2021年5月7日金曜日

緊急事態宣言下の列車運転計画について(2)

  本日5月6日(木)も、JR東日本は首都圏の一部の路線について、朝ラッシュ時の減便を行った。しかし、この日の混雑は4月30日のもの(前回記事)よりも激しく、マスコミでも多数取り上げられた模様である。これを受けてか、明日5月7日(金)について、JR東日本は首都圏各線の減便を取りやめる旨を明らかにした、という状況である。本稿では、本日の遅延実績を四直運用資料室及びJR東日本アプリの混雑状況画面を用いて明らかにすることを目指す。

 では早速、本日朝の列車運転実績について、画像形式でご覧いただきたい。


図1: 令和3年5月6日 山手線運転実績(抜粋)

図2: 令和3年5月6日 京浜東北線運転実績(抜粋)

 まずは、偶然筆者が巻き込まれた「7時15分ごろ、有楽町駅付近で発生した非常警報装置の作動」に着目したいと思う。京浜東北線は付近の電車がほとんど間引かれていないが、同時間帯にちょうど有楽町駅にいた605G列車は、前の列車が1本間引かれている上に、他の列車と比べても乗車率が高い(図3参照)。この有楽町駅での列車の抑止は、間引き運転を直接の理由として引き起こされた可能性が非常に高いものと推測する。
図3: 有楽町駅での列車抑止発生直前(7:10頃)の混雑状況

 
図4: 山手線(混雑率付加)・京浜東北線運転状況図(抜粋)

 しかし、上記の05G列車だけに混雑が偏った理由は謎である。確かに直前のスジは間引かれているが、混雑の主たる要因である、上野以北の各駅からの乗客は、すぐ横を走る京浜東北線のスジ(17A)に分散してもおかしくないはずである。上記のサイトから取得した運転状況から、05Gと17Aがどちらが先に到着・出発したかまでは読み取れなかったし、当方で京浜東北線の混雑率まで取得しなかったので確証は持てないが、両者間で乗客を融通出来れば、混雑がここまで極端に偏らなくて済んだ可能性はある。

 図4をご覧いただくと分かる通り、7時台後半になると、間引き運転が直接の理由かどうか不明な遅延が多発している。これでも、大崎駅始発の39Gを、上記の理由で大きく遅れた05Gが品川に着くまであえて発車させなかったり、所定の列車順序を変えない範囲で混雑を偏らせない工夫は散見される。一方、39Gの直前の大崎始発である37Gは、大崎を発車して以降、新宿駅まで走り去ってしまい、39Gとの間隔が大きく空いてしまっている。間隔が不均等になってからどこかしらの駅(今回の場合、新宿)でわざと長時間停車させるまでの間に15分近く要しており、運転整理自体が追い付いていない可能性が示唆される

 図4で示した7時台後半の時点で、すでに混雑の理由が間引き運転に起因するかどうか、判別が困難な状態になっており、マスコミが大混雑を報じる際に使っていた、8時半頃のライブ画像は、混雑が何を理由に引き起こされたかは何とも言えない。もっと前の時間帯から間引きを理由に列車間隔が歪になっていたし、運転整理がうまくいかず、さらに混雑が偏ったのも事実である。そもそも、この程度の混雑は、多少列車が遅れれば、日常的に発生していたようにも見受けられる。前回記事で指摘したように、小規模な遅延に対する運転整理が総じてうまくいっておらず、その一因として、大崎・池袋始発の列車を、遅れた定期列車よりも先に出すことが出来ていない」があることは否定できない筆者としては、遅延の理由は「間引き運転」「運転整理の課題」の両方にあると受け止めているが、マスコミの報道等を見る限りでは、後者を指摘する意見は皆無であり、乗客も概ね「間引き運転が原因である」と受け止めている様子である。
 
 ところで、6日昼の時点で「7日の間引き運転を取りやめる」という報道発表があったが、前日昼に突然列車を増やすのは、乗務員等を確保する都合上、極めて困難であるはずである。筆者の推測だが、7日は間引き運転を取りやめる(通常ダイヤに戻す)ことを、間引きダイヤを最初に実施した4月30日の時点ですでに織り込み済みで、間引く予定だった列車の乗務員は、あらかじめ確保していたのではなかろうか。

 今回、行政側から半ば無理矢理な形で要請された間引き運転であるが、民鉄各社は、もともと利用の少ないスジを間引く、と言う方法で事実上無力化する方向で応じている(※特に、立場が立場であるにもかかわらず、他社との直通列車のある路線で一切間引き運転を行わなかった都営地下鉄には「男気」すら感じる。)。これに対し、あえて間引き運転に応じたJR東日本は、「感染拡大防止のためという理由で、通勤電車を間引くのは誤りである」というコンセンサスを形成するのに成功したのではないだろうか。このために、自社の運転整理が(他の民鉄各社と比べて明らかに)劣っていることすら利用していたとすれば、筆者は脱帽せざるを得ない。

 最後に唐突であるが、10年前に実施された計画停電、及び電力使用制限令に際して、鉄道各社が半ば無理矢理要請される形で間引き運転を実施した際を想起しつつ、以下の文言を添えて筆を置きたいと思う。

 あるべき感染拡大防止の概要は、(1)通勤需要の減、(2)列車間隔の最小限の延長、(3)列車の削減の順で、いきなり列車削減を論じるのは大変大きな誤りである。


曽根悟:長期的節電要請に対する電気鉄道のモデルチェンジの提案,JREA, Vol.54 No.9,pp36253-36260,2011





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