さて2017年7月7日のこと,ポイント付与以外に明確な立場表明を行ってこなかった(とされる)JR東日本が,同年10月14日に実施するダイヤ改正の内容を明らかにした。詳細は「2017年10月ダイヤ改正について(2017年7月7日)(20170713.pdf)」に譲るが,主な内容として「常磐線の品川駅直通列車(特急・普通列車いずれも)増加」「朝通勤時間帯10両編成の15両編成化」「黒磯駅信号・電力設備改良工事に伴う新白河駅折り返し運転の開始」が挙げられる。在京鉄道ファンの話題は新白河駅での折り返し運転や車両運用に持って行かれてしまったものの,朝通勤時間帯10両編成の15両化による効果はきわめて大きい。これにより,東海道線の上り列車は東京着9:50の列車まですべて15両編成に統一され,混雑の緩和が期待できる。
一方,筆者の過去記事「ゆう活と時差出勤と増発と」にも記載したが,東海道線新橋駅に到着する上り列車が,7時以前で3本,7時から7時半の間も3本と極めて少なく,現時点でも混雑が激しい。7月6日の協議会によると,時差Bizの協賛企業の数はおよそ230社とされ,どの程度の乗客がピークを避けて乗車するかが未知数なのだが,この本数で支えきれるかどうか不安に感じるところである。
鉄道事業者が時差Biz期間中(およびそれ以後)に実施する取り組みが一通り出そろったところで,鉄道事業者にとっての課題である「早朝時間帯の増発」について,東海道線・高崎線・宇都宮線(以下,上野東京ライン)を題材として考察し,風呂敷を広げすぎてまとまりの無くなってしまった「事前考察」から,一つの方向性を示すことを目指してみたいと思う。
筆者が上野東京ラインを題材として選んだ理由は多数あり,各々の該当箇所にそれとなく示すつもりであるが,その一つが「(ほぼ)すべての列車に「グリーン車」が連結されていること」である。上野東京ラインの列車1編成あたり,グリーン車(1両当たり90席)が2両連結されており,利用料金は,平日ラッシュ時の最も安い場合(50km以下)で750円である(グリーン定期券は6か月券が無いため割高であり,ここでは考慮しない)。筆者が目視で観測する限り,朝ラッシュ時は誰かしら座れないグリーン車だが,仮にグリーン車の90%の席が埋まったとすると,列車1本あたり90×2×0.9×750で約120,000円の売り上げとなる。列車の運転士・車掌・グリーンアテンダント(2名)で山分けしても,一日分の仕事に匹敵するように見受けられる。増便することによって(グリーン券その他の)収入が得られる,と言うのは他の路線にはあまり見られない特徴であり,増便するインセンティブとして働くと考えられる。
一方,この路線で増便が困難な理由は,距離が非常に長いことである。東京~国府津が77.7km,東京~籠原が67.7km(いずれも営業キロ)もあるので,同じ電車が1日1回しか朝ラッシュの輸送に携われない。例えば,新橋に5時49分に着く一番列車は高崎駅まで行った後,赤羽駅まで戻ってくると9時半を過ぎてしまう。要は,1回お客さんを都心に運んでおしまい,という電車が大半なのが現状である。距離が短ければ,同じ電車が何往復もして輸送力を稼げば良いのだが,距離の長い路線ではそれが出来ないため,これ以上本数を増やそうとすると電車を買って増やすしかなく,増便は実現困難と考えられる。(↑主張の内容は変わらないため,過去記事をほぼそのまま)
…と言いたいところなのだが, それで手をこまねいていてはこのブログの存在価値がなくなってしまうので,もう少し何とかならないか,検討してみようと思う。以降のダイヤ図では,赤い太線で表されているのが「増便」,赤く太い一点鎖線で表されているのが「減便」である。
図1:東海道線早朝時間帯増発検討図 |
増発を検討するにあたってまず着目するのは品川駅を7時15分頃出発し,藤沢駅まで回送される3953M列車である。この列車を東京駅始発(7:08発)に変更することで,この図で言う1806E列車,国府津5:44→6:59東京の列車を生み出している。これと同時に,品川から国府津に向かって回送列車(この図で言う3945M列車)を走らせることで,車両数の辻褄を合わせている。
次に宇都宮線に目を移すと,
図2:宇都宮線早朝時間帯増発検討図 |
ところで,高崎線はと言うと下の図3のように検討を行ったが,これまでの「下り列車にくっつける形で行う増発(図中の1801E+2501M)」のだけでなく,「上り列車が途中駅で折り返す形での増発(図中の1803E+1806E-832M)」も併せて検討した。
図3:高崎線早朝時間帯増発検討図 |
これらの観点から,下り回送列車を増やす必要のある前者に比べ,後者(途中駅での折り返し)による増発の方が,費用対効果で見るとすぐれているように思われる。郊外の車庫を拡張できるならば話は別なのだが…
ところで,東海道線,宇都宮線,高崎線と,いちいち図を3つも使った挙句,バラバラに考察している,というのはいかにも効率が悪いように見える。上野東京ラインらしく一つの案にまとめてみたらどうだ,ということで一つにまとめることを試みたところ,以下図4のようになった。
図4:上野東京ライン早朝時間帯増発検討図 |
…と言いたいところなのだが,図中で赤く示した線のうち何本かが太くなっていないことにお気づきかもしれない。というのも,801M列車が朝6時より前(正確には,現況の一番列車より前)に東京→上野を通過する必要があり,増発が困難なためである。回送する列車が東京・上野間の高架橋を午前6時以降に通過するよう設定すると,籠原到着が7時半頃となるものの,その頃には籠原始発の列車は出尽くしているため,同一運用数で回すことが出来ない。これを回避するには,細い線(1801Eのうち籠原→品川,801M)の増発をあきらめるか,801Mを削り東海道線-高崎線をもう一本(1802E,国府津5:22→6:42上野6:45→7:20上尾,上野以北回送)増発するとともに1837Eの籠原→上尾を減便するか,いずれかだろう。
こうして見てみると,細かい調整が必要なく,車庫の無い駅で折り返す必然性も低いことから,上野東京ラインへの直通をせず,東海道線・宇都宮線・高崎線のそれぞれが単独で増発を試みる方が,端的に言って楽なのではという気がしないでもない。
ここまで色々と検討してきたが,「朝の短い10両編成は何とかならないのか」「湘南新宿ラインは増発できないのか」については,以下の図5をご覧いただきたい。
図5:「みじかい10両編成」を赤色・太線にて強調 |
この図を使って回答すると,それぞれ「みじかい10両編成は精一杯ラッシュのピークを外してあり,これ以上増結するためには付属編成を買って増やすしかないため」「現況の一番列車より遅い時間に入れようとすると,選択肢が著しく限られるため」という回答になるだろう。とはいえ,湘南新宿ライン側の折り返し可能駅の一つである大船駅は,東海道線側の折り返し可能駅(例えば,平塚駅)に比べて都心に近いため,検討の余地はありそうだ。今後の課題としたいと思うところである。
今回は「上野東京ライン」という具体例に絞って記述してみたが,早朝時間帯に増発しようとすると,以下のような課題のあることが明らかになったように思う。
○グリーン車を連結していることにより,早朝時間帯に増便するインセンティブが働くはず。
○増便しようとする時間帯が便利な時間帯であればあるほど,関係機関との調整が複雑化する。このため,各路線が単独で増発した方が実現しやすいケースもあり得る。
○距離が長い路線で輸送力を稼ぐには,「早朝に下り回送列車を出す」「途中駅での折り返す」が有効である。後者には「グリーン券の売り上げ増を狙うことが可能」「増発する列車として15両編成を用意しやすい」などのメリットがある。
次回は,労働者・使用者側がそれぞれどのような形で時差Bizに協力できるか?その課題は?という点に着目してみようと考えている。
結びに代えて:現況ダイヤを調査する際,以下のWebサイトの情報を参考にしました。この場を借りて,厚く御礼申し上げます。
宇都宮線・高崎線(宮ヤマ車)
車両運用データ - Tokyo North-South Railway
東海道線(横コツ車)
東海道線運用調べTai!
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