2019年10月24日木曜日

武蔵小杉駅付近の浸水について考えてみた(2)

 前回記事では、武蔵小杉駅付近の浸水被害がどのようにして発生したか、インターネットに公開されている各種データを用いて「推測」を試みた。その後、様々な報道(例えば、台風19号 都市型水害の脅威、タワマン浸水 原因は“逆流”)があり、この報道が事実とすれば、前回記事で話題に挙げた「山王排水樋管」は、浸水被害発生時に閉まっていなかったのでは?という疑念が生じていた。本当に閉まっていなかったとすると、前回記事の内容の一部は誤りであり、記事の差し替えが必要であるため、筆者としてもより詳しい情報を待ちつつ静観していたところである。
 そんな中、川崎市上下水道局から、 令和元年台風第19号による排水樋管周辺地域における災害(浸水)対応についてという題名で資料の掲載があった。この資料を参考にしながら、前回記事に挙げた箇所のうち、市の発表と方向性が一致するのがどこで、異なる(≃筆者の記事が誤っている?)のがどこか、という点を重点的に記述する。
 
図1:山王排水樋管における令和元年台風第19号の災害(浸水)対応について(市の資料から抜粋)
※図1で標高がA.P.基準となっていて前回記事(T.P.基準)と異なっているが、零点の基準が異なるために起こる現象である。例えば「摂氏と華氏のように、「1」という値の持つ幅自体が変わる」わけではない。今回記事でA.P.標高を扱う際は、T.P.換算値を併記することにする。

 図1の通り、山王排水樋管は、降雨が弱まる12日22:52の時点まで、ゲートが開いていた模様である。筆者は前回の記事において、山王排水樋管が閉まっている前提で記事を書いたが、これは誤りであったことが分かる。
 この図を見る限り、山王排水樋管の運用上の決まりは、
①内陸に降雨または降雨の恐れがない状態において、山王排水樋管地点の河川水位がA.P+3.49m(T.P+2.36m)を越えた時点で山王排水樋管のゲートを全閉にする
②田園調布(上)水位観測所の河川水位A.P+7.60m(避難判断水位、T.P+6.47m)において、周辺状況及び丸子ポンプ場の状況を踏まえ、ゲートの開閉を総合的に判断
③降雨がある場合や、大雨警報が発令されている等、降雨の恐れがある場合は、山王排水樋管ゲートを全開にする
 となっているが、ここで①③が同時に発生した場合について考えてみる。筆者は前回記事にて、「多摩川の水位上昇(①)と、川崎市内での大雨(③)が同時に発生したことが原因である可能性が否定できない」と記したが、 ①③の同時発生はこれに該当するものと考えられる。これを見る限り、①③が同時に発生した場合は③を優先するとともに、水位がさらに上昇し、A.P+7.60m(避難判断水位、T.P+6.47m)に達した場合(②)に改めて検討する、という運用が行われていたと考えられる。
 ここで「総合的判断とは何ぞや?」という疑問が浮かぶし、皆様もある程度の部分、このような疑問をお持ちであろうが、ここに踏み込むのは、機会を改めることにする。一方で、筆者が代わりに着目するのは、資料中の「付近最低地盤高(上丸子山王町二丁目、A.P+6.545(T.P+5.411))」である。水は高所から低所に向かって流れるため、非常に大雑把に言って、「山王排水樋管付近の河川の水位がこれを上回った時、浸水被害が出る可能性が生じる」ということでもある。この値は、田園調布(上)水位観測所の避難判断水位と比べて1m近く低い。田園調布(上)水位観測所の水位が、避難判断水位に達した頃には、すでに「付近最低地盤高」に該当する箇所は浸水していたのではないか?という疑念も浮かばないわけではない。とはいえ、同所は川崎市から見て川の対岸にあり、河口からの距離も異なるため、両者間で水位の差があっても不思議ではない。1mも水位差が生じる要因は、あるとすれば河道幅の変動だろう。あるいは、田園調布(上)水位観測所(上流側)と山王排水樋管(下流側)との間に東海道新幹線・横須賀線の鉄橋があり、その橋脚による影響も否定できない。
 田園調布(上)水位観測所のデータ曰く、当時の最高水位は10月12日23時のT.P+10.77mである。川崎市側の最高水位A.P+9.992m(T.P+8.848m)と比べて2m近く差があることになっているが、これだけの水位差が生じたかどうか、個人的には疑問に思っている。とはいえ、川崎市側の最高水位より低い地点での浸水被害が顕著であることを考えると、着目する方向性としては、前回記事と概ね一致しているように思う。
 今後、より詳細な情報が出て来次第、加筆修正が必要な箇所が出て来るであろう。その際は、改めて記事を起こすことにしたい。

※高さの基準について、国土交通省 川の防災情報 はすべてT.P基準に換算しているとあるが、これが本当かどうかは引き続き注意深く見て行きたい。というのも、高低差が1m程度生じる時、それがA.PとT.Pとの間の換算間違いである可能性が否定できないためである。
 一方、前回記事で用いた「基盤地図情報数値標高モデル」であるが、値はおそらくT.P基準と思われる(等高線が「東京湾海面から起算」であるため)。ところが、仕様書のどこにもT.P基準であることが明示されていないため、この点はもう少し突き詰めて調べてみようと思う。

2019年10月14日月曜日

武蔵小杉駅付近の浸水について考えてみた(1)

編注:10月16日、下記報道を受け、赤字、見せ消し部分を修正。
 台風19号 都市型水害の脅威、タワマン浸水 原因は“逆流”(TBS NEWS)
→修正を予定していた箇所は、川崎市上下水道局から発表のあった資料
 を受けて、別途記事を起こしたため、上から修正した所は元に戻した。



 2019年10月12日、台風19号の上陸に伴う記録的な豪雨に伴い、武蔵小杉駅(川崎市中原区)付近では浸水が発生した。現地付近では、多摩川の堤防そのものからの越流が確認されたわけではないのに浸水被害が発生し、大きな話題となった。翌13日にJR横須賀線が運転再開する際は、この浸水被害に伴い、武蔵小杉駅をすべての列車が通過することになった。
 本稿では、この浸水被害がどのようにして発生したか、インターネットに公開されている各種データを用いて「推測」を試みる。普段投稿している記事とは毛色が異なることを、どうかお許しいただきたい。
図1 横須賀線武蔵小杉駅。このアンダーパス付近が最も低くなっている。

 ※本稿で「標高」を表す際は、断りが無い限り、T.P.標高(東京湾平均海面高(T.P.)を基準(0m)とした高さ)を用いる。

 河川の堤防からの越流ではないにも関わらず浸水被害が発生するとき、真っ先に疑われがちなのは「下水道管の流下能力不足」である。下水道は原則として市町村の事業であり、川崎市もその例外ではない。川崎市の場合、「公共下水道台帳施設平面図」はインターネットを通じて閲覧でき、筆者自身も読者の皆様も、下記のリンクを通じて情報を手に入れることが出来る。

図2 川崎市公共下水道台帳施設平面図(一例)
図3:武蔵小杉駅付近下水道管流下方向
武蔵小杉駅付近の下水道管は、図3中の「主要地方道2号東京丸子横浜線」(要は綱島街道)を境に系統が分かれている。このうち北西側は図3(赤矢印)のようなルートをたどって多摩川に放流されている。一方、南東側の系統は、東海道新幹線・横須賀線の線路をくぐった上で南東方向に流下し、ガス橋付近の「丸子ポンプ場」を経て多摩川に放流される。なお、ここで言う「ポンプ場」 は、放流先の多摩川より下水道管が低い位置にあり、下水を汲み上げる必要があるため設置されている、と考えていただければと思う。

 さて、川崎市の下水道管は、市内のおおよそ西半分が分流式、東半分が合流式となっており、武蔵小杉駅付近は合流式である。分流式は「雨水と汚水を別々の管で流す」、合流式は「雨水と汚水を同じ管で流す」方式である。 赤い矢印で示した系統は多摩川に向かって進んでいるが、雨水も汚水も混ざった管渠であり、これをそのまま川に流して良いのか?という疑問が浮かぶであろう。ここで、図3で赤い矢印が川に流下する直前で、茶色の矢印が分岐しているのにご着目願いたい。分岐箇所付近を拡大したのが図4である。
図4: 山王排水樋管付近拡大図
川に流下する直前で、別系統の管(茶色)が分岐しているのだが、汚水を茶色の矢印へ、雨水を多摩川の方向へ分岐するような構造のマンホール(分水人孔)が設置されている。マンホールだけで雨水と汚水を完全に分離できる訳ではないのだが、おおむね以下のような仕組みになっている。
 ○汚水の流下先を、雨水の流下先と比べて低くする。
 ○晴天時は、全ての下水が汚水側に流れる。
 ○雨天時は、汚水側の流下先が満杯になるので、あふれた分を雨水として多摩川に放流する。
 このような仕組みで、生活排水がそのまま多摩川に流入しないよう工夫がされている。ただし、雨天時にはどうしても生活排水が多摩川に向かって流れてしまうので、雨の日には洗濯機の使用を控えるなど、生活排水をなるべく出さないのが(本来は)望ましい。
 なお、この茶色の矢印の管をたどると、図3の緑色の矢印に合流するため、綱島街道で東西に分かれていた系統は、(西半分の雨水を除き)結局のところ両方とも丸子ポンプ場に流れ着くことになる。

 ところで、雨水を多摩川に放流する管の高さは図4に記した通り、管底で1.697mであるが、10月12日の多摩川の水位は10mを超えており、川の水位の方が高い。このままでは多摩川の水が下水道に向かって逆流してしまう。そこで、この樋管は河川水位が上昇した際に、ゲートを閉められるようになっている。ゲートを閉めることによって、多摩川の河川水位が上昇しても、直ちに下水管に向かって逆流しないようになっていると考えられる。
図5: 山王排水樋管付近。ゲートは多分閉まっている。
さて、多摩川の水位が下がり、列車が運転再開したのを見計らって、筆者自身でこの付近の様子を見に行ったのだが、 この樋管のすぐ上流側に当たる道路で、大規模な噴泥(図6)が発生していた。 ゲートを閉めることで、多摩川の水が直ちに下水管に向かって流入することは防げたが、その上流側の道路では、結果的に下水が溢れ、道路や近所の家屋が被害を受ける結果となった模様である。

図6:山王排水樋管のすぐ上流の道路。
例えば、多摩川上流で豪雨が発生し、下流(川崎市)が晴れている場合、ゲートを閉めても川崎市側の下水管に影響は無い。なぜなら、川崎市側が晴れている場合、下水は先ほど述べた「分水人孔」を経由して別の系統へ流下しており、ゲートにはそもそも下水が流れてきていないからである。
 しかし、多摩川の水位上昇と川崎市の豪雨が同時に起こると話が変わってくる。ゲートを閉めることにより、多摩川から下水管に向かって水が逆流することは防げるが、同時に河川に放流するはずの雨水が行き場を失うことになるからである。流れて来る水を無理矢理せき止めると、水が運動エネルギーを失うため、その分水位が上昇し、多くの場合はマンホールから水が吹き上げる。排水樋管付近での溢水は、このようにして起こった可能性が否定できないように思う。
 念のため、河川水位の上昇と、現地付近の雨量について調べたのが表1である。あまりに長いので、詳細は文末に回したが、10/11 13:00~10:13 0:00の約一日半の間に、累積約200mmの降雨が観測されたことになる。
 さて、山王排水樋管を閉鎖したとして、この部分を流れるはずの雨水はどこに向かうかと言えば、図3の示すように、最終的には緑色で示した系統と一体化して「丸子ポンプ場」にたどり着く。丸子ポンプ場の時点では、下水管の高さが0mを下回り、このままでは多摩川に流すことが出来ないため、ポンプを用いて下水を揚程している。また、汚水を加瀬水処理センター(矢上川(鶴見川支流)沿い)方面に圧送するための加圧・揚程の役割も併せて担っているものと思われる。なお、雨水と汚水の分離方法は不明であるが、上記で述べた分水人孔と同様の仕組みを用いているものと思われる。
図7 丸子ポンプ場付近概要
図8 丸子ポンプ場(車道の左側)
ところで、このポンプ場から多摩川に放水するための樋門だが、写真(図8)から明らかなように、ここも10月12日時点の多摩川の水位(約10m)より低いため、多摩川からの雨水逆流を防止する観点からは、頃合いを見計らって閉鎖せざるを得ないだろう。残る選択肢は、流入してくる雨水を無理矢理、加瀬水処理センターに向かって圧送することだが、鶴見川も氾濫する危険がある状態で、全量を圧送するという選択は難しいように思う。
 これらの状況を考慮し、以下では、丸子ポンプ場の機能をやむを得ず絞り込んだ、又は停止した状態を仮定して筆を進める。この仮定の下では、丸子ポンプ場の上流側は、雨が降っても下水管の中に入るだけで、下水が流れない状態になる。約一日半で200mmもの降雨を観測している以上、すべての降雨を下水道管の中に貯留するのは、下水管の体積からして非現実的である。このような場合は、非常に大雑把に言って標高の低い個所から順に下水管から溢れることになるだろう。
 そこで、中原区内の現況の標高を、基盤地図情報(https://fgd.gsi.go.jp/download/menu.php)からダウンロードしたデータを用いて図示してみる。
図9 武蔵小杉駅付近標高現況(河川を除き、50cm単位に段階分けして着色)
この標高データは高さが1cm単位、平面方向では5mメッシュと、(データが合ってさえいれば)非常に有用な資料である。武蔵小杉駅付近で見ると、横須賀線を道路がくぐる箇所(図1付近)の標高が最も低い。この箇所で道路の高さ制限3.8mを確保しようとすると、武蔵小杉駅付近の再開発エリアは、北西から南東に向かって緩やかな下り坂を描くことになり、実際の地形も概ねそうなっている。東横線と横須賀線に挟まれた区域のうち、横須賀線の駅近辺は他と比べて標高が低く、今回のようなケースでは影響を受けやすいことが分かる。
 南武線沿いの幹線道路(通称「南武沿線道路」)の噴泥による被害は深刻で、場所によっては通行止めが発生していた。鉄道(JR南武線)が運転出来て、並行道路が通行止めになる、というのは、筆者にとっては極めて珍しい例である。しかし、東横線より西側は、砂が堆積する程度で、駅東側ほど被害は大きくなかった。このため、図9で言うところの黄色と黄緑色の境界付近まで、溢水の被害が出ていたものと推測する。(※あくまで推測なので、当てにならないと思います。本当に。)
図10 南武沿線道路(東横線以東)の被害状況。
  
図11 向河原駅で砂を被る南武線。電車は動いていた。
  

 最後に、川崎市が発行したハザードマップについて述べようと思う。ハザードマップは市のホームページ
で容易に入手可能であり、台風に伴う災害に備えて、市からも再確認するよう情報提供・注意喚起があったようである。堤防からの越流時の被害について強く警戒するよう記載があるが、内水氾濫(例えば、今回のような下水道管からの溢水)については、大きくは取り上げられていないように感じる。もっとも、堤防破堤のようなケースでも、標高の低いところほど被害が大きくなるので、「標高が低い地区ほど警戒が必要」という、ハザードマップの方向性そのものは正しいように思う。
図12 川崎市が発行しているハザードマップの裏面(抜粋)

 これまで長々と書いてきたが、大雑把にまとめると以下のようになる。

○武蔵小杉駅から流下する雨水は、普段は多摩川に放流することになっているが、今回は多摩川の水位が高く、放流できなかったと考えられる。多摩川の水位上昇と、川崎市内での大雨が同時に発生したことが原因である可能性が否定できない。

○多摩川への放流が不可能となった際、丸子ポンプ所から矢上川(鶴見川支流)沿いにある水処理センターに送水しようにも、鶴見川が氾濫する危険性から、選択は困難であったと考えられる。多摩川の水位上昇と、鶴見川の水位上昇が、同時に発生したことが原因である可能性が否定できない。

○このような状況下では、標高の低い所ほど、内水氾濫が発生する可能性が高いものと思われる。武蔵小杉駅付近のいわゆる再開発エリアは、他と比べて標高が低いため、この影響を受けやすいものと考えられる。

 なお、今後同じような被害を防ぐにはどうしたら良いか、という観点も当然必要であろうが、今回色々調べる限りでは、広域的に論ずる必要があるように感じた。まして、門外漢の筆者から「こうすべき」という提案は出来ないと考える。ただ、川への排水が不可能な状況下で内水氾濫を防ごうとすると、何らかの形で「暫定貯留施設を作る」という方向性にならざるを得ないのでは、と感じる。

 以下は、筆者が筆を進めて行くにつれ、調査不足を痛感することになった項目である。今後の課題としたい。
・図9を見ると、向河原駅以南の川沿いの地域は、武蔵小杉駅よりさらに標高が低いの で、この部分についても本来は現地調査すべきであった。
・山王排水樋管を閉めたとして、それが「いつ」であったかによって噴泥被害の状況が変わる可能性がある。しかし、今回調査した範囲では、そこまで踏み込んで考察出来なかった

 今回は、鉄道とあまり関係ない方向で記事を書いてみた。今後同様の被害が生じないことを願い、少しでも役に立つことが出来れば幸いである。


以下資料

表1:多摩川の河川水位と累積降雨量
日付 多摩川水位(m)
(田園調布(上)水位観測所、TP)
アメダス(日吉)1時間降雨(mm)
※カッコ内は10/11
13時からの累積
2019/10/11 13:00 2.14 0.0(0.0)
2019/10/11 14:00 2.13 0.5(0.5)
2019/10/11 15:00 2.15 0.5(1.0)
2019/10/11 16:00 2.20 0.0(1.0)
2019/10/11 17:00 2.25 0.0(1.0)
2019/10/11 18:00 2.26 1.0(2.0)
2019/10/11 19:00 2.19 1.0(3.0)
2019/10/11 20:00 2.21 1.0(4.0)
2019/10/11 21:00 2.24 0.5(4.5)
2019/10/11 22:00 2.29 0.0(4.5)
2019/10/11 23:00 2.46 2.5(7.0)
2019/10/12 00:00 2.53 4.0(11.0)
2019/10/12 01:00 2.60 1.0(12.0)
2019/10/12 02:00 2.69 0.5(12.5)
2019/10/12 03:00 2.76 1.5(14.0)
2019/10/12 04:00 2.91 4.5(18.5)
2019/10/12 05:00 3.04 1.5(20.0)
2019/10/12 06:00 3.18 12.5(32.5)
2019/10/12 07:00 3.16 9.5(42.0)
2019/10/12 08:00 3.19 10.0(52.0)
2019/10/12 09:00 4.08 11.0(63.0)
2019/10/12 10:00 4.75 13.0(76.0)
2019/10/12 11:00 5.37 6.5(82.5)
2019/10/12 12:00 5.77 4.0(86.5)
2019/10/12 13:00 6.18 11.0(97.5)
2019/10/12 14:00 6.88 19.5(117.0)
2019/10/12 15:00 7.73 10.0(127.0)
2019/10/12 16:00 8.86 17.0(144.0)
2019/10/12 17:00 8.91 3.5(147.5)
2019/10/12 18:00 9.37 11.0(158.5)
2019/10/12 19:00 9.82 10.0(168.5)
2019/10/12 20:00 10.06 7.0(175.5)
2019/10/12 21:00 10.26 7.5(185.0)
2019/10/12 22:00 10.72 12.5(197.5)
2019/10/12 23:00 10.77 3.0(200.5)
2019/10/13 00:00 10.45 0.0(200.5)
河川水位、時間雨量はそれぞれ以下から引用した。

2019年8月18日日曜日

札幌駅の配線について考えてみる(10)

 このシリーズものの記事ではこれまで、札幌駅の配線について何度も取り上げてきた。北海道新幹線の札幌延伸や、快速エアポート号の増発、北広島~上野幌のボールパーク新駅等が話題に上るたびに、筆者の体を叩き起こして筆を執ってきた。
 そんな中、2019年度の夏コミ(C96)にて、札幌駅の配線に関して「まさに、これそのもの」を題材とした同人ゲーム「札幌駅2019」が発売となったため、勝手ながらこの場を借りて紹介したいと思う。作品の詳細は、作者てんぽく先生


に譲るものの、筆者の都合よくまとめると、「札幌駅に行き来する丸一日分の列車に対し、どの列車を何番線に入れる、という指示を出し、遅れを抑える」ことを目指すシミュレーションゲームである。
図1:タイトル画面(抜粋)


 ゲーム画面には、札幌駅の配線図が常に表示されていて、札幌駅に向かって近づいてくる各列車に対し、どの列車を何番線に入れる、というのをキーボードやマウスから指示することが出来る。実際のダイヤとは異なる番線に入れることも可能である。入れることのできない線路に無理矢理入れようとすると失敗したり、進路同士の平面交差が発生すると列車が遅れたり、筆者自身もこのゲームを手に取るまで知らなかった臨時列車が多数登場したり、様々な部分で非常に凝った作りをしている。

 
図2:プレイ画面の一例。同時に何本も列車を矛盾なく走らせると謎の達成感が生まれる。

 今まで筆者のページをお読みの方にとってはご想像の通り、筆者がいの一番に行うオプション(いわゆる縛りプレイ)は、「北海道新幹線建設後を想定した、1・2番線の使用不可」である。これを行うと3~5番線の使い方が非常に煩雑になるだけでなく、一部の時間帯はそもそも列車が入りきらない事態が発生する。端的に言って、この内容では遅延を完全な0に抑える方法は見つかっていないため、それを最小に出来る方法を、筆者の無駄な努力で探しているところである。

図3:丸一日プレイすると、成績がこのように集計され表示できる。
 
 「札幌駅に行き来する列車を眺めたい」方も「指令の仕事に興味がある」方も、「札幌駅新幹線ホームを1・2番線に入れるなんて出来っこない」という方も「いや、出来るに決まっている」 という方も、ぜひ一度お手に取ってみてはいかがだろうか。

2019年5月18日土曜日

のぞみ号の増発・毎時12本運転に向けた事前考察(3)

 前回までの記事では、現況の東京駅折り返し状況やこだま号のN700系統一に伴い、「東京駅発着3分00秒間隔」「のぞみ号が9分間隔で東京駅を発着」になる、という筆者個人の仮説を展開した。今回はその仮説を具体的なダイヤ図に落とし込んでいこうと思う。
  のぞみ号の毎時12本運転の方法については、「のぞみ」1時間当たり最大12本の運転へ(梅原淳) でも推測が試みられている。同記事では、「増発に当たって2通りの方策を予想した。一つは列車の運転間隔を縮めて対処するというもの。もう一つは、現在の運転間隔を維持したうえで車両のやり繰りを調整し、18時台、19時台ともに2本ずつ運転されている回送列車を削減して対処するというものだ。 」とした上で、後者をもとにした推測が行われている。
 一方で、JR東海「のぞみ」20年春増発 5分に1本なぜ可能︖(日本経済新聞電子版 2019年 5月16日付) によると、「実はカギを握るのが東京駅の折り返し時間だ。東京駅の東海道新幹線のホームには6つの乗降場所があり、線路は上りと下りの2本のみだ。「のぞみ」「こだま」など最⼤17本に回送列⾞を合わせた本数が到着と発⾞を繰り返すと、ホーム上の秒単位での調整が必要となる。そのため、新たに合計で約32億円を投じて東京駅の設備改良などを実施する。短縮効果はたったの「10数秒」だが、その10数秒が増発を可能にする。」と記載がある。筆者はこれを見て、「東京駅での折り返し間隔を、現況3分15秒(※10分を3等分した3分20秒をベースに、15秒単位に数値丸め)のところ、3分00秒間隔に短縮するのでは?」と確信し、梅原氏の記事で言う前者(列車の運転間隔を縮めて対処)を前提に議論を進めようと思う。
 さて、3分00秒間隔×6の間にこだまを1本、のぞみ号を2本出すと、54分間にこだま号を6本、のぞみ号を12本出せることになるが、60分間にのぞみ号を12本出せばよいのだから、実際は6分余る。しかしながら、これだけギッシリ列車を詰め込んでしまうと、待避設備の無い熱海駅付近で、こだま号にのぞみ号が追い付いてしまい、結果的にのぞみ号のスジが寝てしまう。
 熱海駅付近には半径1500~1900mのカーブがあるだけでなく、他の駅で見られる18番分岐器が無いため、熱海駅停車によるこだま号・のぞみ号間の時間差(停車時間を含めないで2分程度、含めれば3分程度)は、他の駅(停車時間を含めないで3分30秒程度)と比べて小さい。とはいえ、熱海駅停車によってこだま号が3分程度遅くなる以上は、小田原~三島でのぞみ号のスジも3分程度寝てしまう。
 ところで、2018年3月改正で、東京~新大阪2時間27分のスジ(東京発毎時10分、新大阪発毎時06分)が登場したが、このスジを昼間に設定するにあたっては、のぞみ号を2本続行させることをわざわざ諦めてまで、速達化を達成している。詳細は、前回記事の図5を参照いただきたいのだが、三島以西はほぼ最速である。これをのぞみ毎時12本ダイヤにそのまま入れ込もうとすると、邪魔になってしまう可能性が高い。東京~新大阪2時間27分のスジが、のぞみ号を毎時12本化して実現できなくなるなら、最初から設定するはずがないであろう。のぞみ号毎時12本化して以降も引き続き実現するには、小田原~三島でスジを立てるしかない。したがって、上記「6分余る」は、小田原~三島で(毎時2か所)のぞみのスジを(3分)立てるために使われると考えられ、下記図8のようなダイヤが仮定できる。
図8:N700系統一を想定した12‐0‐6ダイヤ

要は、小田原~三島ののぞみ号のスジを、3か所に1か所、3分だけ立てることによって、分かりやすく30分パターンにしたものである。このため、30分に1か所、のぞみ号とのぞみ号との間で間隔が不必要に空く箇所が出る(図8に無駄に大きな空白が出来ている)ため、ここにひかり号をうまくはめ込むことが出来れば、のぞみ号12本、ひかり号2本は両立できるのではないか、という期待を抱くことが出来る。
 ところで、前々回記事の後半で、 ひかり号を停車駅で甲乙二通りに分類した上で、乙(熱海or三島-静岡-浜松停車)がダイヤ編成上の大きな制約になることを指摘したが、のぞみ号12本化を想定して作成した図8に当てはめようとしても、まったく同じ問題が発生する。甲ひかりであれば、前々回記事図4のごとく設定し、図8の「大きな隙間」にはめ込むことが出来るが、乙ひかりではそれが出来ない。無理にはめ込もうとするとのぞみ号のスジが寝てしまい、2時間30分でたどり着けないスジが出たり、こだま号が駅から15分近く発車できない箇所が出たりする懸念が大きい。
  乙ひかりの設定難易度が高い原因は、こだま号が設定できる箇所を著しく制約することである。これは、①のぞみ号に抜かされる際に副本線を塞ぎ、こだま号が入らなくなる、②新横浜~名古屋に停車駅を2つ以上設定すると、両駅の間でちょうど「のぞみ号とのぞみ号の真ん中」を走ることになり、こだま号が「のぞみ、のぞみ、乙ひかり、のぞみ、のぞみ」の順で抜かされ、15分近く駅を発車できない、の二つが理由として考えられる。15分もこだま号を駅に止めておくくらいなら、30分等間隔でこだま号を設定する意味があまりなくなってしまう。
 ところで、2020年3月改正の宣伝でしきりに言われている「12‐2‐3ダイヤ」であるが、こだまの「3」のうち1本は三島止まりである。わざわざ三島止まりを数に入れている理由として、「のぞみ号を増発するために、既存のこだま、ひかりは減便しない(東京駅の折り返し能力向上の根拠?)」のほか、「こだま号の30分等間隔を取りやめる」が考えられないだろうか?
 こだま号の30分等間隔という仮定を外すことが出来れば、乙ひかりを残したままで、なんとか12‐2‐3ダイヤが作れそうな気がしてくる。より具体的な検討は次回記事に回すが、現在のところは、下記図9やその派生形に近いのではないか、と推測する。
図9:現時点の12-2-3ダイヤ想定形

 












のぞみ号の増発・毎時12本運転に向けた事前考察(2)

  前回記事に引き続き、2020年春に予定されているのぞみ号の毎時12本運転に伴い、どのようなダイヤが組まれるだろう、という観点から引き続き分析を試みる。今回は特に、「現況ダイヤ(2019.3改正)からのぞみ号をさらに毎時2本増やそうとすると、どのような課題が生じるか」を中心に考察する。
図5:2019年3月改正ダイヤの概要(※一部、筆者による推測を含む)
  図5の各スジに乗っている2桁の数値は、東京駅を毎時何分に出るかを表す。東京駅を毎時10分に出るのぞみ号(博多直通のうち、多くが福山に停まる方)が最も速い(垂直に近い)一方で、他ののぞみ号のスジは何らかの理由で寝ている箇所が散見される。太線はNのつかない700系が運用に就く可能性のあるものを表している。以下、今後のダイヤ改正時に活用できそうな要素を列挙しようと思う。
①図5は最速のぞみ(99号・1号・265号・200号・64号)が垂直になるよう作成しているため、700系が入る可能性のあるのぞみのスジは、N700系との速度差が15km/h分生じるため、多少でも寝かせておく必要がある。この影響で、N700系に統一されたはずののぞみ号のスジが僅かに寝ている箇所が散見される。
②東京駅毎時10分発の博多直通のスジは、2018年3月改正にて東京~新大阪で3分(2時間30分→2時間27分)スピードアップしたものだが、三島以西ではほぼ最速である。
③小田原~三島のスジは、先行列車(特に、こだま号)が居ない場合、比較的自由に立てたり寝かせたり出来る。

 次に、東海道新幹線の増発に当たり、最も本数が多くなりがちな東京駅について、折り返しの現況について整理したいと思う。図6は、2019年3月時点での東京駅において、14番線~19番線がどのように使われているかを表すものである。

図6:17時~19時東京駅折り返し現況
10分間に3本の列車が到着・出発することを、可能な限り簡略化し図示したものである。東京駅に到着・出発する列車どうしの折り返し関係は、東京駅の入線時刻が表記されたJR時刻表からある程度類推可能であるが、折り返し関係が明らかでない列車については、大井車両基地からの回送と見做し、図を作成している。
 この図に2020年春からのぞみ号を毎時2本追加しようにも、 そもそも下り列車を追加する枠がそんなに沢山残っていない。「全列車N700系に統一するのだから、大井回送の数は今ほど多くなくても良いのでは」という意見も出るだろうが、現時点で(下り)大井回送が走っている原因は、この図を見る限り車種の不統一と断定することは出来ない。また、大井回送の枠を減らしてのぞみ号を毎時2本増やすとなると、何かの理由で大井車両基地と車両を入れ替える際に不都合が生じる懸念がある。
図3(再掲):12‐0‐6ダイヤの「10分間隔」の内訳
図7‐1:N700系こだま号の想定性能
一方、前回記事で触れたように、 10分間に2本設定されたのぞみ号が「10分間隔」になる理由は、その隙間にこだま号を挟み、のぞみ号同士を2分30秒離した場合、ほぼ10分間隔になることであった。しかしこの「10分間隔」自体は、のぞみ号がN700系、こだま号が700系の場合でも成立する。となると、「こだま号を加減速自慢のN700系に統一することで、運転間隔はさらに詰められるのでは?」という仮説が立つ。
 そこでまず、(構内に急カーブがある熱海駅を除く)各駅駅間におけるN700系の運転曲線を図7のように想定する。勾配・急カーブのない約18.7kmの駅間で最高速度まで加速しすぐに減速、約7分30秒で駅間を走行したことを想定したものである。
図7‐2:N700系こだま号の想定性能
のぞみ号が285km/hで18.7kmを走行するのに使う時間は3分56秒程度であり、こだま号との時間差は3分30秒前後、 多少余裕を見ても4分あれば足りそうである。図3で、こだま号とのぞみ号との間の時間差を5分と見積もっていたが、こだま号をN700系に統一出来れば、どうも4分で足りるような気がしてくる。この数値を図3にそのまま当てはめると、9分間にのぞみ号を2本、こだま号を1本設定することは出来ないか、という仮説を得る。これを東京駅に当てはめると3分00秒間隔、毎時20本であり、現況ダイヤ(10分に3本、毎時18本)から増える毎時2本の枠を、そのままのぞみ号の増発に充てることが出来る。
 ここまで挙げた問題点を一挙に解決し、「のぞみ号の毎時12本運転」「のぞみ号はすべて、東京~新大阪2時間半」を実現するのには、「全車両のN700系統一」等をきっかけに、「東京駅折り返し時の列車間隔の短縮」「のぞみ号同士の間隔縮小」が行われるのではないか、という仮説を得た。次回以降は、この仮説に基づき、ダイヤ図の形に具体化して落とし込んでいこうと思う。



 



 

2019年5月6日月曜日

のぞみ号の増発・毎時12本運転に向けた事前考察(1)

 2019年4月18日付でJR東海から、2020年春に予定しているN700Aタイプへの車種統一に伴う全列車の最高速度285km/h化に合わせ、各種設備の改良に取り組むことでダイヤを刷新して「のぞみ12本ダイヤ」を実現予定、と発表があった。本稿では、「のぞみ12本ダイヤ」がどのようなものか、可能な限り事前に考察することを試みる。
 まず、現時点での筆者の予想(限りなく妄想に近いが…)、という前置きを置いた上で、「のぞみ号12本ダイヤ」がどのような形を取るか、図の形でお示ししたいと思う。

図1:12‐2‐3ダイヤ(筆者の妄想)
いきなりこのダイヤ図を御覧に入れたところで、正しい説明になっているかというと全くそうではない。そこで、あるべき説明方法の概要に立ち返るべく、①東海道新幹線でのぞみ号を多数増発するため、現況のダイヤ上ではどのような工夫がされてきたか ②現況ダイヤ(毎時10本)からのぞみ号を毎時2本増やすためには、どのような課題があるか ③上記ダイヤ図にたどり着いた経緯 の順で説明することを試みる。

図2:12-0-6ダイヤ
まず、①現況の東海道新幹線のダイヤで、のぞみ号を多数設定するために、ダイヤ上どのような工夫があるか、について述べる。まずは議論を単純にするため、のぞみ号とこだま号のみでダイヤ作成を試みる。現況の東海道新幹線では、10分間に3本の列車が発車しているため、これを単純にのぞみ2:こだま1の割合で配分し、かつのぞみ号の高速運転をなるべく妨げない方向性で作成したのが図2である。
 ところで、こういった場合に一般的なダイヤ図の形で図示しようとすると、図が横長になってしまって見づらいという難点があるため、本記事では、「最も速いのぞみ号(現時点では99号・1号・265号・200号・64号)が図上で垂直になる」よう、横軸は「最速のぞみとの時間差」になるよう取ることにしている。最速ののぞみ号の場合、東京~新大阪は約2時間18分(※途中駅の停車時間は含まない)で結ばれる。例えば図2で東京7時発の列車は、新大阪駅に7時11分に着くことになっているが、この「11分」は上記「2時間18分との差」であるため、実際に新大阪に着くのは9時29分となる。
ここで、10分間にのぞみ2本、こだま1本を走らせた場合の「10分間」の内訳について述べたいと思う。図3を用いて説明すると、下記㋐㋑㋒㋓4つの合計が10分であることにより、10分間にのぞみ2本、こだま1本を設定することが(原理上は)可能になる。
 ㋐2本続けて走るのぞみ号同士の間隔:約2分半
 ㋑向かって後ろののぞみ号通過~こだま号発車:約1分
 ㋒こだま号が1駅間走る際の所要時間の、のぞみ号との時間差:約5分
 ㋓こだま号停車~向かって前ののぞみ号通過:約1分半
 ただし、品川・新横浜・名古屋・京都のようにのぞみが停車する駅で、2分30秒ごとにのぞみ号が発車・到着するのは難しいことから、実際のダイヤではプラットホームを交互に使用するとともに、到着時には向かって後ろ側ののぞみ号、発車時には向かって前側ののぞみ号のスジを寝かせることで間隔を適切に保つよう工夫している。
図3:12‐0‐6ダイヤの「10分間隔」の内訳
 通過列車どうしの間隔(2分30秒)が停車列車どうしの間隔(最小3分15秒)よりも短いことこそ、このダイヤパターンのミソである。時速270kmで2分30秒走れば11.25km、列車自体の制動距離よりも十分長い距離を進むことが出来るためである。高速道路で一番幅が広く、よく渋滞するのが「料金所」であることを思い浮かべていただくと、イメージしやすいかと思う。通過列車主体のダイヤで列車間隔を詰めよう、という発想自体はいたるところで見受けられるが、これを実際のダイヤに応用しているのが東海道新幹線なのである。
 ところで図2の12-0-6ダイヤで「東京7時発ののぞみ号が新大阪に9時29分に着く」と先ほど述べた。つまるところ、「のぞみ号毎時12本」「すべてののぞみ号が、東京~新大阪2時間半以内」は、現時点でもやろうと思えばできないことはない。しかし、現在のダイヤで設定されているような「ひかり号」を毎時2本設定しようとすると、これがとたんに難しくなってしまう。
 現在の時刻表をご覧いただくと、ひかり号は毎時2本設定されているが、停車駅で分類すると大雑把に言って以下の2種類になる。

 甲:東京、品川、新横浜、(小田原と豊橋のいずれか)、名古屋、岐阜羽島、米原、京都、新大阪(500番台)
 乙:東京、品川、新横浜、(熱海と三島のいずれか)、静岡、浜松、名古屋、京都、新大阪(以西各停)(450番台)


図4:小田原or豊橋のみ停車のひかり号を設定した10-2-2ダイヤ
このうち「甲」ひかりを設定する場合は、図4に示すように、のぞみ号1本を甲ひかりに置き換えることにより、図2パターンを大きく乱す必要がないことが分かる。実際は、小田原or豊橋の停車時間分(1分程度)だけ、のぞみ同士の間隔が不足してしまうため、「余裕時分を切り詰める」「その分だけのぞみ号のスジを寝かす」「性能の高い車を甲ひかりに対し、優先的に割り当てる」のいずれかが必要になるだろう。
 しかしいずれにしても、10-2-2ダイヤ(つまり、現況と本数はほぼ同じ)であっても、「すべてののぞみ号が、東京~新大阪2時間半以内」は、現時点でもやろうと思えばできないことはない。さらに、上記の甲ひかりの停車駅は小田原や豊橋である必要はなく、静岡や浜松でもほぼ同じことが出来る(※熱海~名古屋ノンストップ便には別の方向性で可能性が秘められているが、ここでは触れない)。
 賢明な読者の皆様は、ここまでで筆者が何を申し上げようとしているか、おおむね見当がついてしまうのではないかと思うが、すべてののぞみ号を東京~新大阪2時間半で走らせることの障壁になってしまっているのが(本記事で言う)乙ひかり(現時点で、450番台)である。 新横浜~名古屋で(熱海を除く)2駅以上停車させると、どうしてものぞみ号に追い抜かれる必要が生じる上、のぞみ号に追い抜かれたら追い抜かれたで、のぞみ-のぞみ-乙ひかり-のぞみ-のぞみのように通過列車が5連続でやってくるため、こだま号が駅で15分近く停まる必要が出てしまう。
 東海道新幹線Ⅱ改訂新版(JTBキャンブックス、須田寛著)を参照する限り、この乙ひかりの起源は昭和60年3月改正に遡ることができ、誕生はのぞみ号より先である。同書ではこのひかり号は「HKひかり」と呼称されており、以下のような解説がある。
  
 「昭和60年3月ダイヤ改正から東海道新幹線ひかりに新しいダイヤパターンが加わった。開業当初から「ひかり」は名古屋、京都の2駅を中間停車駅としてきた。そして例外的に新横浜、静岡などを追加してきたが、これら各駅への「ひかり」停車はせいぜい一日数本にとどまっていた。「ひかり」増停車に対する各駅の地元からの要望は強く、一方で減量ダイヤを組むため「こだま」の編成減車などを行なうこととなったので、「ひかり」の中間駅停車をダイヤ規格に取り込んでこれをカバーすることとなり、60年3月から実施した。
 この際東京~新大阪間「ひかり」に毎時1本、熱海・豊橋間に原則として2駅(列車によって停車駅は異なる)停車可能のダイヤ規格が生まれた。これが「HKひかり」(ひだま列車ともいわれた)である。即ち「H-ひかり」と「K-こだま」の中間の列車の意である。したがって同区間の各駅はこの「ひかり」で停車回数が増加した。」

 このひかり号によって、(原理上は)あらゆるODを拾うことができるため、「地域密着経営」という点では満足度の高いものであったと思われる。しかし、図2のようなダイヤパターンに組み込もうとするとのぞみ号に追い抜かされる必要が生じ、停車駅同士をあまり離しすぎるとこだま号を入れる場所がなくなってしまうことから、熱海or三島・静岡・浜松の三駅停車という形に落ち着いたものと考えられる。

 さてようやく②現況ダイヤ(10-2-2ダイヤ)からのぞみ号を毎時2本増やす際の課題について、あくまで筆者の推測、という但し書きはつくが、お示ししようと思う。ただ、この時点で記事が無駄に冗長になってしまったため、いったん筆をおくことにする。