2018年11月13日火曜日

エアポート号増発とボールパーク新駅を想定した千歳線ダイヤパターンの考察(2)

 前回の記事では、千歳線のダイヤパターンについて、快速エアポート号の増発(現在毎時4本→5本に増発予定)と上野幌~北広島の新駅開業とを想定しながら作成してみた。今回は、貨物列車の設定を念頭にこのパターンをより具体的な形に落とし込むことを試みる。現段階では、「エアポート号の増発が2020年度予定、北広島ボールパークの開業が2023年予定」と、両者の時期がある程度具体化していると同時に、時期としてはエアポート号の増発が先になる可能性がかなり高いことから、まずはエアポート号の増便を前提にダイヤパターンを作成し、その上でボールパーク新駅の設置に伴う課題を洗い出すことを試みる。

  筆者が千歳線のダイヤパターンを書くとき真っ先に決めるのが、快速エアポート号同士がすれ違う位置である。ここでは、議論を単純にするために毎時5本のエアポート号が等間隔(12分に1本)走ることを想定した。この時考え得るパターンは、大雑把に言って「千歳~南千歳ですれ違う」「南千歳駅構内ですれ違う」の2種類に分類できる。前者を左側、後者を右側に配置するとともに、貨物列車が「エアポート号に追いつかない、かつ追いつかれない」ように配置したのが、以下図1である。
図1:エアポート号同士がすれ違う位置で二通りに場合分けしたダイヤパターン。議論を単純にするため、エアポート号の空港駅発車時刻は、いずれのパターンでも12N分ちょうどとした。
 この時、貨物列車の時刻は一意に定まらないため、設定しうる時刻を帯状に表すことにした(※貨物列車を帯状に描画する際は、15秒ずつずらしてコピペしている。)。ここで、貨物列車同士がすれ違う位置について、左右それぞれのパターンで比較したい。単線区間である札幌貨物ターミナル~新札幌(駅北方の平面交差)で貨物列車がすれ違うのを防ごうとすると、右側のパターンよりも、左側のパターンの方が、貨物列車設定の自由度が高いことが分かる。貨物列車同士が単線区間ですれ違わないようにしようとすると、右側のパターンでは、貨物列車の時刻がどちら方面もほぼ1通りに決まってしまうのに対し、左側のパターンでは、少なくとも一方向の貨物列車の時刻は(帯の範囲に収まるなら)比較的自由に決められる。
 というわけで本稿では、エアポート号が千歳~南千歳で行き違うパターン(図1左側)を前提に議論を進めようと思う。エアポート号の新千歳空港駅停車時分は12分と、微小な遅延を調整するための時間がほとんど取れないのが課題であるが、「貨物列車の設定自由度を高める方が、結果的に大規模な遅延を防げる」と考え、本稿ではこのパターンを前提に考えることにする。
 さて次に、図1左側のパターン(新千歳空港駅の停車時間12分+千歳~南千歳にてエアポート号が行き違い) に対し、特急列車の設定を試みる。本稿では、特急列車のスジが必要以上に寝てしまうことが無いよう、「新札幌駅の時点で、札幌行きはエアポート号の直後、札幌発はエアポート号の直前」になるように配置しようと思う。すると図2のように、
図2:北広島以北のみ、特急を設定した図。
札幌行きの特急と札幌(貨)発の貨物列車が交差支障を起こしてしまう。これを避けるための一つの方法として、特急列車を新札幌駅に止めたままにする、というものが考えられるが、あまり長く止めていると、北広島駅で抜かしたはずの普通列車に追いつかれてしまうため、限度はある。限度いっぱいまで止めた場合を想定し、図2では特急列車の一部を帯状に描画している。
 ところで、図2右側の新札幌駅付近(図中オレンジ色の丸印部)で、札幌行き普通列車と札幌(貨)発の貨物列車が交差支障を起こしているが、先ほどの特急列車の場合と異なり、どう頑張っても交差支障を回避することが出来ない。このためやむを得ず、図3のように、札幌行き貨物列車をなるべく図の左側に寄せることにする(≒千歳駅で貨物列車がエアポート号に追いつかない条件下で、可能な限り早くする)。
図3:図2の平面交差を避ける形で修正。一部のエアポート号のスジが寝てしまう難点はある(後述)
  図3は、図2の橙色丸印部で発生した平面交差を避けるため、貨物列車を可能な限り早い側(図の左側)に寄せている。この際、図の緑色丸印部分のエアポート号は、白石駅の手前でどうしても普通列車に追いついてしまうため、スジを寝かせることにした。図3のパターンは、「新札幌駅時点で、札幌行き貨物列車の直後に普通列車が居る場合に限り、その後ろを走るエアポート号のスジが1分程度寝てしまう」という難点を抱えつつも

①快速エアポート号が毎時5本、等間隔に走る
②特急列車、貨物列車のうちいずれか片方を、エアポート号とエアポート号の間に設定できる(エアポート号を抜かさず、エアポート号に抜かされない)
③札幌(貨)発の貨物列車は、どの札幌行き列車とも交差支障を起こさない(厳密には「交差支障は起きうるが、すべてのケースに対し、回避する方法が用意できる」が正しい)

のすべてを満たす形になっている、と考える。
 今回掲載した図で、札幌行きの普通列車に関しては、上野幌~北広島に新駅が無い場合とある場合とを重ねて描画している。新駅が無い場合、北広島で特急列車や貨物列車に抜かれた普通列車は、白石駅まで後続のエアポート号から逃げるのに精一杯の状況である。あえて換言するならば、ボールパーク新駅が待避設備等のない棒線駅の場合、12分間隔でエアポート号を設定しようとすると破綻する。これを防ぐならば、前回記事の通り、北広島→白石に(上野幌2番線以外に)もう1か所追い抜き設備が必要である。 今回掲載した図では、西の里信号場を復活させることを想定しているが、他の駅(例えば上野幌駅)に追い抜き設備を増設しても、おおむね同じようなダイヤ図が得られるであろう。
 
 …とは言うものの、賢明な読者の皆様は、下記のような意見をお持ちかもしれない。例えば、「上記の「破綻」が指す事象はエアポート号が2分程度遅くなるという程度の話であって、エアポート号の札幌駅停車時間6分程度(過去記事参考、白石~手稲に待避設備が事実上無いため)を削ればなんとかなるのでは」「であればいっそのこと、空港発のエアポート号をボールパーク新駅に臨時停車させれば良いのでは」などである。
 球場輸送に関わるエアポート号の臨時停車に関しては、今回記事には含まず別途記事を起こして議論したい。しかし南千歳以南の単線区間を処理しなければならない都合上、新千歳空港行きのエアポート号がボールパーク駅に臨時停車することはまず無いと言って良いだろう。今回使用したパターン(新千歳空港の停車時間が12分しかなく、これ以上削れない)だとなおさらである。

 

2018年9月11日火曜日

計画停電を防ぐ「節電ダイヤ」の方向性について(1)


 2018年9月6日3時7分に発生した北海道胆振東部地震の影響により、北海道全範囲での停電(いわゆるブラックアウト)が発生した。その後も、苫東厚真火力発電所の復旧に時間を要していることから、全道にわたる停電が再び発生する懸念が生じ、計画停電の実施の是非や、計画停電を回避する手段に関して、現在進行形で議論が行われている。
 鉄道に関して言えば、施設自体への被害は幸いにして大きくなく、9月9日時点で多くの路線が運転を再開できたが、全道的な電力不足と、それに伴う鉄道運行への懸念は今も続いている。鉄道も「節電への協力」対象と見做されたのか、札幌市営地下鉄や路面電車では昼間の本数削減、JR北海道では特急「電車」の一部運休が実施されている。
 関東地方に暮らす筆者は、2011年夏に発動された「電力使用制限令」に伴う列車の減便により、大きな不便益を被った。このような不便益の発生を繰り返さない、という意志のもと、列車の減便以外に何か良い方法は無いか、筆者なりに考察してみようと思う。
 
 まず、9月10日現在、どのような「間引き運転」が実施されているか、札幌市営地下鉄東豊線を対象に調べてみた。

図1:東豊線ダイヤ図(震災以前)。周回60分÷7.5分間隔=(最小)8編成で運転できる。

図2:東豊線ダイヤ図(2018.09.10現在)。運転間隔は不規則だが、最小7編成で運転できる。
 図1(震災以前)と図2(2018.09.10現在)を比較すると、運用するために必要な列車編成数は、図1で(最小)8編成、図2で(最小)7編成となる。どのくらい節電になるのか単純に計算すると、1-7/8=12.5%の節電が可能と考えられる。
 一方図2のダイヤを利用することで被る乗客の不便益は、主として「通常時に比べて列車が混む」「通常時に比べて列車を待つ時間が長くなる」の二つが考えられる。対象とする時間帯が昼間の閑散期であることから、前者の影響は小さいと判断し、後者に着目することにする。すると、図1の平均待ち時間は225秒(3600÷8÷2=225)なのに対し、図2の平均待ち時間は最小で約257秒(3600÷7÷2)となり、32秒の差がつく。平均値にはなるが、すべての乗客に対して32秒多くの「負担」を強いることになる。
 混雑による不便益が無視できる場合、乗客にかかる負担を可能な限り減らそうとすると最も有効な方法は減車である。例えば10両編成の列車を8両編成にすれば、(多少の誤差は出るだろうがおおむね)2割の節電が可能になる。しかし東豊線の場合、もともとTc-M-M'-Tcの4両編成で運転されているため、これ以上の減車が容易でない。
 減車が困難な路線において、次に考えうる手段が減速である。図3は一般的な鉄道車両における、運転時分と消費エネルギーとの間の関係性を表すものである。
図3:一般的な鉄道路線における消費エネルギー(kWh)と運転時分(秒)の関係[1]
  図に例示された3つの区間について述べれば、「最速での運転時分を5秒単位で切り上げた値(区間1(赤)で65秒、区間2(緑)・区間3(青)で75秒)を標準運転時分として使っている路線においては、運転時分を5秒増やすだけでも2割程度の省エネを実現できる」ということになる。東豊線の乗車1回あたりの平均利用区間数を3区間と仮定する(札幌の中心市街地を横切る形の線形のため、通しでの利用は少ないと仮定した)と、各乗客の負担は3区間で15秒程度となり、間引き運転の場合よりも負担を小さくすることができると考えられる。

 このように突拍子のない提案をすると、「そんなはずは無い」「具体例は無いのか」という反論が来そうなものだが、2011年夏、起点から終点までの運転時分を1分30秒延ばすことで、列車を減便することなく15%の省エネを実現した鉄道事業者が存在する。それは新京成電鉄であり、内容については抜粋し図として掲載したが、詳細は同社の公式ホームページhttps://www.shinkeisei.co.jp/topics/2011/2521/および文献[2]を参考されたい。
 ※この事例では、運転時分1分30秒の増を、終着駅の折り返し停車時間を削減することで吸収している。また、図6の省エネ効果については、運転時分の増加の他、軽量な省エネ車両を集中的に起用した効果も含まれているので注意されたい。
図4:ノッチオフを早めて最高速度を下げた例(文献[2])

図5:65km/hと85km/hでそれぞれ試運転し、消費エネルギーを測定した結果(文献[2])

図6:2011年夏季における省エネルギー効果。省エネ車両の積極的起用もあり、15%を大きく上回る効果を達成した。(文献[2])

 
 さて、ここまで大風呂敷を広げたところで、読者の皆様がお持ちであろう、以下の疑問に対応しようと思う。

Q1:ゴムタイヤで走行する札幌市営地下鉄は、一般の鉄道と比べて走行抵抗が大きいため、運転時分を延ばしても省エネ効果は小さいのでは?

A1:速度に関係なく消費されるエネルギーが大きいと、速度を下げることによる省エネルギー効果が小さくなることは事実である。ゴムタイヤ・地下鉄といった特殊な条件下で図3のような関係性を導くには、机上の計算(運転曲線の作成)を行った上で、実測によって確かめるのが現実的と思われる。

Q2:この文章の前半では「節電」、後半では「省エネルギー」となっているのは何故か?
A2:鉄道の電力消費量は加減速の関係で時々刻々と変化するため、その「瞬間最大値の大小」と、「ある程度長い時間の平均値の大小」は必ずしも一致しない。例えば、電車の出力が向上すると、前者が大きくなり後者が小さくなるが、加速が良くなるとその分最高速度が低くて済むためである。
 このような事情から、前者の削減と後者の削減を明確に区別しておく必要がある、と筆者は考える。「間引き運転」や「減車」は(MT比を変えない場合)前者と後者を同時に小さくできるため「節電」と呼称し、「減速」は後者のみを小さくするため「省エネルギー」と呼称することで区別を試みている。
 なお、変電所の容量不足など緊急の場合に、前者を下げるために行うのが「ノッチ制限」である。例えば抵抗制御車の場合、マスコンを2に入れっぱなしにするとパワーを意図的に抑えたまま加速できる(※直列段のまま特性領域に移行するため)が、その分ロスも多いため、結果的に後者が増えてしまう懸念はある。あくまで急場しのぎの方法と言えるだろう。

 ここまで大急ぎで筆を進めてきたが、計画停電を防ぐ列車ダイヤの方向性について、少しでも多くの皆様に知っていただければ幸いである。


[1]曽根悟:「長期的節電要請に対する電気鉄道のモデルチェンジの提案」, JREA, Vol.54, No.9, pp.39-46(2011)
[2]濱崎康宏:「新京成電鉄における省電力への取り組み」, 鉄道車両と技術, No.196, pp.15-21(2012)


2018年3月15日木曜日

エアポート号増発とボールパーク新駅を想定した千歳線ダイヤパターンの考察(1)

 情報収集に熱心な読者の皆様であれば,札幌駅の新幹線ホームの位置がおおむね「大東案」で決定していることはよくご存知であろう。筆者はこれを受けて,記事の方向性を多少ではあるが変更し,「札幌駅の構造にかかわらず,千歳線のダイヤ編成上のボトルネックになる箇所」を探っていこうと思う。今回はまず,札幌駅の新幹線ホームに関して協議する際に「先送り」となった,快速エアポート号の増発(毎時5本)について検討したいと思う。また,札幌ドームの移転先が北広島市内に決まり,上野幌~北広島に新駅設置を要請された場合についても検討したいと思う。
 ※本文中で使用した快速エアポート号の運転時分は,130km/h運転が行われていた時期のものを参考に,新札幌・北広島・千歳・南千歳の停車時間を合計1分伸ばすことで,現況の所要時間に合わせたものである。
 ダイヤパターン作成時に一番頭を悩ませるのは,単線区間の処理方法である。本稿ではまず,南千歳~新千歳空港の単線区間を処理できるダイヤパターンを有限個洗い出し,次に,平和~新札幌での「苫小牧方面行貨物列車」と「札幌方面行旅客列車・貨物列車」との間の平面交差を処理できるかどうかを検討する。下の図1は,エアポート号を12分間隔で等間隔に配置した上で,南千歳~新千歳空港の単線区間に関して二通りに場合分けし,それぞれ描画したものである。
図1:快速エアポート号パターン想定図(左:12分案,右:17分案)
札幌駅の配線について考えてみる(6)と書いてあることは大して変わらないのだが, エアポート号が新千歳空港で停車している時間で場合分けし(これをそれぞれ「12分案」「17分案」と名付ける),快速列車に追いつかない・追いつかれない範囲で特急・貨物列車を設定してみる。

 表1:12分案・17分案比較表

12分案 17分案
長所 ○新札幌駅付近の単線区間で貨物列車どうしが交差支障を起こさないため,貨物ダイヤの設定自由度が高い(「上下線それぞれ」毎時5本まで)
→貨物列車の遅延に強い
○新千歳空港駅折り返し時分が可能な限り長く取られている
○空港行きのエアポート号が遅れても,1分30秒以下であれば,空港行きのエアポート号に影響しない
→エアポート号の遅延に強い
○エアポート号と特急列車の乗り換え時間が比較的短い
短所 △千歳~南千歳の平面交差の関係で,空港行きのエアポートが少しでも遅延すると,それがそのままそのまま空港発のエアポートに伝播する △新札幌付近の単線区間で貨物列車どうしが交差支障を起こすため, 貨物列車の設定可能本数が少ない(「上下線合計で」毎時5本まで)
△南千歳~新千歳空港の線路が常時埋まっている状態になるので,千歳線の札幌方面の遅延が,そのまま空港行きのエアポートに伝播する

 一長一短であり,比較できるものではないが,今回の内容では12分案・17分案のいずれを採用しても大して変わり映えしないため,便宜上12分案を用いて図示することにする。なお,12分案を使用した理由は,新千歳空港駅の信号設備を改良する理由が説明しやすいためである。
 というわけで今回も,最小運転間隔を図示するため,ひとまず図2のようなダイヤ図を作成してみることにする。過去に作成したものと異なる点は,列車間隔に余裕を持たせたことと,上野幌~北広島にボールパーク新駅が開業することを想定していることである。新駅への停車により,運転時分は停車時間を除いて90秒,停車時間を含めて120秒延びることを想定している。また,今後断りの無い限り,ボールパーク新駅には待避設備が無いことを想定して議論を進めてゆく。
図2:特急と快速を交互に配置した場合の最小運転間隔(概念図)

 色々と突っ込みどころ満載の図であるが,特徴的な箇所をいくつか抜粋したい。
①サッポロビール庭園で各駅停車を抜かす特急の前後(島松・千歳のいずれかで各駅停車を抜かす)に配置される快速の間隔が12分をわずかに超えている。
②北広島→白石を無待避で走り抜ける際,快速同士の運転間隔は9分30秒を要している。
③各駅停車がサッポロビール庭園で快速に抜かされる際,恵庭駅での運転間隔が,他の駅や特急列車と比べて長い。

 ①を受け入れるならば,これまで「札幌駅の配線について…」の記事で出したダイヤパターンの一部は組めないことになってしまう。とはいえ,影響を受けるのは島松以南であり,札幌駅の配線に関する議論を左右しないため,あえて過去記事の図を差し替えることはしないことにする。
 ②が意味するところは何だろうか。快速と快速の間に特急を1本挟むと12分間隔ぎりぎりであり,かつその場合,特急は新札幌の手前で,快速に追いつかないよう走行することになる。つまり,快速列車が12分間隔で走行し,ボールパーク新駅に各駅停車が停まる場合,特急列車は徐行運転を強いられることになる。上野幌の中線を苫小牧方面に譲る仮定を置く限り,特急を高速走行させるためには,北広島→白石のどこかにもう1か所待避設備が必要となる。
 ところで,北海道の鉄道に関して興味をお持ちの読者の皆様は,忘れ去られた待避設備のことを挙げたくて仕方ないのではなかろうか。そう,西の里信号場である。いつの間にか側線が撤去されてしまっているが,ダイヤ編成上,北広島駅で待避するのとほとんど変わり映えがしないため,不要不急設備とみなされても(当時は)致し方なかったのだろう。ところが,西の里(信)~北広島に新駅を作り,普通列車を停車させると事情が変わってくる。図3のように,西の里信号場の札幌方面の線路が復活した場合を想定すると,ボールパーク新駅の停車時間に多少余裕を持たせつつも,12分間隔でのパターン化が可能となる。冬季に除雪する手間がかかるという難点はあるものの,新駅が営業できる(≒西の里信号場を稼働させる)時期をプロ野球の試合が行われる季節に限定すれば,さほど大きな問題にならない,と筆者は考えている。もっとも,ドーム球場で出来るイベントはなにも野球に限られないわけだが…
 ※上野幌駅に4番線を新設し,必要に応じて上野幌→新札幌の閉塞割を細かくしても同様の効果は得られるし,普通列車からすれば余計な停車回数を喰わずに済むのだが,本記事では,用地の制約が無い西の里信号場案を優先して挙げることにした。工事費より用地費にばかり気を回すのは東京者の感覚かもしれない
図3:西の里信号場を復活させた場合

 ところで,せっかく特急を高速で走らせる体で,西の里信号場を復活させる話を出した割には,恵庭以北でスジが寝てしまっている(上野幌~恵庭で平均100km/h程度)。高速化した意味がイマイチ感じられないダイヤになってしまう原因は,間に駅が2つも挟まっているにも関わらず島松~サッポロビール庭園に待避設備が無いことである。
 ここで,思い出したように図2の③について解説すると,要はサッポロビール庭園を出る普通列車は,恵庭駅の手前でエアポート号に追いつかないよう配慮する必要がある(逆方向も然り),ということである。つまり,サッポロビール庭園で快速を待避する場合,恵庭駅に快速が停車することによって,列車間隔が余分に空いてしまい,結果的にダイヤ設定の自由度が下がっている現状がある。じゃあもともと通過駅だった恵庭駅に快速を止めなければ良いじゃないか,という危なっかしい発想の下で書かれたのが図4である。図4では,特急がその性能をほぼ最大限に発揮できるようなパターンが引かれている。
 
図4:快速エアポート号が恵庭駅を通過した場合
とはいえ,恵庭駅利用者からすれば大変に困った話である。そこで,特急の高速運転と快速エアポート号の恵庭駅停車とを両立する方法が必要となるわけだが,一番有力と思われる方法は,恵庭駅への副本線設置である。既存のホームにあるエレベーターと交錯しないか気になるところだが,それ以外の箇所では用地に比較的余裕があるように見受けられる。図5は,恵庭駅に副本線がある前提で書かれたものである。
図5:恵庭駅に副本線を設置した場合
これで晴れて,ボールパーク新駅への各駅停車停車,エアポート号の毎時5本+恵庭駅停車,特急の高速運転をすべて満たす形が出来上がったことになる。
 
 最後になるが,野球の試合終了に合わせた臨時列車(以下「野球臨」)の設定可能性について考察したいと思う。試合終了から30分ほど経過すれば,北広島駅からエアポート号に乗車する乗客も出て来るであろうが,試合終了直後ともなると,一番近い駅に乗客が殺到するであろうから,専用の臨時列車を用意する必要が出よう。そういう意味でパターンダイヤは便利である…というのはともかく,臨時列車を試合終了間際まで置いておく場所が課題となる。そんな中候補になりそうなのが,「西の里信号場の苫小牧方面副本線」「北広島駅の3番線」「島松駅の2番線」である。これらはいずれも配線の都合上,手稲側からの回送ができ,(特急のスジを寝かせさえすれば)試合が長引いてこれらの線路が塞がっていても,通常営業列車のスジを阻害せずに済む。少ない編成数で多くの乗客を運ぶことを考えるなら,西の里→ボールパーク→北広島(折り返し,乗客は快速で移動?)→ボールパーク→札幌,という経路をたどるのが一番効率的であろうから,待避駅としての機能は全部島松駅に押し付ける代わり,北広島駅2番線から札幌方面に出られるように配線改良するのもアリだろう。また「新千歳空港にさえ乗入れなければ」ホームの長さも待避駅の有効長も全体的に有り余っており,長編成の野球臨設定も不可能ではないように思われる。もっともその場合,ボールパーク駅のホーム長さが不足しては元も子もないように思えるが…下図は,西の里信号場に1編成,北広島駅(2番線から札幌方面に出られるよう改造済)に2編成留置することを想定し,17時ちょうどに試合が終了したと仮定して作成したものである。
図6:17時丁度に試合が終了することを想定して作成した図
  試合終了の前後で比べると,待避回数が上下線で合計3回(西の里信号場×1,北広島×2)で増加し,これが臨時列車の編成数(西の里信号場×1,北広島×2)と一致するように作成した。試合終了と同時に臨時列車を発車させられない理由は,試合終了(17時)と同時に恵庭駅等待避駅で定期列車の各駅停車を抑止させ,臨時列車用の場所を空けるのに時間を要していることである。定期列車を抑止させる際には,エアポート号の止まる駅までに乗客に周知し,急ぐ乗客をエアポート号に適切に誘導する必要がある。こういった事情から,快速停車駅である恵庭駅に副本線が有るとたいへん便利である
 なお,このダイヤ図は引き上げ線を1本も要求しない代わりに,臨時列車が止まっていた場所を緩急接続・追い抜きのために使用するケチなプランである。北広島駅に引き上げ線を設置できれば,もう少し余裕のあるものが作れると考えられる。

 というわけで,ここまで千歳線のダイヤパターンを,「快速毎時5本」「上野幌~北広島の新駅開業」の二つを想定して作成して来た。JR北海道としては,あまりお金をかけずに設備改良を実施し,空港や新球場からの旅客から収入を得られれば上出来であろうから,いかにその設備改良の資金を集めて来るかが課題と考えられる。もっとも,西の里信号場や恵庭駅への待避設備増設に関して,必要性を訴えるには「エアポート号を毎時4本から5本に増やした結果,特急の高速運転が不可能になるため」と理由を付ける必要がある(※特急のスジをエアポートと平行になるくらい寝かせると,なくても組める)し,そもそも高速運転をやっていないじゃないか,と言われると辛いものがあるが…
 このようなパターンを組んだ際の,札幌駅やその先の区間への影響については,別途論じることにしたい。

 なお,図4に札幌方面の列車が図示されていない理由については,皆様への「宿題」とします。 

2018年3月3日土曜日

札幌駅の配線について考えてみる(9)

 さる2018年3月2日,鉄道・運輸機構のホームページに以下の資料が公開され,北海道新幹線札幌駅の位置に関する各案(現駅案,大東案,地下案など)の課題について整理されている。


 筆者がここで着目したいのは,現駅案における札幌駅の改良工事,および発寒中央駅付近での改良工事の内容である。図は,いずれも同資料から抜粋したものである。

図1:発寒中央駅付近
図2:札幌駅付近
 筆者が過去の記事「札幌駅の配線について考えてみる(5)」(に限らず何度も)で指摘したように,札幌~手稲に待避設備が一つも無いだけでなく,札幌駅桑園側の引き上げ線が不足していて,ダイヤ設定の自由度が極めて低いのが現状である。図1で示した発寒中央駅付近の改良内容は,これらを一挙に解決できる可能性を秘めており,札幌駅の新幹線ホームの場所に関係なく,札幌~小樽のダイヤパターンをかなり幅広く検討できることが期待できる。
 一方,図2では札幌駅の配線改良工事案が示されている。札幌駅の配線上ボトルネックになりがちな箇所は,図3で着色した部分であり,図2案はここに手を入れることを狙ったものと思われる。個人的には,東側への渡り線追加は想定外だったが。
図3:現況の札幌駅とボトルネック箇所(点線は線路跡)
 この箇所がボトルネックとなる原因は,手稲方面から8番線から11番線のどの線路に入る場合にも,札沼線の本線を通らなければならないことである。札沼線を10・11番線に固定するにしても,手稲方面から8・9番線に入る列車との交差支障を常に避けなければならず,現況のままで11番線を増設しても,イマイチ使い勝手の良くないものになると思われる。
 図2案の難点として,札沼線から手稲方面に折り返してゆく列車(例えば2018年3月3日現在で1542M→3420M)を入れられるホームが6・7番線のみとなってしまうことが挙げられる。特急列車やエアポート号との干渉を避けながら,上記のような折り返し列車をどのように設定するものか,気になるところである。もっとも,いちいちホーム上で折り返さなくて済む形が最初から出来るなら,それに越したことはないのであるが。
 
図4:改良案を筆者なりに整理するとこんな感じ
同資料にはさらに,札幌駅への第二場内信号新設に関する記載がある。具体的な場所について書かれていないものの,実現すれば列車間隔の短縮に大いに寄与するものと思われる。比較的ホームの長い3~6番線なら,無理矢理縦列停車させることもできなくはないように思えるが…
 筆者はこれまで,札幌駅付近の配線について,ダイヤ編成上ボトルネックとなる部分を予想しながら記事を書いてきた。今回明らかになった鉄道・運輸機構の検討案が実現すると,これらのボトルネックはほぼすべて解消できる。あくまで筆者の私見であるが,「在来線への運行支障を考慮すると,現駅案の方が却って使い勝手が良い」と考える。


 もっとも,「エアポート号を毎時5本に増発する」「北広島市が球場誘致を実現し,新駅設置の要望が出る」と,ダイヤ編成上はもっと別の問題が浮かぶことが考えられる。具体的には①「北広島→白石で,普通列車が優等列車から逃げ切れない」②「島松~サッポロビール庭園で,普通列車が優等列車から逃げ切れない」の二点である。筆者は①②の課題を,札幌駅の配線と切り離して考えることが出来ると考え,①②への対処策とその考察は,機会を改めて筆を起こすことにする。

2018年1月29日月曜日

札幌駅の配線について考えてみる(8)

  これまで,北海道新幹線札幌駅のホーム建設位置に関する問題について,案の一つである「現駅案」を採用した場合,在来線列車に支障がどの程度出るか考察してきた次第である。前回記事では夕方ラッシュ時を対象に議論したが,今回は朝ラッシュ時(主として7:45~8:45)を中心に議論したいと思う。前回同様,市販の時刻表などを用いて以下のような図を作成し,必要に応じて目視などで補ってみる。不明だらけなのは筆者の取材不足である
図1:現況ダイヤ(7:00~8:30)

図2:現況ダイヤ(8:30~10:00)
 朝ラッシュ時は夕ラッシュ時に比べ,札幌駅に到着する特急列車の数が少なく,一見ホームの数への影響は少ないように思われる。一方,札幌駅に到着する普通列車がことごとく6両編成である上,輸送力調整の必要から札幌駅で3両編成2本に分割される列車が多く,この分割作業の影響で停車時間がどうしても長くなってしまう。特に,8時30分頃と9時20分頃はほぼすべての線路が埋まっており,この状態では北海道新幹線へのホーム転用だけでなく,建設工事そのものすら困難なのでは?調整の余地はないのでは?と受け取られても仕方なかろう。
 朝ラッシュ時の議論を複雑にしている要因として,安易にパターンダイヤ化出来ないことが挙げられる。一定の間隔で優等列車を走らせることが出来るのは千歳線の苫小牧方面のみに限られ,他の区間は(特急列車を除き)ほぼすべて各駅停車のみが走っている。前回記事で夕ラッシュ時を対象にした際に浮かんだ「札幌~手稲の待避設備不足」対策を,朝ラッシュ時にそのまま当てはめてもあまり効果がない。
 しかし,上記の事実を紹介するだけではこのブログの存在価値がなくなってしまう。そこでひとまず,「(ほぼ)各駅停車しか走っていない」特性をなるべく生かす方向で,各方面からやってくる列車の「1時間当たりの本数」というおおざっぱな指標を用いて,現況の列車本数を「図示」することを試みる。
図3:朝時間帯(7:45~8:45)における営業列車本数(太字:普通6両編成,細字:特急もしくは普通3両編成)
 ここで興味深いのは,札幌駅から苗穂方向に出る列車の長さである。江別方面に向かう列車はすべて6両編成なのに対し,千歳線の多くは3両編成である。あくまで想像でしかないが,江別方面へ向かう列車が混雑していて,安易に短編成化できないものと思われる。本稿では,札幌駅で切り離し作業を行う列車の多くは千歳線に向かうものと想定し,それぞれの線路を以下のように割り振ってみる。

図4:各プラットホームへの本数割り当て(想定)
※両渡り線に違う色を割り当てられない表計算ソフトの都合で,一部の渡り線を省略しています。
 ここで千歳線の各停(3両編成)を8番線に割り当てた理由について説明が必要と思われる。現況のダイヤでは,手稲方面から千歳方面に向かう各駅停車のうち,札幌駅で切り離しを行う列車は4番線ないし7番線に割り当てられている。理由は単純で,切り離された列車が手稲(ないし苗穂)に向かう際に都合が良いからである。しかしながら,図4の赤太線部分がボトルネックとなりがちな札幌駅において,これを通らずに済む3~7番線を,長時間の停車を必要とする切り離し作業に割り当てると,不都合が大きいのもまた事実である。
 一方学園都市線では,上下線の本数の差分(5本-3本=2本)が手稲方面に回送している。しかし,配線の都合上8番線~10番線から直接手稲方向に出られないので,手稲方面に回送する列車は,「わざわざ4番線に入れる」「苗穂側の引き上げ線で折り返す」いずれかを強いられており,比較的使い勝手の良い4~7番ホームを長時間占有する一因となっている。
 というわけで本稿では,可能な限り4~7番線を使用せずに済むよう,札沼線から手稲に向かうはずの6両編成を札幌駅で3両+3両に分割し,千歳線の普通列車(3両編成)として充当することを想定する。分割作業を行う場所は,このケースで一番平面交差が少なくて済む8番線とした。このような分割形態を試みる理由はもう一つあり,手稲方面への回送を1本の列車で2編成(6両) まとめて行うことで,札幌→手稲の線路容量を必要以上に喰わないためである。
 具体例を出すと以下のようになる。

図5:札沼線から来た1536Mが分割可能なら,1740M・1742Mに割り振れる。こうすると140Mと1742Mは6両編成のまま回送できる。
8番線に8:29に到着する1536M列車は,札沼線方向に折り返さず,いったん苗穂側の引き上げ線に入った上で手稲方向に回送する。この列車が分割可能なら,1740M,1742Mに割り当てることが可能になり,両列車は分割が不要になるため6両編成のまま手稲に向かえる。分割の回数も1回減っているのは内緒である。なお,143M(のうち,江別方向に回送する列車)に割り当てることも可能だが,143Mが手稲方向に折り返すホームが現状空いていないため,対象から外している。
 1536Mは「普通列車編成両数表」によると6両固定編成になっているが,札沼線の列車は全て,いちいち手稲から石狩当別に回送しているので,札沼線の編成同士の入れ替えは割といくらでも融通が利くはずである。 とはいえ,ここまで話が単純だとすでに実装されているに違いないから,実際の1740M(144M),1742M両列車の回送先は手稲ではない気がしてならない。
 このような,「分割作業を可能な限り8~10番線に割り当て,手稲への回送を6両まとめて行うことで,分割の回数と交差支障の個数を減らす」方針を定め,現況のダイヤに無理矢理当てはめることを試みてみた。


図6:現況ダイヤに無理矢理当てはめた図(7:00~8:30)

図7:現況ダイヤに無理矢理当てはめた図(8:30~10:00)
 
 この図を作成する際は,「列車同士は最低3分離す」ことを心がけた。要は,各駅停車どうしの最小運転間隔を3分,ある列車がホームを出てから次の列車が着くまでを3分,最低限確保することにした。また,現況ダイヤで停車時間が3分に満たない列車を除き,停車時間も可能な限り最低3分,折り返しを伴う場合は(現況ダイヤが7分に満たない場合を除き)最低7分取ることにした。しかし,何か所か停車時間3分の確保に難儀したため,「ある列車がホームを出てから次の列車が着くまでを3分」という条件がもう少し緩和できないものか,と感じた。そういう意味で,札幌駅の場内閉塞を分割することはこの条件の緩和に大きく役立つものと思われる。
 この図を作成する際に難儀したのは以下の点である。しかし換言すれば,札幌駅1・2番線を新幹線に転用するために,どうしても時刻をずらす必要のある列車は,以下に列記したものに限られる,ということになる。
 ○1536Mの札幌到着を8:35(前回挙げた配線改良がある場合は8:32)に繰り下げ(8:30に在線する列車の数を減らすため)
 ○8D,2009Mの札幌到着時刻繰り下げ(9:20に在線する列車の数を減らすため)(8Dが手稲所属車に置き換われば自然に解消する?)

 ここで,1月28日付で北海道新聞に掲載された記事を紹介する。

 
 同記事には,「現駅案の課題は、新幹線の乗り入れで使えるホームが減り、在来線の運行に支障が出ることだった。現在、機構を中心に新たな設備工事を軸に検討を進めており、一時23本とされた乗り入れ困難な本数は「解消できるめどが立ちつつある」(関係者)という。」と記載がある。これまで筆者が分析を試みた限りでは,現駅案でも大きな問題は出ないことから,鉄道・運輸機構でもこの記事と(「ある程度」は付くが)同様の分析が行われていても不思議ではない。
 さてエアポート号を毎時5本に増発することを想定した際,果たして問題なく運転できるのだろうか。 これまでの記事で指摘したように,夕ラッシュ時に関してはエアポート号が毎時4本でも5本でもパターンは作成できる。一方朝ラッシュ時に関して,既出の図6・7を作成した感想を述べるならば,現況ダイヤを可能な限り保持すること自体が最大の制約条件になっている。エアポート号を12分間隔にして白紙に近いダイヤ変更を行うならば,ダイヤ設定はむしろ楽に出来るはずであるし,図4で7番線にエアポート号をもう1本入れたくらいでは,駅の容量が危機的状況になるとは思えない。

 最後に,財界さっぽろ(2018年1月号)から,「中央有力者」の発言のうち以下を引用したい。同記事は,地下案撤回を(全国紙より若干,だが早く)報じたものである。
 「どうして情報を隠して,自分たちでこそこそやっているのか。そういうところが問題だ。(中略)工事のやり方や,ダイヤについて検討・検証をやってもらって,透明性のある議論で決着しないと,どんな形に決まっても,あちこちから,おかしいという話が噴出するのではないか。」
 筆者はこの場で,ダイヤに関する検証・検討を可能な限り具体化することを試みてきた。透明性のある議論をするために,一助となれば幸いである。鉄道愛好者の怠慢が原因で,決定が繰り越したり,決定結果に対する不満が噴出したりしてからでは遅いのである。
 

2018年1月21日日曜日

札幌駅の配線について考えてみる(7)

 これまで「札幌駅新幹線ホーム建設位置問題」について検討するため,現1・2番線ホームを新幹線に転用した場合を想定し,ダイヤパターンを作成可能かどうかを検証することで,課題を抽出してきた。今回は趣旨を変えて,現況のダイヤ(2018年1月現在)において札幌駅で多くの線路が必要となる時間帯を抽出し,その原因を考察したいと思う。
 そこで,まずは市販の時刻表を参考に以下のような図を作成し,記載のない部分については筆者が目測なり推測なりによって補完することにした。


今回筆者が着目した時間帯は「6時~10時」「16時~20時」である。順序から言えば前者から先に述べる方が自然であるが,今回の記事は後者を対象とし,前者に関しては別途記事を起こすことにする。というのも,今まで作成して来た記事で作成してきたダイヤパターンは,後者を念頭に置いて作成したものだからである。
 作成した図の中から,1番線から10番線まで全て埋まっている・埋まりそうな時間帯を抽出すると,以下のようになる。これらの要因について分析してみることにする。

16:00前後
 旭川行きの特急(5番線)・旭川発の特急(2番線)が同時に在線するとともに,室蘭から来た特急(8番線)がホーム上で折り返している。7番線では夕方ラッシュの需要増に備え(おそらく)手稲の車庫から来た普通列車が札沼線に入っていく。
 これに加え,9番線と10番線には,旭川行きの特急(5番線)の発車を待っている普通列車が2本止まっている。これは,16時より前に発車しても,先述の特急に追いつかれてしまうためである。これを回避するため,どちらか一方が札幌駅に到着するのを遅くしようにも,新千歳空港行きの快速(16:02札幌着,6番線)に追いつかれてしまうためこれも不可能である。

18:00前後
 旭川行きの特急(7番線)・旭川発の特急(1番線)が同時に在線するとともに,函館から来た特急(5番線)がホーム上で折り返している。
 これに加え,8番線と10番線には,旭川行きの特急(5番線)の発車を待っている普通列車が2本止まっている。これは,18時より前に発車しても,先述の特急に追いつかれてしまうためである。これを回避するため,どちらか一方が札幌駅に到着するのを遅くしようにも,新千歳空港行きの快速(18:02札幌着,6番線)に追いつかれてしまうためこれも不可能である。

18:25前後
 旭川行きの特急(7番線)・旭川発の特急(4番線)が同時に在線しているとともに,室蘭から来た特急(5番線)は苗穂側の引き上げ線に向かう際,帯広発の特急(6番線)の到着を待ってから発車している。
 これに加え,千歳方面の普通列車(7番線)と江別方面の普通列車(9番線)が同時に在線している。前者は新千歳空港行きの快速(18:20札幌発,6番線)の発車を待つためこれ以上早く発車出来ず,後者は旭川行きの特急(18:30発,8番線)の待避を厚別駅で受けるため他の時刻での発車は出来ない。さらに,両者は手稲方面からの普通・快速列車であり,これ以上到着を遅くすることが出来ない(235Mが3968Mに追いつかれるため)。
 今回はこれだけではなく,江別方面からの普通列車(2番線)と千歳方面からの普通列車(1番線)が同時に在線する。前者はライラック34号・36号の間で岩見沢~札幌を無待避で走り抜ける。これだけ見ると3~4分ほど後ろにずらして問題ないように見えるのだが,千歳方面からの各駅停車が1番線に入線し,平面交差になるため不可能である。後者は新千歳空港発の快速(18:22札幌着,3番線)に追いつかれてしまうためこれ以上遅くできない。

 どれも似たような形の文章になってしまうのだが,上記の3つの時間帯について共通して挙げられるものがいくつかある。その一つが「旭川方面の特急が同時に2線使用している」ことである。これは,パターンダイヤの副作用とでも言えるだろう。筆者が札幌駅の同時在線数を議論する際,カムイ号が上り(毎時25・55分着)下り(毎時0・30分発)ほとんど同時になるパターンダイヤを仮定するのは,あえて(現駅案側が)不利になることを承知の上でのことである。こうした事情から,カムイ号に専用ホームを割り当てることが難しいのもまた事実である。
 16:00と18:00付近で特急列車がホーム上で折り返していることも,札幌駅の混雑の一因となっている。一方で,先で挙げた図で,特急列車が「同時に」3本以上ホームに存在する時間帯が無いことから,千歳線特急用のホームは2線が必要充分な数と考えられる。苗穂側引き上げ線への折り返しのしやすさを考えると4・5番線(新幹線に1・2番線を転用するならば5・6番線)が該当するだろう。
  また,札幌駅に同方向の普通列車が2本同時に止まっている時間帯が多く,18:25頃に関しては特に顕著である。しかし,この原因を突き詰めて考えると,札幌から手稲の間に待避設備が一つも無く,ダイヤ設定の自由度が極めて低いことに行き当たる。一般的には,引き上げ線がもう1本あれば待避設備の代替が効く(快速のスジを寝かせずに済む)が,この時間帯は帰宅ラッシュ時間帯のため,折り返し(減便)するわけにもいかないだろう。

 ところで,冒頭で挙げた図で一番右の列には,過去のダイヤ(2016年8月)に存在した列車を示している。わざわざ欄を作った一つ目の理由は,2017年3月のダイヤ改正で稚内・網走方面の特急列車のうち札幌~旭川を減便したことで,札幌駅の負担が明らかに減っていることを示したかったことである。また,二つ目の理由であるが,2016年当時存在し,札幌駅に26分間停車していた普通列車(1786M,手稲16:00→16:16札幌16:42→17:30千歳)が,札幌駅で二つの列車に分割され,わざわざ引き上げ線(※筆者は目視による確認に失敗したが,おそらく苗穂側)に収容している点を示したかったことである。要は,札幌駅の同時在線数を減らすためのダイヤ調整は,すでに実施されているのである。
※大雪号の運転開始,サロベツ号の運用方法変更に関しては,車両の走行距離節約という意味合いが強いと思われるが,その副次的な効果として,札幌駅の負担軽減につながっているのは間違いないため,ここに挙げることにした。
 
 最後に,前回記事で作成したダイヤパターン図の適用可能性について考察する。
このダイヤ図は,(快速列車を含まない)普通列車の数にして「ほしみ~手稲3本」「手稲~札幌8本」「札幌~千歳5本」「札幌~江別5本」を想定し,作成している。札幌~江別は現況に対して若干不足気味だが,快速運転が無ければもう少し本数を増やせるし,現況の夕ラッシュ時の札幌→江別下り線で快速運転が行われていないことから,このダイヤ図を仮定することに特段の問題はないと思われる。また「千歳線の特急ホームは(苗穂側への回送を含め)2線が必要充分である」 と判明したため,千歳線の特急に5・6番線を割り当てている上図の仮定も大きくは崩さずに済むと考えられる。もっとも,12分間隔で2本連続で苗穂側に回送となると厳しいように思われるが,向かって後ろのスジを寝かせるなり,向かって前のスジを手稲に回送するなり,何かしらの方法は考え得る。
 一方この図は朝ラッシュ時を想定して作成したものではない。札幌駅新幹線ホームが向かって南側に位置する影響で,手稲行き各駅停車や特急への影響が大きい夕刻を念頭に議論を進めるあまり,朝ラッシュ時に関する議論を後回しにしていたのが実態である。朝ラッシュ時に関する議論は機会を改め,次の記事に委ねたい。とはいえ,札幌駅の需要集中という点では,今回対象とした夕方より深刻な状態にあることから,早急に筆を起こすべきなのは間違いない。