2017年7月10日月曜日

快適通勤ムーブメント「時差Biz」実施に関する事前考察(終)

図1:時差Bizの公式ポスター
現職の都知事が「満員電車ゼロ」を公約として掲げて以来,筆者は「早朝時間帯の列車本数を増やすべきである」と繰り返し主張してきた。様々な事情から実現困難である一方,その「事情」は「(線路・駅・車庫の容量など)物理的な理由」では無い,と筆者は考えている。今回の記事はこれまでの記事とは趣向を変え,「鉄道事業者が万難を排して早朝時間帯に本当に増発を行った場合,それでも時差出勤が定着しないとすると,その理由は何か?」に焦点を当てたいと思う。

 まず過去に「時差Biz」に似た取り組みが無いか,その失敗原因は何か,という点に着目しよう。調べてみると驚くほど多くの取組があることに気づかされるのだが,今回はひとまず「ズレ勤」「北海道サマータイム」あたりに絞って検討してみようと思う。
 「ズレ勤」に関して筆者がすぐに手に入れられる資料は「平成14年度オフピークキャンペーンについて」くらいである。ここで登場する「快適通勤推進協議会」の名が登場する資料のうち,
規制改革・民間開放推進会議 土地住宅分野に関するヒアリング 国土交通省提出資料平成17年11月11日(金)国土交通省鉄道局業務課 (※リンク先PDF1.3MB)」は,資料の直接の目的には関連しないものの,内容に「時間差運賃により通勤時間帯の需要の分散を図ること」が挙げられていることは興味深い。このうち,通勤手当という形で実質的に運賃を負担している企業(≒使用者)側からの意見として,「既に可能な範囲においてフレックスタイム制や裁量労働制等の措置は実施しており、お客様対応、商慣習、労務管理上等の問題を勘案すると、これ以上始業時間を動かすことにより通勤時間帯を広げることは困難(フレックスタイム制等を導入している企業は約2割)」「通勤手当は実費で支給しており、ピークロードプライシングは企業にとってコスト増となる。」
といったものが得られている。また,企業に対して実施されたアンケートでは,「時間差運賃制実施時の対応行動については、ピーク時運賃を現行の1.3倍にするケースで勤務制度を変更するとした企業は約4%にすぎず、3倍とするケースでも変更するとした企業は約25%にとどまる。」といった結果が得られている。
 「北海道サマータイム」では,「平成18年度サマータイム導入実験の実施結果について」にて,実施されたアンケートの結果が掲載されている。例えば,出勤時刻の繰り上げに関わらず退庁時刻が従来と同じになった理由として「仕事の相手方が、サマータイム対象者でないため帰りの時間が同じであった」などが挙げられている。
 北海道では夏季時間帯の日の出時刻が,東京では想像のつかないほど早く(時期によっては3時台) ,かつ夏至が近づいても(東京ほど)曇天・雨天に当たることが少ないため,サマータイムの導入には適していると言えるし,寄せられた反対意見は時差Biz実施に際して参考になるはずである。現に時差Biz実施に当たって知事自ら(第1回快適通勤プロモーション協議会で)「このムーブメントを成功に導くためには、企業、鉄道利用者の皆さまにも同じ意識を持っていただき、一斉に取り組みを進めていくことが肝心」と述べている点は,過去の失敗を踏まえたものと言えるだろう。
 
 さて,鉄道事業者,(時差通勤の旗振り役となる)役所側の立場について書いたところで,この取組に協力する側である企業側(以下,使用者)と従業員側(以下,労働者)それぞれにとってどのような負担が生じるか考察してみよう。そこで,まず以下の図をご覧いただきたい。平成27年大都市交通センサス首都圏報告書(PDF8.48MB)の98ページ,図Ⅲ-24から抜粋したものであるが,


図2:時刻別移動比率、始業時刻構成比(H27大都市交通センサス首都圏報告書より)


 これを参考に以下の表1を作成する。朝8時から9時にかけて,企業が始業済みである割合と比べて,従業員が出勤済みである割合の方が20%近く高いことが分かる。大雑把に言って5~6人に一人が,出勤時間帯より前に1時間サービス残業をしている計算になる。早出出勤を制度化することは,上記のサービス残業に対して残業代を払う(少なくとも,従業員から請求される)ことと等価であり,使用者が制度化に後ろ向きになるのも当然である。「早出残業」という概念は無いのか,という疑問も当然浮かぶであろうが,2013年頃に伊藤忠商事が朝型勤務を導入した際,早朝に超勤手当を認めた事例がもの珍しく報道されたあたり,最近ようやく権利として認められた概念である,と考えられる。翻って言えば,ほぼ大半の企業において,従業員が早出出勤をしても,残業として認められていなかったのでは,と推測される。

表1:時刻別移動比率(出勤済のみ),始業時刻構成比(積み上げ)
時刻 出勤済み従業員割合 始業済み企業割合
07:00 2% 1%
07:30 7% 2%
08:00 20% 6%
08:30 47% 27%
09:00 75% 75%
09:30 88% 90%
10:00 94% 99%
10:30 96% 100%

 企業の使用者側に言わせれば,「通勤ラッシュの回避は,使用者が指示しなくても労働者側はすでに自主的に実施しており,出勤時刻を繰り上げても(混雑緩和に)大した効果が無いし,かえって残業代支出が増える」ということだろうか。この理屈からすると,企業の使用者側の立場では,「早出残業を認めず,出勤時刻を繰り下げる」 方が,実態として協力しやすいように思われる。
 さて,これまでの議論は「残業代が全額支払われている」という仮定の下で行われてきたが, 残業代を踏み倒している企業や年俸制を採用している企業に関してはこの限りではない。こういった企業の使用者にとって,出勤時刻の繰り上げは特にデメリットにならない。つまり企業の使用者は,残業手当に関する自社の実績に合わせて出勤時刻の繰り上げ・繰り下げを使用者の都合のいいように選択できると考えられる。

 これまで使用者の都合ばかり書いてきたが,企業の規模がある程度大きければ,社員の一定割合を早出・遅出出勤に振り替える,などして従業員の「ダイバーシティ」を尊重する選択肢を取ることも可能である。残業手当の問題も,早出・遅出それぞれの社員の割合をだいたい同じくらいに設定できれば,社にとってそこまで大きな問題にはならないであろう。ここからは,残業代の支払いという使用者側の問題がクリアできる比較的規模の大きい企業を対象に,従業員(≒労働者)が時差出勤に協力できない理由について考察してみたいと思う。

 とは言っても,筆者はここで理由をあえて一つしか挙げない。それは育児に関わる時間制約である。以下,中学生以上の子供は自宅の鍵を閉めて自分で登校でき,小学校の多くは給食が支給されることから家事の負担が比較的少ない,と勝手に仮定し,未就学児の子供を持ち,両親共働きの家庭に絞って議論を進めていく。
 まず,幼稚園には夏休み・冬休みがあり,(義両親との関係性が良好な場合は別として)これらの時期に共働きを維持することが難しいため,議論の的は事実上保育園一つに絞られるだろう。ここで,保育園の開園時刻をご覧いただきたい。東京都世田谷区同北区を例示するが,両区いずれにも,朝7時より前に開園している保育園は無い。時差Bizの実施に伴って出勤時刻を繰り上げようにも,保育園が開園しておらず子供を預けられない,というのはかなり致命的な問題である。前回記事で「早朝時間帯に列車を増やせ」などと以下の図3を作ってまで主張した割には,早朝時間帯の列車ということで朝7時には都心に着いてしまい,保育園の開園時間帯と相性がとても悪いことに気づかされる。
 
図3:前回記事で増発可能性を探った際の図。どの列車も都心に着くのは,保育園が開園していない6時台後半である。
 無駄に大きなダイヤ図を挟んだところで,この問題に対するアプローチの方法は大きく分けて二つあるだろう。一つは「夫婦での分業」,もう一つは「オフィス直結の保育園(以下,託児所)」である。
 夫婦での分業は,簡単に言うと父母の出社時刻をあえてずらし,「出社の遅い側が子供を保育園に預け,早い側が引き出す」というものである。比較的混雑の激しい時間帯を男性が担当すれば,N+1人目を身ごもった女性との分業も比較的スムーズだろう。そういった意味で,社内結婚の方が時差出勤に関する理解を得やすいと思わないでもない
 一方託児所と言う案は,そういった設備を持つ企業に対象が限られるが,効果はかなり大きいだろう。というのも,託児所に通わせる場合,子供の電車賃はかからない(≒通勤手当の範囲に収まる)。また,父親が担当すれば母親が弟妹を身ごもっていても影響は小さい。ただし,子供が車内で騒ぎ出す可能性や,ベビーカーが場所を取ることを考えると,比較的年齢の高い子供が現実的,と考えられる。
 小学生に満たない子供が朝の通勤電車で一方の親と一緒に通勤(?)する姿を観測することがあるが,そのODはかなり高確率で蒲田・大森・大井町→東京である。不思議なことに東海道線ではほとんど見かけない(ディズニーランドに遊びに行くと思しき親子の方がはるかに多い)し,京浜東北線の新橋で下車する乗客の中にもまず見かけない。あまりにも朝が早すぎる・移動が長すぎると子供がついて来られない,という事情なのか,新橋の企業と東京の企業の間で取り組みに温度差があるのか,偶々なのか,真相は果たして…?

 長ったらしく書いたが,鉄道事業者が仮に早朝に増便したと仮定して,それでも時差出勤に協力できない事情に関して推測を試みた。使用者側の都合に「残業代支出」があり,それがクリアできる比較的規模の大きい企業であっても,労働者側の都合に「保育園の開園時間」があるのでは,ただこれを書きたかっただけである。

 内容の長さの割にあまり実りが無かった気がするので,この事前考察はこれで終わりとし,今後の時差Bizの動向を見守ろうと思う。





 

2017年7月8日土曜日

快適通勤ムーブメント「時差Biz」実施に関する事前考察(4)

 2017年7月2日の都議選で,現知事率いる都民ファーストの会が議席の数を大幅に増やしたことは記憶に新しいが,知事公約の一つ「満員電車ゼロ」を具現化すべく取り組まれてきた「快適通勤ムーブメント「時差Biz」」の実施期間が7月11日と迫ってきている。公式ページの更新や駅へのポスター・広告等掲示,快適通勤プロモーション協議会(第2回,7月6日)の実施など,機運が高まっていることが伺える。
 さて2017年7月7日のこと,ポイント付与以外に明確な立場表明を行ってこなかった(とされる)JR東日本が,同年10月14日に実施するダイヤ改正の内容を明らかにした。詳細は「2017年10月ダイヤ改正について(2017年7月7日)(20170713.pdf)」に譲るが,主な内容として「常磐線の品川駅直通列車(特急・普通列車いずれも)増加」「朝通勤時間帯10両編成の15両編成化」「黒磯駅信号・電力設備改良工事に伴う新白河駅折り返し運転の開始」が挙げられる。在京鉄道ファンの話題は新白河駅での折り返し運転や車両運用に持って行かれてしまったものの,朝通勤時間帯10両編成の15両化による効果はきわめて大きい。これにより,東海道線の上り列車は東京着9:50の列車まですべて15両編成に統一され,混雑の緩和が期待できる。PDFのタイトルからして,公表を時差Bizに間に合うよう調整したように見受けられるが,結局増発は時差Bizに間に合わないので,あまり気にしてはいけない。

 一方,筆者の過去記事「ゆう活と時差出勤と増発と」にも記載したが,東海道線新橋駅に到着する上り列車が,7時以前で3本,7時から7時半の間も3本と極めて少なく,現時点でも混雑が激しい。7月6日の協議会によると,時差Bizの協賛企業の数はおよそ230社とされ,どの程度の乗客がピークを避けて乗車するかが未知数なのだが,この本数で支えきれるかどうか不安に感じるところである。
 鉄道事業者が時差Biz期間中(およびそれ以後)に実施する取り組みが一通り出そろったところで,鉄道事業者にとっての課題である「早朝時間帯の増発」について,東海道線・高崎線・宇都宮線(以下,上野東京ライン)を題材として考察し,風呂敷を広げすぎてまとまりの無くなってしまった「事前考察」から,一つの方向性を示すことを目指してみたいと思う。

 筆者が上野東京ラインを題材として選んだ理由は多数あり,各々の該当箇所にそれとなく示すつもりであるが,その一つが「(ほぼ)すべての列車に「グリーン車」が連結されていること」である。上野東京ラインの列車1編成あたり,グリーン車(1両当たり90席)が2両連結されており,利用料金は,平日ラッシュ時の最も安い場合(50km以下)で750円である(グリーン定期券は6か月券が無いため割高であり,ここでは考慮しない)。筆者が目視で観測する限り,朝ラッシュ時は誰かしら座れないグリーン車だが,仮にグリーン車の90%の席が埋まったとすると,列車1本あたり90×2×0.9×750で約120,000円の売り上げとなる。列車の運転士・車掌・グリーンアテンダント(2名)で山分けしても,一日分の仕事に匹敵するように見受けられる。増便することによって(グリーン券その他の)収入が得られる,と言うのは他の路線にはあまり見られない特徴であり,増便するインセンティブとして働くと考えられる。
 一方,この路線で増便が困難な理由は,距離が非常に長いことである。東京~国府津が77.7km,東京~籠原が67.7km(いずれも営業キロ)もあるので,同じ電車が1日1回しか朝ラッシュの輸送に携われない。例えば,新橋に5時49分に着く一番列車は高崎駅まで行った後,赤羽駅まで戻ってくると9時半を過ぎてしまう。要は,1回お客さんを都心に運んでおしまい,という電車が大半なのが現状である。距離が短ければ,同じ電車が何往復もして輸送力を稼げば良いのだが,距離の長い路線ではそれが出来ないため,これ以上本数を増やそうとすると電車を買って増やすしかなく,増便は実現困難と考えられる。(↑主張の内容は変わらないため,過去記事をほぼそのまま)
 …と言いたいところなのだが, それで手をこまねいていてはこのブログの存在価値がなくなってしまうので,もう少し何とかならないか,検討してみようと思う。以降のダイヤ図では,赤い太線で表されているのが「増便」,赤く太い一点鎖線で表されているのが「減便」である。

図1:東海道線早朝時間帯増発検討図

増発を検討するにあたってまず着目するのは品川駅を7時15分頃出発し,藤沢駅まで回送される3953M列車である。この列車を東京駅始発(7:08発)に変更することで,この図で言う1806E列車,国府津5:44→6:59東京の列車を生み出している。これと同時に,品川から国府津に向かって回送列車(この図で言う3945M列車)を走らせることで,車両数の辻褄を合わせている。
 次に宇都宮線に目を移すと,


図2:宇都宮線早朝時間帯増発検討図
着目するのは上野駅を6時50分頃出発し,古河駅まで回送される2525M列車である。これにくっつける形で1501E列車,小金井5:08→6:30上野の列車を生み出している。これと同時に,上野から小金井に向かって回送列車(この図で言う2501M列車)を走らせることで,車両数の辻褄を合わせている。
 ところで,高崎線はと言うと下の図3のように検討を行ったが,これまでの「下り列車にくっつける形で行う増発(図中の1801E+2501M)」のだけでなく,「上り列車が途中駅で折り返す形での増発(図中の1803E+1806E-832M)」も併せて検討した。

図3:高崎線早朝時間帯増発検討図
 「下り列車にくっつける形で行う増発(図中の1801E)」は,「必ず15両編成が用意できるとは限らない」「都心側から運用を開始する下り列車のうち最終のもの(この例では827M)よりも早く都心に着く必要がある」という難点がある。先述の時刻以降に増発しようとすると,早朝に1本増発するために,ラッシュピーク時の上り列車を1本減便する必要が生じてしまう。 そこで,次の手段として考えられるのが,籠原より手前の駅での折り返しである。この図では上尾駅での折り返し運転を想定し,籠原始発だった列車の籠原~上尾を1本減便している。この方法で増加した列車は1803E(籠原→上野)と1806E(上野→上尾)である一方,減少した列車は832M(のうち,籠原→上尾)である。1806E列車のグリーン券の売り上げはこの際無視するとして,820M列車のグリーン車が上尾→上野駅までに売り切れていれば,1803E列車のグリーン券の売り上げを「売り上げの純増」とみなすことが出来るだろう。832Mは上野着8:38であり比較的遅い時間帯のため,席が本当に全部埋まるかどうかは何とも言えないところだが,好意的に解釈すれば「時差Bizは出勤時間帯の繰り下げも含む」のだから,問題なく座席は埋まるものと考えている。
 これらの観点から,下り回送列車を増やす必要のある前者に比べ,後者(途中駅での折り返し)による増発の方が,費用対効果で見るとすぐれているように思われる。郊外の車庫を拡張できるならば話は別なのだが…

 ところで,東海道線,宇都宮線,高崎線と,いちいち図を3つも使った挙句,バラバラに考察している,というのはいかにも効率が悪いように見える。上野東京ラインらしく一つの案にまとめてみたらどうだ,ということで一つにまとめることを試みたところ,以下図4のようになった。最初からくっつけるつもりだったのは内緒である

図4:上野東京ライン早朝時間帯増発検討図

宇都宮線方面では10両編成のやりくりに失敗したため,高崎線上尾駅と同様の方法を用い,蓮田駅での折り返し運転を想定している。図4の通り,朝7時より前の段階で東京駅もしくは上野駅に到着する列車は,高崎線で2本,宇都宮線で1本,東海道線で2本増加している。
 …と言いたいところなのだが,図中で赤く示した線のうち何本かが太くなっていないことにお気づきかもしれない。というのも,801M列車が朝6時より前(正確には,現況の一番列車より前)に東京→上野を通過する必要があり,増発が困難なためである。回送する列車が東京・上野間の高架橋を午前6時以降に通過するよう設定すると,籠原到着が7時半頃となるものの,その頃には籠原始発の列車は出尽くしているため,同一運用数で回すことが出来ない。これを回避するには,細い線(1801Eのうち籠原→品川,801M)の増発をあきらめるか,801Mを削り東海道線-高崎線をもう一本(1802E,国府津5:22→6:42上野6:45→7:20上尾,上野以北回送)増発するとともに1837Eの籠原→上尾を減便するか,いずれかだろう。
 こうして見てみると,細かい調整が必要なく,車庫の無い駅で折り返す必然性も低いことから,上野東京ラインへの直通をせず,東海道線・宇都宮線・高崎線のそれぞれが単独で増発を試みる方が,端的に言って楽なのではという気がしないでもない。

 ここまで色々と検討してきたが,「朝の短い10両編成は何とかならないのか」「湘南新宿ラインは増発できないのか」については,以下の図5をご覧いただきたい。

図5:「みじかい10両編成」を赤色・太線にて強調

 この図を使って回答すると,それぞれ「みじかい10両編成は精一杯ラッシュのピークを外してあり,これ以上増結するためには付属編成を買って増やすしかないため」「現況の一番列車より遅い時間に入れようとすると,選択肢が著しく限られるため」という回答になるだろう。とはいえ,湘南新宿ライン側の折り返し可能駅の一つである大船駅は,東海道線側の折り返し可能駅(例えば,平塚駅)に比べて都心に近いため,検討の余地はありそうだ。今後の課題としたいと思うところである。


今回は「上野東京ライン」という具体例に絞って記述してみたが,早朝時間帯に増発しようとすると,以下のような課題のあることが明らかになったように思う。

○グリーン車を連結していることにより,早朝時間帯に増便するインセンティブが働くはず。
○増便しようとする時間帯が便利な時間帯であればあるほど,関係機関との調整が複雑化する。このため,各路線が単独で増発した方が実現しやすいケースもあり得る。
○距離が長い路線で輸送力を稼ぐには,「早朝に下り回送列車を出す」「途中駅での折り返す」が有効である。後者には「グリーン券の売り上げ増を狙うことが可能」「増発する列車として15両編成を用意しやすい」などのメリットがある。

 次回は,労働者・使用者側がそれぞれどのような形で時差Bizに協力できるか?その課題は?という点に着目してみようと考えている。筆者の気力が続いていれば。


 
結びに代えて:現況ダイヤを調査する際,以下のWebサイトの情報を参考にしました。この場を借りて,厚く御礼申し上げます。

宇都宮線・高崎線(宮ヤマ車)
車両運用データ - Tokyo North-South Railway

東海道線(横コツ車)
東海道線運用調べTai!