2018年3月15日木曜日

エアポート号増発とボールパーク新駅を想定した千歳線ダイヤパターンの考察(1)

 情報収集に熱心な読者の皆様であれば,札幌駅の新幹線ホームの位置がおおむね「大東案」で決定していることはよくご存知であろう。筆者はこれを受けて,記事の方向性を多少ではあるが変更し,「札幌駅の構造にかかわらず,千歳線のダイヤ編成上のボトルネックになる箇所」を探っていこうと思う。今回はまず,札幌駅の新幹線ホームに関して協議する際に「先送り」となった,快速エアポート号の増発(毎時5本)について検討したいと思う。また,札幌ドームの移転先が北広島市内に決まり,上野幌~北広島に新駅設置を要請された場合についても検討したいと思う。
 ※本文中で使用した快速エアポート号の運転時分は,130km/h運転が行われていた時期のものを参考に,新札幌・北広島・千歳・南千歳の停車時間を合計1分伸ばすことで,現況の所要時間に合わせたものである。
 ダイヤパターン作成時に一番頭を悩ませるのは,単線区間の処理方法である。本稿ではまず,南千歳~新千歳空港の単線区間を処理できるダイヤパターンを有限個洗い出し,次に,平和~新札幌での「苫小牧方面行貨物列車」と「札幌方面行旅客列車・貨物列車」との間の平面交差を処理できるかどうかを検討する。下の図1は,エアポート号を12分間隔で等間隔に配置した上で,南千歳~新千歳空港の単線区間に関して二通りに場合分けし,それぞれ描画したものである。
図1:快速エアポート号パターン想定図(左:12分案,右:17分案)
札幌駅の配線について考えてみる(6)と書いてあることは大して変わらないのだが, エアポート号が新千歳空港で停車している時間で場合分けし(これをそれぞれ「12分案」「17分案」と名付ける),快速列車に追いつかない・追いつかれない範囲で特急・貨物列車を設定してみる。

 表1:12分案・17分案比較表

12分案 17分案
長所 ○新札幌駅付近の単線区間で貨物列車どうしが交差支障を起こさないため,貨物ダイヤの設定自由度が高い(「上下線それぞれ」毎時5本まで)
→貨物列車の遅延に強い
○新千歳空港駅折り返し時分が可能な限り長く取られている
○空港行きのエアポート号が遅れても,1分30秒以下であれば,空港行きのエアポート号に影響しない
→エアポート号の遅延に強い
○エアポート号と特急列車の乗り換え時間が比較的短い
短所 △千歳~南千歳の平面交差の関係で,空港行きのエアポートが少しでも遅延すると,それがそのままそのまま空港発のエアポートに伝播する △新札幌付近の単線区間で貨物列車どうしが交差支障を起こすため, 貨物列車の設定可能本数が少ない(「上下線合計で」毎時5本まで)
△南千歳~新千歳空港の線路が常時埋まっている状態になるので,千歳線の札幌方面の遅延が,そのまま空港行きのエアポートに伝播する

 一長一短であり,比較できるものではないが,今回の内容では12分案・17分案のいずれを採用しても大して変わり映えしないため,便宜上12分案を用いて図示することにする。なお,12分案を使用した理由は,新千歳空港駅の信号設備を改良する理由が説明しやすいためである。
 というわけで今回も,最小運転間隔を図示するため,ひとまず図2のようなダイヤ図を作成してみることにする。過去に作成したものと異なる点は,列車間隔に余裕を持たせたことと,上野幌~北広島にボールパーク新駅が開業することを想定していることである。新駅への停車により,運転時分は停車時間を除いて90秒,停車時間を含めて120秒延びることを想定している。また,今後断りの無い限り,ボールパーク新駅には待避設備が無いことを想定して議論を進めてゆく。
図2:特急と快速を交互に配置した場合の最小運転間隔(概念図)

 色々と突っ込みどころ満載の図であるが,特徴的な箇所をいくつか抜粋したい。
①サッポロビール庭園で各駅停車を抜かす特急の前後(島松・千歳のいずれかで各駅停車を抜かす)に配置される快速の間隔が12分をわずかに超えている。
②北広島→白石を無待避で走り抜ける際,快速同士の運転間隔は9分30秒を要している。
③各駅停車がサッポロビール庭園で快速に抜かされる際,恵庭駅での運転間隔が,他の駅や特急列車と比べて長い。

 ①を受け入れるならば,これまで「札幌駅の配線について…」の記事で出したダイヤパターンの一部は組めないことになってしまう。とはいえ,影響を受けるのは島松以南であり,札幌駅の配線に関する議論を左右しないため,あえて過去記事の図を差し替えることはしないことにする。
 ②が意味するところは何だろうか。快速と快速の間に特急を1本挟むと12分間隔ぎりぎりであり,かつその場合,特急は新札幌の手前で,快速に追いつかないよう走行することになる。つまり,快速列車が12分間隔で走行し,ボールパーク新駅に各駅停車が停まる場合,特急列車は徐行運転を強いられることになる。上野幌の中線を苫小牧方面に譲る仮定を置く限り,特急を高速走行させるためには,北広島→白石のどこかにもう1か所待避設備が必要となる。
 ところで,北海道の鉄道に関して興味をお持ちの読者の皆様は,忘れ去られた待避設備のことを挙げたくて仕方ないのではなかろうか。そう,西の里信号場である。いつの間にか側線が撤去されてしまっているが,ダイヤ編成上,北広島駅で待避するのとほとんど変わり映えがしないため,不要不急設備とみなされても(当時は)致し方なかったのだろう。ところが,西の里(信)~北広島に新駅を作り,普通列車を停車させると事情が変わってくる。図3のように,西の里信号場の札幌方面の線路が復活した場合を想定すると,ボールパーク新駅の停車時間に多少余裕を持たせつつも,12分間隔でのパターン化が可能となる。冬季に除雪する手間がかかるという難点はあるものの,新駅が営業できる(≒西の里信号場を稼働させる)時期をプロ野球の試合が行われる季節に限定すれば,さほど大きな問題にならない,と筆者は考えている。もっとも,ドーム球場で出来るイベントはなにも野球に限られないわけだが…
 ※上野幌駅に4番線を新設し,必要に応じて上野幌→新札幌の閉塞割を細かくしても同様の効果は得られるし,普通列車からすれば余計な停車回数を喰わずに済むのだが,本記事では,用地の制約が無い西の里信号場案を優先して挙げることにした。工事費より用地費にばかり気を回すのは東京者の感覚かもしれない
図3:西の里信号場を復活させた場合

 ところで,せっかく特急を高速で走らせる体で,西の里信号場を復活させる話を出した割には,恵庭以北でスジが寝てしまっている(上野幌~恵庭で平均100km/h程度)。高速化した意味がイマイチ感じられないダイヤになってしまう原因は,間に駅が2つも挟まっているにも関わらず島松~サッポロビール庭園に待避設備が無いことである。
 ここで,思い出したように図2の③について解説すると,要はサッポロビール庭園を出る普通列車は,恵庭駅の手前でエアポート号に追いつかないよう配慮する必要がある(逆方向も然り),ということである。つまり,サッポロビール庭園で快速を待避する場合,恵庭駅に快速が停車することによって,列車間隔が余分に空いてしまい,結果的にダイヤ設定の自由度が下がっている現状がある。じゃあもともと通過駅だった恵庭駅に快速を止めなければ良いじゃないか,という危なっかしい発想の下で書かれたのが図4である。図4では,特急がその性能をほぼ最大限に発揮できるようなパターンが引かれている。
 
図4:快速エアポート号が恵庭駅を通過した場合
とはいえ,恵庭駅利用者からすれば大変に困った話である。そこで,特急の高速運転と快速エアポート号の恵庭駅停車とを両立する方法が必要となるわけだが,一番有力と思われる方法は,恵庭駅への副本線設置である。既存のホームにあるエレベーターと交錯しないか気になるところだが,それ以外の箇所では用地に比較的余裕があるように見受けられる。図5は,恵庭駅に副本線がある前提で書かれたものである。
図5:恵庭駅に副本線を設置した場合
これで晴れて,ボールパーク新駅への各駅停車停車,エアポート号の毎時5本+恵庭駅停車,特急の高速運転をすべて満たす形が出来上がったことになる。
 
 最後になるが,野球の試合終了に合わせた臨時列車(以下「野球臨」)の設定可能性について考察したいと思う。試合終了から30分ほど経過すれば,北広島駅からエアポート号に乗車する乗客も出て来るであろうが,試合終了直後ともなると,一番近い駅に乗客が殺到するであろうから,専用の臨時列車を用意する必要が出よう。そういう意味でパターンダイヤは便利である…というのはともかく,臨時列車を試合終了間際まで置いておく場所が課題となる。そんな中候補になりそうなのが,「西の里信号場の苫小牧方面副本線」「北広島駅の3番線」「島松駅の2番線」である。これらはいずれも配線の都合上,手稲側からの回送ができ,(特急のスジを寝かせさえすれば)試合が長引いてこれらの線路が塞がっていても,通常営業列車のスジを阻害せずに済む。少ない編成数で多くの乗客を運ぶことを考えるなら,西の里→ボールパーク→北広島(折り返し,乗客は快速で移動?)→ボールパーク→札幌,という経路をたどるのが一番効率的であろうから,待避駅としての機能は全部島松駅に押し付ける代わり,北広島駅2番線から札幌方面に出られるように配線改良するのもアリだろう。また「新千歳空港にさえ乗入れなければ」ホームの長さも待避駅の有効長も全体的に有り余っており,長編成の野球臨設定も不可能ではないように思われる。もっともその場合,ボールパーク駅のホーム長さが不足しては元も子もないように思えるが…下図は,西の里信号場に1編成,北広島駅(2番線から札幌方面に出られるよう改造済)に2編成留置することを想定し,17時ちょうどに試合が終了したと仮定して作成したものである。
図6:17時丁度に試合が終了することを想定して作成した図
  試合終了の前後で比べると,待避回数が上下線で合計3回(西の里信号場×1,北広島×2)で増加し,これが臨時列車の編成数(西の里信号場×1,北広島×2)と一致するように作成した。試合終了と同時に臨時列車を発車させられない理由は,試合終了(17時)と同時に恵庭駅等待避駅で定期列車の各駅停車を抑止させ,臨時列車用の場所を空けるのに時間を要していることである。定期列車を抑止させる際には,エアポート号の止まる駅までに乗客に周知し,急ぐ乗客をエアポート号に適切に誘導する必要がある。こういった事情から,快速停車駅である恵庭駅に副本線が有るとたいへん便利である
 なお,このダイヤ図は引き上げ線を1本も要求しない代わりに,臨時列車が止まっていた場所を緩急接続・追い抜きのために使用するケチなプランである。北広島駅に引き上げ線を設置できれば,もう少し余裕のあるものが作れると考えられる。

 というわけで,ここまで千歳線のダイヤパターンを,「快速毎時5本」「上野幌~北広島の新駅開業」の二つを想定して作成して来た。JR北海道としては,あまりお金をかけずに設備改良を実施し,空港や新球場からの旅客から収入を得られれば上出来であろうから,いかにその設備改良の資金を集めて来るかが課題と考えられる。もっとも,西の里信号場や恵庭駅への待避設備増設に関して,必要性を訴えるには「エアポート号を毎時4本から5本に増やした結果,特急の高速運転が不可能になるため」と理由を付ける必要がある(※特急のスジをエアポートと平行になるくらい寝かせると,なくても組める)し,そもそも高速運転をやっていないじゃないか,と言われると辛いものがあるが…
 このようなパターンを組んだ際の,札幌駅やその先の区間への影響については,別途論じることにしたい。

 なお,図4に札幌方面の列車が図示されていない理由については,皆様への「宿題」とします。 

2018年3月3日土曜日

札幌駅の配線について考えてみる(9)

 さる2018年3月2日,鉄道・運輸機構のホームページに以下の資料が公開され,北海道新幹線札幌駅の位置に関する各案(現駅案,大東案,地下案など)の課題について整理されている。


 筆者がここで着目したいのは,現駅案における札幌駅の改良工事,および発寒中央駅付近での改良工事の内容である。図は,いずれも同資料から抜粋したものである。

図1:発寒中央駅付近
図2:札幌駅付近
 筆者が過去の記事「札幌駅の配線について考えてみる(5)」(に限らず何度も)で指摘したように,札幌~手稲に待避設備が一つも無いだけでなく,札幌駅桑園側の引き上げ線が不足していて,ダイヤ設定の自由度が極めて低いのが現状である。図1で示した発寒中央駅付近の改良内容は,これらを一挙に解決できる可能性を秘めており,札幌駅の新幹線ホームの場所に関係なく,札幌~小樽のダイヤパターンをかなり幅広く検討できることが期待できる。
 一方,図2では札幌駅の配線改良工事案が示されている。札幌駅の配線上ボトルネックになりがちな箇所は,図3で着色した部分であり,図2案はここに手を入れることを狙ったものと思われる。個人的には,東側への渡り線追加は想定外だったが。
図3:現況の札幌駅とボトルネック箇所(点線は線路跡)
 この箇所がボトルネックとなる原因は,手稲方面から8番線から11番線のどの線路に入る場合にも,札沼線の本線を通らなければならないことである。札沼線を10・11番線に固定するにしても,手稲方面から8・9番線に入る列車との交差支障を常に避けなければならず,現況のままで11番線を増設しても,イマイチ使い勝手の良くないものになると思われる。
 図2案の難点として,札沼線から手稲方面に折り返してゆく列車(例えば2018年3月3日現在で1542M→3420M)を入れられるホームが6・7番線のみとなってしまうことが挙げられる。特急列車やエアポート号との干渉を避けながら,上記のような折り返し列車をどのように設定するものか,気になるところである。もっとも,いちいちホーム上で折り返さなくて済む形が最初から出来るなら,それに越したことはないのであるが。
 
図4:改良案を筆者なりに整理するとこんな感じ
同資料にはさらに,札幌駅への第二場内信号新設に関する記載がある。具体的な場所について書かれていないものの,実現すれば列車間隔の短縮に大いに寄与するものと思われる。比較的ホームの長い3~6番線なら,無理矢理縦列停車させることもできなくはないように思えるが…
 筆者はこれまで,札幌駅付近の配線について,ダイヤ編成上ボトルネックとなる部分を予想しながら記事を書いてきた。今回明らかになった鉄道・運輸機構の検討案が実現すると,これらのボトルネックはほぼすべて解消できる。あくまで筆者の私見であるが,「在来線への運行支障を考慮すると,現駅案の方が却って使い勝手が良い」と考える。


 もっとも,「エアポート号を毎時5本に増発する」「北広島市が球場誘致を実現し,新駅設置の要望が出る」と,ダイヤ編成上はもっと別の問題が浮かぶことが考えられる。具体的には①「北広島→白石で,普通列車が優等列車から逃げ切れない」②「島松~サッポロビール庭園で,普通列車が優等列車から逃げ切れない」の二点である。筆者は①②の課題を,札幌駅の配線と切り離して考えることが出来ると考え,①②への対処策とその考察は,機会を改めて筆を起こすことにする。