そんな中、川崎市上下水道局から、 令和元年台風第19号による排水樋管周辺地域における災害(浸水)対応についてという題名で資料の掲載があった。この資料を参考にしながら、前回記事に挙げた箇所のうち、市の発表と方向性が一致するのがどこで、異なる(≃筆者の記事が誤っている?)のがどこか、という点を重点的に記述する。
図1:山王排水樋管における令和元年台風第19号の災害(浸水)対応について(市の資料から抜粋) |
図1の通り、山王排水樋管は、降雨が弱まる12日22:52の時点まで、ゲートが開いていた模様である。筆者は前回の記事において、山王排水樋管が閉まっている前提で記事を書いたが、これは誤りであったことが分かる。
この図を見る限り、山王排水樋管の運用上の決まりは、
①内陸に降雨または降雨の恐れがない状態において、山王排水樋管地点の河川水位がA.P+3.49m(T.P+2.36m)を越えた時点で山王排水樋管のゲートを全閉にする
②田園調布(上)水位観測所の河川水位A.P+7.60m(避難判断水位、T.P+6.47m)において、周辺状況及び丸子ポンプ場の状況を踏まえ、ゲートの開閉を総合的に判断
③降雨がある場合や、大雨警報が発令されている等、降雨の恐れがある場合は、山王排水樋管ゲートを全開にする
となっているが、ここで①③が同時に発生した場合について考えてみる。筆者は前回記事にて、「多摩川の水位上昇(①)と、川崎市内での大雨(③)が同時に発生したことが原因である可能性が否定できない」と記したが、 ①③の同時発生はこれに該当するものと考えられる。これを見る限り、①③が同時に発生した場合は③を優先するとともに、水位がさらに上昇し、A.P+7.60m(避難判断水位、T.P+6.47m)に達した場合(②)に改めて検討する、という運用が行われていたと考えられる。
ここで「総合的判断とは何ぞや?」という疑問が浮かぶし、皆様もある程度の部分、このような疑問をお持ちであろうが、ここに踏み込むのは、機会を改めることにする。一方で、筆者が代わりに着目するのは、資料中の「付近最低地盤高(上丸子山王町二丁目、A.P+6.545(T.P+5.411))」である。水は高所から低所に向かって流れるため、非常に大雑把に言って、「山王排水樋管付近の河川の水位がこれを上回った時、浸水被害が出る可能性が生じる」ということでもある。この値は、田園調布(上)水位観測所の避難判断水位と比べて1m近く低い。田園調布(上)水位観測所の水位が、避難判断水位に達した頃には、すでに「付近最低地盤高」に該当する箇所は浸水していたのではないか?という疑念も浮かばないわけではない。とはいえ、同所は川崎市から見て川の対岸にあり、河口からの距離も異なるため、両者間で水位の差があっても不思議ではない。1mも水位差が生じる要因は、あるとすれば河道幅の変動だろう。あるいは、田園調布(上)水位観測所(上流側)と山王排水樋管(下流側)との間に東海道新幹線・横須賀線の鉄橋があり、その橋脚による影響も否定できない。
田園調布(上)水位観測所のデータ曰く、当時の最高水位は10月12日23時のT.P+10.77mである。川崎市側の最高水位A.P+9.992m(T.P+8.848m)と比べて2m近く差があることになっているが、これだけの水位差が生じたかどうか、個人的には疑問に思っている。とはいえ、川崎市側の最高水位より低い地点での浸水被害が顕著であることを考えると、着目する方向性としては、前回記事と概ね一致しているように思う。
今後、より詳細な情報が出て来次第、加筆修正が必要な箇所が出て来るであろう。その際は、改めて記事を起こすことにしたい。
※高さの基準について、国土交通省 川の防災情報 はすべてT.P基準に換算しているとあるが、これが本当かどうかは引き続き注意深く見て行きたい。というのも、高低差が1m程度生じる時、それがA.PとT.Pとの間の換算間違いである可能性が否定できないためである。
一方、前回記事で用いた「基盤地図情報数値標高モデル」であるが、値はおそらくT.P基準と思われる(等高線が「東京湾海面から起算」であるため)。ところが、仕様書のどこにもT.P基準であることが明示されていないため、この点はもう少し突き詰めて調べてみようと思う。