○「時差Bizとは」の内容に関する考察
この記事を書いている6月11日現在,公式ページの「取組事例イメージ」には以下のような記載がある。
このような取り組み方が考えられます! 【企業の方】 |
このような形でご参加ください! 【個人の方】 |
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「時差出勤」で快適通勤ムーブメントに参加 | ・部門や職種の特性に応じて、複数の勤務パターンを整備して時差Bizに参加。 ・営業部門は取引先との関係上難しいので、管理部門だけ時差出勤に挑戦。 ・サマータイムで全社員同時に始業時間を前倒し。節電にも貢献。 |
・朝は1時間早く出勤して、早く帰宅。家族全員で夕食を取る。 ・時差出勤を活用して自宅で資格取得の勉強をしてから、1時間遅らせて出勤。 ・時差出勤を体験して、自分のライフ・ワーク・バランスについて考えてみる。 |
「フレックスタイム制」で快適通勤ムーブメントに参加 | ・会社最寄り駅の混雑時間帯を避けて出勤してもらえるよう従業員に推奨。 ・ムーブメント期間だけ、コアタイムなしのスーパーフレックスタイム制に挑戦。 ・ムーブメント期間内の特定日だけ、全社員で混雑時間帯の出勤を中止。 |
・盛夏の7月、涼しい早朝に出勤して、汗知らず。 ・マラソン大会に備えて早朝はジムに通ってから、1時間遅らせて出勤。 ・早朝出勤して鉄道事業者のポイントをゲット。 |
「テレワーク」で快適通勤ムーブメントに参加 | ・ムーブメント期間中、従業員の移動時間を減らして、効率性・生産性を高めてもらう。 ・サテライトオフィスを整備。 ・普段より積極的にWeb会議を実施し、出社不要な仕組みを構築。 |
・電話が鳴らない静かな環境で、集中力高めて仕事に取り組む。 ・介護が必要な家族の近くで働くことができるから安心。 ・自宅最寄のサテライトオフィスでメールチェックしてから、オフピーク通勤。 |
筆者が着目しているのは内容そのものではなく,企業側(使用者側)と個人側(労働者側)で取り組み方を分類したことである。筆者は常々,鉄道「利用者」が労働者・使用者のいずれを指すのか疑問に感じていたところではあるが,企業・個人それぞれの取り組み,あるいは得られるメリットについて整理されていることは評価できると考えている。一方で,いざ表に整理してみると, 時差Bizを普及させるためには,使用者側が「やる」と決断するかどうかが肝要であるように見受けられる。
ところで,「時差Bizとは」の項目の一番下に以下のような表が掲載されている。
公式ページ(https://jisa-biz.tokyo/about/)の表をそのまま掲載。 |
こういった形で需要の時間分布を「見える化」することは肝要と思う。この需要に従う形で鉄道事業者は資源(列車)を特定の時間帯に集中させている以上,時差出勤の普及によって,かえって早朝時間帯の混雑が激しくなることもあり得ると考えている。
○「参加企業の取組紹介」の内容に関して
取組紹介の例として挙げられている企業はいずれも大企業であり,時差出勤やフレックスタイム制といった制度に積極的に取り組む旨の方針が示されている。大企業の取組を取り上げることには「宣伝効果がある」「大企業の「一部の部門(あるいは社員)」が実施すれば,費用対(宣伝)効果が大きい」といった利点がある。多くの中小企業にとって「発注者」「取引先」「親会社」たりうる大企業の取組内容を紹介することで,中小企業の使用者側の「やる」という決断を促す,というものであれば,方向性としては意義のあるもののように思える。
一方で, 「一部の部門(あるいは社員)」が実施というのが事実であれば,思ったほど混雑緩和効果は無いのではないか,と穿った見方をすることもできる。早朝出勤にシフトしすぎると早朝の電車が大混雑するので,適切な割合に関してはコメントしづらいところではある。
○「鉄道事業者取組レポート」の内容に関して
筆者としてはここに考察の手間を割きたいところなのだが,「今までの取組の紹介+取り組みを継続する」という内容なので,悪く言えば「真新しいものが無い」というのが実情である。特に小田急にとってこのキャンペーン実施はタイミングが悪く,複々線化の完成と輸送力増強は早くても2018年である。ここでは,すべての社の取組に着目する,と言うよりは,満員電車の解消にとって特徴的な取組を抜粋し,筆者なりの意見を添えて考察してみたいと思う。
・JR東日本の取組内容
「お客さまのご利用状況に応じた列車の増発」がどうしても気になってしまうところなのだが,「上野東京ラインの開業」「東京メガループでの増発」が実態となっている。
東京メガループの増発と言っても実態は昼間の時間帯が主であり,朝の時間帯に関してめぼしいものは少ない。2010年と現在の時刻表同士を見比べると,南武線が「稲城長沼6:29→7:11川崎のスジを立川始発に変更」,横浜線が「東神奈川駅6:10と7:00の列車を桜木町まで直通・延長運転」,京葉線が「武蔵野線からの直通列車を各駅停車に変更」「府中本町5:59→7:54東京の列車を増便」 にとどまっているのが実態である。とはいえ,混雑した時間帯に1本でも列車が増えればそれだけ効果も大きい。
筆者が繰り返し主張しているように,朝6時台の中距離電車を増発する方向で検討が欲しいところである。これに関連してかは不明だが,最近の傾向として早朝の「短い10両編成」が減少傾向にある。例えば東海道線だと,1826E列車(熱海5:18→7:18東京7:19→9:09高崎)の一本しかない。鉄道ファンの間の風の噂では,東海道線に付属編成(5両編成)が1本増えるらしい。事実であるなら朝の上り列車をすべて15両編成に統一でき,宣伝効果が大きい。今後の動向に着目したいところである。
・東武鉄道の取組内容
朝の上り特急列車が大幅に増えている。例えば,「スカイツリーライナー2号(春日部5:36→6:10浅草)・4号(6:08→6:43)の増発」「土休日限定だったりょうもう6号(太田6:36→8:18浅草)の平日運転開始」と,結構思い切った増発に踏み切っている。新しい特急車両のデビューを受けて運行系統の見直しを行った形だが,複々線を生かし,最近流行の着席保証列車をタイミング良く増やすことが出来た点で,小田急とは対照的であると言える。
・京王電鉄の取組内容
以前から筆者が着目している取り組みの一つに,早朝に速達列車の設定を行っていることが挙げられる。
2015年秋現在の優等列車設定状況(一部列車のみ抜粋して掲載) |
京王線は現状,調布以西から二本の路線が合流しているものの調布~笹塚が複線であり,同区間が輸送上のボトルネックとなっている。連続立体交差事業は複線のままを想定していることから,同社にとっては複々線化せずに輸送力を向上できれば非常に大きな成果である。
こうした実情から,真っ先に時差出勤を普及させたい,という考え方はごく自然である。調布→新宿で比べると,特急の運転している時間帯は20分弱で移動できるが,最混雑時間帯では約35分を要している。 これだけ所要時間に格差をつけることで,時差出勤のメリットを目立たせようという意図が感じられる。
現状はというと,特にピーク時間帯の遅延が多発していて,時差出勤のうち「出勤時間の繰り下げ」にイマイチ寄与できていない課題がある。筆者は個人的に,遅延をうまく吸収できるように9時台のダイヤを編成することによって定時運行率を向上し,出勤時間帯の繰り下げに寄与できないか,机上で検討しているところである。
10分間隔で各駅停車×1・急行×1・特急×2を設定。遅延したらその部分のスジが寝て圧縮される仕組み(伝わらない) |
この案を検討している際,千歳烏山駅に待避設備があるかどうかで9時台の速達性が大きく左右されることに気づかされた。同駅に待避設備が無いと,この時間帯に特急を運転してもすぐ詰まってしまい大して意味をなさない。同駅には連続立体交差事業によって2面4線化される計画がある。同事業を大きく二つに分けるならば,環八通りとの交差部でありすでに高架化されている八幡山駅が境界になると思われるが,このうち(千歳烏山駅を含む)西側だけでも完成すれば効果は大きいし,この効果だけに着目するならば通過待ちさえ出来れば良いので,1面2線ないし2面2線でも良い。準特急が千歳烏山に停車するようになったことで,通過待ちだけ出来れば良いという方針が使いづらくなったのは気のせいだろうか…?
・京急電鉄の取組内容
個人的に興味深いと考えているのは,同社アプリ上の取組のうち「ラッシュ時間でも混雑率が低い普通電車へ誘導し、ゆったり通勤を提案【同じラッシュ時間帯で列車をズラすオフピークを提案】」「「1時間早く出発」は厳しくても、「数十分早く出発する普通電車」に乗れば、ゆったり快適な通勤が可能ということを啓蒙」である。
比較的混雑率の低い普通列車へ誘導する案内に特徴がある(画像は公式HPから抜粋) |
同社はプラットホームの長さの都合上,優等列車と各駅停車をそれぞれ設定する必要があり,混雑が激しいからといって全部各駅停車にするという手が使えない。どうしても優等列車に混雑が偏る傾向がある割には, これ以上各駅停車を減便するわけにもいかない以上,比較的すいている各駅停車に乗客を誘導する方法は現実に即していると言える。
しかしながら,同社が直通運転を行う都営地下鉄の定期券が他社と比べて高額であったり,JR線の6か月定期券の値段が1か月定期4.8枚分と,私鉄各社の5.4枚分と比べて安かったり,横浜以北は通勤ルートとして選択されにくい傾向がある。一方で横浜以南はと言うと,優等列車が金沢文庫駅で増結を行うため,同駅以南の乗客にとってはあえて各駅停車を選ぶメリットが薄い。同社ならではの事情もあって,各駅停車への誘導は興味深いと感じるのだが,時差Bizに直接貢献できるかというと何ともコメントしづらく,勿体なさを感じているところである。
もっとも,朝の快特が京急蒲田→品川で最大14分を要していて京浜東北線よりも遅い現状,この区間で少しでも各駅停車に乗って欲しいという意図は理解できるので,実際どのくらい効果があったものか,フィードバックがぜひ欲しいと考えているところである。
・首都圏新都市鉄道の取組内容
開業以来混雑が激化している影響もあって,年々運転本数が増加すると同時に速達性が低下している実情がある。開業当初(例えば,2006年4月時点),ピーク時(北千住7:45~8:45)の運転本数は1時間当たり快速4本,区間快速4本,各駅停車8本の計16本であり,つくば→秋葉原の所要時間は45分であったが,現在は優等列車8本,各駅停車12本,八潮始発2本の計22本であり,つくば→秋葉原の所要時間は52分となっている。
同社の取組として「列車を5編成増備し,ピーク時に1時間当たり3本増発する」があるのだが,八潮始発にしては列車を増備する編成数が多い気がするので,守谷から各駅停車を増発する前提で良いと思われる。
この路線の弱点として「八潮から守谷まで引き上げ線がなく,折り返しによる増発がしづらい」「待避設備が八潮・流山おおたかの森・守谷にしかなく,朝の速達性が確保しにくい」がある。しかし用地取得の都合上,待避駅の増設は困難と思われるので,停車駅の設定を工夫する必要がありそうだ。
以下筆者の妄想。
標準軌に改軌して最高速度を上げ,運用数が余った分を増発に回す方法も考えられなくはないが, いまさら長期間の運休を伴う工事は現実的ではないし,
○記事の結びに代えて
「協議会レポート」の項目の下の方をよく見ると「次回は7月上旬に「第2回 快適通勤プロモーション協議会」が予定されている」と記載がある。ところで2017年7月1日は土曜日であり,都議選は2日(日)である。時差Bizの開始予定日は同11日(火)であることを考えると,第2回の協議会は都議選の直後ということになる。混雑緩和には期待を寄せているだけに,政治の風向きひとつで吹き飛んで欲しくない,と願うところだが…。
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