な問題として,路線の長さが他と比べても長いことを挙げる。東京~国府津が77.7km,東京~籠原が67.7km(いずれも営業キロ)もあるので,同じ電車が1日1回しか朝ラッシュの輸送に携われないという難点がある。例えば上記の時刻表で言うと,新橋に5時49分に着く一番列車は高崎駅まで行った後,赤羽駅まで戻ってくると9時半を過ぎてしまう。要は,1回お客さんを都心に運んでおしまい,という電車が大半なのが現状である。距離が短ければ,同じ電車が何往復もして輸送力を稼げば良いのだが,距離の長い路線ではそれが出来ないため,これ以上本数を増やそうとすると電車を買って増やすしかなく,鉄道事業者にとって増便は実現困難と考えられる。

 距離が長いのが原因なら,途中の駅で折り返せばいいじゃないかとお考えのそこのアナタ。ちょっと面倒な話になるが,具体例に踏み込んでみようと思うので,少しばかりおつきあい願いたい。高崎線の2面3線に着目したのは,途中駅で折り返すためである。
 
図2:東海道線ダイヤ図(赤太線は増,赤点線は減)
図2は東海道線について具体例に落とし込んだものである。10・15などの表示は編成両数であり,KやYは車両の所属を表すが正直あまり関係ない。ここでは東京駅到着6時台に3本増やすことを想定している。車両を買ったりせずに増発しようと言い出している根拠は,品川駅に夜間泊まっている(?)何本かの列車を下り回送列車として充当することで,上り列車を増やそうというものである。途中駅の折り返しと何の関係があるのかいまいち釈然としないであろう。実のところ東海道線には折り返しに適した途中駅が少ない上に,数少ない折り返し可能駅では今現在も折り返し運転を駆使して列車を増やしている。筆者は品川から回送列車を充当することを想定したわけだが,何かこう勿体なさを感じる。1本の列車を増やすために回送電車も1本増えるわけだから効率が悪い。もともと駅が少ない上に駅を通過できるため,電気の無駄かというと案外そうでもないのだがそれはともかく。

図3:高崎線ダイヤ図(赤太線は増,赤点線は減)
 ここで,先ほど述べた理由で着目した高崎線に目を移していただく。先ほど東海道線で増発しようとした3本の列車のうち2本は高崎線に入り,途中駅の桶川・北本で折り返すことを想定している(残りの1本は品川始発にくっつけた)。折り返す列車は籠原始発でなくなるので,その2本分は早朝の増発に充てられる,というからくりにしてある。一部減便になってしまうが,上尾で2割ほど混雑率が増すくらいには混雑区間が起点寄りなので,勘弁してほしい(あくまで個人の言い訳)。「吹上から大宮までにお客の数が倍増するのに,籠原から大宮まで同じ輸送力じゃなくてもいいんじゃね」という実にただの㋔㋟㋗らしい安直な発想である。
 
 個人的には,途中駅での折り返しはそれなりに「鉄道事業者側にも」メリットがあると考えている。というのも,始発列車の有無は通勤環境に大きな差をもたらすためである。あえて極端に言えば,始発列車があれば住む人が増える。住宅価格が電車区を境に変わる,という現象は何か所かで観測されているが,電車区が原因かどうか断定できないし,電車区の前後で大して変わらない路線もあるので,証拠としては貧弱なのであえて挙げないけれど。

 
 ここまで,早朝の電車を増便するために,鉄道事業者単体でなんとか出来ないか色々と検討してみた。全くの不可能ではないにしろ,鉄道事業者側のメリットにたどり着くにはあまりにも遠い道のりであることが,読者の皆様にもお分かりいただけたかと思う。
 結局のところ, 政府主導で時差出勤に取り組むにあたって,満員電車の混雑緩和まで含めて議論しようとすると,鉄道事業者に対する「政府の要請」が最も肝要なんじゃないかという気がしてくる。

追伸:最近気づいたのだが,従来10両編成だった1524E列車(国府津5:48→7:05東京7:07→8:58宇都宮)が,2016年3月改正から15両編成に変更され,混雑が大幅に緩和した。もともと本数の少ない早朝には10両編成が結構いるため,早朝の混雑に拍車をかけている感があるが,1本でも多く15両化されれば,混雑緩和につながるに違いない。

2016年6月4日土曜日

小田急線の増発について考えてみた(1)

 先日,札幌駅の配線についていろいろと考察した際,札沼線と苗穂方面の相互直通について考えようとしたところ,「現行普通列車の車両運用が持つかどうか」考えるには,手元の情報が不足していることに気づいた。交通新聞社発刊の「普通列車編成両数表」から得ることが多い情報なのだが,そもそも北海道内の更新が止まっているのと,新幹線開業時にダイヤ改正をしたのとで,欲しい情報を手に入れることが出来ていない。去年の発売日からして6月中旬ごろまで手に入らないだろうと勝手に判断し,札幌駅に関する考察はしばらく延期することにした。

 一方, 小田急線の混雑緩和に関しては以前から興味があったので,細々と調べながら記事にする機会をうかがっていた。記事の方向性が定まってきたので,粗削りの状態ながらも投稿してみようと思う。

 「下北沢駅の緩急分離工事により,2018年3月にダイヤ改正を行い,増便・速達化が可能になる」ことを前提に,議論を進めていこうと思う。ここでは,上記のダイヤ改正に伴って,そもそもどのように増発するのか,どのような変化がありそうか,勝手に予想しながら筆を進めていく。

 某経済新聞いわく,上記の改正をきっかけに,以下のようなことが可能になるらしい。
① 午前7~8時台の上り列車の運行本数は1時間あたり36本
② 千代田線と相互乗り入れする列車も5本から12本にする
③ 町田駅から新宿駅への所要時間は48分から38分に短縮。本厚木駅は現在の66分から10分程度短縮でき,1時間圏内になる。

 複々線化する際に列車を増やすと書いてこそあるものの,いったいどうやって列車を増やすのか,疑問がわいても不思議ではないと思う。そこで本稿では主に,どうやって列車が増えるのか,その原理について考えてみることにする。筆者は,列車増発の方法を主に4つの要素に分解し,一つ一つ考察してみようと思う。

1.小田急が保有する車両の数を増やす。直通先の千代田線や常磐線(各駅停車)から車両を借りてくる。
2.列車を速く走らせ,同じ本数を走らせるために必要な車両の数を減らす。その分を増発に充てる。
3.千代田線方面への直通運転の本数を増やし,折り返しのために新宿・代々木上原で止まっている車両を減らす。これで浮いた分だけ増発に充てる。
4.下り列車を途中駅(特に成城学園前・向ヶ丘遊園)で折り返し,新たな上り列車として走らせる。


 まずは一番わかりやすい1から。もちろん持っている電車の数を増やせば増便できるというのは正しい。が,その分車庫を広くしなければいけないし,これから人口が減っていく国で場合によっては人間より長生きする車両を新たに買うことが,果たしてよい買い物かどうかを検討する必要があるだろう。一番無難な選択肢は,新車への置き換え間近の車両にもう少し頑張ってもらう,というものであろうが,退役間近の車両があったかと聞かれると筆者は答えられない。
 また,千代田線や常磐線から朝だけ車両を借りてくるという手もなくはないだろうが,そのためには千代田線や常磐線を減便する必要が出てしまう。これらの路線で車両の数を増やす予定があるなら,6000系をいまこの時期に引退させてしまうとは考えにくい。

 次に2の項目についてだが,果たして列車を速く走らせると増便できるのか,という声も上がると思うので,少しは分かりやすい例を出し,山手線を用いて説明しようと思う。
 2013年3月時点で,朝ラッシュ時の山手線を一周するのにかかる時間は,外回り・内回りともにおおよそ62分30秒(3750秒)であった。山手線専用の列車が(当時)52編成あるうち2編成が検査等の都合で走らないとして,残りの50編成を内回り・外回りに均等に割り振ると

3750(秒)÷25(編成)=150(秒/編成)
3600(秒/時間) ÷150(秒/編成)=24(編成/時間)

で運転できる計算である。 最近はE235系なる新車も顔を出し始めたが,25編成で回す体制は現在も変わっていないと思われる。ところが2016年3月現在,1周するのにかかる時間が65分から66分に延びてしまっている。計算を簡便にするためにちょうど65分(3900秒)とすると,

3900(秒)÷25(編成)=156(秒/編成)
3600(秒/時間) ÷156(秒/編成)=23.07...(編成/時間)

となっており,実はわずかながら本数が減っているのである。 副都心線・東北縦貫線の開業もあるので実現はしないであろうが,仮に,2013年当時の輸送力を確保しようとすると

3900(秒)÷150(秒/編成)=26(編成)
 
が必要と分かるので,実は電車をもう1編成買う必要が出る。以前からダイヤ通りの運転が難しかったとは聞くものの,ホームドアを設置し遅れにくくなったのに,車両が入れ替わったわけでのに,一周の所要時間が増えた理由は(お察しください)。可動柵の設置によって「輸送力が落ちるデメリット」と「遅延が減るメリット」が相殺するかどうか,ぜひ志の高い方にご考察いただきたいところであるが,ここでは深入りしない。
  余談だが,2013年2月6日のこと。首都圏を大雪が襲うとの予報が前日から出ていたことにより,前日5日17時の時点で,「列車本数を7割程度に間引く」ことが決定された。山手線もこの影響で7割程度の本数(25編成×0.7≒17編成)で運転された(筆者が目視で数えたもの)が,混雑があまりにも激しかったためか,周回の所要時間が100分(6000秒)まで延びてしまっていた(これも筆者が直接測定したもの)。

6000(秒)÷17(編成)≒353(秒/編成)
3600(秒/時間) ÷353(秒/編成)≒10.2(編成/時間)

で,普段の4割しか輸送力がなかったことになる。乗客向けに7割と広報していた割にはえらい差である。たぶん多くの乗客が,「7割と言ってた割には全然来ないじゃないか」と怒っていたはずであるが,どちらの値も間違いではないのである。
 輸送力の単位は「編成数/時間」であり,列車編成数の単位は「編成数/距離」であるこれらは,明確に別物である。前者は24(編成/時間)であり後者は25÷34.5(編成/山手線の周回距離)であって,前者÷後者を計算することで表定速度(約33km/h)を求めることが出来る。
 わざわざ長々と書いたのは,上記2で述べた「列車を速く走らせ,同じ本数を走らせるために必要な車両の数を減らす」原理を説明するためである。「編成数/距離(保有する車両の数)を据え置き,編成数/時間(輸送力)を上げるには,距離/時間(表定速度)を上げればいい」の一言で済む。

 ここでようやく小田急の話に戻すと,某経済新聞が③で謳うように所要時間が10分縮まるなら,10分当たり4本程度電車が来る路線であるので,車両が4編成程度少なくて済むはずである。下りも同様に少なくできるはずだが,上りほど下北沢付近のスジが寝ていないのであえて考慮していない。上りの分だけでも,4編成分程度ではあるが,増発が可能になると考えることが出来るだろう。4編成が朝方に2往復できれば8本の増発になるが,乗客がどの程度増えるかはピークシフトの出来次第である。
 
 本当は3.や4.についても書こうと思ったのだが,あまりにも2.の説明が冗長になってしまったので次回に回す。しつこいようだが,輸送力の単位は「編成数/時間」であり,列車編成数の単位は「編成数/距離」であるこれらは,明確に別物である。一人でも多くの方の頭の隅に置いていただければ,筆者にとってたいへん幸いなことである。