2023年3月21日火曜日

北海道ボールパークへの交通アクセスについて(2)

  前回記事を投稿して以降、北海道ボールパーク付近に設置する新駅設置費用の高騰に伴い、位置をずらす選択肢について報道があった(JR北綿貫社長 新球場隣の新駅、「場所をずらすことも含め検討」…費用の増大に北広島市議会が難色を示し)。これを受けて、西の里信号場が俄かに話題に上がったこともある(例えば「西の里信号場復活か…?」)。筆者としては、西の里信号場とボールパークとの距離が約2㎞もあり、北広島駅とさして変わらない位置に新駅を作る意義が薄いようにも思えるが、ボールパーク新駅の機能のうち、列車の追い抜きを西の里信号場に持たせる選択肢までは否定できないと考える。

 本稿では、西の里信号場が機能を開始した平成4年(1992年)頃の計画にに立ち戻り、なぜこの信号場を設置したのか、推測を試みることにする。

 まず早速だが、千歳線の配線図が現況とほぼ同じ形になった平成6年頃の配線図及び当時考えていたであろう用途を図示する。

 

図1:平成6年(1994年)ダイヤ改正時点での千歳線の配線概略及び想定用途図

 平成6年といえば、スーパー北斗がデビューした時期であり、JR北海道が千歳線での特急列車高速化に対し、最も意欲的であった時期と言って差支えなかろう。この頃すでに、711系を千歳線の普通列車から(朝ラッシュ時を除き)撤退させるなど、千歳線の輸送力を限界まで高めようという方針が垣間見える。一方で、貨物列車はDF200形ディーゼル機関車の生産が始まったばかりで、すぐには貨物列車を高速化できる状況ではなかった。このような状況下で、千歳線に副本線を持つ駅を増やす計画を立てたということは、特急列車(スーパー北斗)と貨物列車との速度差が最も大きかった時期に立案されたと言えよう。当時の速度差を可能な限り再現するとともに、それを当時のダイヤパターンに落とし込むことを念頭に置いて作成したのが図2である。

図2 平成6年(1994年)当時の、各待避設備の用途を想定するための仮想ダイヤ。

 図1は、図2の16時15分ごろ及び16時45分ごろを念頭に作成した図である。特急列車(青色)と貨物列車(一点鎖線)との間の速度差は、特に新札幌~北広島で顕著に発生していることが見て取れる。新札幌→北広島の約11kmを、特急列車(※当時は、新札幌駅を通過)は約5分半(平均120km/h)、貨物列車は約13分(平均50km/h)かけて走行することとなり、これだけ大きな速度差と所要時間差とを念頭にダイヤを組む苦労が偲ばれる。このような状況下では、上野幌~北広島の8kmにも及ぶ駅間に、信号場を設置したいという発想は決して不自然ではないだろう。
 一方で、信号場を増設するにあたり、どの信号場にどの役割を持たせるかは、様々な選択肢が考えられる。図3は、昭和60年頃(1985年頃)を念頭に、図1と同様の配線図として作成したものである。

図3:昭和60年(1985年)頃を念頭に作成した千歳線の配線図(一部推測を含む)。

 昭和60年の時点で、北広島駅の線路附番規則は現在(札幌方面が3・4番線)とは反対向き(札幌方面が1番線)であった上、現1番線(当時の4番線)はまだ無かったのである。北広島駅の現3番線(当時の2番線)が、上下線どちらからでも出入りできる構造になっているのは、現1番線増設前の名残と考えられる。
 上野幌~北広島に信号場を増設するにあたっては、上下線どちらも(貨物列車が入線できるほど長い)待避線があるのが理想ではあるが、北広島駅は現1番線を増設したばかりであるがために、西の里信号場の副本線(苫小牧方面)が電車6両分程度の短い待避線にとどまったものと推測する。一方で、白石駅の副本線が札幌方面の列車のみに割り当てられている関係で、上野幌駅の副本線をなるべく苫小牧方面の列車に割り当てたいがために、西の里信号場の札幌方面の副本線の有効長は長く取られているものと推測する。
 
 ここまで、西の里信号場の設置当時の経緯を、少しでも具体的に推測することを試みてきた。生まれ変わったばかりのJRが、ある意味で景気が良く勢いのある時代に設置した設備であると言って差支えないだろう。

 さて、2013年に大沼駅構内で発生した貨物列車の脱線事故を契機に使用頻度の低い副本線が使用停止され、西の里信号場もその対象となったものと思われる。リンク先の写真がその状況を物語っているが、2017年4月の時点で、分岐器が撤去されているようである。一方で、筆者が過去に起こした記事「札幌駅の配線について考えてみる(4)」曰く、2017年6月の時点で、快速エアポートを毎時5本に増発するための車両発注計画はすでにあったようである。2017年の春の時点で、上野幌~北広島に新球場を設置する計画がどこまで具体化していたか、それをJR北海道に相談していたかどうかは、新駅の費用負担を論じる上で重要な分岐点である。一方で、日本ハム球団が新球場構想のための具体的な検討に入ったのは2016年12月である(2016年12月19日付スポニチアネックス記事)。その直後に、北広島市が日本ハム球団に対し新駅の設置を含む新球場計画を提案している(2016年12月20日付北海道新聞記事(写し))。
 上記の通り、「快速エアポートの毎時5本への増発」「日本ハム球場の北広島への移転案の浮上」「西の里信号場の副本線撤去」はほぼ同時に発生したものと思われる。従って、これらの時系列を外部から正確に把握することは事実上困難である。とはいえ、新球場を北広島市に移転することが決まったのはその1年以上後であるから、この時点で先に決まっていた西の里信号場の副本線撤去及びエアポート毎時5本化を踏まえ、その差額(ボールパーク新駅の設置+北広島~白石のどこかへの待避設備設置)に相当する費用を原因者(球団ないし新球場を誘致した自治体)が負担するのは、自然なことではなかろうか。

2023年3月9日木曜日

北海道ボールパークへの交通アクセスについて(1)

  この記事をお読みの皆様には周知の事実とは思うものの、北海道ボールパークの工事が着々と進んでいる。一方で、ボールパークへの交通手段については未定もしくは未判明の部分も多い。本記事では取り急ぎ、鉄道によるアクセスについて、現時点で可能な範囲で取りまとめていく。

 まず、ボールパークへの最寄り駅は北広島駅であり、ボールパークからは徒歩にして約20分を要する見込みである。ボールパーク新駅の計画こそあるものの、開業には早くとも令和9年度(2027年度)末までかかる模様である。また、最近になって概算工事費が当初想定の4割増しとなったことも記憶に新しい。ボールパーク新駅をもっと簡素なつくりに出来ないのか、という声もあろうが、過去に同様の趣旨で記事を起こした際と状況は変わっていない。快速列車が12分間隔で走行し、ボールパーク新駅に各駅停車が停まる場合、特急列車は徐行運転を強いられることになる。上野幌の中線を苫小牧方面に譲る仮定を置く限り、特急を高速走行させるためには、北広島→白石のどこかにもう1か所待避設備が必要となる。こうした背景から、ボールパーク新駅には(西の里信号場を無理矢理復活させない限り)副本線設置が必要となった状況である。本稿では新駅に関しては記事を別建てすることとし、今回はこれ以上の深入りを避ける。

図1:時刻表に記載のある野球臨を、筆者の想定を含め図示したもの。

 次に、令和5年(2023年)3月18日ダイヤ改正により、新たに設定される臨時列車について記述していく。現時点で判明している情報を参考にダイヤ図化したのが図1である。北広島~札幌の区間に対し、毎時2本程度臨時の快速列車を設定する予定である。北広島~札幌の所要時間は概ね20分程度であるから、例えば8711M列車が北広島を21時に出て、8715M列車として再度北広島駅を出る22時までには約1時間を要するから、列車をどこかしらから2編成調達できれば、この運転計画は実現可能である。なお、この臨時列車はナイターゲームを想定したものであるから、デーゲームについては本稿での検討対象から外す。ここで、臨時列車に該当する列車2編成を「どこから」持って来るかを、当方の想定にて記載したい。

図2 3両編成2本を連結し、1時間近く札幌駅構内に存在する列車があるので、これ(赤枠)を活用することを想定する。

図3 札幌20:49着の普通列車(緑枠)はUシートが無いので野球臨に適しているようにも見えるが……

図4 緑枠の列車は札沼線に向かってしまうので、その分は手稲から(Uシート有でも構わないので)回送する必要がある(図1で言う回5639M)。赤枠の列車(2816M)に充当するはずの編成はこの時点で白石→苗穂間を野球臨として走行中なので、代わりに手稲行きの回送列車(青枠)を充当することになると想定した。

 想定内容は図の脚注通りであるから再掲は避けるが、20時以降に札幌駅に到着する列車のうち、なるべくUシートの無い列車を充当することを想定している。なお、図2~図4はてんぽく先生の作品である「札幌駅2022秋」から拝借したものである。

 さて、北海道ボールパークFビレッジへの鉄道アクセスについてに記載のある「この他、試合終了時刻にあわせた臨時快速列車を1本運転します。」はどこに留置しておく想定なのだろうか。そもそも、時刻表に記載のある野球臨は北広島駅の3番線(札幌方面の副本線)で折り返す可能性が高い。これは、北広島駅の2番線(苫小牧方面の副本線)がその場での折り返し運転に対応していないこと、島松駅の2番線まで行って戻って来ようとすると1時間で1往復するのが難しいこと、これら2つが原因として挙げられる。ここで、島松駅の4番ホーム(札幌方面の副本線)はバリアフリー工事に起因して閉鎖されており、使用されていないという実態を紹介したい。しかし、筆者がこれまで何度か視認する限り、4番ホームは確かに閉鎖されていても、4番線の線路までは撤去されていないので、「試合終了時刻に合わせた臨時快速列車」は、試合終了まで島松駅の4番線に留置しておくのでは、という仮説を提示したい。なお、北広島駅の3番線は時刻表に記載のある野球臨で埋まってしまっているので、島松駅の2番線はダイヤ乱れ時に普通列車を入線させ、北広島駅の代わりに優等列車を待避するのに使うためにあえて空けておくことを想定した。

図5:北広島駅付近各駅の配線略図及び想定用途。図示したすべての駅で、向かって上側が1番線である。

 ここまで、いわゆる野球臨を具体的に設定する方法を、筆者なりに想定して記載した。輸送力にして毎時9本×約800人(Uシート有6両編成の定員)=7,200人/hを確保しており、JR北海道にしてはかなりの大盤振る舞いである、というのが筆者の感想である。欲を言えば、普通列車の白石待避は有効列車が減るので避けて欲しかったのが本音であるが……。ただし、北広島市の想定では鉄道の輸送分担率は35%であり、球場が満員になった場合は約13,500人(うち札幌方面11,500人)を鉄道で輸送する必要がある。このような事態が生じた場合は、乗車率が200%近くに達することは想像に難くないし、試合終了直後の列車では収容しきれない可能性が高い。野球観戦しているファンの心情と相反することを前提として書くが、延長戦を制して勝つような試合展開は、鉄道輸送を考えると非常に苦しい、と言わざるを得ない状況のように見受けられる。

 なお、バス輸送については「北広島駅までのシャトルバス」「その他の駅までの路線バス」の二つに分けて論じる必要があるように見受けられるし、むしろバス輸送の方が深刻な問題を孕んでいるようにも見受けられるが、筆を改める形で別途取りまとめることとしたい。

2023.03.11追記
 図5の通り、札幌貨物ターミナルを出発した貨物列車は、千歳線の札幌方面の線路を一時的に塞ぐ。新札幌駅で、札幌行き旅客列車→札幌貨物発貨物列車→札幌行き旅客列車の順に走らせたとき、旅客列車同士の間隔は約6分を要する。貨物列車等の支障が無い場合、旅客列車同士の間隔は約3分なので、札幌貨物発の貨物列車1本につき、設定できる札幌行き旅客列車が1本減ってしまう公算である。このほか、「札幌貨物着の貨物列車」「札幌駅着の特急列車」でも設定可能本数は1本減ってしまう。図1を見る限り、これ以上列車を設定するのは厳しいように見受けられる。島松駅の4番線で待っている列車は、(両方向の)貨物列車や(札幌行き)特急列車が運休ないし大幅遅延した隙間を狙って発車していく運用にならざるを得ないように見受けられる。




2022年10月30日日曜日

2022年11月の京急線ダイヤ改正について(1)

 おことわり


 本件は、2022年11月に予定されている京急線のダイヤ改正について、10月30日現在の当方での予測状況を簡潔にまとめるためのものである。

 プレスリリースの記述自体との整合作業は未了であるが、現時点でおおまかにまとまったので画像として掲載する。

 

図1:10月30日時点での妄想結果。

図2:図1の解像度を上げただけのもの。まじまじと眺めたい人向け。

2022年10月16日日曜日

JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)で遊んでみた(3)

  今回の記事の趣旨は、JR East Train Simulator で運転できる路線のうち、京浜東北線の大宮~南浦和の区間について、最も省エネルギーとなる運転方法について追求することである。本稿では前提として、「等増分消費エネルギー則による運転時分配分を行う」「速度によらず、機器効率は92.5%、ギア効率は97.0%とする」「加速中の架線電圧は列車の位置や速度によらず1350Vとする」「補機(冷房等)による消費電力量は考慮せず、純粋に走行のみに起因するものを対象とする」「回生ブレーキによる負の消費電力量は評価しない(※ブレーキの効きとしては評価する)」「個々の運転曲線は、最大加速→惰性走行→最大減速(1段制動、残り10m程度から多段緩め)を原則とする」を置く。

 では早速、大宮~南浦和の5つの駅間について、消費電力量を縦軸、運転時分を横軸に取って図示する。

図1 縦軸に消費電力量、横軸に運転時分を取った、両者の関係図(いわゆるW-T曲線)

図2 図1を作成する際に用いた運転曲線の一例(さいたま新都心→与野)


 縦軸に消費電力量、横軸に運転時分を取り、運転曲線を複数通り作成した上でプロットすると、傾きが負で下に凸の曲線が得られる。回生電力量を考慮しない場合の消費電力量は、概ね最高速度の二乗に比例する上、最高速度を上げれば上げるほど惰性走行の時間が短くなるので、グラフの左側では傾きが急になる現象がみられる。

 ここでは、大宮~南浦和の運転時分の合計を一定値としたとき、各駅間に何秒ずつ割り付けるのが最も省エネルギーであるかを論じる。この仮定は、「採時駅である大宮駅の発時刻と南浦和駅の着時刻を固定した状態で、各駅に何秒早着(もしくは延着)するのが最も省エネルギーであるか」を論じているのと同等である。「省エネルギーな列車ダイヤ作成のための簡易数理モデル」によれば、図1で言う曲線の接線の傾きがすべて同じとなる状態が、最も省エネルギーな運転時分配分とされる。図1においては、所与の運転時分に対するグラフの傾きを図示したが、大宮~さいたま新都心~与野は傾きが緩やか(運転時分が余る)で、与野~北浦和~浦和~南浦和は傾きが急(運転時分が足りない)という傾向がみられる。これらの傾向を基に、「接線の傾きがすべて同じとなる状態」を再現すると下記のようになる。

表1 運転時分の割り付け変更に伴う省エネ効果。元々の運転時分(※10月3日のアップデート以降)の配分は比較的理にかなっており、割り付けを変更した際の省エネルギー効果は思ったほど大きくはなかった。

図3 接線の傾きが全て同じになるよう運転時分を調整した状態。

 前掲の表1及び図3の通り、運転時分の割り付けを若干見直すことにより、大宮~南浦和の消費電力量は、213.8kWhから210.3kWhへと若干(約1.6%)減少することとなった。あくまで偶然ではあるが、さいたま新都心駅及び与野駅に対する若干の早着・早発が発生することになるので、これを認めてよいかどうかの議論が必要と考えられる。

 次回は、高速域で回生ブレーキ力が不足することに起因する、ブレーキパターンの見直しによる効果について考察する予定である。

2022年10月4日火曜日

JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)で遊んでみた(2)

  今回筆を起こした背景は、前回記事のリリース後、本シミュレーターの2022年10月3日のアップデートの影響を受け、浦和~南浦和の運転時分が20秒も短縮になったので、ランカーブを慌てて書き直したことにある。

図1: 区間運転時分の変更(2'10"→1'50")に伴う運転曲線の変更

 ノッチオフ速度を43km/hから63km/hに変更した程度で運転時分が20秒も変わるのか、と聞かれると、この図の通り「変わる」というのが答えである。ノッチオフ速度と言うよりは、その先の下り勾配による運動エネルギーの加算により、巡航速度が55km/h程度から70km/h程度にアップする、という言い方が正確かもしれない。

 この区間の運転時分を20秒詰める代わりに、最高速度が1.5倍近くになっている。運動エネルギーを速度二乗で近似すると、2倍近くの消費電力量になると推測できる。もっとも、この区間に関してはアップデート前が遅すぎた説が有力なので、運転シミュレーションとしてみれば妥当な変更だろう。

 この区間の運転時分変更に伴う、大宮~南浦和の各区間への所要時間の割り付け方に関する方向性の考え方については、今後の課題とする。


 閑話休題 このシミュレーターは、バグなのか不明だが逆走が可能である。逆走は駅を平然と通過できるので、例えば浦和→大宮の中距離電車を逆向きに眺めた結果を近似的に再現できる。この際の運転曲線の、実測値と当方で考える理論値を図示したのが以下のグラフである。

あとがき ところで、このゲームのリリース以来、掲示板では様々な議論が交わされているものの、浦和~南浦和で運転時分が余る、という報告は上がっていないと認識している。同区間の運転時分は、いったい何をきっかけに見直すことになったのだろうか……?

図2: 浦和→大宮を逆走して得られた結果。走行抵抗に若干の過小(70km/h付近)・過大(100km/h付近)の見積もりが見られると思われる。今後、これらの整合を取るための走行試験が必要と思われる。



2022年9月25日日曜日

JR東日本トレインシミュレータ(JR East Train Simulator)で遊んでみた(1)

 令和4年9月20日のこと、「JR東日本トレインシミュレーター」がリリースされた。 記事執筆時点でプレイ可能な路線は、京浜東北線の大宮→南浦和の区間と、八高線(+高崎線)の高崎→群馬藤岡の区間である。この記事をご覧になる前に遊びたいという方は、さっそく下記のリンクからアクセスいただきたいものである。

https://store.steampowered.com/app/2111630/JR_EAST_Train_Simulator/

 「トレインシミュレーター」シリーズは、向谷実氏が社長を務める「株式会社音楽館」が開発を担当している。過去に発売された作品は、実在の路線を撮影した動画を基に作成されており、電車でGO!!シリーズのように路線自体をCGで再現するものとは根本的に作り方が異なっている。アーリーアクセス版ということで、ゲームの作り込み度合いとしては、改善可能な箇所が多数残されている状態ではあるが、筆者はこの作品が発売にこぎつけたことを高く評価したい。

図1:与野~北浦和で車両性能をひたすら測定しようとする筆者。この区間で73km/hも出すと大幅に早着する。

 さて、筆者がこの手のゲームを入手してすぐに行うことは、まず何度も走らせたうえで車両性能を測定し、理論値との答え合わせを行うことである。今回は京浜東北線のE233系1000番台を対象としたが、思った以上に整合性があることが判明したので、まずはお伝えしたい。

図2:加速する様子を録画してコマ送り再生した上で、横軸に速度、縦軸に加速度×速度二乗を取ったグラフ。理論上は、特性領域で横一直線になる

 列車の加速運動は、発車してからある程度の速度までは等加速度運動で近似できる(①)が、力(N:ニュートン)×速度(m/s)で求められる出力(W:ワット)の制約から、ある一定の速度以上では、出力が一定(つまり、力-加速度は速度に反比例する)になるよう制御される(②)。さらに、ある程度速度が出て来ると、電動機は一切制御されない状態となり、力-加速度は速度の二乗に反比例する(③)ようになる。詳細は運転理論の教科書に譲るが、概ね以下図3及び表1のような関係になる。 

図3:いわゆる速度-引張力曲線の模式図

表1:各速度領域の特徴

略称低速域(①)中速域(②)高速域(③)
通称・トルク一定領域
・VVVF制御(電圧、周波数の双方を制御)
・パワー一定領域
・定電力領域
・すべり加減制御
・特性領域
旧型電車での呼称・抵抗制御
・直並列制御
・弱め界磁制御・特性領域
列車運動の特徴・概ね、等加速度運動で近似できる・加速度が、概ね速度に反比例する・加速度が、概ね速度の二乗に反比例する
※旧型電車の場合、磁気飽和曲線の制約から、この比例関係は割と不正確である。
エネルギー消費の特徴・電気抵抗を回路に挟み込んで制御するため、エネルギーの一部は熱として捨てられる(抵抗制御)
・直流から任意の正弦波を取り出して制御するため、車両側でのロスは小さい(VVVF制御)
・主回路電流が相対的に大きいので、回路の内部抵抗によるロスが相対的に大きい
・逆起電力の増大に伴い、回路のロスは速度が上がるとむしろ下がる
電流・一定になるよう制御する・主回路の界磁電流もしくは界磁の長さを減ずる(弱め界磁制御)
・一定になるよう制御する(すべり加減制御)
・理論上は、速度に反比例して下がる
電圧・回路に挿入する電気抵抗を少しずつ小さくすることで、端子電圧が少しずつ大きくなるよう制御する(抵抗制御)
・電圧V/周波数Fが一定になるよう制御する(VVVF制御)
・結果として端子電圧は概ね速度に比例する
・一定になるよう制御する(架線電圧がそのまま印加される)
・一定になるよう制御する(架線電圧がそのまま印加される)
制約の物理的要因・鉄輪の摩擦限界による上限・電動機の冷却性能(いわゆる連続定格、1時間定格)による上限
・電動機の特性による上限

 今回、「JR東日本トレインシミュレーター」で用いられている車両の性能を細かく調べたところ、業務用シミュレーターだからかどうかは分からないが、思った以上に表3や図1の関係性が再現されていることが分かった。筆者はこれまで、省エネルギーな列車運転の方法論について過去に記事(例えば、計画停電を防ぐ「節電ダイヤ」の方向性について(1))を起こしているが、シミュレーターが実際の物理現象を(ある程度、という但し書きは付くが)再現しているとすれば、シミュレーター上で省エネ運転を検討する際にも非常に有用である。

 上記の記事では、「運転時分を最速から5秒程度増やすと2割程度の省エネが実現できる」という書き方をしているが、本シミュレーター(のうち、少なくとも京浜東北線の大宮→南浦和)で設定された運転時分は、最速から15秒近く余裕を持って設定されており、突き詰めて運転すると運転時分が異常なほど余る。そこで筆者は、設定された運転時分を使い切れるようなランカーブを設定するため、大宮~南浦和の全5区間に対し、以下のような図を用意した。

図4:大宮→さいたま新都心間の運転曲線。速度制限が解除されても、大して加速する必要は無さそうだ。

図5:さいたま新都心→与野の運転曲線。与野駅手前の上り勾配で結構速度が落ちるので、速度選択は慎重に行いたい。

図6:与野→北浦和の運転曲線。この区間は勾配が少ないので、車両性能を測定するのに適している、と筆者個人的には思う。

図7:北浦和→浦和の運転曲線。この区間の余裕時分は(他の区間に比べると)少ないが、浦和駅手前の上り勾配で速度を失いやすい上、その割に惰性走行の区間が長いので、速度選択は慎重に行いたい。

図8:浦和→南浦和の運転曲線。採時駅(南浦和)の手前だからか、余裕時分が長めに取られている。出発してすぐに下り勾配があることもあり、速度選択は慎重に行いたい。

 このE233系1000番台は全体的にブレーキが強い。特に常用最大ブレーキ(B8)は、40km/h以下では非常ブレーキのカタログスペック(5.0km/h/s)よりも明らかに強いブレーキがかかる。ほぼすべての区間では90km/hまで加速しても停車できるほど強力なブレーキを備えている模様だが、裏を返せば余裕時分が異常なほど長い、ということでもある。運動エネルギーが単純に速度の二乗に比例するとして、上記のランカーブで消費するエネルギーは、全区間で90km/hを出した場合と比べて、半分程度に抑えられるものと思われる。
 余談ではあるが、京浜東北線に209系を投入する際に「この電車は、従来の電車の約半分の電力で走行しています」などと省エネをうたい文句にしていた。隣を走る山手線は一周を60分にするために、E231系500番台を投入した際に運転時分を相当に詰めているのとは対照的である。これに加えて、シミュレーターはホームドア設置前の動画を基に作成されている。これらの事情を考慮すると、京浜東北線の運転時分には余裕時分が多めに含まれていても不思議ではない。京浜東北線にホームドアを設置する際、運転時分をどのように措置したのかは気になるところではあるが。

 今回、せっかく物理現象を比較的正確に再現できるシミュレーターが、だれでも入手できる形で公になった。この機会を最大限に生かすためにも、以下の課題にも積極的に取り組んでいきたいと考える。ただし、主に運転曲線の錬成と実際の運転練習に多大な時間がかかることが予想されるので、機会を改めることにしたい。

課題1:大宮→南浦和の運転時分合計値を最適に配分する方法について
 今回のケースでは浦和→南浦和の運転時分が特に余りがちなので、手前の区間でわざと遅れを出すことで、トータルでの消費エネルギー削減を図ることになる。詳細は「等増分消費エネルギー則」を参考にされたい。

課題2:回生ブレーキの空制補足について
 一般的な傾向として、同じ運転時分ならなるべく強いブレーキを用いた方が省エネルギーになることが知られている。強いブレーキを用いた方が早く停まれるので、そのぶん最高速度を下げられるためである。
 一方で、回生ブレーキはモーターを発電機として用いるものであるから、速度が上がると有効な加速度(ブレーキなのでマイナス)の大きさ(要するに、ブレーキの効き)は小さくなってしまう。この不足分は摩擦ブレーキで補うことになる。これを本稿では「空制補足」と呼ぶことにする(※「遅れ込め制御」と呼ばれている場合もある)。
 本シミュレーションの場合、基準となる運転時分があまりにも長いため、空制補足をあえて使わないように運転する方法が考えられる。具体的には、図9の通り、多少最高速度を上げても、空制補足分を減らした方が有利なケースは十分に考えられる。
図9:北浦和→与野の運転曲線(図6)と同じケースに対し、縦軸にパワー/質量を、横軸に時間を取って図示した。グラフ上の面積は(単位質量当たりの)消費エネルギーを意味する。



2022年5月7日土曜日

西九州新幹線のダイヤについて(1)

  西九州新幹線(武雄温泉~長崎)の開業が令和4年9月23日に予定されている。これを受けて本記事では、具体的にどのような列車運転計画が作成されるか、予測を試みることにする。まず最初に、ダイヤを予想する上で最も決め手となりやすい「博多駅における新幹線の着発時刻」に着目した上で、以下の図を作成する。


図1:博多駅付近パターンダイヤ図

 図中で小さく表記された数字は「毎時N分」を表し、駅に近い側が到着時刻、遠い側が発時刻である。博多~鳥栖の普通列車や快速列車が毎時3本を基調に組まれていることから、特急列車は20分ずつの等間隔に3本配置するのが理想と想定すると、図1のような特急列車設定用の「枠」が上下3つずつ設定できる(※所要時間は最も速いかもめ号を想定した)。これらのうちどれを佐世保線系統に割り振るかで、上り3通り×下り3通りで計9通りの組み合わせが考えられるが、本稿ではまず、新幹線との接続関係が上下線で対称であると仮定する。すると、上図の枠A・枠B・枠Cのいずれか1個に対し、佐世保線方面の特急列車を割り当てることで、ダイヤの概略形を定めることが出来る。本稿では、上記の枠B(緑色)に対して佐世保線特急を割り振ることを想定し、具体的なダイヤ図に落とし込んでいく。理由は以下のとおりである。

・リレーかもめ号の武雄温泉駅折り返し停車時間が最小(12分)になる。佐世保線特急は武雄温泉駅付近での行き違いが想定されるため、その際に武雄温泉駅で必要となるホームの数が少なくできる。

・新幹線の最速達列車を枠A、各駅停車を枠Cに割り振ると、接続関係のバランスが比較的良い。

図2:佐世保線特急を枠Bに割り振ることを想定したダイヤ図

 ご覧の通り、枠Aに最速達列車を割り振ったことで、山陽新幹線からの接続を最も所要時間の短い形で受けることになる。博多~長崎の所要時間は枠Aで約89分、枠Cで約96分であり、そのうち在来線特急が59分、乗り換え時間が3分である。一方で、長崎県のホームページには博多~長崎が最速1時間20分と表記があるし、武雄市のホームページには博多~武雄温泉が最速1時間6分と表記があるし、自治体によってずいぶん書いてあることが違う模様である。本稿では、前者は諫早駅の通過を想定していること、後者はリレーかもめの使用車両として783系を想定していることを原因として推測する。
 さて、ここで多少話題がそれるが、今から20年ほど前のダイヤ改正時点の情報を用い、図1同様に九州全体を図示すると図3のようになる。
図3:九州全体パターンダイヤ図(2001年)
 2001年は、九州の在来線特急用車両が概ね出揃った時期である。まだ新幹線が博多までしか開業していないが、現在から見ても非常に精緻なパターンダイヤが組まれている印象を受ける。かもめ号が毎時2本走っていた時期に、うち1本に対して885系が新しく投入されてから間もない頃のダイヤだが、博多~諫早を僅か90分で結んでおり、令和4年5月現在と比べても10分弱早く到着する。一方で、図2をよく見ると、枠Cにおける博多~諫早の所要時間は約85分である。
 現在、かもめ号は1時間に1本しか運転されていないが、この理屈から行くと輸送力は枠C(武雄温泉~長崎で各駅停車)だけで足りてしまう公算となる。ところが、博多~諫早の所要時間で885系登場時(90分)と枠C(新幹線区間で各駅停車、85分)とを比べると僅か5分しか差がつかず、西九州新幹線の正当性を大きく揺るがす懸念がある。さらに、枠Cに783系を割り当てると博多~諫早の所要時間が90分を超えてしまい、「従前の特急より遅い」という批判すら来かねない。このため本稿では、開業後数年間は仮に乗車率が低迷し「空気輸送」と揶揄されようと、枠Aのスジを削減せず、毎時2本(枠A、枠Cいずれも)運行するものと想定せざるを得ない。また、枠Cのリレーかもめの車種として885系を想定したのも、博多~諫早で20年前のかもめ号に抜かされないことを念頭に置いたためである。
 
 ところで、令和4年4月28日付けでJR九州から発出されたプレスリリースによると、現時点での時刻表案が各駅に掲示されている模様である。インターネット上に出回っている画像(特に、肥前山口駅の下り線と、肥前鹿島駅の上り線のもの)を参照する限り、昼間は下り線が枠B、上り線が枠Cを使用している一方で、夕方は下り線が枠A、上り線が枠Bを使用している模様である。「新幹線との接続関係が上下線で対称」という上記の仮定を崩せば、例えば「下り線の枠C、上り線の枠Aが佐世保線特急である」のような仮定を置くことで、時刻表案と整合の取れるダイヤ図を作成できると考えられる。「新幹線との接続関係が上下線で対称」という仮定を崩した場合のダイヤ図は機会を改めて別途作成することとする。