2022年3月23日水曜日

電力需給逼迫警報について(1)

 2022年(令和4年)3月22日を中心に、制定以来初となる「電力需要逼迫警報」が発動された。主たる原因として「(3月16日に発生した)地震による多数の火力発電所への被害」「低温に伴う電力需要の増加」「悪天候に伴う太陽光発電の実績低迷」はほぼ間違いないと考えられるが、これ以外の原因については、報道各社ごとに異なるものを挙げている状況である。

 そこで本稿では2022年(令和4年)3月23日の新聞(朝刊)を対象に、要因として挙げられている事項について、報道各社での相違について考察したいと思う。まるで中学生の国語の宿題のような筆の進め方であるが、筆者が中学校で国語の教師から出された課題がこの構想の発端であるため、その辺りは割り切って目を通していただければ幸いである。

 なお、下記のA新聞~F新聞は、在京の売店において容易に購入可能である「朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、読売新聞」のいずれかを指すものとする。どれがどれに該当するか、類推しながら読み進めていただくのも一興と考え、あえてこのような形を取ることにする。

表1:3/23朝刊における各項目への言及有無(△:触れた程度、×:反対意見)
項目A新聞B新聞C新聞D新聞E新聞F新聞
地震による火力発電所の停止
悪天候による太陽光発電の出力低迷
気温の低下による暖房需要の増加
警報発令の遅れ、見通しの甘さ
電力会社間の相互融通能力不足
原子力発電所の稼働不足×
大需要家の対応遅延
揚水発電容量の枯渇
老朽火力の廃止


 表1で挙げた個々の要因の中で、新聞社間で大きく差がついているのが「原発」の部分であり、その特徴故に、どれがどの新聞なのか、半ば浮き彫りになっている。これらの特徴を基に、各新聞記事に対する良し悪しを筆者の独断と偏見によって評定したのが表2である。

新聞社評価点課題点総評
A新聞・故障火力発電所の一覧有
・家庭での節電策が充実
・節電する市民の苦境を掲載
・原因分析が無いに等しい・市民としての節電協力に対し、共感を得たい読者に適する
・問題意識を持って読むには適さない
B新聞・電力自由化に伴う老朽火力の退出を記載
・故障火力発電所の一覧有
・京急線の一部運休(ウィング号)に触れている
・課題提起が総じて中途半端
・原発再稼働に対するスタンスも中途半端
・50Hz-60Hz間送電能力不足の記載無
・多方面に課題提起しているのは良いが、方向性が見えない
・純粋な情報収集向けだが、紙面の広さでE新聞に劣る
C新聞・大需要家の協力が遅かった(午前中の節電効果が低かった)ことに言及
・揚水発電の原理を図示
・今回の事象がkW(パワー)でなくkWh(エネルギー)不足であることを理解して書かれた痕跡がある
・反原発の記述に定量的な根拠が無い
・列車の間引き運転を提案。いきなり列車削減を論じるのは大変大きな誤りである
・揚水発電を「だぶついた」電力と表記しているなど、総じて記事内イデオロギーの整合性が低い
・揚水発電容量や大需要家の協力遅延等、独自の着眼点は優れている
・しかし結論ありきの編集によって上記の長所が台無しになっている
D新聞・原発の再稼働に触れつつ、50Hz管内での再稼働がほぼ出来ない前提で書かれており、比較的実現可能性のある提案になっている
・揚水発電の残量に関する記述がある
・1面に記事を載せない
・警報発令が遅延したことに全く触れていない
・50Hz管内の再稼働が無い前提は、コア読者の共感をむしろ得やすいのでは?
・警報発令遅延に触れなかった理由が謎
E新聞・この事案に対して大きな紙面スペースを確保しており、原因として挙げている事象の数も多い
・家庭での節電策を記載するスペースを割ける
・揚水発電の残量に関する記述がある
・原発の周辺住民(特に柏崎刈羽)の感情を逆撫でする懸念が大きい
・揚水発電が蓄電池であることを十分理解せずに書かれており、原発との相性の良さに触れていない点は非常に残念
・紙面が広い、その一点だけでも大いに価値を見出せる
・原発再稼働の主張のあまり、冷静さを欠く記述が散見される
F新聞・企業の自家発電への切り替え、売電に関する記載が充実、具体的な数字もある(68件に自家発電の出力増強を打診して15件から了解を得て23.5MW相当)
・午後3時以降の節電効果が高かったこと(≒午前中の節電効果不足)を認めている
・原発再稼働を課題に挙げながら、電力会社間の相互融通に一切触れていない
・企業の取り組みを数値化し掲載したことは大きい
・原発再稼働が「主張しただけ」になっているのは課題
総合・一長一短であるため、単純に情報源は多いほうが良い・供給力100%のうち何%が揚水発電なのか、東電が提示しているにも関わらず6社とも記載が無い
(D新聞以外)全社が挙げている警報発令遅延については、今後の掲載が待たれる

 正直に言って一長一短であるため数値での採点は避けるが、どの社も記載していない「供給力100%のうち何%が揚水発電なのか」については、機会を改めて考察することにする。


追伸
「新聞は複数誌を読み比べるもの」と、お金のない中学生の私に切々と説いた国語の先生は今もお元気だろうか。

2022年1月14日金曜日

函館線(函館・小樽間)について(4)

  昨日、第11回後志ブロック会議の議事録が公開された。今回は、この議事録の内容とその背景を考察することを目指して筆を進めてゆく。なにぶん、議事録の分量が非常に多いため、記事が長文化することをご容赦願いたい。

 まず冒頭で国交省から説明のあった、「地域公共交通確保維持改善事業」について具体的に記してゆく。

図1:地域公共交通確保維持改善事業の概要。運行経費に対する補助は、バスは対象に出来ても鉄道は出来ないことを端的に示している。

 国交省から説明のあったとおり、この枠組みの中で、鉄道に対する補助は「施設に対するもの」に限られ、運行経費に対する補助は対象をバスに限定されている。すなわち、「運行経費だけで見て赤字である鉄道は、鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる見込みが無い限り、監督官庁から存在意義を否定されている」ことに他ならない。年間の赤字額が運行経費だけで4~5億円に上ることが想定される余市~小樽の存続に向けては大変極めて厳しい内容であることは間違いなかろう。運行経費に対する新たな補助スキームを、新幹線の札幌延伸に間に合うよう確立する必要があると言えるだろう。
 また、ニセコ町が3/14ページで質問している「国として支援をするという内容が該当するのかというのと、それが 10/10 の支援なのか、どの程度の支援というイメージなのか教えていただければありがたい」に対し、国交省は上記の制度の中身そのままに「1/2~1/3」と回答しているが、残り(いわゆる「裏負担」)は自治体が負担しなければならない。道庁が鉄道の廃線ありきで取りまとめを主導しているという噂が絶えない状況下で、道庁が一銭も負担しないことを想定すると、余市~小樽の初期投資として想定されている45億円~50億円のうち少なくとも半分を、余市町と小樽市で負担しなければならない。年間予算が(一般会計ベースで)80億円程度の余市町にとって、裏負担のうち相応の割合(初期投資の1/4程度、運行経費赤字分の1/2程度?)を負担することは、地方税、地方債いずれの形でも明らかに困難であると言えよう。

 さて、上記の立場において余市町が取り得る選択肢はいくつかあると考えられ、その一つは「貨物調整金の適用」であるが、2/14ページに記載があるように、新潟県が旧信越線での適用を実現させたこの事例は、適用を明確に否定されている。筆者は函館線(函館・小樽間)について(1)において、平成12年に実際に迂回運転を行った際の輸送力について記述したが、特に貨物列車は従前の10%程度の輸送力しか発揮できず、船とトラックが実質的に代替していたことを記載した。輸送力の明らかな不足と言う実態は、理屈を曲げてまで適用することの正当性を事実上否定している、というのが筆者の考えである。

 次に、主に4/14ページにおいて「並行在来線の経営分離の中身の見直し」について記載があるが、これについても国交省、JR北海道ともに否定的であり、実現は事実上困難であるように見える。現状の電化区間が小樽以東で、小樽以西は既設トンネル径の都合上電化が困難である、という理由から、筆者は経営分離の区間設定に(ある程度の、は付くが)合理性があると考えており、深入りは避ける。

 最後に、経営安定基金の活用について、5/14ページにおいて余市町長が繰り返し質問し、国交省が「三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と繰り返すやり取りがある。しかし、特に5ページにおいて、余市町長の質問も国交省の回答も実質的に全て同じ文言である上、それが議事録に残っていること自体極めて不自然である。この理由についてはのちほど考察する。

 次にJR北海道の発言に移る。具体的には「経営分離の見直し」「(赤字補填を前提とした)運行受託」「第三セクター鉄道への支援」の3点であるが、1点目は先述の通り経営分離見直しを否定したものであるから再掲を避け、2点目の運行受託について重点的に記述する。以前から筆者は、余市~小樽間の存続に向けた議論において、札幌方面への列車直通が項目として見当たらないことが不自然であると考えてきた。JR北海道が(赤字補填という条件付きではあるが)運行受託の可能性を否定しなかったことは、小樽駅を挟んだ直通運転を行う上で大きな第一歩であると言えるだろう。ただし、赤字補填が前提である以上、「鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる」手段には決してなりえない。JR北海道から運行受託に関する回答は得たものの、筆者にとって、直通運転の可能性が高まったこと以外のメリットはあまり見出せないというのが実情である。

※2022/01/16追記 JR北海道への経費補填の手段として、3セク鉄道がJR北海道に対して不当に安い金額で運行を委託し、それによって生じた分の赤字が「経営安定基金」を通じて補填されるケースを想定したとき、絶対にあり得ない、とまでは言えないと考えている。ただし、このような方法を認めてしまうと、JR北海道(とJR四国)では、ローカル線の廃止が「赤字」とは全く関係なくなる、という点で現実味を欠いていることに留意が必要である。

 さて、7/14ページにおいて、余市町からの「2030年度までJR北海道さんで小樽・長万部間は運行されるという理解でよろしいでしょうか」という質問があったのに対し、JR北海道は「皆様の様々なご議論を見ながら、私どもとしては、整備・着工の考え方、全国的な動きから申しますと、新幹線開業するまで、私どもとして、今のまま進めていくことを基本的には考えております。」と回答している。このやりとりはここで締めくくられているが、筆者は「理由になっていない」と考える。なぜこのような考えに至ったかについてはのちほど考察する。

 8/14ページでは、前半でJR貨物側からの「山線でのDF200形式機関車の運行困難」、後半で「余市・小樽間のバスの輸送力の検討」について記されている。DF200形式機関車の入線調査依頼について、有珠山が最後に噴火した平成12年(3月30日)にJR貨物がJR北海道に対して文書で依頼し、JR北海道は同4月13日に山線にマヤ34形を運行し調査した結果、曲線部分のレールを止める犬釘の増し打ちによって補強すれば通行可能との結論に達した(「有珠山噴火 鉄道輸送の挑戦」P43より。ただし、DF200形式機関車では事実上運行されることはなかった。)、という実績がある。一方で議事録曰く、現在のJR北海道の回答が「JR北海道からは、「DF200形式機関車では走行できない区間が複数箇所ある」というものであり、20年前との違いに目を覆わざるを得ないが、同時にその可能性を見出すことが現実的でないことを示唆している。
 後半の「バス輸送力の検討」については筆者なりに不満のある部分はあるが、議事録にてどの自治体からも質問すら出ていない。このため、バス輸送力に関する考察は次回とし、日を改めてじっくりと考察することにする。

 ところで話は脱線するが、令和3年7月28日に、余市・小樽間個別会議(有識者説明会)が開催されており、議事概要はリンク先の通りである。一方で、有識者」の所属する会社のホームページには図2のような記載がある。個人の発言が所属社の意見を正確に代弁しているかどうかまでは議論を避けるが、両者が全くと言っていいほど異なる主張をしていることは興味深い。
 
図2 「鉄道に関するコンサルティング事業を行っている有識者」所属社のホームページ上の記載。

 さて、所属社の意見の一つとして書かれているのが「並行在来線の早期(北海道新幹線札幌延伸より前)の経営分離」だが、ブロック会議の議事録を見る限り、この案は明確には否定されていない。唯一、JR北海道が「北海道新幹線札幌延伸までの」運行継続を表明しているが、毎年20億円程度の赤字は経営安定基金で補填されるとしても、その理由は単なる「他事例との横並び」である。違和感を感じないだろうか。実際にJR北海道が自社の都合で廃線を前倒ししようとした時のことを想定していただきたいのだが、必ずと言っていいほど対立すると想定される対象が労働組合である。どんなに本数が少ない路線だろうと、列車運行を生活の糧とする社員は必ず存在するのである。これは筆者の推測であるが、「会社都合での廃線前倒しは、労働組合の同意を得るのが困難である」「ただし、地方自治体等の提案が廃線の理由であり、従前の従事者が正当な補償を得られるのであれば、その限りではない」が実態ではなかろうか。もっとも、余市町長が7/14ページで指摘しているように、余市~小樽の輸送密度を下回る路線は全道に数多く存在し、その廃線議論が進まない理由が上記のものだとすると悲しい限りであるが……。
 一方で、所属社の意見としてもう一つ挙げられている「実行財源は赤字回避分」であるが、これについては議事録5/14ページにて、三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と、繰り返し、明確に否定されている。ただし、長万部~小樽の(事実上、長万部側の)一部を新幹線札幌延伸を待たずにバス転換し、残りを新幹線延伸までJR北海道が運行している状態で、JR北海道が自社の都合(例:鉄道施設の老朽化が著しく、新幹線札幌延伸を待たずして補修工事が必要、等。)で残りの(事実上、小樽側の)鉄道施設に投資し、それによって生じた赤字の増分が経営安定基金を通じて補填されるケースまでは否定していない。このようなケースは、沿線自治体に裏負担を発生させないのではなかろうか。

 前置きが非常に長くなってしまったが、余市町が経営安定基金の具体的な中身について多くの質問をしたのに対し、国交省が頑なに「三セクに経営安定基金を充てるこはございません。」と、一見当たり前の回答を議事録内で繰り返した理由として、筆者は一つの仮説を提示したい。少なくとも北海道新幹線札幌延伸までの間、三セク鉄道の経営に「有識者」が関与することだけは、国交省として絶対に認めないというものである。あるべき有識者は、規模が小さく住民の意見を予算執行の形で具体化することが困難な自治体に対し、自らの利益は全て度外視した上で、真に自治体とその住民の利便性を向上し人口流出を防ぐための知恵を惜しむことなく授けるのが当然ではなかろうか。
 
 正直に言って無理のある解釈であることは承知であるが、皆様のご意見をいただければ幸いである。

2022年1月3日月曜日

函館線(函館・小樽間)について(3)

  今回は、「第10回後志ブロック会議資料2-1「余市・小樽間における多駅化・多頻度化の検討について」」に絞って記載していく。

 まずは、多駅化、多頻度化の検討についてイメージを具体的にするため、1990年代後半に富良野線で実施されていたパターンダイヤを例示する。

図1:1998年(平成10年)頃の富良野線の列車運行図表。旭川~美瑛では1時間に1本(ほぼ)等間隔に列車が来る上、旭川駅で札幌方面の特急列車と接続する。札幌~美瑛の所要時間はほぼ2時間であり、利便性が非常に高い。
 富良野線がパターンダイヤ化された時期であるが、札幌~旭川の特急列車のパターンダイヤが概ね確立し(1990年(平成2年))、富良野線への新型車両(キハ150形)投入(~1995年(平成7年))、緑が丘駅の新設(1996年(平成8年))といった状況から機運が高まり、前掲のようなパターンダイヤが確立したものと思われる。パターンダイヤが初めて施行された期日は当方の資料では正確に特定できなかったが、遅くとも1995年(平成7年)には概ねこの形になっていたと考えられる。
 ところで、現状のダイヤを下に図示するが、過去にパターンダイヤであった頃の痕跡を辛うじて見出すことは出来るものの、行き違い可能な駅が少ない関係で、特に美瑛→札幌方向の接続利便性が大幅に低下しているのが悲しいところである。
図2:2021年11月現在の富良野線の列車運行図表。旭川~西神楽に行き違い可能な駅が無いため、札幌方面特急との接続は、どちらか一方向であきらめざるを得ない。美瑛から札幌に向かうには2時間半~3時間を要している。

 図1と図2とを見比べると、あたかも緑が丘駅の設置が裏目に出たように見えてしまう。余市~小樽の多頻度化、多駅化の検討に当たっては、このような事態を防ぐためにも、具体的な案を事前に詰めておく必要があると考えられる。

 余市~小樽の多頻度化、多駅化において念頭におくべきは、まず快速エアポート号(新千歳空港行き)との接続ではなかろうか。JR北海道側の都合で接続先が大きく変動してしまうのが困り者だが、ここでは過年度使われたそれぞれのダイヤについて、接続を取った場合のパターンダイヤを検証することによって、JR北海道側の都合で接続が取れる・取れないの差が生じるかどうかについて考察してゆく。なお、下図は小樽以西で用いる車両としてキハ150形を想定しているため、H100形では所要時間が多少長くなる(現地調査した限りでは、1駅あたり1分程度)可能性が高いことを申し添える。

 
図3:2000~2001(平成12~13)年度ダイヤとの接続可能性検証図

 図3は、マリンライナーを廃止しエアポートが毎時2本小樽直通になってから、2002年3月にダイヤパターンが大きく変わるまでの時期を想定したものである。小樽以西の便が毎時2本いても比較的接続は取りやすい部類に入る。ただし、小樽駅で階段無しで接続しようとするとプラットホームの数が足りなくなってしまうという課題はある。また、余市側に新駅を設置すると行き違いが出来ず、毎時1本は停車、毎時1本は通過にせざるを得ないように見受けられる。

図4:2002~2015(平成14~27)年度ダイヤとの接続可能性検証図

 図4は、2002年(平成14年)3月改正にて、旭川行きのエアポート号の車両が変更になって以降、エアポート号とスーパーカムイ号との直通運転を打ち切る(2016年(平成28年)3月)までの期間における接続可能性を検討したものである。理論上は最速である(余市から札幌まで約55分、新千歳空港まで約95分)が、塩谷駅で行き違いを行う案は、接続が非常にタイトであるため現実味が薄い。図5は、行き違いを行う駅を蘭島駅に変更した上で、新駅を設置し毎時2本列車を設定することを想定して作成したものである。
図5:2002~2015(平成14~27)年度ダイヤとの接続可能性検証図その2

 この場合も、塩谷~余市で行き違いが行えないことを想定すると、余市側の新駅には1時間に1本しか停車できず、2本目は新駅を通過せざるを得ないと考えられる。

 2016~2019(平成28~31)年度については図5とほとんど状況が変わらないため省略し、2020(令和2)年度から現在に至るまで使われている、エアポート号が毎時5本に増発されて以降のパターンとの接続を図6にて検証する。

図6:2020(令和2)年度以降ダイヤとの接続可能性検証図。


 この図では、あえて無理を承知で毎時3本設定している。実際は、余市以西の既存ダイヤの都合にも左右されることから、可能な限り多くの「枠」を設定しておくことを念頭に置いている。
 これまで実施されてきたダイヤ各々との接続関係を考慮していずれも同じ結果となっている以上、JR北海道側の都合でダイヤが今後変わるかどうかに関わらず、余市、小樽いずれの新駅でも、全ての列車を停車させることは困難であり、新駅(少なくとも、どちらか一方)には毎時1本程度しか停車できない可能性が高い、と言えるだろう。新駅に全ての列車を停車させない事例は、(執筆している令和4年1月時点で未開業だが)札沼線の「ロイズタウン駅」が記憶に新しい。同駅は単線区間内に設置された棒線駅(上下線の列車交換が出来ない駅)であるため、輸送力増強の観点でネックになりがちであり、毎時4本以上列車を設定しようとすると一部の列車を通過させざるを得ないと考えられる。いわゆる資料2-1では、余市、小樽いずれの新駅も建設費が6000万円程度と、ロイズタウン駅の約10億円と比べてもかなり安く見積もられており、棒線駅を想定していると見てほぼ間違いないだろう。
 
 
図7:「多駅化の検討」から抜粋。これだけ見ると、駅の増設費用は、北海道新幹線の札幌延伸開業を待つまでもなく、1~2年であっさり回収できてしまうように見える。駅の新設でスジが寝る分の費用が含まれていないが、「多頻度化の検討」で増える人件費(1.28億円)の5分の1程度のオーダーと思われる(余市~小樽が片道30分→36分に増えると見積もれば、本数を1.2倍したのとほぼ同じである)。

 ロイズタウン駅が豪華なつくりをしているのか、余市・小樽新駅の建設費が安く見積もられ過ぎなのかは何とも言えないが、駅の新設費用は1~2年であっさり回収できてしまうように見える。余市町が鉄道存続を本気で考えているなら、少なくとも(小樽市内でなく、余市町内に設置できる)余市新駅の設置をJR北海道に要請する選択肢があっても良いのではないだろうか。また、これをJR北海道が断るには相応の理由が必要なのではないだろうか。

 さて「多頻度化の検討」についても同様の資料があるが、駅の新設と比べるとかなり厳しい結果となっている。
図8:「多頻度化の検討」からの抜粋。

 図8の資料は、現状で一日あたり16.5往復あるこの区間において、(概ね毎時2本となる)一日39往復に列車を増やした場合の収支を想定したものである。大雑把に言って、増発して需要が増えても収支は悪化するため、あたかも増便する意味がないかのような結果となっている。しかしよくよく考えてみると、本数を倍に増やしても、乗客が倍にでもならない限り収支は改善しないのだから、この取りまとめ方には無理がある。
 筆者は、経費は多少かかるが一日2往復程度の増便で済む「余市~小樽の日中のパターンダイヤ化(毎時1本)」が最もコストパフォーマンスが良いと考えている。余市~小樽で昼間に1日2往復増便するだけなら車両の増備には該当せず、費用の増額は「多頻度化の検討」で増える人件費(1.28億円)の10分の1程度のオーダーで済むと思われる(車両の検査周期が縮むが、人件費と比べて非常に小さいと想定している)。現況との経費の差額が1000万円程度と想定でき、それが余市~小樽を第三セクターで維持するための費用(年間4~5億円の赤字)よりもはるかに小さいことから、(経費の差額負担とJR北海道の協力という前提はあるが)余市町が鉄路存続を本気で考えているなら、パターンダイヤ化を要請するくらいのことは出来るのではないだろうか。行政が費用負担して鉄道の利便性を向上(朝夕に7本増発)した事例は富山市に前例がある(H31年度の予算で約4300万円)以上、不可能とは一概には言い切れないのではないだろうか。
 「わが列車わが鉄路 城端線&氷見線 未来をひらく交通まちづくり(北國新聞社、令和3年11月)」の第3章曰く、パターンダイヤ化には需要の創出効果がある(表現を正確にするなら、氷見線・城端線の例で年約6億円の経済効果がある(増便に係る費用をはるかに上回る))ようである。一方で、本稿の冒頭の図1において富良野線のパターンダイヤを紹介したが、図9で示した輸送密度の推移とダイヤ改正の推移を見比べると、パターンダイヤ化には需要の創出効果が無いようである。JR北海道は後者の事象を自社の路線で把握しており、及び腰になるのは致し方ない部分こそあるが、実際に適用してみないと分からない以上、余市町側で差額を費用負担し、需要創出にどの程度寄与するのかを試す価値はあるのではないだろうか。

図9: 富良野線の輸送密度の推移。平成初期のパターンダイヤ化も、(遅く見積もって)平成28年度の特急接続打ち切りも、輸送密度の推移に何ら影響を与えていないように見える。これを見てしまうと、「パターンダイヤ化したところで需要は増えない」と当のJR北海道が認識していても不思議ではない。

 この資料において、「多駅化」は数年で設置費用が回収できる公算であるし、「多頻度化」は資料の取りまとめ方の都合で一見効果が薄いように見えるものの、毎時1本のパターンダイヤ化するだけであれば費用は少なく抑えられる。また、毎時1本程度までであれば、多頻度化は多駅化の支障にならない(両立可能である)公算が大きい。翻って言えば、三セク転換で想定される赤字額の数十分の一に過ぎない費用を余市町が負担する選択肢を示せない時点で、この区間の鉄路存続に対する町の本気度に対して強い疑問を呈さざるを得ない。上記の選択肢に対してJR北海道が難色を示す可能性は無論あるが、それはあくまで結果であり、「出来ることをしたかどうか」と言う意味では大きな差が生じる。

 ここまで、第10回後志ブロック会議資料2-1「余市・小樽間における多駅化・多頻度化の検討について」に対し、より踏み込んだ考察を行うことを趣旨に筆を進めてきた。余市町が鉄路存続を本気で考えているのならば、この資料を基に提案できる選択肢はいくつか浮かび上がって来る、というのが筆者の考えである。

 なお、次回は第11回後志ブロック会議の資料のうち「余市・小樽間におけるバスの輸送力の検討について」について詳述する。筆者個人としては、高速バスを頭数に入れていたり、無理のあるバスダイヤを想定していたりと、上記資料のまとめ方には強い不満を持っているが、これについては機会を改めて記載することにする。
 
 


2021年12月6日月曜日

函館線(函館・小樽間)について(2)

  前回記事では、平成12年に有珠山が噴火した際、函館本線長万部~小樽間(いわゆる山線)において優等列車や貨物列車を迂回運転した際の状況に触れつつ、現時点で「全線を鉄路存続させるのは極めて困難な状況である」という形でまとめた。今回は、北海道庁のホームページ上の協議資料を題材に、この区間をバス代行輸送及び第三セクター鉄道に転換する場合の必要経費について記述する。全線をバス代行輸送する方が経費及び赤字額をを大幅に縮小できる、という結果がすでに明らかになっていることから、本稿ではまずその具体的な中身について記述する。その上で、これらの資料に記載のない「鉄道の札幌方面への直通可能性と経費について」「バスで通学輸送を行う上での必要キャパシティについて」記述することで、新たな方向性での議論を提起することを目指す。

  まずは、第10回後志ブロック会議において示された資料のうち、第三セクター鉄道及びバス転換後それぞれの、初期投資や年間の必要経費について述べる。

図1 第三セクター鉄道及びバス転換時の収支検討状況

 図1は、ブロック会議の資料のうち「資料1-2_第三セクター鉄道運行の収支予測について」及び「資料1-3_バス運行の収支予測について」について抜き書きしたものである。長万部~小樽を全区間バス転換した場合の年あたり経費3億6700万円に対し、余市~小樽間を第三セクター鉄道に転換した場合の年あたり人件費4~5億円であり、もはや比較にならないことが伺える(資料の別のページ曰く、全区間鉄道の場合の人件費は12~13億円である)。このような資料が世に出れば、「鉄道の運行経費が(人件費だけで)バスの4~5倍オーダーでかかる理由は何か、そもそも内訳はどうなっているのか」という意見が出るのも致し方なかろう。この資料の「見直し」項目は、そのような意見を反映して作成されたものと思われる。両者を見比べると、余市~小樽を第三セクター鉄道に転換する場合、バス転換する場合に比べてトータル収入が0.5億円~1億円上昇することを見込めるが、運行経費の増額はとてもカバーできない、という結果も見て取れる。今後の議論は、沿線自治体が応分の費用を負担できるかどうかに集約され、一般会計ベースで余市町が88億円、小樽市が562億円という予算規模のオーダーの中、年間4~5億円程度と想定される赤字額や、第三セクター鉄道に転換するための40~50億円と想定される初期投資額をどう捻出し、住民の理解を得ていくかが課題となるだろう。

 と、ここまで書くだけだと、全線バス転換という案に対し、第三セクター鉄道が有利な点が何一つ打ち出せていないように見える。そこまでして鉄道を残す案には明確な理由と正当性が要るはずである。筆者は、その理由として考えられるものを以下の3つに集約することにした。

① 札幌や新千歳空港といった大需要地に対する利便性、速達性

② 通勤通学時間帯の需要が大きく、バスが輸送力不足に陥る懸念がある

③ 鉄道の定期券(特に、通学)の割引率の高さ(≒安さ)

 本稿では、現況の後志ブロック会議において、①の論点、特に札幌方面への直通列車の設定に係る費用及び具体的な中身に関して記載された資料が見当たらない状況を踏まえ、より具体的な内容に踏み込んで記載することを試みる。

 まず、余市駅の立地特性であるが、小樽市中心部から約20km、札幌市中心部から約50km、新千歳空港から約100kmであり、生活拠点の意味でも道外からの観光の意味でも、他の年に比べると立地条件に恵まれているという印象を受ける。鉄道での所要時間であるが、ニセコ駅と新千歳空港駅との間で過去に運転されていた臨時列車(ニセコスキーエクスプレス)の一部が余市駅に停車しているが、当時の時刻表(例えば平成9年度冬季)だと、余市~小樽が約20分、小樽~札幌が約30分、札幌~新千歳空港が約40分で結ばれている。札幌駅での停車時間等を含めても、札幌まで1時間弱、新千歳空港まで約1時間40分というのは現在から考えても遜色ない速さである。本記事では、鉄道の直通列車は上記の列車を基準に記載することにする。一方で、新千歳空港までは高速道路で1時間半程度である上、札幌市内の一般道の渋滞の影響を比較的受けにくい。鉄道の優位性があるかと言うと何とも言えず、単に空港から小樽方面に路線バスが出ていないに過ぎない状態である。小樽以東への直通運転に際しては、対バスと言うより、対マイカーで論じた方が良さそうではある。

 次に、余市駅から札幌駅方面に直通する列車のこれまでの経緯について触れる。昭和61年(1986)年に小樽回りの優等列車が廃止されて以降、小樽以東に直通する列車は一部の普通列車に限られていたが、朝夕のラッシュ時間帯を中心に札幌方面への直通需要の割合が高い状況から、JR北海道は「キハ201系」という、電車と連結可能で電車と同等の走行性能を持つ車両を、小樽以西から札幌方面に直通する目的で製造し、平成9年(1997年)から営業運転に用いている。この車両が登場する以前の直通列車は、余市を6:56に出発し、札幌に8:21に到着しており、小樽以東では一部の駅を通過していた(南小樽、小樽築港、銭函、手稲、琴似、桑園のみ停車)が、新型車両を投入し余市7:05→8:20札幌と、途中停車駅を7つも増やし、小樽以東を各駅停車にしたにも関わらず10分もスピードアップしている。小樽以東への需要の割合の(朝夕通勤ラッシュ時の)大きさを当のJR北海道が認識し、他の車両の倍(4億円/両)ともいわれる高額な車両を新製してまで、あえて直通列車を廃止しない選択肢を取った証左であろう。ブロック会議の資料で提示されたOD表において、余市との間のODが、小樽よりも小樽以東(明言はされていないが、おそらく大半は札幌)までの方が多いことにも、その性質が現れているものと考えられる。このような状況下で、第三セクター鉄道が小樽駅を境に分断される前提で資料が作成されているのは、余りにも不自然と言わざるを得ない。以下、第三セクター鉄道が小樽以東に直通する場合に追加で発生する費用に関して、具体的にどのような方法で直通するかで場合分けしつつ記載していく。

図2:長万部~小樽のOD表。小樽までの需要よりも、小樽以東への需要の方が多い。

 まず案1として、現行のブロック会議の資料に見られるように、H100形(北海道内の普通列車用の新型車)をベースにした車両を使用する場合を考える。また、キハ40形(これまで北海道内の普通列車で用いられてきた旧型車)を使用する場合を案2とする。車両の検査をJRに委託することを考えると、ノウハウの現存するこれらの案の実現性が最も高いと考えられる。

 ところで、札幌駅に乗り入れる普通列車の中で(電車ではなく)気動車なのは(非電化区間への送り込みを除くと)函館本線の小樽以西のみであり、この区間を三セク転換すると気動車として運転する必要が無くなる。気動車と電車とでは運転に必要な免許の種類が違うため、JR北海道側にしてみれば、この区間で気動車を運転するための費用(主として人件費)が三セク側からの乗り入れで発生する以上、小樽以東に乗り入れるための人件費等を、三セク側が負担する必要が生じる懸念がある。これに対する答えであるが、「ハイブリッド列車」運転免許は電車か気動車か(2020/01/09付東洋経済オンライン)の記載によれば、電気式気動車は電車の免許、気動車の免許どちらでも運転できる。案2のように旧型の気動車を用いると、気動車の札幌駅乗り入れコストを三セク側が負担することが確実なため、この点で不利が付いてしまう。もっとも、案1で小樽以東をJR北海道の社員が運転して経費を相殺しようにも、相殺相手である車両をJR北海道管内のどこかからいちいち(例えば、本数に余裕がある昼間に)持って来ることになるので、運転経費が三セク持ちである状況にあまり変化がないようにも見受けられる、が。

 ところで、なぜキハ201系が電車並みの性能を要求されたのだろうか。小樽以東の区間では朝ラッシュ時に各駅停車が約5分間隔で走行しているだけでなく、手稲駅(札幌運転所)から多数の回送列車が札幌駅に向かっていて、遅い列車の存在がそのまま輸送力の足を引っ張るためと考えられる。キハ201系が登場した頃のダイヤでは、手稲方面から7:30~9:00の間に札幌駅に到着する普通列車に対し、快速エアポート号並みの性能(721系・731系)を要求し、足が遅いだけでなくドアが少なく乗降に時間のかかる711系をそれ以外の時間帯に振り分けることで、朝ラッシュ時の輸送力を何とか確保していたのである。また、この直通列車には小樽駅で電車を増結する便(913列車、倶知安6:20→7:22小樽7:33→8:18札幌)が存在するのだが、札幌駅に到着する普通列車の多くが6両編成なのに対し、直通列車の需要が6両を満員にするほどの大きさではないことが原因として考えられる。もっとも、電車と気動車の連結は全国で見ても極めて珍しく、電車と気動車の両方の免許を持つ乗務員を必要とする(らしい)特殊な運用であることから、この方法を三セク分離後に取ることは困難と言わざるを得ない。とはいえ、小樽以東への直通運転に際する制約条件として、過去キハ201系を開発する際に要求された性能を頭に置くことは悪くないと考え、あえてこの案に混ぜ込む形で記載した。

 余市駅から札幌駅に向けて直通列車を出すとして、それがキハ201系のような「小樽駅で増結する」方法が取れず、かつH100系やキハ40のように電車と比べて速度の低い車両を用いざるを得ない場合、既存の普通列車を減便しない範囲で設定するには「途中駅を通過し、普通列車と普通列車との隙間に入れる」しか方法が無い。それを具体的に検討したのが図3である。

図3 直通列車検討図(平成12年3月改正ダイヤに対し一部加筆修正)

 この図は、少し昔の913列車(余市7:05→7:25小樽7:35→8:20札幌)を、既存の普通列車と普通列車との間に入れて代替することを想定して作成している。図中の3884Mは、実際は小樽駅を10:15に発車するのだが、913Dの小樽到着の1分後に発車するよう平行移動し、余市→札幌の直通列車の速達性(余市→札幌で55分)を目立たせるためにあえて入れたものである。
 913Dの機能を足の遅い直通列車で代替するためには、(図3で言う)3864Mと913Mとの間、913Mと3864Mの間、3864Mと123Mの間か、どれかに入れることを想定すれば良いように見える。しかし、いずれも手稲からの回送列車か札沼線の上り列車かのどちらかが挟まっていて容易に入らないように見える。回送列車はともかく、札沼線の上り列車とは線路が別なので一見ぶつからないように見えるのだが、到着ホームの組み合わせによっては、札沼線の上り列車と交差してしまうため列車を設定できないのである(※913Mは札幌駅7番線着なので「設定できる」が答えなのだが、札幌駅の構内作業ダイヤが制約だらけになるので好ましい答えではない)。
図4 札幌駅に入線する小樽発の普通列車。この状態では、札沼線の上り列車は札幌駅に同時進入できない。

 筆者は過去に何回も「札幌駅の配線について考えてみる」と題して記事を起こしているが、この中で鉄道・運輸機構が提案した配線改造案を使っていれば、上記の状況が大幅に改善されていたと思うと実に無念でならない。

図5 北海道新幹線札幌駅のホーム位置に関して議論する際、鉄道・運輸機構が出した案を実装したもの。札沼線上りと函館線下りの同時進入に関して、制約条件が大幅に緩くなっている。

 筆者が想定する限りだが、直通列車の設定に関して制約となるのは、車両性能よりも札幌駅での交差支障である可能性が高いと考えられる。仮に車両性能不足であれば、JR東日本の男鹿線や烏山線のように「余市駅構内だけ電化する」という方法や、七尾線のように直流電化するという方法も考えられるだろう。余市まで交流電化する選択肢をあえて挙げなかったのは、全線を交流電化するには、既存のトンネルの高さが不足している可能性が否めないからである。
図6 七尾線(直流電化)で宝達川をアンダーパスする箇所。

図7 蘭島~塩谷に存在する忍路トンネル。高さの制約は図6以上に厳しいように見える。

図8 駅付近「だけ」が電化された烏山線烏山駅。

 本来であれば、「H100形」「キハ40」「キハ201系」「七尾線」「男鹿線」を比較検討した一表を作成して結論を出すべきなのだが、上記の中身を見る限り、「現在の検討案で車両がH100形である限り、直通列車の可能性が無くなったわけではない」「直通列車の小樽以東の人件費は三セク持ちである可能性が高い」「直通列車の設定には、札幌駅構内の作業ダイヤがむしろ制約になる」状況から、いちいち表を作ることは避け、現況のH100形案を踏襲する形で今後も議論することにする。
 
 結果として現在のブロック会議の案と同じになり、一見このような文章を起こすことには何ら意味が無いように見えるが、このような文章化を当方でわざわざ行う理由は、決定の根拠を可能な限り明らかにしておくことで、後世に禍根を残さないためである

冒頭で、鉄道を残す理由として以下の3つを挙げたが、①について具体的に書いただけで大幅に文章量を食ってしまったので、②③については機会を改めることにする。

① 札幌や新千歳空港といった大需要地に対する利便性、速達性

② 通勤通学時間帯の需要が大きく、バスが輸送力不足に陥る懸念がある

③ 鉄道の定期券(特に、通学)の割引率の高さ(≒安さ)


 追伸 ダイヤのパターン化や高頻度化に関しても詳述する予定であったが、ブロック会議の資料は「高頻度化すると経費が増えてかえって赤字がかさむ」という内容となっているため議論を避ける。またパターンダイヤ化については、JR北海道管内でも実施事例がある(平成7年ごろの富良野線。キハ150形の投入で実現可能となったもので、旭川駅でスーパーホワイトアローに10分以内で接続する、当時としては画期的なダイヤと思われる)ものの、乗客増につながった痕跡が全く見られない。パターンダイヤ化は、沿線自治体の協力や利用推進策と一体化して初めて需要が増える可能性があると考えている。「単にダイヤをパターン化しただけで需要が増える」と言う意見に対して筆者は否定的である。

 


2021年11月23日火曜日

函館線(函館・小樽間)について(1)

  北海道庁では、北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)の開業に伴い、北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)から経営分離される函館線(函館・小樽間)について、沿線15市町とともに「北海道新幹線並行在来線対策協議会」を組織し、地域交通の確保に関する検討を行っている。詳細は道庁のホームページに譲るが、このうち「後志ブロック」(長万部~小樽)については、「全区間の存続」「全区間の廃止」「余市~小樽のみ存続」の三案が俎上に乗っており、早ければ令和3年中に開催予定の第11回ブロック会議にて「方向性の確認」が行われる見通しである。

 ところで筆者の手元には、「有珠山噴火 鉄道輸送の挑戦(平成13年3月26日 北海道旅客鉄道株式会社)」という書籍がある。いわゆる山線(長万部~小樽)が、輸送の大動脈として活躍した最後の機会である平成12年(2000年)3月下旬~5月を記録・取材した書籍であり、端的に言って非常に価値があると言える。にも拘わらず、すでに発刊から20年の月日が経っており、入手自体が困難である状況である。今回は、同書からの引用を中心に、当時の状況を読者の皆様と共有するとともに、山線の存廃議論に資する部分を取りまとめ考察することを目的に筆を進めることにする。

※今回記事において、書籍名を省略しページ数のみ記載されたものは、上記「有珠山噴火 鉄道輸送の挑戦」からの引用であることをあらかじめお断りする。また、暦年を省略したものは、断りの無い限り平成12年(2000年)とする。

図1 本書裏表紙側の付録である「No.3 函館線列車ダイヤ 平成一二年三月一一日改正 12.4.1」から、長万部~小樽のみ抜粋の上、臨時列車を追加した上で電子化した図

 まず、この書籍の一大付録である当時の手書きダイヤ図を、当方でOuDiaを用いて電子化したので、これを最初に紹介したい。有珠山付近で大きな地震を最初に観測したのが3月29日17時22分であり、31日13時07分の有珠山噴火を経て、4月1日に(ほぼ)この形で施行するまでに僅か2日程度の猶予しかない。当時のJR北海道の対応の速さには驚くばかりであるが、同書P14曰く「これは、JR発足後初めて山線迂回運転を行った1999(平成11)年の礼文浜トンネル崩落事故を経て実施した危機管理体制の見直しの成果である」とのことである。

 ところでこのダイヤ図では、迂回臨時特急が定期6往復+臨時2往復(4/17以降追加)、夜行列車が3往復、貨物列車が3往復+2往復(4/17以降追加)と、非常に大きな本数上の制約を受けている上、ところどころ定期列車である普通列車と駅以外の場所で交差している。この状況は、柿沼博彦鉄道事業本部長の巻頭記事にて以下のように説明されている。「唯一の可能性は、地元沿線のお客様のご協力をいただき、ローカル列車すべてをバス代行輸送とし、確保できる最大本数の特急列車、貨物列車を動かすしかなかった。幸い、異常事態、緊急事態であることをご理解いただき、沿線利用者をはじめ支庁、町村の皆様にはこころよくご協力をいただけたことは、いまでも忘れられない。」一方で、同書には普通列車の運休状況が正確には記されておらず、バス代行輸送があったかどうかの手掛かり(例えばP47下部)の記載にとどまっている。また、当時を記録した動画の一部には走行する普通列車が映っており、本当に全列車が運休したのかは疑問の余地がある。このため筆者は、図1のうち普通列車について、運転・バス代行・運休の三者に仕分ける作業を行った上で、図2のような形で整理した。

図2 普通列車を筆者の推測を基に運転(青(キハ201)、ラベンダー(キハ150)or黒(キハ40))、代行バス(緑)、運休(灰)に仕分けたもの。代行バスの本数はP47の列車番号通りとし、運転時分は列車のままとした。
 普通列車の運転の有無は、特急列車が普通列車との行き違いで運転停車しているかどうかや、車両の数の辻褄合わせから判断している。バスの車両数の辻褄が合っていないが、おそらく小樽駅から長万部駅方面に向かって毎日のように回送バスが走っていたものと推測できる。北斗65号と67号との間、62号と64号との間に大きな隙間があり、普通列車の1本くらいなら入りそうに見えるが、夜間の線路容量は貨物列車に埋め尽くされており、昼間に保守間合いの時間を確保するために、あえてこのような隙間を設けたものと推測できる

 この図を見る限りにおいて、旅客列車に関して言えることは、「倶知安以南は、結果的にバス代行出来てしまうのではないか」ことである。道立高校の越境(要するに熱郛~目名を跨ぐ)通学は例外として認められているものの、定員の10%までという記載がある以上、両駅をまたぐ需要が鉄道を必要とするほど大きくなるとは考えにくい。また、「あえてバス代行しなかった、出来なかった」スジも何本かあるように見えるが、いずれも倶知安~小樽の朝方の需要に限られているし、倶知安以南からの通学に使われたはずのスジ(要するに3929D)はバス代行されていて、バスの定員(P49の写真から推測する限り29人)に収まる程度の利用しか無いことが推測できる。ただし、同時に得られる疑問点として、「現在存続が議論されている区間を、余市~小樽に限定して良いのか」というものも考えられる。というのも、仮に倶知安~余市にバス1台で代行できるほどの通学需要しかないのであれば、1928Dのうち倶知安以北(小樽6:12→7:50倶知安)はバス代行されていても何ら不思議ではない。さらに上記の通り、ダイヤ上でバスの数の辻褄が合わず、小樽からバスをいちいち倶知安方面に回送している状況であり、1928Dがバス代行出来るなら、上記の回送を兼ねることも出来たはずである。

 現状、倶知安高等学校は1学年約150人程度の規模であり、一方で倶知安中学校は1学年約120人の規模であるから、域外からの越境通学は相当に少ないものと推測できる。なお実際の数値であるが、第10回後志ブロック会議の参考資料(PDF2MB)の資料曰く、倶知安駅への通学需要はむしろ蘭越、ニセコ駅からの方が多く発生しているようである。平成12年当時は、本州からの寝台列車と時間帯が重なる3929D列車(長万部6:12→7:51倶知安)をやむを得ず運休・バス代行し、輸送力が不足した場合は、始業より大幅に早い3925D列車(蘭越6:20→6:57倶知安6:58→札幌8:58)を用いて輸送していたものと思われる。

 要約すると、「山線迂回運転時は、倶知安以南はほぼ全てバス代行としていたが、倶知安駅への通学需要は蘭越方面からの方がむしろ多いと考えられる」ということである。

図3 第10回後志ブロック会議の資料より抜粋
図4 図3同様抜粋。OD表をここまで具体的に公にした資料は珍しいものと考える。

 さて、貨物列車に話題を移すと、本数が1日5往復に限定されている。図示はされていないが、交換設備の関係で列車の延長が制限され、DD51重連+コキ10両の編成までしか充当できなかった、との記載もある。迂回運転以前の段階で、定期貨物列車だけで18.5往復、コンテナ車の両数にして20両を超えるほどの需要を、1日5往復、コンテナ車10両の列車だけでは到底賄いきれない。実際のところ、「五稜郭貨物駅~札幌貨物ターミナル間のトラック代行輸送(3/29開始)」「苫小牧港から青森港の船便導入(4/1開始)」「長万部駅に仮設コンテナ積卸場を設け、五稜郭~札幌のトラック代行輸送の一部を、一日で2往復できる長万部~札幌に短縮(4/21開始)」(P28-29,P39-40)等、貨物輸送はトラックや船等、鉄道以外の協力を得てようやく凌いでいる。山線の存廃議論のたびに、有珠山の噴火について触れる指摘が散見されるが、新幹線開業までの間に仮に有珠山が噴火したとしても、貨物需要を賄えるほどの線路容量はとても確保できないし、新幹線が開業して主たる旅客列車が新幹線に移行して以降は、ほぼ貨物列車だけのために、域外の沿線自治体が費用負担してまで線路を保有する理由が無い(第10回会議の議事録P1曰く、国、道庁いずれも、鉄道施設の保有には否定的であるのが決定的である)。

 「有珠山噴火 鉄道輸送の挑戦」は、当時の状況を克明に記した書籍であると同時に、普通列車の需要、貨物列車を走らせる上での輸送力の両面から、皮肉にも「長万部~小樽の全線鉄路存続は極めて厳しい状況である」ことを示している。平成12年の6月には目名駅に交換設備を増設している一方で、倶知安駅の交換設備は本年撤去されており、この状況に拍車をかけているようにも見受けられる。「前回昭和52年に大噴火した際の対策・取組等の記録が無く、今回(編注:平成12年)の事態に生かすことが出来なかった教訓として」(P111編集後記)生み出された同書が、結果的に「(北海道新幹線開業以降の)長万部~小樽の全線鉄路存続は極めて厳しい」ことを示している実態は皮肉と形容せざるを得ないが、新幹線開業後の公共交通計画を形成する一助となれば幸いと考え、あえてこのような形で取りまとめることとした。

 なお、部分的な鉄路存続を論じる上で、現況のOD表や平成12年当時の山線迂回ダイヤを見る限り、仁木~余市及び蘭越~倶知安(~仁木)が俎上に乗っても一見不思議ではないように見受けられる。特に仁木~余市については、第10回会議の議事録内で、仁木町長から「地域住民の感情として、余市・小樽間でできるのであれば、仁木もできるのではないかと淡い期待を持つというのも事実」という発言があるのが印象深い。現在の仁木駅に交換設備が無いのは、昭和61年に山線の(現在の)棒線駅から交換設備を撤去する際、然別・余市の両駅に近すぎるのを理由に選定されたというのが実態だろう。この一件については機会を改めて筆を起こすことにする。

2021年5月7日金曜日

緊急事態宣言下の列車運転計画について(2)

  本日5月6日(木)も、JR東日本は首都圏の一部の路線について、朝ラッシュ時の減便を行った。しかし、この日の混雑は4月30日のもの(前回記事)よりも激しく、マスコミでも多数取り上げられた模様である。これを受けてか、明日5月7日(金)について、JR東日本は首都圏各線の減便を取りやめる旨を明らかにした、という状況である。本稿では、本日の遅延実績を四直運用資料室及びJR東日本アプリの混雑状況画面を用いて明らかにすることを目指す。

 では早速、本日朝の列車運転実績について、画像形式でご覧いただきたい。


図1: 令和3年5月6日 山手線運転実績(抜粋)

図2: 令和3年5月6日 京浜東北線運転実績(抜粋)

 まずは、偶然筆者が巻き込まれた「7時15分ごろ、有楽町駅付近で発生した非常警報装置の作動」に着目したいと思う。京浜東北線は付近の電車がほとんど間引かれていないが、同時間帯にちょうど有楽町駅にいた605G列車は、前の列車が1本間引かれている上に、他の列車と比べても乗車率が高い(図3参照)。この有楽町駅での列車の抑止は、間引き運転を直接の理由として引き起こされた可能性が非常に高いものと推測する。
図3: 有楽町駅での列車抑止発生直前(7:10頃)の混雑状況

 
図4: 山手線(混雑率付加)・京浜東北線運転状況図(抜粋)

 しかし、上記の05G列車だけに混雑が偏った理由は謎である。確かに直前のスジは間引かれているが、混雑の主たる要因である、上野以北の各駅からの乗客は、すぐ横を走る京浜東北線のスジ(17A)に分散してもおかしくないはずである。上記のサイトから取得した運転状況から、05Gと17Aがどちらが先に到着・出発したかまでは読み取れなかったし、当方で京浜東北線の混雑率まで取得しなかったので確証は持てないが、両者間で乗客を融通出来れば、混雑がここまで極端に偏らなくて済んだ可能性はある。

 図4をご覧いただくと分かる通り、7時台後半になると、間引き運転が直接の理由かどうか不明な遅延が多発している。これでも、大崎駅始発の39Gを、上記の理由で大きく遅れた05Gが品川に着くまであえて発車させなかったり、所定の列車順序を変えない範囲で混雑を偏らせない工夫は散見される。一方、39Gの直前の大崎始発である37Gは、大崎を発車して以降、新宿駅まで走り去ってしまい、39Gとの間隔が大きく空いてしまっている。間隔が不均等になってからどこかしらの駅(今回の場合、新宿)でわざと長時間停車させるまでの間に15分近く要しており、運転整理自体が追い付いていない可能性が示唆される

 図4で示した7時台後半の時点で、すでに混雑の理由が間引き運転に起因するかどうか、判別が困難な状態になっており、マスコミが大混雑を報じる際に使っていた、8時半頃のライブ画像は、混雑が何を理由に引き起こされたかは何とも言えない。もっと前の時間帯から間引きを理由に列車間隔が歪になっていたし、運転整理がうまくいかず、さらに混雑が偏ったのも事実である。そもそも、この程度の混雑は、多少列車が遅れれば、日常的に発生していたようにも見受けられる。前回記事で指摘したように、小規模な遅延に対する運転整理が総じてうまくいっておらず、その一因として、大崎・池袋始発の列車を、遅れた定期列車よりも先に出すことが出来ていない」があることは否定できない筆者としては、遅延の理由は「間引き運転」「運転整理の課題」の両方にあると受け止めているが、マスコミの報道等を見る限りでは、後者を指摘する意見は皆無であり、乗客も概ね「間引き運転が原因である」と受け止めている様子である。
 
 ところで、6日昼の時点で「7日の間引き運転を取りやめる」という報道発表があったが、前日昼に突然列車を増やすのは、乗務員等を確保する都合上、極めて困難であるはずである。筆者の推測だが、7日は間引き運転を取りやめる(通常ダイヤに戻す)ことを、間引きダイヤを最初に実施した4月30日の時点ですでに織り込み済みで、間引く予定だった列車の乗務員は、あらかじめ確保していたのではなかろうか。

 今回、行政側から半ば無理矢理な形で要請された間引き運転であるが、民鉄各社は、もともと利用の少ないスジを間引く、と言う方法で事実上無力化する方向で応じている(※特に、立場が立場であるにもかかわらず、他社との直通列車のある路線で一切間引き運転を行わなかった都営地下鉄には「男気」すら感じる。)。これに対し、あえて間引き運転に応じたJR東日本は、「感染拡大防止のためという理由で、通勤電車を間引くのは誤りである」というコンセンサスを形成するのに成功したのではないだろうか。このために、自社の運転整理が(他の民鉄各社と比べて明らかに)劣っていることすら利用していたとすれば、筆者は脱帽せざるを得ない。

 最後に唐突であるが、10年前に実施された計画停電、及び電力使用制限令に際して、鉄道各社が半ば無理矢理要請される形で間引き運転を実施した際を想起しつつ、以下の文言を添えて筆を置きたいと思う。

 あるべき感染拡大防止の概要は、(1)通勤需要の減、(2)列車間隔の最小限の延長、(3)列車の削減の順で、いきなり列車削減を論じるのは大変大きな誤りである。


曽根悟:長期的節電要請に対する電気鉄道のモデルチェンジの提案,JREA, Vol.54 No.9,pp36253-36260,2011





2021年4月30日金曜日

緊急事態宣言下の列車運転計画について(1)

  本邦では3度目となる緊急事態宣言(令和3年4月25日から同5月11日まで)の発出に起因して、首都圏を走る列車に対する減便要請が行われた。これを受け、主としてJR東日本の朝夕時間帯を中心に、4月30日(金)、5月6日(木)、5月7日(金)において列車の削減が行われた。対象となった線区は、他の路線との直通運転の比較的少ない路線に集中しているが、このうち山手線について、間引き運転の前後で比較できる形で、ダイヤグラム形式で整理したのが図1である。

図1:令和3年4月30日山手線列車運転計画図(抜粋)

 この図を見る限り、「朝ラッシュ終了後に大崎に入庫する運用を集中的に運休させている」ことが伺える。筆者がこのダイヤを初めて見た際の感想は「さもありなん」といったところだが、よくよく考えてみると、等間隔で運転している列車を1本間引くのであれば、乗車率を半分以下に抑えない限り、その1本後の列車が混雑するのは自明である。いくら連休中日で乗車率が比較的低いとはいえ、乗車率が半分にまでは落ちない、ということであれば、本来であれば間引いた直前のスジを後ろ倒しすべきである。とはいえ、今回の急な要請を受け、急に間引き運転を行う以上は、そこまで入念に準備できなかった、というのが実情ではなかろうか。

 さて、いざ4月30日の朝7時を迎えると、すでに間引きとは関係ない理由で遅延していた。池袋駅付近で埼京線に起因する防護無線を拾ったためと聞いているが、この影響で列車間隔はラッシュが終わるまで歪なままであった。図2は、https://nkth.info/traffic_info/から画像形式で抜粋した、同日の山手線の運転実績である。

図2:令和3年4月30日山手線運転実績

  筆者は概ね午前8時ごろまでの間、現地で様子を見ていたので、JR東日本アプリの「混雑情報」を織り込んだ形で(図3のように、同一時間帯のスクリーンショットをかき集める形で)ダイヤ図に再度整理した。
図3:JR東日本アプリのスクリーンショット(7:19頃)


図4: 令和3年4月30日の山手線運転実績(抜粋)

 着色した個所は、その時間帯の混雑率を表している。概ね、列車間隔の開いた後のスジが混む傾向にあることは、寺田寅彦氏によって大正時代から指摘されている事象である。
 間引き運転の影響を直接受けているのは、この図で言うと内回りの00G列車であり、内回りの駒込駅付近で混雑が観測されている。どちらかと言うと、普段と大して変わらない常磐線のダイヤよりも、平日ダイヤを土休日ダイヤに変更した日暮里・舎人ライナーの影響で、混雑する列車がやたらと固まったことも一因として考えられる(確証は無いが)。
 一方で、池袋駅付近で防護無線による遅延が生じた際、列車間隔が歪になっている。幸か不幸か運転再開は比較的早く、10分程度の抑止で済んだようであるが、その後の運転整理のやり方の影響で、運転間隔の平準化がうまくいっていない。
 外回りは渋谷付近で間隔調整を行っているにもかかわらず、大崎駅で始発列車を割り込ませる順序を変えなかった(大崎駅で、定時に出せる始発列車(例えば35G、定刻7:15)を、遅れた定期列車(17G、定刻7:12、この日は9分延)が来るまで出せなかった)影響で、列車間隔に濃淡が生じている。01G~17Gは間隔が疎で、所定の順序を守って17Gを待ってから始発列車を割り込ませた21Gまでは密である。21Gが大崎駅をやっと定時に出た後、その1本後にあるはずの始発列車(41G)が運休していたのですぐ後ろの07Gまでは間隔が空いてしまっている。なお、07Gは、8時ごろ2度目に高田馬場駅付近で二度目の防護無線が発報された際に付近にいた列車である。列車間隔の歪さが、二度目の防護無線発報を誘発した可能性は否定できない。
 なお同様の事象は内回りでも生じている。池袋始発を定期列車より先に出せなかったのは、運転見合わせに直接巻き込まれている以上ある程度致し方ないのだが、大崎始発(26G、定刻7:11始発)が、その前のスジ(66G、定刻7:08発、当日は8分延で7:16発)が出るまで発車出来なかった影響で、02Gと14Gの間に大きな隙間が空いてしまっている。これだけ大きな隙間が空いていて、よく何事も起こらなかったものだと思う。
 筆者がこのスジを打ち込んでいて驚いたのは、10年ほど前は1周60分、ラッシュ時でも62.5分だった山手線が、いまやラッシュ時で一周67分近く要していることである。しかし、この日のスジは全体的に定時より立っていて、半周で2分程度詰めているものも存在する。要するに、4月30日は全体的に駅の停車時間が短く、それだけ普段より乗客が少なかったことを示唆しているように見受けられる。
 
 長々と書いたが、今日の山手線の状況を見る限り、「間引きそのものと言うよりは、1度目の防護無線発報後の列車間隔調整に難儀し、結果的に混雑を誘発した」「大崎・池袋始発の列車を、遅れた定期列車よりも先に出すことが出来ていないことが一因である」ように見受けられる。

 緊急事態宣言下の列車運転計画やその実績は、あまりに急な対応を求められるため、10年以上経ってから当時の状況を知るのは困難である。こうした背景から、今後も「可能な限り」という但し書きは付くが、状況を記録するよう努めたいと考えている。