2019年5月6日月曜日

のぞみ号の増発・毎時12本運転に向けた事前考察(1)

 2019年4月18日付でJR東海から、2020年春に予定しているN700Aタイプへの車種統一に伴う全列車の最高速度285km/h化に合わせ、各種設備の改良に取り組むことでダイヤを刷新して「のぞみ12本ダイヤ」を実現予定、と発表があった。本稿では、「のぞみ12本ダイヤ」がどのようなものか、可能な限り事前に考察することを試みる。
 まず、現時点での筆者の予想(限りなく妄想に近いが…)、という前置きを置いた上で、「のぞみ号12本ダイヤ」がどのような形を取るか、図の形でお示ししたいと思う。

図1:12‐2‐3ダイヤ(筆者の妄想)
いきなりこのダイヤ図を御覧に入れたところで、正しい説明になっているかというと全くそうではない。そこで、あるべき説明方法の概要に立ち返るべく、①東海道新幹線でのぞみ号を多数増発するため、現況のダイヤ上ではどのような工夫がされてきたか ②現況ダイヤ(毎時10本)からのぞみ号を毎時2本増やすためには、どのような課題があるか ③上記ダイヤ図にたどり着いた経緯 の順で説明することを試みる。

図2:12-0-6ダイヤ
まず、①現況の東海道新幹線のダイヤで、のぞみ号を多数設定するために、ダイヤ上どのような工夫があるか、について述べる。まずは議論を単純にするため、のぞみ号とこだま号のみでダイヤ作成を試みる。現況の東海道新幹線では、10分間に3本の列車が発車しているため、これを単純にのぞみ2:こだま1の割合で配分し、かつのぞみ号の高速運転をなるべく妨げない方向性で作成したのが図2である。
 ところで、こういった場合に一般的なダイヤ図の形で図示しようとすると、図が横長になってしまって見づらいという難点があるため、本記事では、「最も速いのぞみ号(現時点では99号・1号・265号・200号・64号)が図上で垂直になる」よう、横軸は「最速のぞみとの時間差」になるよう取ることにしている。最速ののぞみ号の場合、東京~新大阪は約2時間18分(※途中駅の停車時間は含まない)で結ばれる。例えば図2で東京7時発の列車は、新大阪駅に7時11分に着くことになっているが、この「11分」は上記「2時間18分との差」であるため、実際に新大阪に着くのは9時29分となる。
ここで、10分間にのぞみ2本、こだま1本を走らせた場合の「10分間」の内訳について述べたいと思う。図3を用いて説明すると、下記㋐㋑㋒㋓4つの合計が10分であることにより、10分間にのぞみ2本、こだま1本を設定することが(原理上は)可能になる。
 ㋐2本続けて走るのぞみ号同士の間隔:約2分半
 ㋑向かって後ろののぞみ号通過~こだま号発車:約1分
 ㋒こだま号が1駅間走る際の所要時間の、のぞみ号との時間差:約5分
 ㋓こだま号停車~向かって前ののぞみ号通過:約1分半
 ただし、品川・新横浜・名古屋・京都のようにのぞみが停車する駅で、2分30秒ごとにのぞみ号が発車・到着するのは難しいことから、実際のダイヤではプラットホームを交互に使用するとともに、到着時には向かって後ろ側ののぞみ号、発車時には向かって前側ののぞみ号のスジを寝かせることで間隔を適切に保つよう工夫している。
図3:12‐0‐6ダイヤの「10分間隔」の内訳
 通過列車どうしの間隔(2分30秒)が停車列車どうしの間隔(最小3分15秒)よりも短いことこそ、このダイヤパターンのミソである。時速270kmで2分30秒走れば11.25km、列車自体の制動距離よりも十分長い距離を進むことが出来るためである。高速道路で一番幅が広く、よく渋滞するのが「料金所」であることを思い浮かべていただくと、イメージしやすいかと思う。通過列車主体のダイヤで列車間隔を詰めよう、という発想自体はいたるところで見受けられるが、これを実際のダイヤに応用しているのが東海道新幹線なのである。
 ところで図2の12-0-6ダイヤで「東京7時発ののぞみ号が新大阪に9時29分に着く」と先ほど述べた。つまるところ、「のぞみ号毎時12本」「すべてののぞみ号が、東京~新大阪2時間半以内」は、現時点でもやろうと思えばできないことはない。しかし、現在のダイヤで設定されているような「ひかり号」を毎時2本設定しようとすると、これがとたんに難しくなってしまう。
 現在の時刻表をご覧いただくと、ひかり号は毎時2本設定されているが、停車駅で分類すると大雑把に言って以下の2種類になる。

 甲:東京、品川、新横浜、(小田原と豊橋のいずれか)、名古屋、岐阜羽島、米原、京都、新大阪(500番台)
 乙:東京、品川、新横浜、(熱海と三島のいずれか)、静岡、浜松、名古屋、京都、新大阪(以西各停)(450番台)


図4:小田原or豊橋のみ停車のひかり号を設定した10-2-2ダイヤ
このうち「甲」ひかりを設定する場合は、図4に示すように、のぞみ号1本を甲ひかりに置き換えることにより、図2パターンを大きく乱す必要がないことが分かる。実際は、小田原or豊橋の停車時間分(1分程度)だけ、のぞみ同士の間隔が不足してしまうため、「余裕時分を切り詰める」「その分だけのぞみ号のスジを寝かす」「性能の高い車を甲ひかりに対し、優先的に割り当てる」のいずれかが必要になるだろう。
 しかしいずれにしても、10-2-2ダイヤ(つまり、現況と本数はほぼ同じ)であっても、「すべてののぞみ号が、東京~新大阪2時間半以内」は、現時点でもやろうと思えばできないことはない。さらに、上記の甲ひかりの停車駅は小田原や豊橋である必要はなく、静岡や浜松でもほぼ同じことが出来る(※熱海~名古屋ノンストップ便には別の方向性で可能性が秘められているが、ここでは触れない)。
 賢明な読者の皆様は、ここまでで筆者が何を申し上げようとしているか、おおむね見当がついてしまうのではないかと思うが、すべてののぞみ号を東京~新大阪2時間半で走らせることの障壁になってしまっているのが(本記事で言う)乙ひかり(現時点で、450番台)である。 新横浜~名古屋で(熱海を除く)2駅以上停車させると、どうしてものぞみ号に追い抜かれる必要が生じる上、のぞみ号に追い抜かれたら追い抜かれたで、のぞみ-のぞみ-乙ひかり-のぞみ-のぞみのように通過列車が5連続でやってくるため、こだま号が駅で15分近く停まる必要が出てしまう。
 東海道新幹線Ⅱ改訂新版(JTBキャンブックス、須田寛著)を参照する限り、この乙ひかりの起源は昭和60年3月改正に遡ることができ、誕生はのぞみ号より先である。同書ではこのひかり号は「HKひかり」と呼称されており、以下のような解説がある。
  
 「昭和60年3月ダイヤ改正から東海道新幹線ひかりに新しいダイヤパターンが加わった。開業当初から「ひかり」は名古屋、京都の2駅を中間停車駅としてきた。そして例外的に新横浜、静岡などを追加してきたが、これら各駅への「ひかり」停車はせいぜい一日数本にとどまっていた。「ひかり」増停車に対する各駅の地元からの要望は強く、一方で減量ダイヤを組むため「こだま」の編成減車などを行なうこととなったので、「ひかり」の中間駅停車をダイヤ規格に取り込んでこれをカバーすることとなり、60年3月から実施した。
 この際東京~新大阪間「ひかり」に毎時1本、熱海・豊橋間に原則として2駅(列車によって停車駅は異なる)停車可能のダイヤ規格が生まれた。これが「HKひかり」(ひだま列車ともいわれた)である。即ち「H-ひかり」と「K-こだま」の中間の列車の意である。したがって同区間の各駅はこの「ひかり」で停車回数が増加した。」

 このひかり号によって、(原理上は)あらゆるODを拾うことができるため、「地域密着経営」という点では満足度の高いものであったと思われる。しかし、図2のようなダイヤパターンに組み込もうとするとのぞみ号に追い抜かされる必要が生じ、停車駅同士をあまり離しすぎるとこだま号を入れる場所がなくなってしまうことから、熱海or三島・静岡・浜松の三駅停車という形に落ち着いたものと考えられる。

 さてようやく②現況ダイヤ(10-2-2ダイヤ)からのぞみ号を毎時2本増やす際の課題について、あくまで筆者の推測、という但し書きはつくが、お示ししようと思う。ただ、この時点で記事が無駄に冗長になってしまったため、いったん筆をおくことにする。

 

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