前回の記事では、従来1時間に30本程度が限界とされてきた列車の本数を、適切に通過駅を配置することによって増やせないか考えてみた。その結果として、鉄道事業者が新たに車両を増やすなどすることなく、従来の1時間あたり30本から、36本程度まで増やすことが可能では、と提言した形となる。
今回は、以前からお気に留める方の多いと思われる、混雑の偏在に着目して書こうと思う。緑色の列車Bの停車駅に注目いただきたいのだが、明大前と下北沢の双方を通過している。混雑する井の頭線に乗車された経験をお持ちの方は、明大前と下北沢の両駅で、乗客の数が一気に変動することをご存知であろう。明大前にも下北沢にも止まらない列車に乗ってくれるかどうか、心配する方も疑問に思う方も多いのではないだろうか?
答えを先に書くと、沿線革命017の記事の趣旨とは反する結果が出る、と筆者は推測する。具体的に言えば皆様のご心配通り、明大前も下北沢も通過する列車だけ極端にすいてしまい、ほかの列車がかえって混雑する結果が出るだろう。
と書くと、「こいつは何を根拠に書いているんだ」と疑われるのが当然である。そこでこの記事では、需要量を具体的な数字で「仮定」することによって、お持ちの疑問にお答えすることを試みる。
井の頭線には駅が全部で17個あるため、乗り降り駅の組み合わせは17*16=272通り存在する。自動改札で取れるデータを集めれば、たとえば一時間当たり何人利用しているか、数え上げることができるはずである。しかし、この趣旨の記事を扱う側にとっては残念なことに、こういったデータは大概の場合企業秘密であるから、そもそも外部からこういった分析を行うことができないのが通例である。
一般に公開されているデータとしては、駅の乗り降り人員や、ある区間を通過する人数が存在する。この記事では、「都市交通年報」からこれらのデータを引用し、可能な限り恣意性を排除しながら、需要を推測し、混雑がどの程度集中するか見てみよう。
都市交通年報の中身について紹介したいところだが、図が巨大なので記事の下の方に添付した次第である。記事では、このデータから重要と思うところのみ抜粋して書くので、適宜図を見ていただくか、原典である都市交通年報をご参照いただきたい。なおこの記事では都市交通年報のうち、
なお、以降のデータが収集された年度は、現時点で特定できていないが、断りがなければ2008年度のものと思われるので、この記事でも断りがなければ、平成22年度都市交通年報のデータは2008年度のものとみなすこととした。
都市交通年報の乗車人数データは、定期券とそれ以外で分類されているが、本記事では定期券のデータのみを用いる。次に、全16区間の中で最も利用者の多い神泉→渋谷に着目すると、年間の通過人数は35,526,000人と書かれている。また、都市交通年報を再度引用すると、平成20年度の同区間の混雑率は、最混雑時間帯1時間でみて143%とある。井の頭線の1編成定員を700人、1時間当たり本数を30本として、
35,526,000÷700÷30÷1.43≒1,180
と割り算する。ここで出てくる1180にはどんな意味があるかというと、1年あたりの上下線通過人数を1180で割ると、一番混む上り線1時間当たりの人数に換算できる、ということである。もちろん路線によって違う値が出るはずだし、必ずしもこの通りになるとは限らないが、ある程度の信ぴょう性が期待できるだろう。
このような理屈で、とりあえず1年あたりの通過人数で需要を推定しておいて、あとでそれぞれの値を1180で割ることにしよう。
まず、同書から引用した、年間定期乗車客・降車客・通過客は、下り線を基準としてこの表のようになる。
定期券のデータは下り線のみで、上り線は対象となっていないが、定期券であるため、下り線のデータを乗降逆にすれば上り線で使用できると考えられる。
次に、それぞれの駅で降車した乗客数を、乗車駅の規模に応じて比例配分することを考える。例えば、久我山駅で降車する約102万人は、吉祥寺・井の頭公園・三鷹台で乗車するため、この3駅に対し、乗車客数の合計に応じて比例配分(この例では、約1423万人:約19万人:約174万人の割合になるように)する。 このようにして得られるのが次の表である。
見ての通り、各駅で降車する客数の合計は元データを再現できているが、乗車側の合計が元データを再現できていない。そこで、この表中一番左側の黄色セル部分を、つじつまが合うように無理矢理書き換えると、
このような理屈で、とりあえず1年あたりの通過人数で需要を推定しておいて、あとでそれぞれの値を1180で割ることにしよう。
まず、同書から引用した、年間定期乗車客・降車客・通過客は、下り線を基準としてこの表のようになる。
次に、それぞれの駅で降車した乗客数を、乗車駅の規模に応じて比例配分することを考える。例えば、久我山駅で降車する約102万人は、吉祥寺・井の頭公園・三鷹台で乗車するため、この3駅に対し、乗車客数の合計に応じて比例配分(この例では、約1423万人:約19万人:約174万人の割合になるように)する。 このようにして得られるのが次の表である。
見ての通り、各駅で降車する客数の合計は元データを再現できているが、乗車側の合計が元データを再現できていない。そこで、この表中一番左側の黄色セル部分を、つじつまが合うように無理矢理書き換えると、
こうしてようやく、乗車客数のつじつまが合ったことになる。これを、先述の値で割り算することにより、以下のような表が得られる。割り算そのものは四捨五入していない値で行っているが、最後の結果では小数第一位をすべて切り上げている。そのため、皆様がお手元で計算した場合と、必ずしも細かい値が合わない場合のあることをご承知おき願いたい。
とりあえず、余計な先入観なしに(悪く言えば、現場に目を向けずに)こうして需要を見積もったわけだが、これは、乗降客数のつじつまを合わせた一つの解にすぎない。今回数値計算の根拠に使った値は乗降客数のデータ32個(井の頭線全16区間×上下二方向=32)で、推定しなければならない値17×16÷2=136個に対してあまりに少ない。方程式32本で136元連立方程式が解けるわけはないし、自分で積んだ山の中身だけを知っている状態で卓上すべての牌の中身が分かるわけがない。個人の直観としては、明大前→渋谷が過大に、下北沢→渋谷が過少に見積もられている気がするし、吉祥寺駅で乗車する人数が全体的に過大に見られている気がするし、枚挙のいとまがない。しかし、これ以上筆者の手でデータを弄ってしまっては、恣意性を排除できなくなってしまうので、あえてこのままにする。
この辺の分析は専門の方々にお任せするとして、 この記事では、例の運転計画を使った場合にどの程度混雑が偏るか、計算…と言いたいところだが、ページが冗長になってしまったので、計算本体は次回に回す。とはいえ、計算に使いたいデータは出そろった(無理矢理出した)ので、皆様のお手元でもお試しいただくことは可能である。
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