おことわり
本件は、2022年11月に予定されている京急線のダイヤ改正について、10月30日現在の当方での予測状況を簡潔にまとめるためのものである。
プレスリリースの記述自体との整合作業は未了であるが、現時点でおおまかにまとまったので画像として掲載する。
図1:10月30日時点での妄想結果。 |
図2:図1の解像度を上げただけのもの。まじまじと眺めたい人向け。 |
今回の記事の趣旨は、JR East Train Simulator で運転できる路線のうち、京浜東北線の大宮~南浦和の区間について、最も省エネルギーとなる運転方法について追求することである。本稿では前提として、「等増分消費エネルギー則による運転時分配分を行う」「速度によらず、機器効率は92.5%、ギア効率は97.0%とする」「加速中の架線電圧は列車の位置や速度によらず1350Vとする」「補機(冷房等)による消費電力量は考慮せず、純粋に走行のみに起因するものを対象とする」「回生ブレーキによる負の消費電力量は評価しない(※ブレーキの効きとしては評価する)」「個々の運転曲線は、最大加速→惰性走行→最大減速(1段制動、残り10m程度から多段緩め)を原則とする」を置く。
では早速、大宮~南浦和の5つの駅間について、消費電力量を縦軸、運転時分を横軸に取って図示する。
図1 縦軸に消費電力量、横軸に運転時分を取った、両者の関係図(いわゆるW-T曲線) |
図2 図1を作成する際に用いた運転曲線の一例(さいたま新都心→与野) |
縦軸に消費電力量、横軸に運転時分を取り、運転曲線を複数通り作成した上でプロットすると、傾きが負で下に凸の曲線が得られる。回生電力量を考慮しない場合の消費電力量は、概ね最高速度の二乗に比例する上、最高速度を上げれば上げるほど惰性走行の時間が短くなるので、グラフの左側では傾きが急になる現象がみられる。
ここでは、大宮~南浦和の運転時分の合計を一定値としたとき、各駅間に何秒ずつ割り付けるのが最も省エネルギーであるかを論じる。この仮定は、「採時駅である大宮駅の発時刻と南浦和駅の着時刻を固定した状態で、各駅に何秒早着(もしくは延着)するのが最も省エネルギーであるか」を論じているのと同等である。「省エネルギーな列車ダイヤ作成のための簡易数理モデル」によれば、図1で言う曲線の接線の傾きがすべて同じとなる状態が、最も省エネルギーな運転時分配分とされる。図1においては、所与の運転時分に対するグラフの傾きを図示したが、大宮~さいたま新都心~与野は傾きが緩やか(運転時分が余る)で、与野~北浦和~浦和~南浦和は傾きが急(運転時分が足りない)という傾向がみられる。これらの傾向を基に、「接線の傾きがすべて同じとなる状態」を再現すると下記のようになる。
表1 運転時分の割り付け変更に伴う省エネ効果。元々の運転時分(※10月3日のアップデート以降)の配分は比較的理にかなっており、割り付けを変更した際の省エネルギー効果は思ったほど大きくはなかった。
図3 接線の傾きが全て同じになるよう運転時分を調整した状態。 |
次回は、高速域で回生ブレーキ力が不足することに起因する、ブレーキパターンの見直しによる効果について考察する予定である。
今回筆を起こした背景は、前回記事のリリース後、本シミュレーターの2022年10月3日のアップデートの影響を受け、浦和~南浦和の運転時分が20秒も短縮になったので、ランカーブを慌てて書き直したことにある。
図1: 区間運転時分の変更(2'10"→1'50")に伴う運転曲線の変更 |
ノッチオフ速度を43km/hから63km/hに変更した程度で運転時分が20秒も変わるのか、と聞かれると、この図の通り「変わる」というのが答えである。ノッチオフ速度と言うよりは、その先の下り勾配による運動エネルギーの加算により、巡航速度が55km/h程度から70km/h程度にアップする、という言い方が正確かもしれない。
この区間の運転時分を20秒詰める代わりに、最高速度が1.5倍近くになっている。運動エネルギーを速度二乗で近似すると、2倍近くの消費電力量になると推測できる。もっとも、この区間に関してはアップデート前が遅すぎた説が有力なので、運転シミュレーションとしてみれば妥当な変更だろう。
この区間の運転時分変更に伴う、大宮~南浦和の各区間への所要時間の割り付け方に関する方向性の考え方については、今後の課題とする。
閑話休題 このシミュレーターは、バグなのか不明だが逆走が可能である。逆走は駅を平然と通過できるので、例えば浦和→大宮の中距離電車を逆向きに眺めた結果を近似的に再現できる。この際の運転曲線の、実測値と当方で考える理論値を図示したのが以下のグラフである。
あとがき ところで、このゲームのリリース以来、掲示板では様々な議論が交わされているものの、浦和~南浦和で運転時分が余る、という報告は上がっていないと認識している。同区間の運転時分は、いったい何をきっかけに見直すことになったのだろうか……?
図2: 浦和→大宮を逆走して得られた結果。走行抵抗に若干の過小(70km/h付近)・過大(100km/h付近)の見積もりが見られると思われる。今後、これらの整合を取るための走行試験が必要と思われる。 |
令和4年9月20日のこと、「JR東日本トレインシミュレーター」がリリースされた。 記事執筆時点でプレイ可能な路線は、京浜東北線の大宮→南浦和の区間と、八高線(+高崎線)の高崎→群馬藤岡の区間である。この記事をご覧になる前に遊びたいという方は、さっそく下記のリンクからアクセスいただきたいものである。
https://store.steampowered.com/app/2111630/JR_EAST_Train_Simulator/
「トレインシミュレーター」シリーズは、向谷実氏が社長を務める「株式会社音楽館」が開発を担当している。過去に発売された作品は、実在の路線を撮影した動画を基に作成されており、電車でGO!!シリーズのように路線自体をCGで再現するものとは根本的に作り方が異なっている。アーリーアクセス版ということで、ゲームの作り込み度合いとしては、改善可能な箇所が多数残されている状態ではあるが、筆者はこの作品が発売にこぎつけたことを高く評価したい。
図1:与野~北浦和で車両性能をひたすら測定しようとする筆者。この区間で73km/hも出すと大幅に早着する。 |
さて、筆者がこの手のゲームを入手してすぐに行うことは、まず何度も走らせたうえで車両性能を測定し、理論値との答え合わせを行うことである。今回は京浜東北線のE233系1000番台を対象としたが、思った以上に整合性があることが判明したので、まずはお伝えしたい。
図2:加速する様子を録画してコマ送り再生した上で、横軸に速度、縦軸に加速度×速度二乗を取ったグラフ。理論上は、特性領域で横一直線になる |
列車の加速運動は、発車してからある程度の速度までは等加速度運動で近似できる(①)が、力(N:ニュートン)×速度(m/s)で求められる出力(W:ワット)の制約から、ある一定の速度以上では、出力が一定(つまり、力-加速度は速度に反比例する)になるよう制御される(②)。さらに、ある程度速度が出て来ると、電動機は一切制御されない状態となり、力-加速度は速度の二乗に反比例する(③)ようになる。詳細は運転理論の教科書に譲るが、概ね以下図3及び表1のような関係になる。
図3:いわゆる速度-引張力曲線の模式図 |
表1:各速度領域の特徴
略称 | 低速域(①) | 中速域(②) | 高速域(③) |
通称 | ・トルク一定領域 ・VVVF制御(電圧、周波数の双方を制御) | ・パワー一定領域 ・定電力領域 ・すべり加減制御 | ・特性領域 |
旧型電車での呼称 | ・抵抗制御 ・直並列制御 | ・弱め界磁制御 | ・特性領域 |
列車運動の特徴 | ・概ね、等加速度運動で近似できる | ・加速度が、概ね速度に反比例する | ・加速度が、概ね速度の二乗に反比例する ※旧型電車の場合、磁気飽和曲線の制約から、この比例関係は割と不正確である。 |
エネルギー消費の特徴 | ・電気抵抗を回路に挟み込んで制御するため、エネルギーの一部は熱として捨てられる(抵抗制御) ・直流から任意の正弦波を取り出して制御するため、車両側でのロスは小さい(VVVF制御) | ・主回路電流が相対的に大きいので、回路の内部抵抗によるロスが相対的に大きい | ・逆起電力の増大に伴い、回路のロスは速度が上がるとむしろ下がる |
電流 | ・一定になるよう制御する | ・主回路の界磁電流もしくは界磁の長さを減ずる(弱め界磁制御) ・一定になるよう制御する(すべり加減制御) | ・理論上は、速度に反比例して下がる |
電圧 | ・回路に挿入する電気抵抗を少しずつ小さくすることで、端子電圧が少しずつ大きくなるよう制御する(抵抗制御) ・電圧V/周波数Fが一定になるよう制御する(VVVF制御) ・結果として端子電圧は概ね速度に比例する | ・一定になるよう制御する(架線電圧がそのまま印加される) | ・一定になるよう制御する(架線電圧がそのまま印加される) |
制約の物理的要因 | ・鉄輪の摩擦限界による上限 | ・電動機の冷却性能(いわゆる連続定格、1時間定格)による上限 | ・電動機の特性による上限 |
今回、「JR東日本トレインシミュレーター」で用いられている車両の性能を細かく調べたところ、業務用シミュレーターだからかどうかは分からないが、思った以上に表3や図1の関係性が再現されていることが分かった。筆者はこれまで、省エネルギーな列車運転の方法論について過去に記事(例えば、計画停電を防ぐ「節電ダイヤ」の方向性について(1))を起こしているが、シミュレーターが実際の物理現象を(ある程度、という但し書きは付くが)再現しているとすれば、シミュレーター上で省エネ運転を検討する際にも非常に有用である。
上記の記事では、「運転時分を最速から5秒程度増やすと2割程度の省エネが実現できる」という書き方をしているが、本シミュレーター(のうち、少なくとも京浜東北線の大宮→南浦和)で設定された運転時分は、最速から15秒近く余裕を持って設定されており、突き詰めて運転すると運転時分が異常なほど余る。そこで筆者は、設定された運転時分を使い切れるようなランカーブを設定するため、大宮~南浦和の全5区間に対し、以下のような図を用意した。
図4:大宮→さいたま新都心間の運転曲線。速度制限が解除されても、大して加速する必要は無さそうだ。 |
図5:さいたま新都心→与野の運転曲線。与野駅手前の上り勾配で結構速度が落ちるので、速度選択は慎重に行いたい。 |
図6:与野→北浦和の運転曲線。この区間は勾配が少ないので、車両性能を測定するのに適している、と筆者個人的には思う。 |
図7:北浦和→浦和の運転曲線。この区間の余裕時分は(他の区間に比べると)少ないが、浦和駅手前の上り勾配で速度を失いやすい上、その割に惰性走行の区間が長いので、速度選択は慎重に行いたい。 |
図8:浦和→南浦和の運転曲線。採時駅(南浦和)の手前だからか、余裕時分が長めに取られている。出発してすぐに下り勾配があることもあり、速度選択は慎重に行いたい。 |
図9:北浦和→与野の運転曲線(図6)と同じケースに対し、縦軸にパワー/質量を、横軸に時間を取って図示した。グラフ上の面積は(単位質量当たりの)消費エネルギーを意味する。 |
西九州新幹線(武雄温泉~長崎)の開業が令和4年9月23日に予定されている。これを受けて本記事では、具体的にどのような列車運転計画が作成されるか、予測を試みることにする。まず最初に、ダイヤを予想する上で最も決め手となりやすい「博多駅における新幹線の着発時刻」に着目した上で、以下の図を作成する。
図1:博多駅付近パターンダイヤ図 |
・リレーかもめ号の武雄温泉駅折り返し停車時間が最小(12分)になる。佐世保線特急は武雄温泉駅付近での行き違いが想定されるため、その際に武雄温泉駅で必要となるホームの数が少なくできる。
・新幹線の最速達列車を枠A、各駅停車を枠Cに割り振ると、接続関係のバランスが比較的良い。
図2:佐世保線特急を枠Bに割り振ることを想定したダイヤ図 |
図3:九州全体パターンダイヤ図(2001年) |
本日、小樽~余市のバス転換に道、小樽市及び余市氏が同意したとの報道があった。この区間の存続をめぐっては、余市町長が存続を再三主張してきただけに、その出方に注目が集まっていたところであった。
余市町は、「輸送手段の確保を条件に」協議を進めてきたものの、「迅速さや大量輸送と言った利便性の確保と交通拠点の整備について、道の確約が得られた」として合意した模様である。
当方では、この区間の存続に向けて可能な方法を探ってきたが、どれも厳しいことが浮き彫りになった中での廃線であり、非常に残念であるというのが率直な感想である。
現時点では、以下の点が課題として残っているように見受けられるので、今後はこれらの点を中心に筆を進めていきたい。
・朝ラッシュ時における輸送力不足及び渋滞対策について
・倶知安町における廃線前倒し案について
・長万部以南の存廃議論に向けた新たな事業スキームについて
・↑に付随して、785系引退後のすずらん号のあり方について
廃線の方向性がほぼ決まった関係で、筆の進みが遅くなることは否めないが、今後ともお付き合いいただければ幸いである。
2022年(令和4年)3月22日を中心に、制定以来初となる「電力需要逼迫警報」が発動された。主たる原因として「(3月16日に発生した)地震による多数の火力発電所への被害」「低温に伴う電力需要の増加」「悪天候に伴う太陽光発電の実績低迷」はほぼ間違いないと考えられるが、これ以外の原因については、報道各社ごとに異なるものを挙げている状況である。
そこで本稿では2022年(令和4年)3月23日の新聞(朝刊)を対象に、要因として挙げられている事項について、報道各社での相違について考察したいと思う。まるで中学生の国語の宿題のような筆の進め方であるが、筆者が中学校で国語の教師から出された課題がこの構想の発端であるため、その辺りは割り切って目を通していただければ幸いである。
なお、下記のA新聞~F新聞は、在京の売店において容易に購入可能である「朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、読売新聞」のいずれかを指すものとする。どれがどれに該当するか、類推しながら読み進めていただくのも一興と考え、あえてこのような形を取ることにする。
項目 | A新聞 | B新聞 | C新聞 | D新聞 | E新聞 | F新聞 |
地震による火力発電所の停止 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
悪天候による太陽光発電の出力低迷 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
気温の低下による暖房需要の増加 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
警報発令の遅れ、見通しの甘さ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | |
電力会社間の相互融通能力不足 | △ | △ | ◎ | ◎ | ||
原子力発電所の稼働不足 | ○ | × | ○ | ◎ | ○ | |
大需要家の対応遅延 | ◎ | △ | ||||
揚水発電容量の枯渇 | ◎ | ○ | △ | |||
老朽火力の廃止 | ◎ | ○ |
表1で挙げた個々の要因の中で、新聞社間で大きく差がついているのが「原発」の部分であり、その特徴故に、どれがどの新聞なのか、半ば浮き彫りになっている。これらの特徴を基に、各新聞記事に対する良し悪しを筆者の独断と偏見によって評定したのが表2である。
新聞社 | 評価点 | 課題点 | 総評 |
A新聞 | ・故障火力発電所の一覧有 ・家庭での節電策が充実 ・節電する市民の苦境を掲載 | ・原因分析が無いに等しい | ・市民としての節電協力に対し、共感を得たい読者に適する ・問題意識を持って読むには適さない |
B新聞 | ・電力自由化に伴う老朽火力の退出を記載 ・故障火力発電所の一覧有 ・京急線の一部運休(ウィング号)に触れている | ・課題提起が総じて中途半端 ・原発再稼働に対するスタンスも中途半端 ・50Hz-60Hz間送電能力不足の記載無 | ・多方面に課題提起しているのは良いが、方向性が見えない ・純粋な情報収集向けだが、紙面の広さでE新聞に劣る |
C新聞 | ・大需要家の協力が遅かった(午前中の節電効果が低かった)ことに言及 ・揚水発電の原理を図示 ・今回の事象がkW(パワー)でなくkWh(エネルギー)不足であることを理解して書かれた痕跡がある | ・反原発の記述に定量的な根拠が無い ・列車の間引き運転を提案。いきなり列車削減を論じるのは大変大きな誤りである ・揚水発電を「だぶついた」電力と表記しているなど、総じて記事内イデオロギーの整合性が低い | ・揚水発電容量や大需要家の協力遅延等、独自の着眼点は優れている ・しかし結論ありきの編集によって上記の長所が台無しになっている |
D新聞 | ・原発の再稼働に触れつつ、50Hz管内での再稼働がほぼ出来ない前提で書かれており、比較的実現可能性のある提案になっている ・揚水発電の残量に関する記述がある | ・1面に記事を載せない ・警報発令が遅延したことに全く触れていない | ・50Hz管内の再稼働が無い前提は、コア読者の共感をむしろ得やすいのでは? ・警報発令遅延に触れなかった理由が謎 |
E新聞 | ・この事案に対して大きな紙面スペースを確保しており、原因として挙げている事象の数も多い ・家庭での節電策を記載するスペースを割ける ・揚水発電の残量に関する記述がある | ・原発の周辺住民(特に柏崎刈羽)の感情を逆撫でする懸念が大きい ・揚水発電が蓄電池であることを十分理解せずに書かれており、原発との相性の良さに触れていない点は非常に残念 | ・紙面が広い、その一点だけでも大いに価値を見出せる ・原発再稼働の主張のあまり、冷静さを欠く記述が散見される |
F新聞 | ・企業の自家発電への切り替え、売電に関する記載が充実、具体的な数字もある(68件に自家発電の出力増強を打診して15件から了解を得て23.5MW相当) ・午後3時以降の節電効果が高かったこと(≒午前中の節電効果不足)を認めている | ・原発再稼働を課題に挙げながら、電力会社間の相互融通に一切触れていない | ・企業の取り組みを数値化し掲載したことは大きい ・原発再稼働が「主張しただけ」になっているのは課題 |
総合 | ・一長一短であるため、単純に情報源は多いほうが良い | ・供給力100%のうち何%が揚水発電なのか、東電が提示しているにも関わらず6社とも記載が無い | (D新聞以外)全社が挙げている警報発令遅延については、今後の掲載が待たれる |
昨日、第11回後志ブロック会議の議事録が公開された。今回は、この議事録の内容とその背景を考察することを目指して筆を進めてゆく。なにぶん、議事録の分量が非常に多いため、記事が長文化することをご容赦願いたい。
まず冒頭で国交省から説明のあった、「地域公共交通確保維持改善事業」について具体的に記してゆく。
図1:地域公共交通確保維持改善事業の概要。運行経費に対する補助は、バスは対象に出来ても鉄道は出来ないことを端的に示している。 |
さて、上記の立場において余市町が取り得る選択肢はいくつかあると考えられ、その一つは「貨物調整金の適用」であるが、2/14ページに記載があるように、新潟県が旧信越線での適用を実現させたこの事例は、適用を明確に否定されている。筆者は函館線(函館・小樽間)について(1)において、平成12年に実際に迂回運転を行った際の輸送力について記述したが、特に貨物列車は従前の10%程度の輸送力しか発揮できず、船とトラックが実質的に代替していたことを記載した。輸送力の明らかな不足と言う実態は、理屈を曲げてまで適用することの正当性を事実上否定している、というのが筆者の考えである。
次に、主に4/14ページにおいて「並行在来線の経営分離の中身の見直し」について記載があるが、これについても国交省、JR北海道ともに否定的であり、実現は事実上困難であるように見える。現状の電化区間が小樽以東で、小樽以西は既設トンネル径の都合上電化が困難である、という理由から、筆者は経営分離の区間設定に(ある程度の、は付くが)合理性があると考えており、深入りは避ける。
最後に、経営安定基金の活用について、5/14ページにおいて余市町長が繰り返し質問し、国交省が「三セクに経営安定基金を充てることはございません。」と繰り返すやり取りがある。しかし、特に5ページにおいて、余市町長の質問も国交省の回答も実質的に全て同じ文言である上、それが議事録に残っていること自体極めて不自然である。この理由についてはのちほど考察する。
次にJR北海道の発言に移る。具体的には「経営分離の見直し」「(赤字補填を前提とした)運行受託」「第三セクター鉄道への支援」の3点であるが、1点目は先述の通り経営分離見直しを否定したものであるから再掲を避け、2点目の運行受託について重点的に記述する。以前から筆者は、余市~小樽間の存続に向けた議論において、札幌方面への列車直通が項目として見当たらないことが不自然であると考えてきた。JR北海道が(赤字補填という条件付きではあるが)運行受託の可能性を否定しなかったことは、小樽駅を挟んだ直通運転を行う上で大きな第一歩であると言えるだろう。ただし、赤字補填が前提である以上、「鉄道の運行以外の方法で赤字を補填できる」手段には決してなりえない。JR北海道から運行受託に関する回答は得たものの、筆者にとって、直通運転の可能性が高まったこと以外のメリットはあまり見出せないというのが実情である。
※2022/01/16追記 JR北海道への経費補填の手段として、3セク鉄道がJR北海道に対して不当に安い金額で運行を委託し、それによって生じた分の赤字が「経営安定基金」を通じて補填されるケースを想定したとき、絶対にあり得ない、とまでは言えないと考えている。ただし、このような方法を認めてしまうと、JR北海道(とJR四国)では、ローカル線の廃止が「赤字」とは全く関係なくなる、という点で現実味を欠いていることに留意が必要である。
今回は、「第10回後志ブロック会議資料2-1「余市・小樽間における多駅化・多頻度化の検討について」」に絞って記載していく。
まずは、多駅化、多頻度化の検討についてイメージを具体的にするため、1990年代後半に富良野線で実施されていたパターンダイヤを例示する。
図1:1998年(平成10年)頃の富良野線の列車運行図表。旭川~美瑛では1時間に1本(ほぼ)等間隔に列車が来る上、旭川駅で札幌方面の特急列車と接続する。札幌~美瑛の所要時間はほぼ2時間であり、利便性が非常に高い。 |
図2:2021年11月現在の富良野線の列車運行図表。旭川~西神楽に行き違い可能な駅が無いため、札幌方面特急との接続は、どちらか一方向であきらめざるを得ない。美瑛から札幌に向かうには2時間半~3時間を要している。 |
図4:2002~2015(平成14~27)年度ダイヤとの接続可能性検証図 |
図5:2002~2015(平成14~27)年度ダイヤとの接続可能性検証図その2 |
図6:2020(令和2)年度以降ダイヤとの接続可能性検証図。 |
図7:「多駅化の検討」から抜粋。これだけ見ると、駅の増設費用は、北海道新幹線の札幌延伸開業を待つまでもなく、1~2年であっさり回収できてしまうように見える。駅の新設でスジが寝る分の費用が含まれていないが、「多頻度化の検討」で増える人件費(1.28億円)の5分の1程度のオーダーと思われる(余市~小樽が片道30分→36分に増えると見積もれば、本数を1.2倍したのとほぼ同じである)。 |
図8:「多頻度化の検討」からの抜粋。 |
図9: 富良野線の輸送密度の推移。平成初期のパターンダイヤ化も、(遅く見積もって)平成28年度の特急接続打ち切りも、輸送密度の推移に何ら影響を与えていないように見える。これを見てしまうと、「パターンダイヤ化したところで需要は増えない」と当のJR北海道が認識していても不思議ではない。 |